第252話




 通常、『ゴースト』の対処法は意外と簡単だ。

 属性付きの剣で斬るか魔法か魔術で攻撃する。

 つまりは、マナや精神力を含んだ攻撃をすれば倒せるという事だ。

 逆を言えば、マナや精神力を含まない攻撃では一切効果が無い。

 コレは『ゴースト』が実体を持たないからだが、どうして実体を持ってないのに攻撃されたらダメージを受けるのか、と言う問題がある。

 実は、『ゴースト』は実体を持っていない訳じゃ無い。

 『ゴースト』の正体は、目に見えない程の小さな粒子の集合体、簡単に言えば、魔獣や魔物が持つ魔石が、粉になった魔粉を核にした魔物、それが『ゴースト』なのだ。

 だから、通常の攻撃では通用せず、魔粉を押し退けるだけで元に戻ってしまう。

 だが、マナや精神力含んだ攻撃では、その魔粉が破壊されてしまう為、形を維持出来ず消滅してしまう訳だ。

 まぁそのせいで、倒してもドロップ品が残らないんだけどな。

 『ゴースト』の代表的な攻撃方法で肉体を乗っ取る、なんてのも魔粉が体の中に入った事で寄生されているという訳だ。

 だが、こういった攻撃が通用するのは、『ゴースト』の知能が低い場合だけだ。

 上位種になった『ハイゴースト』や『レイス』にもなると、攻撃を受ける瞬間に魔粉を操作し、直接触れない様に変化させて回避されてしまう。

 なので、不意を突くか、その変化速度を超える速度で斬り込まないと倒せなくなる。

 だが、『精神力』を纏わせた攻撃と言うのは、実は目に見えて分からない。

 マナを纏わせる場合、その属性の影響が出る。

 火であれば剣身が燃えたり、水や風であれば剣身に水や風を纏ったりするから、見ただけで分かり易いが、『精神力』の場合、相当に籠めなければ殆ど変わらない。

 だから、上位種であっても気が付く事は少なく、そのまま斬る事が出来る訳だ。

 まぁ、『精神力』と『マナ』が混同されていて、混ざり合ってる状態ではかなり難しいのだが……


 見る限り、ここにいるのは低級の『ゴースト』ばかりの様だ。

 戦闘中に『精神力』を使いこなせる様になる良い訓練になるだろう。




「また『精神力』と『マナ』が混ざってるぞ」


 進藤が現れた執事の様な姿をした『ゴースト』が伸ばした腕を、斬り上げる様に斬り飛ばしたのを見ながら指摘する。

 『ゴースト』の攻撃を回避する為に動き回りながら、体内で『精神力』を分離し、それを武器に纏わせて攻撃するというのは、意外と難しい。

 マナを持たなければ分かり易いのだが、この異世界には空気中にも食事にもマナが含まれていて、生活するだけで体内にマナが溜まっていく。

 進藤達は魔法回路を持たない為に、それを意図的に放出する事が出来ないので、マナを極端に少なくして、と言う訓練も出来ない。

 なので、『精神力』と『マナ』を体内で分ける事に使しかない。

 コレは感覚的なモノだから、本人以外には分からないのだ。


「くっ……これっ……きっつい!」


 普段から訓練している進藤は、普段であれば完全に分離させるのは出来るのだろうが、それを戦闘中に動き回りながらやれるのかと言えば難しいだろう。

 例えるなら、比重が多少違う二つの色水を一つのコップに入れて蓋をして、持った状態でブレイクダンスをしても混ざらない様にする様な物だ。

 進藤がもう一度剣を構え、剣に『精神力』を籠めていく。


『<オォォオォォ>』


 『執事ゴースト』が壁にあった額縁を浮かべ、進藤目掛けて飛ばしてくる。

 飛ばされた額縁の速度は遅いが、今の進藤には脅威だろう。

 進藤は左手に持っていた盾を構え、額縁を受け止めた瞬間、それを逸らす様に受け流し、『執事ゴースト』に向かって一気に踏み込む。


「ハァッ!」


 『執事ゴースト』の胸に剣を突き刺し、そのまま薙ぐ様にして斬り裂く。

 そのダメージで『執事ゴースト』が後ろによろける様に下がった所に、更に踏み込んだ進藤の剣で胴体を薙ぎ斬られて消滅した。

 今度は完全に分離出来ていたな。


「ハァッ……ハァッ……」


 進藤が辛そうにしているが、先程から出てくる『ゴースト』は、執事やメイドばかりだ。

 恐らく、この屋敷で死んだ奴等なんだろうが、それにしちゃ数が多過ぎる。

 もしかしたら、この屋敷だけじゃなく、王都中で死んだ奴等も引き寄せられているのか?

