第292話




 ワシの希望を聞いて王様とサーダイン殿が頷いておるが、周りにいた者達が驚いておる。

 3匹貴族達は金銭以外の希望で、宝物とか希少品を要求すると思っておったんじゃろうが、ワシとしては宝物とか希少品と同じくらい、ムッさん達には価値があるのじゃ。


「よりによって奴隷ですと!?」


 ネズミが驚いているが、これにはワシ個人の理由もあるんじゃが、説明が必要かのう?


「師匠、こういう場合、宝物庫の魔道具とか、手に入りにくい素材とかを希望するもんじゃないのか?」


 バートがそう言うが、ワシの場合、必要で思い付く魔道具は自分で作れるし。希少素材は自分で手に入れるか、兄上に依頼すれば手に入ってしまう。

 他にも、金属であれば錬金術と自分の能力ポーション師で作れてしまうから、別に欲しいとは思わん。

 魔石だって、適当な魔石にワシがマナを籠めてしまえば、高ランクの魔石を作れるし、魔粉を凝固させれば魔石だって作れるのじゃ。

 まぁ能力や魔石の事は秘密じゃから、それを誤魔化して説明するのも面倒なので、兄上に集めて貰えるからって理由で誤魔化すのじゃ。

 兄上頼りになるが、そう説明するとバートとギラン殿は頷いておる。

 まぁそれで納得しないのが3匹貴族じゃ。


「何を言うかと思えば、よりによって奴隷を要求するとは」


「この国で奴隷を要求するなんて、常識を疑いますな」


 タヌキが言う通り、この国バーンガイアでは奴隷の個人所有は認められておらん。

 それに、ムッさん達は犯罪を犯した重犯罪奴隷じゃから、本来ならこんな要求は通らんのじゃが、今回は別じゃ。

 王様自らの提案で、金額に変えられぬモノをくれると言うんじゃから、かなりの無茶も通るじゃろう。

 それに、別に重犯罪奴隷から解放しろと言うのではないからのう。


「まぁそれにしても、どうしてムッさんなんだ? 人材って意味なら十分だと思うんだが」


「ワシが自由に動かせる直属の部下が欲しいんじゃよ」


 よく考えてみると、ワシって部下が一人もおらんのじゃ。

 バートやカチュア殿はワシの弟子じゃし、ノエルは部下と言う訳ではないし、『シャナル』におる美樹殿や妖精達も、部下と言う訳じゃないしのう。

 そこで、ムッさん達じゃ。

 ムッさん達を『強化外骨格』を使用する国の特殊部隊と言う形にし、所属は国のままじゃが、ワシへの報償としてムッさん達を無期限で貸し出しをするという事じゃ。

 実は今の所、ムッさん達のワシへの貸し出しって『シャナル』が町として完成して機能するまで、と言う条件が付いておったんじゃよね。

 これなら問題無いのじゃ。

 それに、バートを部下というのものう……

 バートは形上はヴァーツ殿の子であり、ワシはヴァーツ殿の寄子じゃ。

 つまり、寄親の子が寄子の部下になるって事になるのじゃが、まぁ一時的に、寄親が長年仕えてくれている信頼している寄子の元に子を送って経験を積ませると言うなら問題は無いんじゃが、ワシはまだまだ貴族として新参者な上に、人生経験が豊富という程でも無いから経験を積ませるという事は出来ぬ。

 一応、向こう地球での経験はあるんじゃが、こっちの世界で通用する様な経験はないのじゃ。

 何せ、こっちでは魔術でほぼ全て解決出来てしまうのじゃ。

 一応、応用は出来るんじゃけど『その元になる知識はどうした』って思われるじゃろうから、乱用は出来ん。


「成程、確かに自由に出来る部下と言う点では、魔女殿にはおりませんでしたな」


 サーダイン殿が言うと王様も頷いておる。

 さて、どうするのかのう?


