第301話
ナグリからの約束までの日々を、進藤達の訓練も行いながら、同時進行でスーの『
最近では、ノエルとの模擬戦もかなり安定してやれる様になったが、気を抜いたりすると、『狂戦士』が表に出て来て油断は出来無い。
だが、ノエルも慣れてきた様で、『狂戦士』が表に出て来て暴れても、今では普通に取り押さえて、首の魔道具を起動して元に戻せる様になっている。
お陰で、こうして進藤の訓練が出来る様になっている訳だが、進藤の実力も最初に比べれば相当に上がってきている。
あの
ただ、あらゆる近接武器を使いこなせるあの大馬鹿に比べ、進藤は剣と盾しか使えないから、相性が悪い武器を使われたら押し負けるだろう。
もう少し実力を付けさせるべきだな。
そんな事を考えつつ、踏み込んで来た進藤の木剣による攻撃を半歩動いて空振りさせ、その木剣に上から押さえ付ける様に木剣を差し込み、進藤の顎を空いた右拳で下から打ち上げる。
ただし、本気で打ち上げる訳にもいかないのでデコピンだが、その音は『バチンッ』とかなりの音がしている。
「本当にコレで『身体強化』使ってないのかよ!?」
進藤の奴が顎を押さえながらそんな事を言ってくるが、実際に『身体強化』は使っていない。
そんな頻繁に『身体強化』なんて使っていたら、いざという時に使えなくなる可能性があるのだから、訓練では使った事は無い。
そもそも、剣を押さえられるような攻撃をされたら、直ぐに身を引くか、逆に更に踏み込んで盾による『
進藤の欠点は、剣による攻撃を重視するあまり、盾は防御する物と考えすぎていて、盾による攻撃を疎かにしているせいで、手数が減ってしまっている事だ。
まぁ、進藤の『
この『剣聖』なのにデメリット無く盾が使える、と言うのは考えてみれば当然の事だ。
『剣聖』と言うのは、『剣士』等の近接職の最上位クラスの一つであり、下位職である『剣士』等は、盾も使う事が出来る。
上位職になったら、下位職の技術を全て失う訳じゃないから、こうして意外な物が使えたりする。
まぁ本職よりも技術的には劣るんだが、それでもこの点は大きい。
相手からすれば、予想外の攻撃を受ける事になるから隙が出来るし、以降はその盾にも警戒しなければならなくなってしまう為、攻めにくくなる。
今は盾に慣れる為に、普通サイズの盾を使っているが、慣れてきたらそのサイズを小さくしていき、最後は対人ではバックラーと呼ばれる小型の盾にする予定になっている。
「あギィッ!」
スーが『狂戦士』を発動した瞬間、ノエルが足を払って転倒させ、腕を掴んでそのまま背に廻し、そのまま背に乗って動きを完全に拘束して首の魔道具を起動させていた。
ノエルの『狂戦士』の解除にも手慣れたものだが、今回の発動理由は何だ?
「はい、スーの剣を下から弾いて、空いた胴体部に、こう、手を伸ばして掴もうとしたら発動したようです」
ノエルが先程の状況を説明しているが、また発動理由が微妙だな。
これは、もしかしてトラウマでも発動しているのか?
そうなると、
まぁ後々、調べるしかないか。
スーが回復して意識を取り戻した後は、ノエルと進藤が護衛して学園の方に戻って行く。
こうして俺の所で訓練していて、学園の授業は大丈夫なのかと思うだろうが、スーは今まで実技が出来なかった為に、ほぼ座学しかしていなかったお陰で、座学がほぼ完璧なのだ。
今は俺の所で実技を出来る様に訓練する、という名目で来ている上に、学園としても『狂戦士』を制御出来る様になれば、今後の為にもなるという事で、特別に許可されている。
実際、スーの『狂戦士』はほぼコントロール出来る様になっており、今では今回の様な事が無ければ、普通に模擬戦が出来ている。
俺の見立てでは、学園の『騎兵士科』の生徒の中で、スーに勝てるのはアレス王子以外にいないだろう。
アレス王子、何気に進藤から話を聞いて、真面目に訓練しているから、意外と強くなっている。
将来が楽しみだ。
そうして約束の一週間後、俺が約束の場所にて待っていると、遠くからローブを着たナグリがやって来た。
結界の魔道具を使ってナグリを出迎えると、ちょっと驚いた表情をされたが、ナグリが小さく咳払いをしている。
「レイヴン、幹部様が会ってくれる。 付いて来てくれ」
ナグリに先導され、その後を付いて行くと、何やらどんどん王都の外周へと向かっている。
まぁ非合法の組織だから、目立つ場所に入り口は無いだろうと思っていたら、そのまま王都を出てしまった。
