第291話
「なっそれはどういう意味ですかな!?」
キツネがそんな事を言っておるが、別に至極当然の事じゃろう。
そもそも、『国防の為に』とか言っておるのに、個人で量産しようとか考えては駄目じゃろ。
まぁ量産出来るとは思えんが、用心するに越した事は無い。
「やらんとは思うが、悪用されると危険じゃし? 国防なら管理も国がした方が良いじゃろ?」
「……いや師匠、アレを渡すのは……」
「……流石に国防を理由されたらのう……それに『強化外骨格』を国に管理して貰おうというのは、実はちょっと前から考えておった事じゃ」
バートとヒソヒソと話しながら、元々、『強化外骨格』は国に提供しようと考えていた事を説明する。
と言うのも、最近のワシは働き過ぎと言える程、働いておる。
半分以上はワシの趣味も兼ねておるけど、このままでは過労死待った無しじゃ。
なので、やっておる事で、他の人に任せても大丈夫じゃろうと思う事を、いくつかピックアップしてあるのじゃ。
その中には、国へ『強化外骨格』の製造や量産を渡す事も含まれておる。
この国の王族なら、渡しても大丈夫じゃろうが、タダで渡す事はせぬ。
キツネとタヌキが王様になんか言っておるが、彼等の主張である国防を考えるなら、国に渡すのが普通の事じゃろ。
「それなら、早速査定をしようと思うのですが、トレバー様がしないのですか?」
「儂でも査定は出来るが国に属しておるからのう、それを正当かどうか疑問になるじゃろうて」
どうやら、ワシが『強化外骨格』を国に渡すと考えておった事は、この老人には見抜かれておったようじゃな。
取り敢えず、この場で出す訳にもいかんし、別室に案内されてそこで出す事になった。
出すのは正式に完成させた『強化外骨格』じゃ。
バート達が元々持っておるのは試作品で、各員に合わせて調整しておるから、提出する訳にもいかん。
「何を言っておるのです、国の為なのですよ!? 無償で提供するのが当然でしょう!」
「それに、重犯罪奴隷が持っておるのも危険でしょう! もしかしたら何処かに横流しするかもしれませんぞ!」
キツネとタヌキが相変わらず喚いておるが、ムッさん以上に『強化外骨格』を使いこなせるのはおらんじゃろうし、何だかんだと言って、ムッさんは頼まれたらちゃんとやってくれるのじゃ。
それに、魔道具で奴隷化しておるんじゃから、横流しなんて無理じゃろ。
しかし、重犯罪奴隷が問題じゃと言うなら、ワシにも考えがあるのじゃ。
「さて、これが正式に完成した『強化外骨格』じゃ」
別の部屋と言っても、先程の部屋より多少大きい程度で、家具や内装等はあまり変わっておらん。
その家具も騎士達によって壁際に移動させられ、部屋の中央に別の絨毯を敷いて、そこに『強化外骨格』の素体を取り出したのじゃ。
まぁ見た目は変わらんのだけど、試作品よりスムーズに動けるようになっておる訳じゃ。
そんな素体を前にして、ギラン殿が目を輝かせながら調べ始めておる。
隣で査定はせぬ筈の
「ほう、普通の鎧と比べても動きがスムーズですね」
「見よ、滑らかだけじゃなく、鎧自体も驚く程軽い」
「素材はミスリル……ではありませんね、似てはいますがミスリルとは微妙に違う……」
「何と細い線じゃ……これを間違いなく引くとなると相当な腕が必要になるぞ?」
二人して素体を調べ、話し合いながら進めておる。
その様子を見ながら、ワシはコソコソと王様の隣に移動する。
少なくとも、コレから話す内容は、あの3人に気が付かれる訳にもいかんからのう。
コッソリと近付き、外から聞こえぬ様にこれまたコッソリと結界を張っておく。
これで、余程注目しておらん限り、ワシ等が話をしておる事には気が付かんじゃろう。
「さて陛下、ちょっと内密に話をしたいのじゃが問題は無いかのう?」
「ふむ、魔女様の結界ですか……アレ等を見る限り外から話は聞こえぬ、と言う訳ですか……」
王様が僅かに首を動かして3匹貴族の方を見た後、前を向き直して答えたので、さっそく秘密の交渉のスタートじゃ!
