第283話




 悩んでいた時に、アイツ等と一緒に出掛けた先で面白いアイデアが閃いた。

 本当は捨てる様なクズ肉でも、捨てずに食べる為に産まれた料理らしいが、これが意外と美味しい。

 作り方も聞いたから直ぐに再現出来るんだが、俺はコレを俺なりにアレンジして作る予定だ。


『戻ったぞー』


「師匠、お帰りなさい……って何ですかソレ」


 俺が厨房に入ると、料理長弟子が出迎えてくれたんだが、俺の持っていた物を見てそんな事を聞いて来た。

 まぁ普通はそう思うよな。


『出先で見付けた美味いモン』


 それは籠に山盛りになった色々な食材。

 まずは『土芋』と言う名前の長い芋。

 出掛けた先で採取した物で、『簡易鑑定』で『完熟』ってあったから採取し、調理方法を聞いたんだが、輪切りにしてそのまま焼くだけでも、ホクホクした食感で仄かな甘味と旨味が強くて非常に美味い。

 次に『モアキノコ』と言う名の黒いキノコ。

 このキノコ、聞いたら食べられる事は分かっていたが、そのままだと味が全く無いので殆ど食べられていなかったんだが、俺が調理してたら面白い事が分かった。

 何とこのキノコ、調理に使う油やスープをとてもよく吸うのだ。

 だから、ちょっと工夫するととても面白い料理が作れるのだ。

 そして、『アケダマ』と言う緑色の木の実。

 俺が採取したのは『未成熟』で、一応食べてみたら渋みが強く、これも聞いたら『完熟』になると濃い緑色になり、甘味が強くなるらしいが、この『未成熟』でもどうにか調理出来ないか考え中だ。

 これ以外にも腸詰や干し肉等々が籠に盛られている。


「中々面白そうな食材ですな」


 俺の話を聞いた料理長が腕を組み、籠の食材を見下ろしている。

 因みに、今は夕食の準備を始める前の小休止の時間だから、こうしてのんびりする事が出来る。

 まぁ仕込みに時間が掛かる料理だと、この時間でも準備を始めてるんだが、今回の夕食にはそこまで準備を掛ける料理は出さない様で、全員がのんびりしている。

 まぁコレから新しい料理を試作するから、それ次第で忙しくなるだろう。


『それじゃ、新しい料理を作るんだが大丈夫か?』


「問題ありません! お手伝いします!」


 俺の言葉で、料理長が張り切っているが、別に難しい事はしないから手伝いはいらないんだけど……

 まぁ教えておけば、俺が帰っても作れるから安心か。

 それじゃ作っていくぞー。




 まず食糧庫から持って来たのは、オーク肉とミノタウロス肉。

 これを包丁で叩いて叩いて叩きまくって、それぞれミンチにして、それを比率を変えて混ぜ合わせる。

 オーク肉は脂身が多く、ミノタウロス肉は赤身が多いので、比率が変わると味も変わる。

 その混ぜ合わせた肉に、モアキノコを小さめに刻んで混ぜ込み、更に『菜玉』という皮が延々と重なっていて、全部剥こうとするとその内に無くなってしまうという面白い根菜も刻んで混ぜ込む。

 そして、塩と胡椒を振り掛け、臭み取りにと貰っていた乾燥ハーブを擂り潰して一緒に混ぜる。


「コレは腸詰の準備?」


「いや、腸詰だったらハーブはともかく、肉以外は入れないだろ?」


「それに、塩漬けの腸の準備もしてないぞ?」


 その場にいた料理長の弟子達がそんな事を言ってるが、まぁコレは元々は腸詰のレシピをアレンジした物を、更に俺がアレンジした物だからな。

 本来はこの後、塩抜きした腸に詰めずに型に入れてオーブンで焼き上げるのだが、それだと時間が掛かる。

 一緒に何かを作るついでで作るなら良いんだが、コレを作るだけでは、焼く為の薪代も馬鹿にならない。

 なので、練り上げたを小さく小分けにして薄く延ばす。

 そして、フライパンに油を敷いて熱し、そこにタネを投入!

