第288話
学園にドリュー殿が帰って来たという事で、ワシへの臨時教師という依頼は達成された。
なので、そろそろワシらはシャナルへと帰る予定なのじゃが、兄上は
そこ等辺の事を先に知らせておく必要があると考え、手紙を先にヴァーツ殿に送る為に、今日は商業ギルドに来ておる。
じゃが、此処で問題発生なのじゃ。
「なぬ、手紙は3通必要とな?」
「絶対に必要と言う訳ではなく、確実性を重視するので手紙は複数用意する必要があります」
そんな事を言っておるのは、商業ギルドの受付嬢。
頭の上に兎の様な耳がある事から、兎の獣人なのじゃろうが、見た目はウサ耳を付けた金髪の女性じゃ。
まぁこの受付嬢、
そして、複数の手紙が必要な理由じゃが、コレはこの異世界での手紙の配達方法が原因なのじゃ。
この異世界での一番早い配達方法は鳥や魔鳥を使った配達なんじゃが、この配達方法は凄く金が掛かるので利用しておるのは貴族以外じゃと、高ランクの冒険者とか大商人だけで、一般人は利用すら考えておらんらしい。
それ以外じゃと、冒険者や行商人に依頼する事になるのじゃが、どのルートにも言える事なのじゃが、確実に届く保証が無いのじゃ。
コレは至極当然の事で、この異世界では今現在も野には盗賊野盗がおり、魔物や魔獣も蔓延っておる。
配達途中にそう言ったモノに出くわした場合、命を優先して荷物を放棄する事もあるし、それも叶わず命を落とす事もある。
そう言った事が原因で配達先に届かず、なんて事を想定し、商業ギルドでは手紙等の配達方法は複数に分ける事を推奨しておるらしい。
因みに、一番届く確率が高い配達方法は、各ギルドが専門に雇っておる専属の配達員を利用する事じゃ。
この専属の配達員、引退した冒険者やその道の実力者達が集まっておる以外に、
まぁその分、お値段も高いんじゃがね。
そんな訳で、いくつかの配達方法を使って成功確率を上げておるので、出す手紙も複数必要になるのじゃ。
それに、配達速度もあるのじゃ。
一番早いのが鳥系、次に専属、冒険者、行商人の順となっておる。
まぁ行商人は、同行しておる護衛の腕前も関係しておるから、絶対に遅いとは言えんのじゃけどな。
ワシの場合、進藤殿の伝手で水月殿に頼むという手もあるんじゃが、間の悪い事に、ついこの前に王都の方に来て、大量の荷物を各地へと輸送する手筈を整えて出発してしまったばかり。
水月殿が次に王都へと戻るのは、大凡一月程後になるので、その頃にはワシ等は王都を出発しておる予定じゃから手紙を出すのが間に合わぬ。
商業ギルドの受付嬢に、手紙を預かってもらって出す様に頼む訳にもいかんし。
取り敢えず、基本は複数ルートで送る事が推奨されておるから、ワシみたいに一通だけしか送らぬ場合、届かなくても商業ギルドを訴える事は出来ぬと説明されたんじゃが、そうなると今回の手紙は確実に届けて欲しいので、複数ルートを使う事にして、新しい手紙を書く事にしたのじゃ。
内容的には同じ物じゃから、書き上げるのは簡単なのじゃ。
商業ギルドに置かれておる机で手紙を書くのじゃが、この机には衝立があって周囲から見えぬ様にされておるので、安心して書ける様になっておる。
そうして新しい手紙を書いておったのじゃが、何やら外が騒がしくなっておる。
それに、騒がしさに気が付いたウサ耳受付嬢が、慌てて受付の中から外に飛び出して行っておった。
なんじゃと思ったら、出遅れた受付嬢達は何やら悔しそうにしておるし。
「ふっふっふ、耳の良さで私が負ける事は無いのですよ!」
そんな事を言いながら、ウサ耳受付嬢が戻って来たのじゃが、その手には複数の手紙束と、何やら見覚えのある袋があったのじゃ。
その様子を見て、他の受付嬢達が悔しそうにしておるが、一体なんじゃ?
