第302話
俺がそんな事を言うと、相手側が笑い出した。
普通に考えて、いくら違法賭博でも『自分に賭ける』というのはさせてくれないとは思うが、コイツ等の場合、この大男に相当な自信があるようだから大丈夫だとは思うが……
「別に構いやしないさ! ただ、賭けるって言ってもいくら賭けるんだい? まさか金貨一枚とか言うんじゃないだろうね? あぁ、
馬鹿にした様に言ってるが、ナグリが金を持ってないというのは、コイツ等に奪われたんだろう。
まぁそこも想定内だ。
「ナグリ、一旦貸しだからな」
俺が腰の袋から取り出したのは、木製のデカイ桶。
こう言ったデカイ桶ってのは、出先で色々と使えるから一つは持っておきたい。
主な用途としては、採取した物を一纏めにしておきたい時や、川で洗濯したり、身体を洗う時に使ったりする事が出来る。
まぁ俺の場合、採取したりする時にしか使わんが、冒険者なら持っておいて損は無い物の一つだ。
その桶を地面に置いて、もう一つの袋を取り出して、口の部分を桶に向かってひっくり返し、その中身を桶にぶちまけると、袋の中からジャラジャラジャラと大量の金貨が流れ出て来る。
この金貨、今まで稼いだ物もあるが、大半は『水晶迷宮』で手に入れた物と、秘密裏に水晶を売った金だ。
桶のサイズとしては、
その桶が大量の金貨で溢れ返るが、まだまだ袋から流れ出ている。
まぁ見せるのはこのくらいで良いか。
「取り敢えず、ナグリには金貨1000枚あれば良いか」
一体何枚あるのか分からんが、軽く数千枚はあるだろう。
それに、これ以外にも財宝もあるから、実際の所はウン万枚レベルだろう。
「さて、コレで問題無いな?」
袋を金貨の積み上がった上に置いて、相手の方に目を向ければ、フードで見えないが唖然としている様子が分かる。
だが、俺のターンはまだ終わっちゃいない。
同じ様な袋を更に3つ取り出して、同じ様に詰み上がった金貨の上に並べた。
「……と言う訳で、コレで掛け金の問題は無いな?」
その行為で、同じだけの金貨がまだある、と相手には分かった様で、周囲にいた連中も黙り込んでしまった。
さて、どうなるかね?
「ど、どうする、あれだけの金貨は予想外だぞ」
アタシの隣にいたフード男がそんな事を言ってくるが、確かにアレだけの金貨を持っているというのは予想外。
だが、逆を考えれば、あの男をどうにかすれば、あの金貨が全てアタシ達のモノになる訳だ。
それに、処刑人以外にも対策はしているから、アタシ達が負けるなんて事は有り得ない。
「良いだろう、金はあるようだし、賭けを認めてやろうじゃないか……さぁ武器を選びな!」
アタシの言葉で、あの男の後ろから大量の武器が入った籠が、数人掛かりで運ばれてくる。
そして、男の近くに置かれるが、あの籠に入っている武器は全て罠。
見た目は確かに上質な武器に見えるが、実際は表面だけ取り繕った粗悪品。
更に、使用者に対して密かに能力低下の
そんな武器を使えば、誰も本来の実力を出せる訳も無い。
逆に処刑人の方は、一流の職人が作った武器に、強力な身体強化を掛ける能力が付与されている。
更に今回、あの男は要注意として、観客席から追加で能力低下の呪いを掛ける術者も観客のフリをさせて配置し、今でも呪いを掛けさせ続けている。
こうやって開始するまで長引けば長引く程、あの男は不利になっていく。
「……別にいらんな、コイツで充分だ」
籠の武器を見た後、あの男はそんな事を言って何かを懐から取り出し、それを見たアタシ達はあの男の意図が読めなかった。
男の手にあったのは、何処にでもある様な、振っただけで折れる様な細めの枝。
どう見ても、『武器』と呼ぶような物では無いのは確かだ。
「ブハハハハ! 見ろよ、始める前から諦めてやがるぜ!」
「よりによって枝だってよ! ギャハハハ!」
「賭け金どうなってるよ!」
客席の連中がそんな事を言ってるが、もしかしてあの男、侘びとしてアタシ達に金を渡すつもりなのか?
