第289話




 学園長室に入り、今回呼ばれた理由を聞いて見たら、何でもワシ等に話を聞きたい事があり、出来れば早急に王城へと来て欲しいらしいのじゃ。

 最近はやらかしておらん気がするが、何やらやってしもうたんじゃろうか?

 そう思って呼び出しの理由を聞いたんじゃが、学園長殿も聞かされてはおらんらしいが、兎に角、王城に行かねばいかんじゃろう。

 早急に来て欲しいというなら早速向かおうと思い、ワシはこのまま徒歩で行くつもりだったのじゃが、学園側で馬車を用意してくれていたようで、このまま馬車に乗り込んで王城へと向かう事になったのじゃ。

 馬車の中で二人と今回の呼び出し理由を話し合ったのじゃが、ワシとバートは師匠と弟子と言う間柄じゃからともかく、ギラン殿も呼ばれた理由が分からぬ。

 ワシ等の共通点が見えんのじゃが、まぁ王城に付けば分かるじゃろ。




 あまり乗り心地が良くない馬車に揺られつつ、尻が若干悲鳴を上げそうになる頃に王城に到着し、門番に御者が来訪理由を告げると、そのまま王城の敷地に入って所定の場所に案内されて馬車から降りる。

 んー、尻が痛い。

 こりゃ改良馬車の普及を急がねばならんかもしれん、それか道路の改良を勧めるかじゃなぁ……

 そんな事を考えながら、今度は別の兵士によって王城の中を案内されておる。

 こうしてじっくり王城の中を歩くのは、宰相殿に話を聞きに来た時以来じゃのう。

 ぁ、もしかして、あの時の被害が調べたら実は結構あったとか、いや、それならバートとギラン殿も呼ばれた理由にはならんか。

 そうして、あーでもない、こーでもないと悩んでおったら、目当ての部屋に到着したのか、その扉の前におった兵士と侍女に、バート達は持っておった杖や護身用の短剣、マジックバッグを預けておる。

 多分、用心の為に武器になりそうな物を預けておるんじゃろう。

 それに倣ってワシも杖と鞄を預けたんじゃが、ワシの鞄はアイテムバッグにはなっておるが、それとは別にインベントリに大部分を収納しておるから、安全と言う意味では意味が無いんじゃが黙っておくのじゃ。

 それに、ワシの鞄って安全装置も付いておるから、下手に弄るとちょっと面倒な事になるんじゃが、まぁ危ないから絶対に鞄の口を開けない様に言っておいたから大丈夫じゃろ。

 そうして兵士が扉を叩いてワシ等が到着した事を伝えると、扉からガチャと鍵が外れる音がして、扉が開いたのじゃ。

 兵士に促されて中に入ると、そこはそこそこ大きい部屋なんじゃが、両側の壁側に此処まで案内してくれたような兵士達とは違う騎士達が並び、中には短杖ワンドを腰のベルトに刺しておる者もおる。

 部屋の奥を見れば、そこには王様とサーダイン殿がおるから、これ程厳重になるのは当然じゃな、と思いつつ、それ以外の者達を見る。

 まぁ身形からして貴族らしき中年の男が3人、それとワシと同じ様なローブを着た老人が一人。

 ただ、その4人の共通点として、全員が眼をギラつかせておる。


「お待ちしておりました、魔女さ……殿とお二人共」


 王様が一瞬、『魔女』と言い掛け、慌てて言い直しておる。

 ワシ等だけなら別に様付けで呼ばれても問題無いのじゃが、此処には別の者達もおるからのう。

 そう思いつつ、軽く会釈しておく。

 して、今日は一体何の用なのじゃろうか?


「実は、この者達が、魔女殿達が持っておる『魔導鎧』を国で管理し、防衛の為に各地に配置した方が良い、と主張しておってな」


 サーダイン殿がそう言って、その場におった男共を眺めておる。

 『魔導鎧』と言うのは『強化外骨格』の事じゃろうが、アレを国で管理するとな?

 確かに、アレを国で管理して増産なりして各地に配備すれば、この国の防衛力はかなり上がるじゃろう。

 唯一の問題は、『強化外骨格』の素体を作れるのが、材料の関係で現状ではワシしかおらんって事なんじゃが、この者達はそこ等辺を分かっておるんじゃろうか?


「現状、『魔導鎧』はルーデンス領、その関係者しか持っておりませんが、もしかしたら密かに沢山作り、謀反を起こそうと画策しておるやもしれませんしなぁ」


 そんな事を言ったのは、ふくよかと言うには腹が出ておる中年男性の一人じゃ。

 勿論そんな事は有り得んのじゃが、知らぬ人からすればそう思っても仕方無いじゃろう

 それに同調する様に、二人の中年が頷いておる。


「儂は違うぞ! 『魔道鎧』も気にはなるが、魔道具そのものに興味がある!」


「トレバーよ、少しは落ち着いたらどうだ?」


「何を言うか! あのような素晴らしい魔道具を作った者が目の前におるのだぞ!?」


 そう言ったのは、ずっと沈黙しておった老人で、興奮しておるのか王様に宥められておる。

 まぁそれでも止まらんのか、鼻息荒く王様へと答えておる。

 しかし、素晴らしい魔道具と言っておるが、ワシが作った魔道具のう……

 そう言えば、随分前に奇病の特効薬を作る魔道具とか作って、それが王城に届いたとか言っておったのう。

 アレって結局どうなったんじゃろ?


