第287話




 目の前にいる盗賊達を叩きのめし、仲間が縛り上げてどんどん連行していく。

 連行先は、此処を治めている『ガーウィグ』とか言う名前の領主の所だが、コレまで殲滅して送り届けたのは、既に50人は超えていたハズ。

 それでも、コレだけ盗賊がいるってのはかなり異常な事だが、敵の目論見が分からねぇ。

 そんな事を考えつつ、半ばから圧し折れた剣で肩を叩く。


「リーダー、またぶっ壊したんですかい?」


「……ワリぃな……まだ慣れねぇや……」


 サブリーダーのゼルがそう言って、折れた剣先を回収している。

 コレで何本目だったか?


「此処に来てから、もう片手じゃ足りないッスねぇ」


「いい加減、それ解除したらどうっすか?」


 一緒にいる仲間にそう言われたが、レイヴンには『常に身体強化をして維持しろ』と言われているから、これも大事な訓練なんだろうから、俺は解除する気は無い。

 寧ろ、この状態でも武器を壊さない様に訓練するべきなんだろうな。

 もし壊さない様になれば、レイヴンの強さの足元くらいには届くだろう。


「まぁ少しは『身体強化』にも慣れて来たし、後は武器をどうにかするくらいだな」


「それでボキボキ折りまくってたら駄目なんじゃないっすかねぇ?」


 まぁ領主邸に戻ったら腕の良い鍛冶師でも紹介してもらうか、武器を仕入れないと駄目だな。

 そうして領主邸に戻って、盗賊連中を、増設した牢屋にぶち込んでおく。

 この後、この盗賊は尋問に掛けられ、背後関係を洗われた後、『犯罪奴隷』として、国所有の鉱山にでも送られる事になる。


「しかし、どんだけいんだよコイツら……」


 思わずぼやくと、それに同意する様にブラッドの奴が頷いている。

 レイヴンから手紙を預かって此処に来る様に言われ、対処してくれたのがブラッドの奴だ。

 それと、普通貴族にため口をするのは拙いんだが、此処に来てから礼儀正しくしようとしたんだが、慣れてないのもあって、受け答えがちょっとアレだったのを見たブラッドが、『自分達だけの場合は気にしなくて良い』と言ってくれたので、今ではため口で話し合っている。

 それ以来、俺達『剣の暴風雨ソードテンペスト』は領内を走り回り、領軍が展開している所とは別の場所を担当して、こうして盗賊退治をしている。

 この盗賊退治だが、確かに良い訓練になっている。

 相手は剣だけじゃなく、短く切られた短槍ショートスピアとか、短剣、手斧、弓やボウガンみたいな武器を使ってくる。

 それぞれの武器に対処する様に考え、捌きながら相手を無力化する事が出来る様になったし、常にマナを消費しながら生活しているから、体内のマナ量が増えて、今では自然と軽い状態だが『身体強化』を維持出来る様になった。

 こうなるまでは、数時間で体内のマナが枯渇して酷い頭痛がして気絶しそうになったり、『身体強化』を使っているのに全身がダルくて、ずっとベッドで寝ていたい気分がしていた。

 まぁ……そんな事をしてレイヴンに知られたら、しばき倒される事になるだろうけどな。


「まぁ鈴木達が頑張ってくれたから、相手からすれば溜まった物じゃないだろうな」


「どういう事だ?」


 ブラッドがコレまで尋問をしたり、所持品から調べ上げた情報を統合した結果、今回の自称盗賊達は何処かの領地の兵士か、兵士崩れ、もしくはその領地で捕まった盗賊である事が分かったらしい。

 もし、これが正規兵であるなら、50人以上も捕まっている事になるし、防具はともかく、コレだけの武器を揃えるのも金が掛かっていた筈だ。

 いくら略奪品があったとしても、それを表で売る訳にもいかないから、裏の商人とかが買い叩いているから、そこまで高い値段にはならない筈だ。

 それなのに、高い金を払って作った武器や防具を全部失っている訳だから、相手の懐具合には相当なダメージになっている筈だ。

 因みに、この自称盗賊が持っていた武器や防具は、本来は討伐者が手に入れられるのだが、今回は背後に貴族が隠れていて、その貴族を追い詰める必要がある事から、全部ブラッドに渡している。

 その結果、かなり候補が絞れたらしい。


「恐らく、これ以上はのは無理だろうな」


「じゃぁ次はどうするってんだ?」


「……強引な方法では、父や俺達を直接狙って領地の乗っ取りを考えるだろう」


「……悪手だな」


「あぁ、普通に考えればかなりの悪手だ」


 領主一家が全滅し、この領地を直ぐに別の貴族が支配したら、確実に怪しまれる。

 それだけじゃない。

 領主一家が暗殺されるなんて、確実に厳しい捜査が入るだろうが、それから逃れるのは至難の業だ。


「後は、経済的に乗っ取る方法だが……コレに関しては問題無い」


「お? もしかして上手くいったのか?」


 俺の言葉に、ブラッドが頷いている。

 実は此処に来て数日した頃、庭でメイドとかが糸を染色していたが、染めた糸がかなり薄かったから、染色途中なのか聞いたらコレで完成って言っていたので、『最初に煮ねぇの?』って言ったら、かなり喰い付かれた。

 中学の頃、修学旅行で絹糸工場の見学があり、そこでの紹介で『実は絹糸はそのままでは殆ど染められず、煮たりする事で綺麗な色が付く』と言う事を言っていたのを覚えていた。

