第297話




 研究室に『魔導鎧』が運び込まれたと密告を受け、ワタシはその研究室があるとされる王城の近くの部屋で、日が落ちるのを待っていた。

 この部屋にいるのは、ワタシ以外に3人。

 今回必要なのは、何かを破壊する様な武力でも無ければ、誰かしらから話を聞く様な事でもない。

 まずは王城と言う奥深くに侵入して、目的の場所を探る事に特化した能力だけだ。

 その為、まずは隠密に特化した『女王蜂』。

 『女王蜂』はあらゆる虫を操り、その感覚を共有出来る事から、今回は先行して虫を送り込み、目的の場所を探させる。

 そして、もう一人は『転移』。

 最後の一人は、最近『収納』だ。

 夜になる前に、先行して目的の場所を探索させていた『女王蜂』から、保管している場所を見付けたと報告があった。

 後は、日が完全に落ち、研究室から人がいなくなるまで、ゆっくりと本でも読みながら待っているというワケだ。


 そして、日が落ち、遂に待ちに待った瞬間がやって来た。

 『女王蜂』が『人がいなくなった』と筆談で知らされたので、直ぐに『転移』と『収納』を伴って、その部屋から目的の場所へと『転移』を行う。

 一瞬の浮遊感の後、ワタシ達は様々な物が置かれている部屋へと移動していた。

 日夜研究をしているワタシからすれば、ここに置かれている物はどれも魅力的だが、今回の目的は『魔導鎧』だけだ。

 他のはまたその内来れば良い。


「さて、コレがそうなノね」


 部屋の中央に、組み立てられて直立している全身鎧。

 この国で採用されている意匠とは、かなり違う物だから直ぐに分かるが、コレがあの『魔女』が作ったという『魔導鎧』。

 この場で調べたい気持ちはあるが、研究員がいつ帰って来るか分からない以上、さっさと回収して持ち帰ってから調べた方が良いだろう。


「『収納』回収しなサイ、『女王蜂』は警戒、『転移』は帰る準備ヲ」


 ワタシの命令で、『収納』が『魔導鎧』に近付き、その手が触れるとズルズルと『魔導鎧』が引き込まれていく。

 『収納』は最近完成したが、まだ瞬時に収納する事が出来ないのは改良点だろう。

 他にも容量が少なく、恐らく今回の『魔導鎧』を2着回収したら、それだけで容量が埋まってしまう点も改良しなければならない。

 そうしていると、『転移』の様子が可笑しい事に気が付いた。

 若干、ふらついており、呼吸も若干荒い。

 これは、『転移』にもう限界が来たようだ。


 そして、収納が終わったのを確認し、直ぐにその場から『転移』によって移動する。

 移動先は先程の部屋ではなく、私が利用している研究所の一室だ。

 そこで『収納』から『魔導鎧』を一着ださせ、手近な木箱に詰め替えて、子飼いの貴族の元へと送って戻った所で『転移』に限界が来た様で、部屋に戻った瞬間にその場で倒れた。


