第274話
そうして課外授業と言う名の休暇をガーウィグ領で過ごし、王都へと帰る日になった訳じゃが、ターマイル殿達が見送りに来てくれたのじゃ。
その際、貰う予定じゃった糸やら肉やらを貰ったのじゃが、糸はワシが貰い、肉類はベヤヤが貰ったのじゃ。
そして、ケンがターマイル殿から手紙を預かっておるが、アレは彼等の卒業までの学費をターマイル殿が請け負うという約束をした事が書かれておるのじゃろう。
後は、彼等が留年せずに卒業出来れば、安泰じゃな。
他にも、エリーザさんが見送ってくれた際、『森林蜜蜘蛛』達も見送りに来てくれたのじゃが、どうやら、この短期間で随分と仲良くなった様じゃ。
彼等の食事じゃが、庭では新しい果樹を植えておるが、実が採れるのはまだまだ先じゃから、しばらくは果実を購入して対応するらしい。
蜘蛛糸に関しては、ワシの方で耐熱の魔法陣を渡しておいたのじゃが、実用化出来るのはもう少しかかるじゃろう。
後はエリーザさんの努力に期待じゃな。
ディラン殿とライムの事は、卒業まで考えれば良いと言われておるし、本人達が決める事じゃからワシは口出しはせぬ。
ガーウィグ領を出発し、帰り道の道中じゃが変な集団に出会った。
何というか、見た目が『ヒャッハー』な世紀末に出て来そうな連中で、確か兄上が言っておった転移者が率いておる集団じゃったかな?
ワシ等の方で今御者をしておるのはミニンとケンじゃが、変に絡まれるかと思ったら、彼等は普通に道の脇に退き、ケン達に『ガーウィグ領への道は此処で良いのか?』と聞いてきたくらいで、別に失礼な集団とは感じられるぬのう。
まぁその集団の中で、何か一人だけ青い顔してふらついておるが、アレは大丈夫なのじゃろうか?
取り敢えず、そのまま彼等は放置し、ワシ等は王都へと戻ったのじゃ。
そして、王城近くでベヤヤとも別れ、ワシ等は学園へと戻ったのじゃが、何か学園内が騒がしい。
よく観察してみれば、そこら中で『治癒師科』の生徒と先生達が走り回っておる。
一体この騒ぎは何なのか、近くを通りかかった生徒の一人を捕まえて聞いてみたのじゃが、ワシ等が外から帰ってきた事と、しばらく学園から離れておった事を聞いて、すぐさま近くの空き教室へと案内されたのじゃ。
その際、学園に戻ってからトイレに行っていないか、動物や植物、土に触れていないか等聞かれたのじゃが、この状態じゃから何にも触れておらぬし、直ぐにこの部屋に通されたと答えたのじゃが、本当に何があったのじゃ?
「おチビちゃん戻って来たのかい」
そのまま暫く待たされておったら、その空き教室に随分と疲れた様子のニカサ殿とカチュア殿が入って来て、そんな事を言った後、何やら箱にコードで繋がれた棒の先に輪っかが付いた物を、ワシ等の周囲で動かしておる。
何というか、金属探知機みたいな物じゃな。
「やはり大丈夫です。 魔女様とこの生徒達は罹患していません」
カチュア殿がそう言って棒を引っ込めたのじゃが、罹患と言う事は何かの病気でも発生しておるのかのう?