「ガゥ、ガゥガァ(いや、量があるから全員で分けろって)」
そんな声が聞こえて来て入り口の扉が開くと、そこにおったのはベヤヤじゃった。
「なんじゃ、ベヤヤではないか、こんな所に何の用なのじゃ?」
『何の用って、弟子に手紙出しに来たんだよ、それに手紙も来てるだろうしな』
ヴァーツ殿の所におる料理長もベヤヤの弟子じゃが、王都の料理長と比べてあまり構ってやれぬから、こうして料理のレシピを定期的に送ったり、送られてくる手紙には料理の疑問点や気が付いた点等が書かれておるので、その返信もするのじゃと言う。
そして、ウサ耳受付嬢が持っておるのは、暇が出来た時にベヤヤが焼いたクッキーが入っておる袋じゃ。
何でも、王都の商業ギルドに最初に来た際、商業ギルドを大混乱させてしまったとして、こうして毎回何かしらを差し入れしておるらしいのじゃが、受付嬢達の間で絶賛されて争奪戦となり、それ以降、暗黙のルールでベヤヤがやって来た際に対応した受付嬢が、その差し入れを総取りする事になった様じゃ。
「成程のう……」
『そんで、ちっこいのは何してんだ?』
「ワシも手紙を書いておるんじゃよ。 依頼がそろそろ終わるから、ワシ等も帰り始める予定じゃって」
『もう帰んのか?』
「まぁ依頼は終わってるんじゃが、まだやり残しておる事もあるし、引継ぎもせんといかんから、直ぐに帰る、と言う訳ではないんじゃがの」
やり残しておるのはバートの『強化外骨格』の改造じゃったり、ワシが作っておる趣味全開な秘密兵器じゃったり、ドリュー殿にも生徒達の授業内容を引き継がねばならん。
ゴーレム対策に関しては、もうギラン殿達が独自にアレコレ作り始めておるから、最早、ワシが何かする必要も無いし、どうにか出来るじゃろう。
寄生虫に関しても、既にニカサ殿達が手順を確認して、魔道具による調査と摘出手術が出来る様に手配が始まっておる。
ただ、
つまり、ワシのお仕事はほぼほぼ終了した訳じゃ。
「えぇー!? もう帰ってしまうんですか!?」
「毎週の楽しみがっ!!」
「そんな! コレから何を楽しみにすれば!」
なんか、ワシの話を聞いて受付嬢達が嘆いておるんじゃが……
どれだけ人気なんじゃベヤヤの差し入れ。
しかし、まぁ気持ちも分からんでも無いんじゃが、コレばかりはのう……
そう考えつつも、ワシの手紙を冒険者達に依頼して届けてもらう様に手配したのじゃ。
因みにじゃが、こういった手紙の配達を直接冒険者ギルドで依頼をしても良いのじゃが、この場合、商業ギルドと違って、配達方法は冒険者だけしか選べず、しかも初心者を脱した駆け出しクラスが請け負う場合が多い為に、配達依頼を失敗する事が多いそうじゃ。
何より、商業ギルドと違って、手紙を紛失しても保障もされんから、商業ギルドを通した方が気が楽なんじゃよ。
「流石にコレじゃと気分が悪いのう……」
『帰らねぇって選択は出来ねぇしな』
ベヤヤと商業ギルドからの帰る道中にアレコレと相談したのじゃが、流石に解決策は思い付かず、ワシは学園の近くでベヤヤとは別れ、いつもの変装をしてから学園の門を潜って
と思ったら、部屋に入る寸前で、教師の一人がワシの事を探しておったらしく、ワシが学園長室に呼ばれている事を告げられ、そのまま学園長室へと向かう事になった。
最近は別にやらかした覚えは無いんじゃが、一体何の様なんじゃろか?
あ、もしかして、少し前に兄上とやった鬼ごっこで苦情でも来たんじゃろうか?
あの時は一応、周囲への影響も考えて逃げたから被害は無かった筈じゃが、見ていた者がどう考えたのかは分からんからのう。
そうして学園長室に到着し、中に入るとそこには学園長以外にバートとギラン殿もおったのじゃ。
ホント、何の用なんじゃろ?
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