第290話




「いや、一体何したらあんな爆発音すんだよ」


 バートがそんな事を言うが、中に爆音がする魔法陣と意識を奪う魔法陣を仕掛けておいて、勝手に開けて中に手を突っ込んだら発動する様にしてあるだけじゃよ?

 まぁ爆音のせいで暫く耳が聞こえないじゃろうが、人の物を盗もうとしたくらいじゃしそのくらい許容範囲じゃろ。

 それに、ワシ魔女のモノに手を出して、タダで済む訳が無いのは当然じゃ。

 そう言ったら、バートが溜息を吐いておる。

 なんか、バートが兄上に似て来たのう。

 まぁそれはともかく、話し合いの再開じゃ。


「それで、あの者達は何者なのじゃ?」


 よく考えてみれば、この3人とは面識無いから何処の誰なのか知らん。

 一応、この国の貴族家について勉強はしとるけど、名前は分かってもまだ顔とか知らんのよ。

 そう言ったら、3人の顔が引き攣っておる。


「な、なんと失礼な……」


「まぁまぁリチャード卿、相手は小娘ですから」


「我々の事を知らぬというのが問題ですぞ」


 リチャードと言われた男は、ヒョロリと細長く、金髪をおかっぱの様にしておる男じゃが、何と言うか印象はキツネっぽいと思ってしもうた。

 そう思うと、御付きのモノはタヌキとネズミかのう?

 何せ、でっぷりと太った茶髪の男と、二人と比べてもかなり小柄な痩せた男、って感じなんじゃもん。


「ゴホン、この者達は、リチャード=エル=ローレン伯爵、ウィリー=エル=ブーン伯爵、ブロブ=エル=グレウォール伯爵だ、3人共、それぞれ特色がある領地を収めておる」


 ふむふむ、キツネがリチャード伯爵、タヌキがブロブ伯爵、ネズミがウィリー伯爵ね。

 サーダイン殿がそう説明してくれるが、それぞれの領地に特色があるとな?

 ……そうじゃ勉強した時に、ミスリルが採掘可能な鉱山がある場所として覚えたのが、確か『グレウォール領』と『ブーン領』じゃったな。

 しかし、『ローレン領』の特色は勉強の時に見た覚えが無いんじゃが、『ローレン領』には何があるんじゃ?

 そう聞いたら、キツネの額に青筋の様な物が浮いておる。

 仕方無いじゃろ、まだ勉強途中なんじゃから。


「『ローレン領』には『大迷宮』があるのですよ」


 今度はギラン殿が説明してくれたのじゃ。

 『ローレン大迷宮』と言うのは、この国でも有数の巨大迷宮。

 現れる魔獣や魔物の種類も多く、その最下層は未だに分からず、未だに完全攻略はされておらん。

 これは攻略は無理じゃと諦めて適当に対処しておると、中の魔獣や魔物のバランスが崩れ、そこから一気に爆発的に増え、『大暴走スタンピード』が起きて外が大変な事になるのじゃ。

 なので、真面目に対処しなければならんのじゃが、迷宮は上手く利用すれば凄まじい利益を叩き出す。

 この大迷宮もその類であり、得られる素材や財宝で一攫千金!と夢見る事は出来るのじゃが、そう言った一攫千金が出来るのは結構深い所まで潜る必要があるのじゃ。

 因みに、ファンタジーでこういった深ーい迷宮には付き物の、一瞬で入り口とかに戻る『転移陣テレポーター』なんて便利な物は、無い!

 なので、そう言った一攫千金が狙えるような深い階層まで行くとなると、相当な腕前とアイテムバッグの様な大容量の収納可能な魔道具が必要になるのじゃ。

 なんか、兄上に教えたら突撃しに行きそうじゃな……

 じゃが、そうなると、ワシが作った『強化外骨格』を求める理由にもなんとなく想像がつく。

 もし、『強化外骨格』の数を揃えて、その『大迷宮』に『強化外骨格』を着させた私兵を送り込んだらどうなるか?