「やはり『転移』ハ消耗が激しイがしかたナイ。 のを準備しなサイ」


 ワタシの命令で、倒れた『転移』を運び出していく。

 『転移』は高等技術である為に消耗が激しい。

 無作為に消耗すれば、教皇陛下に怒られる可能性が高いが、全てはこの先の為に必要な事だから、分かってくれるだろう。

 そうして手に入った『魔導鎧』を調べたが、その結果は良い事と悪い事の両方だった。

 材料はそこまで珍しい物じゃないから、模倣しようと思えば模倣出来る。

 悪い事は、そこに刻まれている回路が細い上に緻密だという事。

 ワタシがいくら器用だと言っても、此処まで緻密だと成功率はそこまで高くないだろう。

 逆に良い事だが、コレから得られた技術はかなりのモノと言う事だ。

 まず、『魔導鎧』は装着された魔石からマナを取り出し、各部位の力を上げる事が出来ている事から、これを応用すれば、此方の兵力を底上げする事が出来る様になる。

 それだけではなく、逆に相手の魔術攻撃に対して反する属性を展開すれば、その魔術を無効化する事も可能になるだろう。

 当然、それが出来るかどうかという問題はあるが、模倣するだけなら問題は無い。

 改造して使える大きさまで、大きくすれば良いだけだから。

 だが、それだけ大きくすれば、動かすのにも多くのマナが必要になる。

 これからの最優先でやる事は、大きさとマナ消費の両立する最適解を探す事。


 そう思っていた。




 一週間で、ワタシオリジナルの『魔導鎧』は完成し、その試験として一応動かしたが、僅か数分で停止した。

 その原因が『魔導鎧』の中で発生する熱により、装着者が耐えられない事。

 ワタシが作った『魔導鎧』は、回路を刻む事を優先した為、元のサイズの倍くらいの大きくなっているが、装着した魔石は、元の物と比べてもランクもサイズも大きい物にしてある事から、稼働時間に遜色は無い様にしてあった。

 だが、『魔導鎧』を動かした際に発生する熱に関しては予想していなかった。

 全身鎧である『魔導鎧』の防御力を優先する為、開放部を少なくしたが、それによって装着した兵が耐えられず機能停止。

 次に試作した『魔導鎧』は、防御性能よりも排熱機能を意識して開放部を大きくしたのだが それでも鎧自体が熱を持ち、装着した兵の鎧に触れていた部分が火傷を負ったのに、それほど長く動かせない。

 そうして試作しては廃棄し、作り直しは廃棄を繰り返していったが、一向に『魔女』が作っている物と同じ様な性能には届かない。

 10着ほど作って試した所で、ワタシの中での予想が確信に変わった。

 『魔女』が国に渡した『魔導鎧』はニセモノ。

 つまり、今回手に入れた『魔導鎧』をいくら調べても、『魔女』が作った物には届かない。

 だが、それさえ理解出来れば、ワタシとしては問題無い。

 届かないのであれば、ワタシなりに改良すれば良いだけ。

 例えば、全身鎧として期待は出来ないが、鎧の一部だけや、それこそ服に刻むだけでも十分戦力の底上げが出来るだろう。

 装着出来る魔石の大きさに限界もあり、それで上がる能力は僅かだが、それでも底上げ可能なのであれば、戦力増強にも繋がる。

 そして出来上がったワタシ作の『魔導鎧』だが、全身鎧ではなく、まるで骨の様な見た目になった。

 この鎧を着込むと、力が倍ほどに上がるだけではなく、必要時にだけ起動する事で稼働時間を引き延ばす事に成功した。

 何より、骨の様な形状である為、普通の鎧等と同時に装着する事が出来る事で、相手を油断させる事が出来る。

 オリジナルと比べれば確かに弱いが、それでも数を揃える事が出来る事から、直ぐに我々の戦力に組み込む事を進言するべきだろう。

 そう考え、新しく用意した『転移』と共に陛下の所に向かい、完成した『増強鎧』を見せて、直ぐに増産する事が出来る事と、それによる利点を説明する。

 欠点は、見た目と連続稼働時間が短い事だけなので、陛下としても許可しない理由は無い。

 そうして増産する事になったが、材料となる魔石が足りない。

 兵達に命じて、優先して魔石を集めさせるが、鎧に使う魔石は最低でもBランクは必要だ。

 少しずつでも作って行かねばならないだろう。


 そうしていたら、子飼いにしていた貴族の所で問題が発生。

 隠れて違法に奴隷を所有し、その奴隷によって作った武具を裏で売り捌いて資金源にしていたのだが、その奴隷達が一夜にして全員行方不明となっただけでなく、所有していた屋敷や鉱山の幾つかで火事や崩落が起き、活動が難しくなったという。

 だが、それをワタシが知った所で、繋がりを明かす訳にもいかないから、助けるなんて事は出来ない。

 それより気になるのは、一夜で全員が行方不明になったという所だ。

 あそこが所有していた違法奴隷の数は数人なんて数ではなく、何十人という数だ。

 それが全員同時にいなくなったというのは、どういう手段を使ったのか……

 最初はワタシ達の様に、『転移』の様な特殊な能力を持った相手が複数いる、と考えたが、そんな技能スキルを複数の人物が持っているなら、もっと早い段階でやっていただろうし、態々火事や崩落なんてする必要は無い。

 それに、隠れて行動する必要もないだろう。

 だが、これではっきりした事もある。


 ワタシ達の様に、相当に用心深く力を隠して行動をしている勢力が、もう一つ存在し、その存在は何処にもまだ確認されていないという事だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る