第277話




 ニカサ殿から説明を受け、少し前にあった勇者の手の事を思い出したのじゃ。

 アレも、マナワームに寄生されておったし、もしかして同じモノなのかもしれんと言ったら、ニカサ殿が頷いておる。

 となると、勇者と生徒達が感染しておるから、何か共通点がある筈じゃが全く分からぬ。

 比較的軽度じゃと言う生徒から事情を聴こうにも、まだ聴取が出来る状態では無く、学園側でもなんとか調べておるらしいのじゃが、一向に成果は上がっておらん。

 7人の生徒達の共通点となると、絶対に限られる筈じゃが、共通点は全員が貴族の子息と言う事だけじゃ。


「貴族の子息と言う事以外じゃ、共通点なんて無いからね、アタシらも困ってるのさ」


「それで何ですが、実は検査する魔道具を作る為に、『錬金科』の地下にあるからガラス板を使わせて頂きました」


 ニカサ殿が溜息を吐きながらそんな事を言った後、カチュア殿がそう言ったのじゃが、どういう事じゃ?

 なんでも、検査用の魔道具はワシが作ったマナ回路を検査する魔道具を参考にしたらしく、ワシは水晶を使ったが、学園にあんな大きな水晶が無い為、似た物として、ゴーレムのモニターに使われておったガラス板を使ったらしいのじゃ。

 まぁ今回は緊急じゃろうから別に良いと思うのじゃ。

 それに、あのゴーレムに使われておる技術は既存の物ばかりじゃから、これ以上調べても意味は無いと思うのじゃ。


「まぁアレから分かる事はもうないじゃろうし、問題は無いと思うのじゃが学園としては大丈夫なのかのう?」


「ソレに付いちゃ許可は得てるさ。 それより、問題はこの『寄生虫』さね」


 ニカサ殿が手にしておるのは、ピン止めされたマナワームじゃ。

 見た目は、正しく前に手に寄生しておったマナワームと同種の物じゃ。

 勇者と生徒達の共通点ともなると、全く無いじゃろう。

 だって、生徒達は貴族の子息と言う共通点があるが、勇者は異世界転移者じゃから貴族では無い。

 となれば、余計に共通点を探すのは不可能じゃなかろうか。


「アタシの方で調べた限り、この寄生してたマナワームは従来のマナワームと比べて、体長が倍以上に伸び、外殻はマナを更に通しやすくなって、人体を食い漁って寄生してる訳なんだが、何の為に寄生しているのかが分からなかったけどね、実際に戦った教師の話じゃ、魔術の威力も桁違いに上がっていたって話さ」


 そう言われ、なんとなくじゃが、この寄生マナワームに寄生されると何が起こるのか分かったのじゃ。

 通常、人体のマナ回路はマナを送る際、時間が掛かる上に送れる量に限界があるんじゃが、寄生したマナワームの外殻は遥かにマナの通りが良く、当然、一度に送れるマナの量も多くなるのじゃ。

 そうなれば、魔術師としての技量が同じであっても、寄生されておる方が魔術の威力や展開速度が速くなる訳で、有利に立てるじゃろう。

 ただ、代償として寄生された者は体内を喰い荒らされ、聞いた限りでは性格的にも攻撃的になる様じゃの。


「ふむ、どう考えても自然に誕生した生物とは思えんのう……まぁ誰かが人為的に改良して作ったとしても、それをどうやって寄生させたのか……」


 現状、一番の問題は、寄生マナワームを作ったのが誰か、と言う事では無く、と言う点じゃ。

 確認されておる生徒以外にも、実は冒険者とか一般人で感染しておる者がいるかもしれんが、確認するのはほぼ不可能じゃし、冒険者ギルドは国に属しておる訳じゃないから、強制的に従わせる訳にもいかん。