 どうして煮ると綺麗に色が付くと言う事が起きるのかって詳しい事は忘れたが、一応、その事を伝えたんだが、あの後も色々と実験していた様だな。


「染め上がった糸で布を作ったが、まるで一級品だよ」


「そりゃ良かった。 で、少し相談なんだが……」 


「言わんでも分かる。 武器を駄目にしたな?」


 一度の戦闘で最低一本、多ければ数本圧し折っていれば、こういう反応にもなるだろう。

 だが、レイヴンから言われた事を伝えたら、まぁ納得はしてくれた。


「流石に武器を何度も渡すのは無理だぞ、それに腕の良い鍛冶屋もこの領にはいないから、商人か行商人から買うしかないな」


「それ、品質的にどうなんだ?」


 俺の言葉に、ブラッドが腕を組んで『うーん』と唸っている。

 それだけで品質はお察しレベルなんだろう。

 となりゃ、やる事は一つだな。


「それじゃ、自前で作るしかねぇか……」


「出来るのか?」


「やってやれねぇ事はねぇさ」


 俺の仲間に出来る奴がいりゃ良いが、いなけりゃ俺が自分で作るしかねぇ。

 一応、動画とかで刀鍛冶をやってるのを見た事があるし、何とかなるだろ。

 問題は、作る場所だが……


「……流石に素人が剣を作るのは危険だろう、何とかうちに出入りしている商人か、鍛冶師の方を手配してみよう」


「そりゃ良いんだが、手持ちがねぇと動けねぇぞ?」


「相手もコレだけ手が減れば流石に動き難くなっているだろうし、再び動き出すまでは、ウチの予備がいくつかあるから、数本なら使うと良い」


 確かに、さっきも言ってたがコレだけ数を減らせば、手が足りなくなるだろう。

 そういや、自称盗賊連中が持ってたあの武器、俺が使ったら駄目なんかね?


「駄目だな。 もし使ったら鈴木達も盗賊の仲間と思われる可能性がある」


 確かに、自称盗賊が持っていた武器は、製作者が分からない様に、紋章部分が削り取られていた。

 武器とかの紋章ってのは、犯罪行為に使われた場合に製作者を特定する為に絶対に刻まれる。

 だから、その紋章を削った武器を持っているってのは、手に入れた所をって事になっちまうって事だ。

 当然、刻む前に奪われたとかなら、まだ情状酌量の余地ってのがあるが、あの自称盗賊連中が持っていた武器は、全部削り落とされた跡がある。

 だから、もし俺達がその武器を使っている時に兵士に捕まれば、『紋章を削り落として使っている犯罪者』と勘違いされる可能性が高い。

 そうなったら、俺達だけじゃなく、俺達を雇っているブラッド達にも迷惑が掛かる事になる。

 なら、適当な紋章を刻めば良いって思うだろうが、紋章ってのはその武器を作った工房が『自分達が責任を持って作った』と言う証だから、また問題になる。

 取り敢えず、ブラッドから新しい剣を貰うが、折らない様にしなけりゃな……




 そう思いながら次の日、領内を捜査してたら、再び盗賊連中を発見し、これを全員殲滅して捕縛した。

 今回は20人程いた上に、何と隠れ家と思わしき洞窟も発見し、洞窟を調査したら、中は複数人が数ヶ月は生活出来る様な設備やら食糧が置いてあり、そこの机の上には、何やら小難しい事が書いてある紙がいくつも置いてあった。

 それらを全部回収し、ゼル達が洞窟がある地点を地図に書き込んだ後、勿体無いが洞窟の入り口は破壊して塞いだ。

 そして、急いでブラッドに紙と一緒に報告した所、その紙を読んだブラッドの奴が机に拳を叩きつけていた。

 なんでも、ここ数年苦しんでいた害虫問題は、この盗賊連中が密かにその害虫を放つ様に指示する内容が書かれており、今回、その対処法が分かった事で、更に追加の害虫を対処出来ない程に広範囲にバラ撒く指示が出されていたらしい。

 確かに、洞窟の中にはなんか瓶が大量にあった気がするが……

 一応、入り口を完全に崩壊させて塞いだので、出て来る事は無いだろう。

 そう説明したら、ブラッドから感謝され、俺の腰にあった剣に気が付いて溜息を吐かれた。


 まぁ予想通り、今回もポッキリ折れちまったんだよな。











~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


-どうして糸を煮ると色が綺麗に付くの?-


-実は昆虫から採れる糸と言うのは、その表面にタンパク質のニカワみたいな膜がありまして、それが染色の邪魔をしているのです。 それをアルカリ性のお湯で煮る事で剥がす事で、綺麗に染まる訳なんですね-


-クモ糸ってタンパク質じゃないっけ?-


-まぁそこは異世界のクモですし。 カイコの絹糸と構造的には同じだったのでしょう。 ただ、地球ではクモ糸を有効活用しようと研究されていますが、実際の所、問題が多くてまだまだ実用化には程遠いんですよね-


-問題?-


-クモの性格とか習性とかの問題ですね。 クモって実は結構縄張り意識が強くて、飼育するには広い面積が必要になりますし、使わないクモ糸を食べてしまうんですよ-


-あらら-


-ですので、カイコと違って飼育が凄く難しく、飼育面積が広くなって餌とかのコストも凄く掛かるのに、得られる糸の量はカイコよりも遥かに少ないと-


-……それって実用化出来るの?-


-なので程遠いのです。 所でこの異世界にはカイコっているんですか?-


-それじゃ、今日はこの辺で!-


-ぇ、いや、カイコは……-


-またねー!-

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