第270話




 アイツがガーウィグ領に行ってから数日が経過した。

 アイツの受け持ってる生徒達も一緒に付いて行っているが、ベヤヤも一緒だし、何よりアイツの性格なら危険も無いだろう。

 俺は俺で、購入した屋敷を手直ししながら、スーの『職業クラス』を制御する訓練を続けている。

 その結果、かなり速度は遅めだが、簡単な模擬戦が出来る程度まで『狂戦士バーサーカー』の制御には成功している。

 このままやっていれば、完全に制御出来る様にはなるだろう。


「レイヴン、ちょっと良いか?」


「ん? バートか……何か用か?」


 バートの奴、久しぶりに屋敷に来たな。

 前に来たのは、確か屋敷を買って道具やらなにやらを運び出したりした時だな。

 何の様だ?


「いや、レイヴンって師匠から『強化外骨格』貰ってたよな?」


「あぁ、一応預かっちゃいるが……それがどうした?」


「一度見せてくれないか? 全然使わねぇから、どんなのか見ておきてぇんだ」


 そういや、貰ってから一度も使った事無ぇな。

 確かに『強化外骨格』は強いんだが、アレだけを使い続けていると感覚が狂っちまう。

 だから、俺は使う気は無いんだが、もしも使わなければならない場合を考えて、一応、預かっている。

 バートが見たいと言うなら別に見せても良いが、見せたとして何が知りたいんだ?

 そんな事を考えながら、俺の『強化外骨格』をその場に出した。


 俺の『強化外骨格』は、白い装甲に金の縁取りや装飾が施され、その背に赤い外套を付けている、所謂『騎士型』と呼ぶタイプだ。

 正直、見た目があまりに派手なので、使いたくないって言うのも使わない理由だな。

 その『強化外骨格』を、メモを取りながらバートが回りながら見ていく。


「成程、やっぱり外装は素体に直接装着させてる訳じゃ無いんだな……」


「……一体、何が知りてぇんだ?」


「あぁ、少し前に師匠から許可を貰って、『強化外骨格』の正式素体を俺が弄れるんだが、『近接型』だと、素体に直接外装を付ける方法が良いのか、それとも緩衝材を挟んだ方が良いのか、確かめたかったんだよ」


 聞けば、ノエルの『強化外骨格』は直接装着してあり、バートの『強化外骨格』には、緩衝材が入っていたらしい。

 ヴァーツの『強化外骨格』は、ヴァーツが領地に戻っているから調べられないし、カチュアは『遠距離型』だから、調べてもあまり意味が無い。

 しかし、俺達の『強化外骨格』は試作品であって、メインフレームは正式素体と比べればかなりデカくなっているのだから、緩衝材を挟んだ所で問題は無いだろう。


「成程、アイツなら、聞かなきゃそこ等辺の説明はしないだろうな」


 俺がそう呟くと、バートがメモを取っていた手帳を閉じた。


「そう言えば、前から聞きたい事があったんだが……どうして師匠は『能力』を使って答えを知ろうとしないんだ?」


 バートが言うアイツの能力。

 『どんな物でもポーションとして作る事が出来る』と言うのは、考えようによっては不可能は無い。

 そして、バートはアイツの能力を知っている数少ない奴だ。

 アイツの能力で、実家の奴等の手で死に掛けたバートは、その見た目と職業を変えた事でアイツの秘密を知ってしまった。

 当然、何があろうともその事を秘匿すると『誓約』を結んでいる。


「答えを知る?」


「例えば、前の奇病の時とか、国家乗っ取りを狙ってた教会の時だって、能力使ってれば早い段階で答えを知れたよな? 何でやらなかったんだ?」


「あぁ、そう言う事か……答えは単純だ。 アイツがそんな事をしたら、誰もがアイツを頼る様になって、あっと言う間にになって、アイツに頼り切る事になる傀儡国家の出来上がりになるからだ」


「そんな事って……」


「確かに、アイツの能力で『絶対に間違いの無い答え』を得られるのは事実だ。 だが、それが続けば『アイツに聞けば間違いない』、『アイツが言ったんだから正しい』、『アイツが~』って誰もが何も考えず、何の疑問も持たず、頼り続ける事になる」