 まぁ、急に強くなったり、目立った活躍をしておる冒険者が現れたら、個別に協力を頼むしかないじゃろう。

 ……イクス殿達も急に強くなったが、ワシが装備を渡し、本人達が努力しておるからノーカンじゃ。


「ソレに付いちゃ、分かった事があるぜ」


 その声が聞こえた方向を見れば、そこにおったのは白い髭を蓄えた黒いローブを着た老人じゃ。

 ただ、その両目は閉じられておるし、ワシは初対面の筈じゃな。

 しかし、気になる事を言っておるのう。


「何だい、アタシらが調べて分からなかったのにかい?」


「そう言うなよ婆さん、例の女学生からついさっき、やっと聞き出せたんだからな」


 そう言うと、その老人が椅子の一つを鞄から取り出して座ったのじゃ。

 どうやら、あの鞄はアイテムバッグの様じゃな。


「まず、分かった事だが、学生の内2人は関係無い、偶々感染しちまっただけだな。 で、残りの5人だが、共通点はそこの生徒と決闘して負けた生徒って事だったんだが……婆さんよ、『強化薬』って聞いた事あるか?」


「確か、何年か前位から飲んだだけで強くなれるって胡散臭い売り文句で売ってたクスリだね? ただ、実物は見た事が無いし、アレはただの噂だったんじゃないのかい?」


 ほぅ、そんな薬があったのじゃ?

 じゃが、飲んだだけで強くなれるなんて、そんな旨い話がある訳無いと思うんじゃが……


「あの5人はその『強化薬』を買って飲んだんだが、確かに魔術が強くなったらしい。 ただ、女学生は飲んだ後から少しずつ気分が悪くなって、最近だと碌に眠れない不眠症を患って、最後にゃあの状態って訳よ」


「……恐らく、じゃろう。 体質かそれとも別の原因かは分からぬが、女学生は寄生しておるマナワームとは相性が悪かったのじゃろうな。 そして、その女学生は拒絶反応が出ておるのに、治療を行わずに放置した事でどんどん体内で寄生虫が増殖し、遂に許容量を超えたのじゃろうな」


 地球でも寄生虫に寄生された者の中には、全く自覚症状も出ずに問題が無く、健康診断とかで初めて寄生されておった事に気が付いた、なんて者もおれば、初期状態でも自覚症状が出ておる者もいた。

 それと同じ様に、この寄生虫も体質に合う合わないがあるのじゃろう。


「この嬢ちゃん、恐ろしいくらい頭が良いな……まぁそんな訳で、その『強化薬』の入手経路を調べようと思ってんだが、まだ現物が見付かってねぇんだ」


 そう言えば、ついさっき女学生から聞いて来たって言っておったし、現物を探す暇は無かったのじゃろう。

 それに、学生側も簡単に物証の在処をバラすなんて事はせんじゃろうし、こりゃ感染しておった学生の部屋をひっくり返してでも探さねばならぬかのう。

 物証を探して見付けた後、どういう経路で入手したのかも調査する必要があるが、どうせ貴族家が相手じゃろうから呆けられて、シラを切られるじゃろうな。

 しかし、この寄生虫の危険性を考えれば、シラを切られたら困るんじゃが……

 まぁそもそも、コレは『強化薬』に寄生虫の卵なり本体が混ざっておる、という前提があるから、『強化薬』を入手して調べねばならぬ。

 これで、実は『強化薬』は全く関係無く、ただ偶然に別の場所で感染しておった、なんて事になると、この国バーンガイアだけの問題では無くなる。

 何せ、明確な感染源が分からぬ事になり、感染源を探しておる間に、感染者が次から次に現れて、対処に追われ続ける事になる。


 更にこの後、ニカサ殿からある事を聞かされた事で、この問題は速やかに解決せぬと拙い事になると判断したのじゃ。

 ニカサ殿の話じゃと、この寄生虫に寄生されると、体内のマナの通り道である回路を喰い荒らされて成り代わる事になる為、もし寄生した寄生虫の駆除に成功したとしても、回路がズタズタになってしまっておるから、体内にマナがあったとしても、マナを送り出す事が出来なくなり、魔術を殆ど使う事が出来なくなってしまうらしい。

 回路が無いという事は、マナを追加で送り出す事が出来ぬから、使えても発動させる場所の周囲にあるマナを使うしか無く、そうなれば間違っておる今の魔術知識では指先に小さな火を灯す『灯火トーチ』が限界じゃろう。

 つまり、感染源を放置すれば、治療が出来たとしても一時的にじゃが魔術を使える者が大量に減少する事になり、大変な事になる。

 そうなると、流石にワシが治療の為のポーションを寝ずに作りまくっても、間に合わぬ事になる。

 ここは、やはり相手が貴族じゃろうがするしかあるまい。

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