第271話




 そうして片付けしてる最中に、今度は進藤がやってきた。

 一応、スーの進捗状況を伝える為、進藤は定期的にやって来ているのだ。

 庭先で、ノエルとスーの模擬戦を見た後、屋敷に入って、現状の擦り合わせを行う。


「……つまり、順調ではあるんですね?」


「一応、進んではいるが、まだまだといった感じだな」


 この判断は本心だ。

 現状、スーが『狂戦士バーサーカー』を暴走させずに倒せるのは、スライムか単体のゴブリンだけだ。

 群れのゴブリンやそれ以外になると、途端に暴走して手が付けられなくなる。

 なので、今は身体の動きを鈍らせない為に、ノエルとの模擬戦をさせている。

 もう少し、精神を統合させる事が出来れば、最低限、戦闘で暴走させる危険性は低くなる。


「レイヴンの判断だとそうかもしれないが、学生ならアレでも十分なんじゃ?」


 進藤がそう言うが、最低でも、ゴブリンの群れを安定して倒せるようにならなければ駄目だろう。

 それに下手に終了して、中途半端な状態で放り出すのは俺の信条に反する。

 請け負った以上、最高の結果を残す。


「何だお前達は!」


 そうして進藤との今後の予定を話し合い、今日の所は進藤が帰る事になって見送った後、荷物の整理をしていたら、庭にいるノエルの声が聞こえて来た。

 この屋敷にやって来るのは、ほぼ全員知り合いだが、中には俺が購入したのを知らない奴が、反対側の通りに行く為ショートカット、通り抜けようとして偶然入ってしまう事はある。

 一応、庭も整備したので、よく見ていれば誰かが購入したのが予想出来るだろうが、基本的に俺しか住んでいないから、屋敷には外から見ただけだと殆ど生活感が無いので、気が付かないで入ってしまう。

 取り敢えず、誰かが来たようだがお引き取り願うとしよう。


「ノエル、一体どうした?」


「師匠! 急にこの者達が……」


 玄関から出て、庭にいたノエルに声を掛けると、その向かい側にいたのは……


「やっと見つけたぜ!」


 そこにいたのは、頭はモヒカン、棘付きショルダーガードに、急所を守る部分鎧を身に着け、ボロい武器を持っている集団。

 ぶっちゃけ、ガチャ迷宮にいた自称鈴木率いる冒険者集団だった。

 そう言えば、ノエルは会った事無いから、ただの不審者にしか見えないか。

 スーはそのノエルの後ろに隠れているが、前なら恐怖心から『狂戦士』が暴走して暴れていただろう。

 コイツ等を見ても暴走しないなら、日常生活をする上では問題無いか?

 しかし、王都でも姿を見なかったし話も聞かなかったが、今まで何処にいたんだ?


「お前か……一体何の用だ? もしかして御礼参りでもしにきたか?」


 俺がそう言って、腰の剣に手を置く。

 本来、街の中や所有している屋敷とかの庭でも、理由なく抜剣するのは御法度だが、害意を持って襲われた場合等は、剣を抜いて対処する事は許されている。

 ノエル達も、訓練で使っているのは木剣で、真剣は使っていない。

 一挙手一投足を警戒していたら、目の前にいた自称鈴木とその仲間達が一斉にその場に跪いて、頭を下げて来た。


「アンタの強さに惚れた! 俺を鍛えてくれ!」


「断る、さっさと回れ右して帰れ」


「頼む! アンタみてぇに強くなりてぇんだ!」


 自称鈴木とその仲間がいきなり予想外の事をしたから、即答して扉を閉めようとしたが、その扉に自称鈴木が掴んで妨害してくる。

 まぁ身体強化を使えば普通に閉められるんだが、それをやると扉が壊れる。

 仕方無い、話だけは聞いてやるか……




「まず、鍛える云々の妄言は聞き流してやるが、何の様だ?」


「妄言じゃねぇ! 俺は強くなりてぇんだ!」


 自称鈴木がそう力強く答えるが、別にコイツを鍛えてもなぁ……

 そもそも、コイツの場合、他の仲間もいるんだから、個の力を鍛えるより、群の力を鍛えた方が良いんじゃねぇか?