 俺の言葉でバートが黙り込む。

 恐らく、アイツの能力で早い段階で答えを知っていれば、被害も最小限で喰い止められるし、犯人もさっさと捕まえられると思ったんだろう。

 アイツの能力であれば、間違いない答えを得られる事は事実だ。

 どんな事でも正しい事を言い続け、事件を即座に解決し続け、常に最適な答えを出して、進むべき道を示す事が出来る。

 ただ、コレにはトンデモない問題を孕んでいる。

 バートに言った通り、『アイツが言った事だから、この問題はこうすれば解決するんだ! 間違いないんだ!』と誰も何も考え無くなり、常にアイツに頼り続けるようになる。

 そんな事を続けていけば、誰も彼もアイツの言葉に従い続ける事になり、あっという間に傀儡国家が出来上がる。


「ソレだけじゃない、もしもだ、ある時、どうしても回避出来ないような国家的危機の問題に直面したとする。 いつもの様に、その答えをアイツに聞いて『この問題の解決策は、全ての人族を滅ぼさねばならない』なんて言われたらどうする? 今までアイツが言っている事が正しい、間違っていない、絶対なんだって思っていた時に、そんな事を言われて大人しく従えるか?」


「そんな事……」


「そんな事は無い、とは絶対には言えないだろう? そう言う危険もあるし、何より『問題に対して何も考えず、直ぐにアイツを頼れば良い』なんて考えは、アイツが一番嫌う事だ。 そんな事になったら、直ぐにアイツは姿を消すだろうな」


 人と言うのは一度楽を覚えたら、楽な方法から戻す事はかなり難しい。

 アイツ自身も、問題に対して必ず自分の頭で考え、分からなければ資料を読み漁り、ソレでも分からなければ、別方面からのアプローチを試している。

 どんな困難な問題であっても、決して楽をせず、必ず努力すれば答えに辿り着ける道を探し出し、後に続く者に残す。

 アイツに出来るのだから、他の奴が出来ないなんて事は無いのだ。


 だが、どんな難問でもアイツに聞けば、絶対に間違いない答えが聞けるとなれば、誰も彼もが何も考えず、アイツの所に押し掛けるようになるだろう。

 そうして、問題に対して『どのような過程を経てその答えに辿り着く』という事を、誰も考えなくなり、直ぐにアイツに頼り続ける様になれば、アイツは見限って姿を消す。

 そうなれば、問題が起きても誰も解決策を考えられず、直ぐに国家破綻する事になるだろう。


 そして、アイツは自分がいなくなったとしても、解決出来る様に色々と物事を教えている。

 バートがやっている新しい『強化外骨格』作りにしても、最初はアイツだけが作れる物だったが、アイツに師事した事で、バート達でも作れる様にはなっている。

 まぁ素材的な問題もあるが、それにしてもアイツは様々な金属を合わせる『合金化』と言う方法を教えている事から、似た物を作る事は出来る様になるだろう。


「だから、アイツは自分の能力で『問題に対して答えを知る』なんて事はしない。 その『答え』を得る過程も大切な事だからな。 だから、お前が辿り着いた『強化外骨格』の答えがどうであれ、アイツはその答えを支持してくれたんだろう?」


「……確かに、考えていくつか設計案を出したら、実現出来ない奴は理由も教えてくれたけどよ……師匠は本当にそんな事考えてるのか?」


「流石に俺はアイツじゃねぇから知らんけどな、アイツの性格を考えりゃそんな所だろう」


 元は同じでも、今では俺とアイツは完全に別思考だ。

 だが、その根底は同じ筈だから、俺の『努力しない奴が頼って来ても見限る』と同じで、『問題を自ら思考せず、直ぐに答えを求める奴』に対しては、アイツは直ぐに見限るだろう。

 逆に、自ら考えて、その結果、答えが出ずに頼って来たなら、アイツも一緒に考えて答えを求めてくれるだろうがな。


 バートが納得したかどうかは分からないが、俺の言う事にも納得出来る点があるのか、それ以上は何も言って来なかった。

 まぁ、アイツに直接聞けば良いんだが、どうせまともに答えてはくれねぇだろう。


 庭でスーとノエルのかなり遅い模擬戦を部屋の中から見つつ、俺は倉庫代わりにしている部屋に積まれていたベッドや机といった荷物を、一つずつ各部屋に運びながら片付けていった。











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-分かり易く言えば、某ゲームテイ〇ズに登場した、全ての未来が書かれているけど、読むには特殊な能力が無いと駄目な予言の石板、ですね。 まぁ厳密にはちょっと違うんですけどね-


-よく分かんないんだけど、直ぐに答えが知れたら便利じゃないの?-


-鬼ぃさんが言ってますが、聞いたら百発百中、間違いが無く、知りたい事がすぐ知れる! となれば、誰も彼もが聞きに押し寄せるでしょう。 それこそ、今日の晩御飯に悩んだからって理由でも来るようになるでしょうね-


-ナニソレ-


-そのゲームでの一幕ですね。 聞けば必ず正しい答えを聞く事が出来るから、どんな簡単な悩みでも聞いてしまうというものでした。 殆ど悩まずに答えが出るんですから、聞く本人は非常に楽でしょう-


-確かに、人って楽な方には簡単に流れるものね-


-他にも、自分が望んでる答えじゃないと嫌っていう問題も……-


-それこそどうしようもないわね-

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