だが、アタシ達を便利屋と舐めたのだから、もう遅いさね。
「開始の銅鑼を鳴らしな!」
ここには賭け試合の為に、巨大な銅鑼を持ち込んで設置してある。
稼働当初は大声で開始と終了をやっていたが、開始はともかく終了に気が付かず、止めるのに苦労していたが、銅鑼の音なら嫌でも気が付く。
フードを被った男が、ハンマーを大きく振り被ると、処刑人を拘束していた連中が鎖を手放し、処刑人が自由になったのを確認すると、勢いよく銅鑼にハンマーを叩き付ける。
銅鑼の凄まじい音が会場に鳴り響いた瞬間、ドガァンと別の音が鳴り響いた。
「………悪いな、手加減するつもりでコレを選んだんだが、コレでも強過ぎたようだ」
見れば試合場には、あの男しか立っていない。
処刑人は何処に行った?
「お、おい、アレ見ろ!」
観客席にいた一人がそう言って、壁の方を指差している。
そこを見れば壁が崩れ、巨大な両脚がダラリと垂れ下がっていた。
まさか、アレが処刑人だって!?
武器の呪いは無くとも、周囲の術者から複数の呪いを受けて能力が下がっている筈なのに、まるで影響が無いみたいな強さ。
呪いを掛けていたハズの術者達を見てみれば、全員同じ様に困惑している。
こ、こうなったら……
「クッ……いい気になるんじゃないよ! お前達! あの男を倒して立ってたヤツには一人金貨500枚出すよ!」
アタシの言葉で、観客席にいた連中が顔を見合わせた後、次々と会場に降りて、あの男に向けて武器を構える。
確かに、あの男は強いんだろうが、コレだけの人数を、枝一本で全て相手にするのは不可能だろう。
こうなったら、賭けなんて知った事じゃない、あの男を叩きのめす!
そして、あの男を取り囲み、一斉に襲い掛かっていく。
一人の男に対して、金貨500枚と言う大金に釣られた観客共が襲い掛かったが、あの男はそれを全てあっさりと殲滅。
襲い掛かった観客共は全員死んではいない様だが、全員が倒れ伏しており、死屍累々、最早そうとしか言いようがない光景だった。
その中央で、あの男がただの枝で肩を軽く叩いている。
「そ、そんな馬鹿な……」
「あーぁ、だから止めといた方が良いって忠告したのに……」
そんな言葉を言ったのは、椅子に縛り付けられていた筈のナグリ。
縛られていた腕の部分を擦っているが、どうやって抜け出した!?
「あの程度抜け出すのは簡単っすよ、ただ、逃げたら逃げたで面倒な事になりそうだったんで、大人しくしてただけっすよ」
「お陰で、俺は面倒な事になったがな」
いつの間にか、先程まで中央辺りにいた筈のあの男が、ナグリの後ろに立っている。
「いやぁ旦那なら大丈夫だと信じてたんすよ? それより、よくもまぁただの枝で勝てたっすね?」
「柔い武器を使うにはコツがあるだけだ」
後で知った事だが、救助された処刑人の胴には、真横に一文字の痣が出来ており、銅鑼がなった一瞬で接近し、あの枝で薙ぎ払われていた。
ただ、そのあんまりの速度に誰も気が付かず、『あまりにも隙だらけだったから、がら空きの胴に叩き込んだだけだ』と話している。
そして、『呪い』による身体能力の低下だが、確かに『呪い』によって身体能力は下がったが、それで下がった程度でどうにかなる様な訓練はしていないから、気にならなかったと言っていたらしいが、試しにかなり訓練をしている部下に対し、同じ様にやってみたらぶっ倒れて昏倒していた。
「それはともかく、後でちゃんと貸した金は払えよ?」
「旦那ぁ、それはちょっと……」
あの男がそんな事を言って、それに対してナグリが申し訳なさそうに言っているが、アタシ等としては、このままコイツ等を帰させる訳にはいかない。
今回のアタシ達の勝手な行動が幹部にバレれば、処分は免れない。
そうなる前に、コイツ等二人をどうにかしなければ………
「此処で一体何をしている?」
そんな声が会場に響き、アタシ達の顔から血の気が一瞬で引いていくのが分かった。
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