一瞬、僅かなマナの揺らぎを感じ陛下の方を見たのだが、アレは音を遮断する結界じゃな。
無詠唱な上に、外部と遮断する結界の展開で僅かなマナの揺らぎしか起こさないとは、あの少女、相当な腕前を持っている。
それにこの『魔導鎧』に使われておる技術は、どれも見た事も無い。
共に調べているギランの話によれば、元々は魔物である『リビングアーマー』を参考にした、と言っているらしいが、これは『リビングアーマー』とは掛け離れている。
どちらかと言うと、これはゴーレムの方が近い。
だが、人が着込むゴーレムなんて考えつかぬだろう。
それに使われておるこの素材、確かにミスリルに似てはおるが、これ程薄くすると強度が落ちる。
しかし、叩いてみた感じでは変わらぬ所か、遥かに強靱であろう事が予想出来る。
そんな金属が表面全てを覆っており、中の回路も正しく緻密。
本当に細く引かれており、こんな細く線を引くのは至難の業だ。
そして、動力になっていると思う魔石は、恐らくランクとしてはBかAのモノだろうが、あの少女はあのエンペラーベアを使役しているのだから、手に入れるのは簡単なのだろう。
それ以外にも、あの『龍殺し』の寄子なのだから、そこから貰っているのかもしれん。
兎に角、この『魔導鎧』とは、凄まじい技術の塊だ。
その性能を聞いたが、使いこなせればこの一着で、並の一部隊を相手する事も可能だろう。
更に、龍殺しの養子と言うあの若者は、独自に改造をしているという話。
コレは我が国の技術者達も負けておられんだろう。
「……さて、査定をするとしても、コレに値段を付けるというのは……」
ギランが悩んでおるのも分かる。
コレに値段を付けろと言われても、土台無理な話。
使われておる技術もそうだが、使われている金属も含めて値段の付けようがない。
となれば、金額以外で交渉するしかないだろう。
「まぁ、正直に話をして、陛下の判断に任せようではないか」
「そうですね……悔しい事にあの娘は技術者としても遥か上にいる様です」
その言葉だけで、ギランもあの娘が只者ではないのは気が付いている様だ。
後は、陛下がどう判断するか……
「……成程、魔女様はそう予想したから、その提案ですか」
「まぁ普通に考えたら、金で解決出来る範囲を超えておるじゃろうから、それ以外での解決法となるとそれが一番かと思うのじゃ」
「……分かりました。 ただ、流石に直ぐにとはいきませんので、少し待っていただく事になります」
ワシと王様の交渉は、ほぼ本決まりとなった感じじゃ。
さてさて、ワシの予想通りの結果になっておらんと、この交渉が無駄になるんじゃが、どうなったかのう?
結界を解除し、コッソリと元の場所に戻っておく。
「我々二人で調べた結果ですが……結論から言えば、素材も技術も我々の想定している以上のモノとなり、値を付ける事は不可能、と言わざるを得ません」
ギラン殿がそう言ったのを聞いて、ワシは先程の交渉が無駄にならなかった事に安堵したのじゃ。
その言葉に、3匹貴族がギラン殿の方を見た後、王様の方に目を向けておる。
そして、ギラン殿の言葉を聞いた王様が、顎に手を当てて暫し思案した後、ワシの方を見る。
「……値が付けられぬのであれば、別の事で条件を満たすしかあるまい。 魔女殿、何か欲しい物はあるだろうか? 実現可能な範囲であれば、王の名の下に実現させる事を約束しよう」
「では、ワシからの希望は一つじゃ」
そこでコホンと一つ咳払いをして呼吸を整え、王様にワシが欲しいモノを伝えたのじゃ。
「重犯罪者であるムッさんと、その元部下全員の奴隷が欲しいのじゃ」
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