 恐らく、あっという間に攻略出来るじゃろう。

 まぁ、国防の為~と言うのも、少しは本当の事なんじゃろうが、大部分は攻略して金銀財宝を得ようとか思っているんじゃろうな。


 一応、彼方の言い分としては分かるのう。

 現状、『強化外骨格』を所有しておるのは、ワシが活動拠点としておる『ルーデンス領』のみで、対クリファレスとしての防衛拠点ともなっておるとはいえ、ある意味、バーンガイアの戦力が完全に偏っておるのは確かじゃ。

 コレで他の領に『使うつもりは無い』と説明しておっても、例えば『この熊は絶対に人を襲わぬ』と説明されても、絶対に人は熊には近寄らん。

 まぁうちの料理熊ベヤヤなら襲う事は無いんじゃろうし、寧ろいきなり料理して逆に呼び寄せるじゃろうが、アレは例外中の例外じゃ。

 人とは内心では未知の存在を恐れる存在なのじゃ。


「んーしかしのう……」


「何もタダで寄こせ、とは言わぬ、それなりの対価を支払おうと言うのだ」


「いや、対価を貰ったとしても、アレを作れるかは……」


「何、このウィリー、優秀な人材を何人も抱えていますので、量産する事など造作もありませんよ」


 キツネとネズミがそんな事を言っておるが、ワシが直接教えておる弟子二人でも、素体はまだ作れんのに、作れるとは思えんのじゃが……

 そこ等辺をうーんうーんと悩んでおると、やって来た騎士がサーダイン殿に何か耳打ちをしておる。

 騎士から何かを聞いて、サーダイン殿の眉間に皺が寄っておるから、何やら嬉しくない報告なのじゃろう。


「魔女殿、先程の安全装置と言うのは、音と意識を奪うだけですか?」


「んむ? 言っておる意味がよく分からんが、それ以外に機能は無いぞ?」


「……先程、兵士の意識が戻り、騎士が尋問をしたのですが、今日一日の記憶が無くなっている様なのです」


 成程、それはアレじゃな、兵士が嘘を言っておる可能性はあるが、それを見抜く魔道具もあるのじゃ。

 王城なんじゃから、そう言った魔道具は常備されておるじゃろう。

 そうなると、後は何かしらの方法で操られておった可能性が高いのう。

 ただ、それで記憶を失うという事は、操られている間は本人は夢でも見ておるかの様な感じなのじゃろう。

 意識を失った事で魔道具の効果が切れ、本人は何一つ覚えておらん状態になってしまった、と言う事なのじゃろうが、そうなると手掛かりが途絶えた事になるのう。

 まぁそこら辺はサーダイン殿や騎士達の仕事じゃろうから、ワシに出来る事は余りないのう。

 それより、こっちの問題じゃ。

 ワシ個人としては、『強化外骨格』を売り渡すのは拒否したい。

 確かに、将来的にはこの世界の技術者でも作れるようにはなるじゃろうが、現段階では、あまりにもリスクが高過ぎる。

 生身でもある程度戦えておったムッさんが、『強化外骨格』を着こなした結果、巨大ゴーレムを単機で落としておるくらい、戦闘力は激増する。

 まぁ、ムッさんの様に使いこなせる様な者がいるかは分からんが、そんなのを気軽に渡したら非常に拙いじゃろう。

 じゃが、国防を理由に出された場合、ワシが拒否すれば『国を守るつもりが無い』と思われる上に、『やはり国家転覆を考えているのでは?』と怪しまれる可能性がある。



「『強化外骨格アレ』を提出するのは、まぁ構わんのじゃが、個人に渡すというのはのう……」


 王様とかサーダイン殿とかは知り合いで信用しておるし、王城にはマルクス殿もおる。

 当然、『強化外骨格』を調査するとなれば、学園にも話が来るじゃろうし、ギラン殿も信用出来る。

 じゃが、この動物3人衆キツネ・タヌキ・ネズミは、初めて会うし、信用出来るかはまだ分からん。

 まぁ、このタイミングで言ってくるのでは、どう考えても信用出来んのじゃが。

 となれば、ワシが打てる手は一つじゃな。


「国防を理由にするのであれば、国には動きの確認用と研究用に一着ずつ売るかのう……」


 その後、その二着を本当にどうするかは王様達に丸投げじゃ!

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