第294話




 何やら王城から緊急の呼び出しを受けてやって来たのじゃが、王城はいつも通りの様子じゃ。

 まぁワシを呼び出す時点で、表に出せぬ内容じゃろうからいつも通りなのは当たり前なんじゃがね。

 そのままいつも通り部屋の一つに案内されたので、いつもの魔女姿に着替えておき、改めて呼ばれるのを待つ。

 そうして待っておったら、次にやって来たのは騎士達で、彼等に案内されて王城の中を歩いて行く。

 いくつもの扉を潜り、辿り着いたのは王城の奥にある最重要区画である『王城研究所』。

 そこには、何人もの研究員と騎士達が何かを調べておったり、サーダイン殿が腕組みをして、その様子を見ておった。


「む、魔女殿」


 ぉ、サーダイン殿がワシに気が付いた様で、こっちにやって来ると、騎士達と何かを話した後、騎士達が敬礼をして王城の方へと戻って行ったのじゃ。

 そして、サーダイン殿と研究所の隣にある休憩室に入り、何事かあったのか聞いて見ると、王様が予想した通り、『強化外骨格』が盗まれたらしいのじゃ。

 ただ、何処にも侵入された形跡が無く、犯人探しが難航しており、一応、盗まれた事を伝えた方が良いと判断されてワシが呼ばれた訳じゃ。

 まぁ盗まれた所で、あの『強化外骨格』は初期に作ったまだまだ低性能な物じゃから問題は無いんじゃが、犯人はどうやって警戒厳重な研究室に入ったのか気になるのう。

 聞けば、普段は必ず誰かが常駐し、誰もいなくなる場合は入り口の騎士が鍵を閉めてしまう為、誰も入る事が出来ん。

 そして、最重要区画の中でも最奥にあるこの研究室は、辿り着くまでにいくつもの扉と、警備する複数の騎士達を完全に回避し、窓すらない外部と隔離された研究室に入り込む必要があるのじゃ。

 コレは少し気になるのう。

 取り敢えず、サーダイン殿に本来の『強化外骨格』が入った鞄を渡し、ワシも研究室に入って中を見回す。

 窓が無いから、この部屋の光源は天井に取り付けられた灯りの魔道具だけじゃ。

 すると、上の方に気になる場所を発見。

 壁の上部に、子供位ならなんとか入れそうな穴を発見。

 その下に移動し見上げてみるが、道具を使えば何とか出入り出来そうじゃな。

 鞄の中に手を突っ込んで、適当な木材を梯子に錬成し、それを鞄からズルズルと取り出して壁に立て掛け、せっせと登って穴を覗き込む。

 この穴は、奥に吸い込まれる様に空気の流れが出来ておる。

 うーむ、子供位ならいけると思ったが、結構狭いのう。

 こういう場合、頼りになるのがクモ吉じゃ。

 クモ吉を穴に放ち、その視界を共有してクモ吉が先へと進んだのじゃが、少しだけ先に進んで、ここは侵入経路ではないと判断したのじゃ。

 なにせ、下には埃が積り、そこら中に蜘蛛が巣を作っておる。

 これらも全て回避し、ここから侵入するなんて芸当はワシでも出来ん。

 それこそ『幽霊ゴースト』でもない限り、入り込むのは不可能じゃ。

 クモ吉を呼び戻し、若干汚れた水晶を拭いてやりながら、鞄に梯子を戻していく。

 捜査しておる騎士に聞けば、あの穴は空気穴と、研究中に毒ガス等が発生した場合に排気する為の穴であり、外にまで通じてはいるが、途中途中に人が通れぬ様に狭くした場所や、鉄格子の様な物が設置してある場所があるから、外部からの侵入は出来ぬらしい。

 実際、この研究室が作られた際、ハーフフット族という小柄な種族の『盗賊シーフ』に依頼し、外部から研究室へと侵入出来るかどうかを試したのじゃが、不可能と言われたらしいのじゃ。

 なんでも、途中にある鉄格子は何とか出来るが、物理的に狭くした場所はどう足掻いても通れない。

 しかし、そうなるとどうやって犯人は侵入し、脱出したのじゃろ?

