第285話
「陛下、失礼します。 コレで大凡半分となります」
そう言って入って来た信徒が、大量の書類を抱えている。
少しの間、書類整理をしていなかった為に、ほぼ毎日と言って良い程、書類整理に追われている。
こうなるなら、
まぁ次はそうするとしましょう。
「はい、確かに」
そして机に詰み上がった書類を見て、若干溜息が出そうになるが、コレを放置する訳にもいかない。
信徒が一礼して出て行くのを確認し、カップに入った冷めきった茶を一口飲む。
かなり苦いが、これは特別に調合させた回復効果がある茶であり、私の身体を守る為に必要なのだ。
流石、最強の龍の力、取り込んだ後もかなり暴れており、前の物と違って、未だに体内がボロボロにされてしまっている。
なので、この力が完全に馴染むまで回復しつつ過ごすしかないのだが、それに伴ってか私の身体も変化している。
力はより強く、身体は強靱に。
だが、その代償に取り込んだ力が馴染むまでは体内が破壊され続ける。
無意識に白い手袋を付けた左手を撫でる。
「さて、休む為にも早く片付けなければいけませんね……」
そう思っていたら、部屋の外から何者かが近付いてくる気配がする。
この気配は先程の信徒ではない様だが……
「緊急の報告があり、失礼致します」
入って来たのは、ダガレン枢機卿。
ただ、その様子はかなり慌てていたようで、金の髪が額に貼り付き、着ている服も皺が目立つ。
「どうしました、ダガレン枢機卿? 本日は定例会議の日ではありませんが」
「
その言葉で、紙の上を滑らせていた羽ペンを止める。
しかし、何故バレた?
「詳しい話を聞きましょう」
机の上にある魔道具を起動し、部屋の中の声や様子が外から分からなくする。
そして、ダガレン枢機卿の報告を聞いたのだが、どうやらバーンガイアにいる特級治癒師の『ニカサ』が見破ったらしく、治療法を含めてクリファレス王国とヴェルシュ帝国に、摘出した『
ただ、クリファレス王国を現状支配している
まぁその規模は小さいが、このままなら予定通りになるだろう。
ヴェルシュ帝国に付いては、大賢者が対処する事になった様で強化薬の拡散が鈍い上に、愚か者と同じ様に感染させたかったのだが、コレでは無理だろう。
このままでは、此方の計画に支障が出るので何か方法を考えなくてはならないが、今では大賢者も協力者なのだから、じっくりと隙を見付ければ良い。
しかし、あのニカサがどうして見破ったのか……
「ニカサがいる学園の生徒が、どうにも薬を手に入れて服用し、その中の一人に拒絶反応が出た事でバレたようです」
「しかし、バレた所でそう簡単に摘出は出来ない筈ですが……」
強化薬を作ったクリュネ枢機卿は、私に対して自信満々に『例えバレたとしてモ、摘出スル事はほぼ不可能ネ、摘出しようとすれば感染者が死ぬヨ』と言っていたから、寄生虫を死体から摘出したとして、感染の原因が薬だと分かる筈が無い。
それなのにバレたという事は、感染者を殺さずに寄生虫を摘出し、感染者から情報を引き出したという事か、余程、バーンガイアの捜索技術が高かったという事だ。
だが、持っている技術としてはかなりの腕だが、ニカサはかなりの年齢の筈であり、摘出するには感染者の身体を固定する必要がある上に、摘出中は暴れるだろうから、相当に時間も掛かった筈。
それをあの老人が出来たとは考えにくいし、バーンガイアの捜索技術が高かったのであれば、我々が隠れながらやっている事など直ぐにバレている筈だ。
「そう言えば、最近、ニカサにはエルフの女が同行しているとの報告も受けております」
ダガレン枢機卿の言葉を受け、私は成程と考えた。
つまり、ニカサはそのエルフの女を弟子に取り、そのエルフにやらせたのだろう。
エルフ族は魔道具や魔術の腕もかなり高く、それらを使えば感染者を押さえるのも楽な筈。