「ふむ、国防の為とは言え、リチャード卿達には言いにくい事を言わせてしまったな、その気持ちは大事な事だ。 それでは魔女殿の希望を叶える為に、彼等の貸し出し期限を無期限にする事で調整するとしよう」


 王様がそう言うと、3匹貴族達が慌てておる。

 本当は、『重犯罪奴隷を要求する非常識な小娘』として叩くつもりじゃったんじゃろう。

 じゃが、王様が先制して、ワシを叩けぬ様にしてしもうた。

 騎士の数人が書記の代わりとなって、ここでの会話を纏めておるので、この後、正式にムッさん達が無期限でワシに貸し出されるという契約書が作られるのじゃ。

 そして、その為にムッさん達用の特別部隊を設立してもらうのじゃ。

 代わりに、ワシの方から『強化外骨格』を渡す必要があるんじゃが、ワシの持っておる『強化外骨格』は安全装置として自爆装置が搭載されておるので、外すか別の機能を搭載する必要があるのじゃ。

 一応、考えはあるんじゃが、それの為には一旦改造するので渡すのは後日になる。

 そこ等辺の事は先程、こっそりと伝えてあるので、今回は此処で解散となる。

 一応、表向きはこの場で渡した、と言う事でを渡しておいたのじゃ。

 偽物とはいえ、安全の為に魔石は外しておいたのじゃ。

 安全装置を外し、代わりの機能を付ける改造は数日で終わる予定じゃ。




 まさかこんな事になるとは……

 本当なら、リチャード卿に金を出させて買取り、ウィリーの奴の所で量産し、それをクリュネ枢機卿様に渡して安泰、となる予定だった。

 だが、金で買い取る事は不可能だから別の要求をさせ、それで奴隷を要求するなど予想出来ないだろう!

 しかも、それを非難しようにも、陛下が許してしまった事で出来なくなってしまった。

 リチャード卿達も、陛下から感謝を言われてしまった事で、下手に手出しが出来なくなってしまった。


「クソッ! このままでは……」


 王都にある屋敷の一室で次の手を考えるのだが、最早、我々が手出し出来る状態ではない。

 一瞬、王城から『魔導鎧』を盗むという手段も考えたのだが、最重要機密を扱う場所に運び込まれたので、とても盗めるような状態ではない。

 このままでは、クリュネ枢機卿様からの依頼に失敗した事になってしまう。


「どうやラ、失敗シタ様ですネ」


 その言葉にビクリと肩が跳ねて振り返ると、そこにはクリュネ枢機卿様が立っていた。

 慌てて王城での出来事を話し、どうにもならなかった事を説明する。

 まさか、買取りが出来ないとは予想出来なかった。


「成程、盗めナイ?」


「……最重要機密を扱う所で研究される予定でしょうから、そこに入るのも……」


 王城の奥にある最重要機密を扱う研究施設には、陛下が認めた限られた人員しか入れず、幾人も騎士が警備の為に巡回している。

 当然、高位貴族であっても許可が無ければ、最初の扉すら越える事も出来ない。

 あのリチャード卿でも、許可が無いので入れない。


「最奥にあるノネ?」


「陛下達があれ程絶賛しているのですし、運用するのであれば、置かれているのは最奥でしょう」


 それを聞いて、クリュネ枢機卿様が何か考え込んでいる。

 そして、何かに気が付いた様に私の方を見ると、ニヤリと笑みを浮かべた。


「……調べル準備をしておきなサイ」


「は? あ、いえ、分かりました」


 そう返事を返して頭を下げ、再び頭を上げると、そこにいた筈のクリュネ枢機卿様は忽然と消えていた。

 一体どういう意味なのか分からぬが、言われた通り研究の為の準備をするので、その為にウィリーの奴を呼び寄せ、どうにか仲間として引き込む。

 ウィリーの奴も『魔導鎧』を研究したいのだろうから、あっさりと仲間に引き込めた。



 そして数日後、私が取引の為に暫く王都から離れていて、取引が纏まったので屋敷に戻ると、クリュネ枢機卿様を通している部屋に、巨大な木箱が置かれていた。

 何かと思ってそれの蓋を開けると、そこには木屑の様な物が詰まっており、それを掻き分けると、そこには鈍い銀色の全身鎧が入っていた。

 間違いない、コレは、あの時に見た『魔導鎧』!

 だが、一体どうやって盗み出したのだ!?

 聞いた所で答えてはくれぬだろうが、言われた通り、コレで『魔導鎧』を研究する事が出来る!

 大急ぎで箱を別の物に交換し、お抱えの職人に偽装の為に鎧に装飾を施させ、複数の全身鎧と一緒にウィリーの奴の領地に向けて送り出す。

 これで後は、クリュネ枢機卿様に結果を報告し続ければ良いだけだ。

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