「まぁまぁトレバー様、その話はともかく、今は『魔導鎧』をどうするのかと言う相談ですぞ?」


「そうですね、一部の領だけが持っている状態と言うのは、他の領からすれば安心も出来ませんし、何より、こんな子供が管理しているなど、流石に危険極まりないでしょう」


 そんな事を言いながら、中年男達が王様の方に視線を向けておる。

 王様は溜息を吐いて、ヴァーツ殿は謀反を起こす様な気も持っておらず、ワシ以外に安心して管理を任せられる様な相手はいないと説明してくれるが、まぁこの者達は信用しておらん様じゃ。

 そりゃ、疑心暗鬼を抱いておる相手に、『安全じゃから問題無いのじゃ』と説明した所で、信用してくれる訳も無い。

 寧ろ、そんな事を言った所で逆に怪しむじゃろう。


「成程のう……つまり、ワシが持っておる『強化外骨格』を国が管理した上で、模倣品を技術者に作らせるという事かのう?」


「確認なのだが、それは可能なのか?」


「うーん、正直、やってみん事には分からん、としか……」


 王様にそう言われたんじゃが、まぁ素材のランクを落とし、魔法陣を刻む関係でサイズを大きくすれば作れん事は無いじゃろうが……

 他にも、動力に使っておる魔石は、ワシが用意した虹色魔石を使っておるから、それに匹敵する魔石が必要になる。

 まぁそこそこの魔石でも別に動かす事は出来るんじゃが、完璧に動かすとなると、最低でもランクAとかの魔石が必要になるんじゃが、全領で数を揃えるとなるとメンテ分も考えなければならぬから、安定した入手先が必要になる。

 結局、ワシが作らぬ模倣品は、多少強くなるってくらいにしかならんと思うんじゃけど、それでも良いんじゃろうか?

 バートが改造しておるのも、素体にパーツを追加しておるだけじゃから、正確には作っておる訳じゃない。

 そして、ヴァーツ殿、カチュア殿、兄上も所有しておるが、カチュア殿はニカサ殿の補佐で忙しく、兄上は依頼で不在、ヴァーツ殿はルーデンス領におるから、呼びたくても呼べないのじゃ。


「……一応、魔女殿が許可をするなら、『魔導鎧』をと言う案もあるのだが……」


「成程、それでギラン殿がおるという訳じゃな?」


 話の流れで、ワシとバートは『強化外骨格』を所有しておるから呼ばれたのは分かったのじゃが、ギラン殿は完全な部外者じゃから分からんかった。

 しかし、国として『強化外骨格』を買い取るのであれば、『強化外骨格』に使われておる素材や技術を調べる必要があり、それを見極めるのに、魔道具に詳しいギラン殿が必要になる。

 トレバー殿という老人もおるが、あの興奮具合を見るに、正確な判断が出来るかちょっと怪しいのじゃ。


「んー……前に別に勝手に研究する分には構わん、と言ってあった筈なんじゃが……そっちはどうなっておるんじゃ?」


「正直、上手くいっていない、と言う事だろう」


 サーダイン殿がそう言うと、ビクリと3人の中年共の肩が跳ねるのが見えた。

 どうやら、勝手に研究して上手くいっておらんから、難癖を付けて現物を手に入れようとしておるんじゃな?

 そこを指摘しようとしたら、急に隣の部屋から『バァン!』と凄まじい炸裂音が響き、その壁側に立っておった騎士達が咄嗟に壁に向き合って剣を引き抜いて盾を構え、短杖を持っておった騎士がその後ろに立つ。

 そして、反対側におった騎士達が一瞬でワシ等を守る様に展開しておるんじゃが、まぁあの炸裂音にワシは心当たりがあるのじゃ。

 しばらく壁と対峙しておった騎士の一人が壁に近付き、剣先で壁を軽く叩いた後、視線で扉の近くにおった騎士達に合図を出したのか、その数人の騎士達が部屋から出て行って確認しに行ったようじゃ。


「あー……驚かせてすまぬが、あの音は、誰かがワシの鞄を勝手に開けて中を漁ろうとしたから、安全装置が起動しただけじゃ」


 ワシの言葉を受け、王様達の視線がワシに向くのと同時に、確認しに行った騎士達が戻って来た。

 その後ろには、騎士に拘束された兵士がいるのじゃが完全に失神しており、グッタリしておる。

 危ないから触らぬ様に注意したのじゃが、それを無視したのか何か盗もうとしたのかは、この後、取り調べで分かるじゃろう。

 騎士の一人がワシの鞄を差し出し、『盗まれた物が無いか中身の確認を』と言ったので一応確認したのじゃが、まぁこの鞄は偽装用なので無くなった物はない。

 同じ様に、バートとギラン殿の持っておった鞄も、本人達に確認する様に差し出しておる。

 流石に武器になるワシの杖とかは、騎士が持った状態で確認したが問題は無かったのじゃ。


 さて、一悶着はあったものの、話し合いを続けるのじゃ。

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