 そんな事を考えつつ、次の部屋に入ると……


「……此処は進藤じゃまだ無理だな」


「どういう意味だ?」


 進藤が俺の後ろから部屋の中を見る。

 この部屋は、恐らく食堂だったのだろう。

 中央に長いテーブルが置かれ、部屋の隅には白いシーツで覆われているが、椅子らしきものが置かれている。

 だが、問題なのは、此処がと言う事だ。


「進藤は下がってろ」


 俺がその部屋に入ると、スゥッとメイドゴーストが数人現れる。

 見る限り、低級ゴーストだが、俺が無造作に剣を振るうと、ギィンと音が響いて、続けて床にドスっと何かが突き刺さった。

 チラリと見れば、そこにあったのは銀色に輝くフォーク。

 メイドゴーストの方に視線を戻せば、メイドゴーストの周囲には無数の銀食器が浮かんでいた。

 そりゃ食堂に、食器が置いてあるのは当然だよな。

 そして、メイドゴーストが俺の方を指差すと、その周囲に浮かんでいた銀食器が一斉に飛んできた。

 10とか20なら進藤でも対処出来るかもしれないが、その数はどう見ても100以上。

 中には皿もあるし、下手に砕くと更に増えてしまう。

 なので、右手の剣でフォークやナイフを弾き飛ばして、壁や床に突き刺し、陶器の皿は左手で掴み取って、俺のアイテムバッグに収納してしまう。

 同じ様に椅子とかも飛んでくるが、それもキャッチして収納。

 背後から飛んでくる数本のナイフをキャッチし、それに『精神力』を籠めて、メイドゴーストの一体に向けて投げる。


『<ヒィィィッ!?>』


 ナイフが頭、胸、胴体を貫通し、メイドゴーストの一体が消滅。

 この場に出て来たメイドゴーストは全部で5体。

 当然、食器を操作している『ゴースト』の数が減れば、操作出来る量が減る為に俺が動ける範囲が広がっていく。

 メイドゴーストが床や壁に刺さった食器を回収しようと、ギリギリと音を立てて引き抜こうとしているが、そんな簡単に引き抜ける訳が無い。

 そのまま、一気に別のメイドゴーストに踏み込んで斬り捨て、その近くにいたメイドゴーストにも、回収していた食器に『精神力』を籠めて投げて倒す。


『<アァァアアッ!>』


 メイドゴーストが残っていた食器を操作して攻撃してくるが、その数は最初に比べれば隙間だらけで、余裕をもって対処出来る。

 そうして攻撃を回避し、残っていた二体のメイドゴーストを斬り捨てて倒し終えると、改めて食堂の惨状を確認した。

 床や壁に限らず、天井に至るまで食器が突き刺さっている。

 こりゃ、解決した後に直すのも大変だな……

 溜息交じりに、進藤を連れて、食堂を後にする。


「なぁ、その原因と言うか、元凶?は何処にいるか分かってるのか?」


 進藤がそんな事を聞いてくるが、こういった場合、元凶がいる場所なんて大体決まっている。

 家主の執務室か寝室、隠し扉か通路の先にある隠し財産がある場所だろう。

 そして、この屋敷を建てた初代の貴族は温和な人物だったが、後年は人が変わった様に疑い深くなり、引き籠る様になってしまっていたという。

 つまり、建設した段階で後ろ暗い事をする為、隠し扉なんかを作ろうなんて考えていたとは考え難い。

 まぁそう言った事を隠してる可能性はあるが、可能性としては低いだろう。

 こう言った屋敷を建てた後に、屋敷の中に隠し扉を作るのは不可能に近い。

 隠し扉や通路なんかは、屋敷を建設する際に作れるような構造で作っていなければ、作れても無理な構造になってしまってすぐにバレたり、下手をすれば崩落してしまう。

 となれば、執務室か寝室のどちらかだろう。

 進藤と共に執務室の扉を開けると、そこには白いシーツが被せられた机や椅子が置いてあるだけで、『ゴースト』もいない。

 そして、警戒しつつ寝室に繋がっている扉を開ける。

 瞬間、俺の目の前に巨大な机が飛んできた。

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