 ジュワワワワと肉が焼ける音と、良い匂いが厨房に広がっていくが、ある程度焼いた所でひっくり返し、反対側も焼く。

 その際、水で薄めたワインも一緒に投入し、即座に蓋をして蒸気を閉じ込める。


「ふむ、焼くのと同時に蒸すという事ですか」


『ただ焼くだけだと、火が通り切るまで時間が掛かり過ぎてコゲちまうが、一緒に蒸せばコゲる前に焼き上がるからな、それ以外にも……』


「ワインの風味も付きますね?」


 料理長が言う通り、コレで蒸し上げると肉に風味が付くのだ。

 まぁそこまで強い訳じゃ無いが、食べる際にふわりと香る程度だが、そのくらいが丁度良いのだ。

 それに、これなら短時間で焼き上がる為、提供する場合も数を揃えられるし、混ぜる比率や具材を変えるだけで別の料理にも応用出来るからアレンジもし易い。

 しかも、ミンチにするからどんな肉でも対応出来る。

 それこそ、他のメニューに合わせて、あっさりにもこってりにも出来る。

 そうして焼き上がったのを確認し、皿に盛り付ける。

 見た目はミンチ肉を一塊にして、ただ焼いただけの料理。

 それが、比率別にそれぞれの皿で並んでいる。


『取り敢えず、コレで完成だ』


 料理名はまだ無い。

 その場にいた全員で切り分け、焼き上がったのをそれぞれが食べる。

 うむ、やはり美味い。


「すげぇ……ミンチ肉なのに、しっかりと噛み応えもあるぞ」


「それだけじゃねぇよ、 アレだけ焼いたのに肉汁が全然漏れてねぇ」


 それは混ぜ込んだモアキノコの効果だな。

 しかも、モアキノコ自体がモキュモキュとした歯ごたえがあるから、混ぜ込むと面白い食感になるし、焼いた時に出る肉汁も吸い込んでくれるから、噛むとそれが染み出して美味い。

 しかし、コレを作ろうと考え付いたのは理由がある。


「師匠、コレならあの方の要望通りなのでは?」


『おぅ、かなり難しい注文だったが、かなりアレンジ出来る料理も出来たし、個人的に満足だ』


「個人的には、やはりミノタウロス肉の方が多い方が良いですな」


『オーク肉が多い方が脂っこいからな……流石に、多少はあっさりした方が良いだろう』


 料理長が言う様に、この料理を考案したのはとある事情があったからだ。

 肉が喰いたいなら、分厚いステーキでも喰えば良い。

 特に此処で提供してる肉は、どれも品質が高く、ただ焼くだけでも十分過ぎる程に美味い。

 だが、とある奴等はそれが食べられない。

 それが、昔から勤めている『老兵』達だ。

 彼等は歯が弱くなっていたり、顎の力が衰えていたりしていて、厚みのある肉が喰えないのだ。

 薄い肉なら喰えるがやはり分厚い肉も喰いたい、と言う事で、俺の方に少し前にどうにか出来ないかと、注文が来ていたのだ。

 厚い肉に切り込みを入れたり、叩いて柔らかくするのにも限界がある。

 それでアレコレと考えたのだが答えは出ず、悩んでいた時にアイツから出掛けるという事で声が掛けられ、気分転換も兼ねて一緒に出掛けた先で、ミンチにした肉を味付けしてオーブンで焼き上げる料理を知り、それをアレンジすれば解決する事が出来る事に気が付いた。

 そうして完成したのが今回の料理だが、コレならいくらでもアレンジが出来る。

 それこそ、一口で齧り取れない様な厚みにも出来るし、一口サイズにも出来る。

 まぁどっちも調理に手間が掛かるが、面白い料理だ。


『それじゃ、ミノタウロス肉を7、オーク肉を3の比率で作る様にして、それぞれちゃんと作れる様にな?』


「「「「「はい!」」」」」


 料理長の弟子達がそう答え、それぞれが肉をミンチにしたり、具材を刻んだりし始める。

 それと一緒に、今日の夕食の準備も始めるが、料理長は完成した料理をワゴンに乗せて、それを押して出て行ったので、夕食の準備には参加しない。

 料理長曰く、この料理を真っ先に食べさせたい相手がいるらしいのだが、それが誰とかは俺は聞いていない。

 恩人とは聞いてるが、まぁ俺としては誰が食べようが構わない。


『それじゃ、今日の夕食を作るか!』


 鞄から包丁を取り出し、今日の献立を確認。

 ふむ、魚のムニエルか。

 泥抜きが終わった魚を絞めて鱗を落とし、腹を割いて内蔵を掻き出して頭を落とし、そのまま輪切りにして両面に塩と香辛料で味付けをして小麦粉を塗し、バターを落としたフライパンで焼き上げる。

 焼き上がったら皿によそって、茹でてあった芋を刻んで添え、香草を上に散らして完成!

 それを提供するまで、時間停止機能がある鞄に入れておけば、夕食の準備は完了だ。

 この後は、あの新しい油を作りまくる予定だ。

 そう言えば、俺の注文新しい鍋ってどうなったんだ?

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