そして、どんどんと道を外れて森の中を進んでいくと、目の前に古びて崩れかけている館が見えて来た。
あそこが目的地かと思ったら、
その前でナグリが何かをすると、岩肌の所に穴が開いた。
「コイツは……」
「既に攻略されて主がいない元迷宮だよ。 便利なんで組織が迷宮核を外さずに利用してるのさ」
「成程な、確かに隠れるには最適な場所だ」
俺が中を覗き込むと、そこには地下に進む階段がある。
まぁ先が見えないから相当な段数があるんだろうが、ここを降りるのか……
「それじゃレイヴン、俺は此処で」
「道案内助かったよ、あぁ一つ助言だが、今度は体内マナを隠せる魔道具を使った方が良いぞ」
階段を一歩降り、ナグリのそっくりさんにそう声を掛ける。
コイツは見た目は、確かにナグリだが、その体内マナは完全に違っている。
よくもまぁ此処まで似せられるモノだ。
見た限り実力はそこそこで、変装して相手を油断させて後ろからブスリ、と暗殺する様な戦い方をしているのだろう。
振り返らず、そのまま階段を降りていく。
まぁニセモノが案内してきていた時点で、この拠点に幹部なんていない上に碌でも無い所なんだろうが、本物のナグリも探さなきゃならんし、さっさと終わらせた方が良いだろう。
そう思いつつ進んでいると、遠くに小さい明りが見えて来た。
どうやらやっと終わりが見えてきたようだ。
その灯りは、小さいランタンの様な魔道具が吊るされた、人一人が通れるような扉のランタンだった。
どうやら罠は仕掛けられていない様だが、扉をゆっくりと開けると、そこはかなりの広い場所。
地面は薄く砂が撒かれ、天井はかなりの高さがあり、左右にはズラリと観客席の様な椅子が並んでいた。
まぁ簡単に言ってしまえば、そこはまさに『闘技場』と呼べるような場所になっていた。
そして、その向かい側には、数人のローブを着た連中がいる。
その内の一人は椅子に腰掛けているのだが、それを見て『ハァ』と溜息を吐いた。
「ニセモノが来たから、どうしたかと思えば……何やってんだ」
椅子に座っているのはナグリだが、その顔には青痣や流血したような跡が見える。
どうやら、少々痛い目にあったようだ。
「ハッ、まんまと騙されてノコノコとやってきたようだね」
ローブの一人がそんな事を言っているが、俺としては騙されてきた訳じゃ無いんだが、敢えて指摘しない。
こう言う手合いは、指摘した所で聞く耳なんて持っちゃいないからな。
「アタシ達を便利屋か何かと勘違いしてるようだけど、舐めてもらっちゃ困るんだよ」
「……ナグリ、ソイツがお前の所の幹部なのか?」
俺が女の言葉を無視してナグリに聞いて見ると、ナグリの奴は首を左右に振っている。
まぁ、その答えは分かっていたが、もしかしたら幹部かもしれんし、一応の確認だ。
ただ、それを女は面白くなかった様で、ナグリの奴を殴っている。
ナグリの奴、後でポーションで治療してやろう。
「まぁ、勘違い野郎をただ嬲るだけじゃ面白くないからね、こうして、アタシ等の稼ぎに使ってやろうってのさ!」
そう言って、ローブ女が腕を振り上げると、闘技場の上部にあった灯りの魔道具が起動し、闘技場全体を照らし出した。
瞬間、『ウォォォォッ!』や『さぁ賭けた賭けた!』と大声が響き渡った。
その観客席には、仮面を付けた連中が犇き合っている。
さっきまで気配すら感じなかったが、あの灯りの魔道具、気配を分からなくする様な結界の魔道具が組み込まれていたのだろう。
そして、ローブ女達が少し高い場所に飛びあがると、向かい側にあった扉が開いた。
「ウグゥルルルル……」
そこから出て来たのは、筋骨隆々、昔のグラディエーターの様に、左胸や片腕だけのように部分だけ守る金属鎧を身に着け、巨大な剣を引き摺って歩いて来た傷だらけの大男。
ただ、その両目は血走り、とてもまともな状態とは思えない。
更に、その首や両手、両足には鎖が付けられ、それを複数人の男達が後ろで引いて押さえている。
「ソイツはウチの処刑人さ! どうしようもない奴にオシオキする時に出してやってるんだよ!」
へぇ、処刑人ねぇ。
「あんまりにも強過ぎて、誰もマトモに戦えなくてね、今まで無敗なのさ。 さぁ!皆、賭けな!」
「その賭け、ナグリと俺が、俺自身に賭けても良いのか?」
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