 侵入可能な経路は空気穴くらいしかないんじゃが、ここが違うとなると……


「盗まれたのは『強化外骨格』だけなんじゃな?」


「調べた限りでは、他に盗まれた物はありません」


 ワシの問い掛けに答えてくれた騎士じゃが、サーダイン殿からワシに協力する様に言われたらしいのじゃ。

 『強化外骨格』だけを盗んだという事は、相手の目的は最初から『強化外骨格』だけだったのじゃろう。

 そうでなければ、国の研究室と言う宝の宝庫で、他の宝を無視するなど出来ん。

 実際、空気中のマナを収集して魔法陣を通し、魔術を更に強化するという研究レポートや、魔剣を人工的に作る研究資料等、ワシでも『ちょっと欲しいかな~』と思う研究がされておるし。

 まぁどっちも実はワシ作ってるけど、もしかしたら構築式が違ってあっちの方が効率が良いかもしれん。

 流石に勝手に見る事はせんけどね。


「ふーむ……目的が『強化外骨格』じゃとして、それが此処にあるのを知っておったのは限られておるけど、そっちはどうなのじゃ?」


「調べた所、リチャード伯爵は話し合いの後、直ぐに領地に戻っており、王都にはもう居りませんでした。 ブロブ伯爵とウィリー伯爵は事件当夜は王都におりましたが、ブロブ伯爵は現在は取引の為に王都から離れている様で、ウィリー伯爵は王都にはいますが、屋敷に籠っており外出はしていない様です」


 ただ、屋敷に勤めておる執事やメイドに関しては、誰が知っておるのかは流石に分からぬらしいが、そこから漏れたとしても早過ぎる。

 そうなると、誰が犯人になるのじゃ?

 その方法を考えながら、サーダイン殿と部屋に戻り話し合うのじゃが、今回の場合、犯人よりもその侵入方法が重要じゃ。

 ワシの中では、最早これしかないじゃろうと予想は付いておるのじゃが、もし、この方法であれば通常では侵入を完全に防ぐ方法は無い。


「……『転移』ですか?」


「うむ、アレ転移なら説明が付くんじゃが、もしそうなら相当に面倒な相手と言う事になるのじゃ」


 『転移』と言うのは、原理を説明するのは簡単なんじゃが、実際にやるとなる場合、凄まじく難しくて面倒なんじゃ。

 原理としては、転移をする場所を設定して、自分と転移先の空間とを入れ替えるだけなんじゃが、言うまでも無く、この星は自転しておるし、太陽の周りを公転もしておる。

 もっと言えば、銀河も宇宙空間を動いておるのだから、それらを全て計算した上でなければ、転移した瞬間に出る先はもしかしたら空の上じゃったり海の中じゃったり、下手をすれば宇宙空間になるかもしれん。

 この異世界では、まだそこ等辺の科学知識まで達してはおらんから、この辺の知識は知られてはおらんかもしれんから、極めて短距離の転移は成功しておるかもしれんが、長距離転移は失敗しておるじゃろう。

 ワシも、随分と前に手軽に移動する方法として、青いタヌキ型ロボットが使う『どこでも〇ア』の様な、ドア同士を繋いで魔道具化する事も考えたのじゃが、接続を維持する為のマナ消費が膨大になる上に、接続が切れたら再接続するのが難しく、敢え無くボツにしたのじゃ。

 『シャナル』にある瑠璃殿達がこの地上に来る際に使用した水晶鏡じゃが、接続先が童女神シャナリー殿達が住む別次元の『天界』じゃから、マナの消費は多いんじゃが使用する際の起動時間は短いし、自転や公転なんかは無視する事が出来るのじゃ。

 ワシでも魔道具で転移先をマークしておらんと、転移は怖くて使えん。

 王城にも、転移用の魔道具を一つ設置してマークしてあったのじゃが、マナ切れでもう使えなくなっておる。

 最充填すれば使えるんじゃろうが、そのタイミングが無いので放置状態じゃ。

 見た目は空き部屋にある窓際の地味ぃな花瓶にしてあるから、早々捨てられる事は無いじゃろうが、態々その部屋に入る事が出来ん。

 そんな転移を使いこなす相手がいるのであれば、侵入を防ぐのは不可能じゃ。

 一応、空間そのものに干渉する事で転移を防ぐ事は出来るんじゃが、それでも完全に防ぐのは無理じゃが、後でワシの小屋とか自室空き倉庫にも、用心して専用の防衛魔道具を作って設置する必要があるのう。


「それなら対策としては、誰もいなくなる時間を作らなければ良いですな」


 サーダイン殿の言う通り、相手が転移を使うとしても、盗める隙を作らなければ良いだけじゃ。

 転移してくるのが実力者であればそれでも危険じゃが、それでも犯人と手段が分かるから、対策が立てやすいのじゃ。

 まぁそこら辺を考えるのはサーダイン殿や王城の面々じゃから、これ以上はワシが手出しする事は無い。

 着替えて学園へと戻るのじゃが、ワシの授業はドリュー殿が引き継いでくれておったので、ワシは部屋に戻って寝直しじゃ!

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