 いつの時代も、個の力には限界がある。

 俺やアイツ、ヴァーツでも大軍を相手にするのは限界がある。


「俺が強くなって、アイツ等の事を引っ張ってやらねぇと、アイツ等、路頭に迷う事になっちまうんだよ……」


「アイツ等……あそこにいるお前の仲間の事か?」


 俺が親指で指差す先には、外で全員正座した状態のヒャッハー共。

 全員、やはりボロボロの見た目だが、自称鈴木が養わなけりゃならないってのはどういう意味だ?


「アイツ等、全員冒険者ランクがDとかEランクなんだよ。 それでいて、全員どっかに問題があって、ランク上げも出来ねぇし、仲間を集める事も出来ねぇんだ」


 冒険者のランクが上がらない理由に、依頼を失敗する以外のペナルティがある。

 例えば、護衛依頼中、依頼人に対して不当に危害を加えたりした場合は当たり前の事で、他にも、依頼達成しても周囲を破壊してしまったり、住民に怪我を負わせた場合も減点対象になり、ランクアップが出来なくなっている。

 ソレが酷い場合だと、冒険者資格を停止する事もあるくらいだ。


「だから、俺が強くなって、アイツ等を独り立ち出来るくらいまで、引っ張ってやらねぇといけねぇんだ!」


「志は立派だが、俺には関係無いし、それに今は別の依頼を受けて手が回らんから、どの道無理だ」


「そこを何とか!」


 俺がそう言うが、この自称鈴木、諦める様子は無い。

 このまま放置したら、見た目そのままに悪人になりそうだが、正直『狂戦士バーサーカー』を制御する訓練をしながら、自称鈴木を鍛えるのは不可能だ。

 そうしていたら、急に外が騒がしくなってきた。

 どうやらまた来客の様だが、今日の予定では訓練のノエル達以外だとバートと進藤が来たくらいで、他には予定は無かった筈だが、一体誰が来た?


「レイヴン! 今入って来た連中は何だ!?」


「あぁ、進藤だったか。 アイツ等はコイツの仲間で、一応、危険は無いと思うが……」


「進藤じゃねぇか!? お前こっちに来てたのかよ!」


 玄関を破壊せんばかりの勢いで入って来たのは先程帰った筈の進藤だったが、どうやら自称鈴木達が敷地に入って行くのを見て、心配になって戻って来たらしく、入って来た進藤を見て、自称鈴木の方が驚いていた。

 もしかして知り合いか?


「ぇ? 誰だ?」


「俺だ俺! 『鈴木龍二すずき りゅうじ』だよ!」


「はぁ!? 本当に龍二なのか!?」


 進藤も驚いてるが、コイツ、フルネームは鈴木龍二なのか……

 まぁ今まで自称鈴木で覚えていたから、今更変えるのもアレか。


「進藤、知り合いか?」


「あ、あぁ……一応知り合い………だとは思うんだけど……見た目が……」


 自称鈴木の見た目に驚いていた様だが、まぁそりゃそうだろう。

 地球あっちで、ヒャッハーな見た目をしている訳も無いが、そうなると、こっちに来てからこの見た目になったって事か?

 随分と思い切った事をしたもんだ。


「こっちじゃ舐められたら終わりだからな、見た目から変えたんだよ」


「いや変わり過ぎだろ……」


「それじゃ取り敢えず、進藤、ソイツは任せるぞ?」


「え゛?」


 進藤に自称鈴木の事を任せ、俺は庭にいるノエル達に、追加の指示を出す為に外に出たんだが……


「そこ! 腕が曲がっている! もっと伸ばせ! そっちは振りが遅い!」


「「へい!」」


 2列に並んだヒャッハー達が、鞘に納めた剣で素振りをし、それをノエルが指導していた。

 そして、スーがヒャッハー達に向かい合う様にして同じ様に素振りしている。

 どうやら、ヒャッハー共がノエル達の模擬戦を見て、簡単な訓練だけでもと泣き付いて、ノエルが仕方無く指導しているようだ。

 まぁ素振り程度なら別に良いか……

 それに、コイツ等の見た目なら、スーの心も鍛えられるだろう。

 ただ、ノエルとはいえ、コイツ等に教えてしまうと、自称鈴木も教えないといけなくなるんだが……

 取り敢えず、弟子にする事はしないが、簡単な事くらいは教えてやるか。

 自称鈴木の場合、あの馬鹿勇者と違って、多くの仲間にも信頼されている様だから、基本的な事を教えておけば、後は仲間内で試行錯誤していくだろう。

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