そして、ニカサ殿が椅子に座って、ワシ等が学園を離れてからコレまでの事を説明してくれたのじゃ。
ガーウィグ領へと彼女達が向かって直ぐ、王都に一台の乗合馬車が入って来た。
学園にやっと戻って来れた。
どうして危篤状態なんて話が出たのかと思ったけど、師匠と手紙を出した両親は『骨折した事は書いたが、危篤状態なんて事は書いてはいない』と言っていた。
不思議に思っていたら、師匠が『どうやら、馬鹿共が何かしやがったみたいだな』なんて若干怒っている様に言って、直ぐに学園に戻る事になったけど、一応、数日は滞在させてもらえた。
そして、馬車を手配して学園へと戻ったのだけど、途中、盗賊とか山賊っぽい人達に襲われた。
師匠があっという間に蹴散らしたら、直ぐに逃げていったから無事だったけど、彼等は一体何だったのか……
「まーったく、腰が痛ぇったらねぇや」
師匠が馬車から降りて大きく伸びをしている。
途中途中で休憩を取りながら戻って来たけど、流石に2ヵ月も馬車で移動するとなると、まだ若いと思っている私でも全身が痛くなる。
「さて、マグナガンの爺の所に行くぞ」
学園長を爺なんて言ってるけど、師匠も十分に老人では……
でもそんな事を言うと、師匠がヘソを曲げるから言わない。
「あれ、ドリュー先生、もう戻られたんですか?」
そう言って来たのは、同僚の先生でその手には大量の書類を持っている。
そう言えば、もうじきテストでしたね……
「はい、どうも伝達でミスがあった様で……」
本当、ただ骨折しただけなのに、何で危篤なんて……
そうして話をしている間も、師匠はどんどんと進んで行ってしまったので、先生には失礼して慌ててその後を追う。
でも、師匠は学園長の部屋を知っているみたいだけど、学園に来るのは初めてなんじゃ?
そう思っていたが、普通に迷わず学園長の部屋に到着。
「失礼しま……」
「おぅ爺、邪魔するぞ」
「ちょっ、師匠!?」
ドアをノックしようとしたら、師匠が断りも無くいきなり入ってしまった。
慌てて師匠の後に付いて行くと、机の向こうで書類を確認していたであろう学園長が、唖然とした様子で師匠の方を見ている。
「ドリュー先生に、まさかルガードか!? 危篤じゃなかったのか!?」
あれ、もしかして学園長と師匠って知り合い?
私が困惑していたら、ソファーに師匠がドカッと座った。
「弟子もさっさと座れ、この通りピンピンしとるわ。 どうやら、弟子が学園にいると困る奴等がいるみたいだな」
師匠に言われつつ、ソファーに座ったのだけど私がいると困る?
それにしても、師匠の口調は凄く失礼になるんじゃ……
「ドリュー先生に儂との関係は話していないのか……元々、ルガードと儂は同じ師に弟子入りしていてな、その師匠がマグナガン学園の初代学園長でな、その時は既に引退しておったのじゃが、次の学園長にと、何人かいた弟子達の中から儂とルガードが候補になったんじゃが……」
「学園長なんてガラじゃないからな、俺は辞退したって訳だ。 まぁお陰で弟子みたいな面白い奴が見付けられたから良いんだけどな」
私が困惑していたら、学園長が師匠との関係を明かしてくれた。
初代学園長って、確か凄い魔術師で学園の経営が軌道に乗ったら引退したんじゃなかったかな……
「全く……その『神眼』があれば、学園長だって楽に出来ただろうに……」
学園長が溜息を吐きながらそんな事を言うが、師匠の両目は、故郷にいた頃からずっと閉じられている。
別に見えない訳では無く、師匠の両目は『神眼』と呼ばれる特殊な物で、師匠曰く『周囲や他人のマナや属性が見える』と言っていた。
だから、師匠の前では魔術やマナを使用する攻撃は先に察知され、『無詠唱』で先に潰される。
そして、他人のマナが見えるという事は、その人が使える魔術を知る事が出来るから、教える側も楽だし、無駄な授業をしなくて済む。
「面倒だからパスなんだよ。 で、どうすんだ?」
「どうすると言われてものう……恐らく、あ奴等の策略なんだろうが、明確な証拠が残っている訳でも無し、ドリュー先生も残しておらんだろう?」
「部屋の机に入れて出発しましたが……」
受け取った手紙は
つまり、私の証言しか残っていないけど、相手が『そんな事は言っていない』と言われたらそれまでだ。
「……取り敢えず、疲れておるじゃろうから、ドリュー先生は今日の所は戻って休みなさい。 ルガードは少し話をしたい事があるから残ってくれ」
そうして私は数ヶ月ぶりとなる私室に戻ったんだけど、流石に数ヶ月も放置されていたから埃っぽい。
最初に机の引き出しを確認したが、やはり手紙は無くなっていた。
大家さんに連絡して鍵を交換する事になったけど、業者さん曰く『鍵を開けたのは相当に慣れたヤツ』らしい。
『錬金科』の先生に相談して魔道具の鍵に交換した方が良いかな?
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