となれば、今の所は問題は無い。
流石に『強化薬』から我々に辿り着く事は出来ないでしょう。
「そう言えば、『ジンジャ』については何か分かりましたか?」
「……そちらに付いては申し訳なく……何せ、此方の信者が中に入れませんので、出て来た者達から聞き取りをする程度しか……」
それでも構わないと伝えると、ダガレン枢機卿が『では』とこれまでに分かった範囲での報告をしてくれた。
まず、今の所、『ジンジャ』を経営しているのは、人とエルフ族の女達だけで、男は確認出来なかったが、訪れた者達が自発的に護衛を申し出たりしたが、責任者と言う女に断られ、近くの建物を共同で買い取って宿にし、そこに最低でも数人が常駐、騒ぎが起きると仲裁に入ったりしている。
当然、武力による仲裁ではなく、最初は言葉で諭し、それでも駄目なら先が歪曲した槍の様なモノで取り押さえて、警備兵に引き渡している。
彼等は『自発的なジンジャの護衛』、と言う事で報酬は出ないからすぐに散るかと思われたが、宿を経営しながら交代で徒党を組み、冒険者ギルドでそれなりの高難度依頼を受け、それを協力して達成させて活動資金にしているらしく、今ではかなりの規模になっているらしい。
そんな『ジンジャ』の主な売り物は、巾着に小さな水晶が入った『御守り』と呼ばれる護符の様な物で、持っていると多少運気が上がったり、怪我や病気から守ってくれるという。
ルーデンス領に住んでいる者達は、ほぼ全員が『御守り』を所有しており、その効果かは分からないが、教会に病気や怪我の治療で訪れる者達が他の地域と比べても異常に低い。
そして『クラスアップ』についても、遥かに教会でやっているよりも確率が高いらしく、教会で『クラスアップ』が出来なかった者達が『ジンジャ』で『クラスアップ』出来たという話が広まっており、今では順番待ちをしている状況らしい。
他にも、『呪い』を受けた冒険者がギルドから担ぎ込まれ『解呪』されたり、治療として我々が独占している筈の『聖水』を使っていたりと、どう考えても我々と完全に敵対する組織の様だ。
問題は我々の信者は『ジンジャ』には辿り着けず、辿り着いたとしても何故か敷地内に踏み込んだ途端に意識を失ったり、そもそもある筈の入り口が見付からなかったり、遠くから『千里眼』や『女王蜂』による諜報が出来なかったり、『ジンジャ』には不可思議な事が多い。
『千里眼』は遠くから見ようとしたら、『ナニカ』が見えた瞬間に両目を抉られる様な重傷を負い、『女王蜂』は冒険者に諜報用の『蟲』を付けたら敷地に入った瞬間に全て死んだらしい。
『千里眼』の傷はクリュネ枢機卿がすぐに対処したらしいが、完全に失明しており、あのまま無理に見続けようとしていたら、脳まで焼かれて死んでいただろうと報告にあった。
ダガレン枢機卿と部下は、何とか『ジンジャ』に訪れた一般人や冒険者、商人等から話を聞き集め、此処までの情報を集めたのだろう。
少なくとも、コレまでは『ジンジャ』の構成員や実態、経営等は分からなかったのだから、コレは大きな収穫だ。
我々と敵対している組織なのだから、その力を削ぐのは早急に行わなければならない。
その為には、相手の情報というモノは大きな意味を持つ。
「真似と言うには癪ですが、我々も護符を作って売るべきですね」
「ハッ、直ぐに研究をさせます」
ダガレン枢機卿が頭を下げて部屋から出て行くのを確認し、再び書類を片付ける為に積み上がった書類を手に取る。
我々と敵対する『ジンジャ』もどうにかしなければいけませんが、今の私は
そんな事を思いつつ、書類の内容を読んでから玉璽で判を押した。
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