第251話
アイツに素材の詰まったアイテムバッグを渡した後、その足で進藤の奴を回収し、商業ギルドで鍵を預かって例の屋敷にやってきた。
本当なら、商業ギルドの職員が鍵を持って同行するんだが、例の噂のせいで誰も同行しない。
まぁ、屋敷の噂以外にも、冒険者で屋敷を購入しようなんて奴は、大抵が高ランクの金持ち連中ばかりで、高ランク冒険者は素行も問題が無いとなる事が出来ないので、信用されているというのもあるが、そう言う冒険者が商業ギルドを騙して逃亡したりすれば、あっという間に商業ギルドのネットワークで拡散し、逃げた先でギルドを通じてあっという間にお尋ね者になる。
そんな馬鹿なと思うだろうが、世界中に拠点があるギルドが舐められたまま黙っている訳が無い。
故に、ギルドに対して虚偽の報告をして報酬を得たり、ギルドの資産を盗んだりすると、あっという間にギルド同士で情報が共有され処罰される訳だが、あまりに悪質なモノだったりすると、何故か依頼中に命を落とす事が多いらしい。
ギルドは何も言わないが、それぞれのギルドにも国の暗部の様な部隊がいて、ソレによって粛清されているんだろう。
どの程度の腕があるのかは分からんが、出来る事なら出会いたくないな。
「さて進藤、コレがその屋敷な訳だが、何か分かるか?」
「……ただ雑草が凄く生えてる屋敷ってだけにしか見えないけど……何か分かるの?」
進藤の言う通り、管理されていない屋敷の庭は雑草が覆い茂り、屋敷の扉までに通じる道以外は完全に人が入れるような状態じゃない。
こう言った長く無人で放置されている屋敷なんかには、寝泊まりする場所が無い浮浪者が入り込んでたりするものだが、この屋敷には入っていない様だ。
まぁ、その浮浪者達がどうなるかは……
「正直言えばサッパリだな。 まぁ見て分かるくらいヤバイなら売りには出さんだろう」
「いや、今でも普通にヤバイんじゃないの?」
住んだ奴が全員碌でも無い死に方してるから、何かしら呪われてるんじゃないかと思うよな。
だが、教会にも依頼してる以上、呪いの線は低いとは思う。
それに、調査して解決出来るなら解決してしまえば、格安で屋敷一つを購入出来る事になる。
今回進藤を連れて来たのは、万が一の場合に備えてだ。
俺が解決出来ないと判断したら、そのまま進藤には脱出してもらってアイツに救援を頼む様に言ってある。
「取り敢えず、入ってみるか。 入るだけなら問題も無いだろう」
商業ギルドから預かった鍵で、門にある南京錠を外して一歩敷地に入ると、庭に生えている雑草と比べれば多少は背が低いが、それが入り口まで続いている為に歩きにくい。
それを踏みつつ玄関まで進み、玄関扉にある鍵穴に鍵を差し込んで回すと、ガチャリと音がして扉が開いた。
第一印象は薄暗く黴臭い。
取り敢えず、持って来ていたランプを使って入り口から中を照らすと、床には赤い絨毯が敷かれているが、そこにかなり埃が積もっている。
これは長い間誰も入ってないな……
そして、慎重に屋敷の中に一歩入った瞬間、空気が変わったのを感じた。
俺が止まったのを進藤が振り返って見ている。
「……進藤、一旦出るぞ」
「あ、あぁ……どうしたんだ?」
進藤が出た後、扉を閉めて鍵を掛ける。
「………拙い事になった、『迷宮化』が始まってやがる」
「『迷宮化』って……ここ街の中だぞ?」
「条件が揃って長い間放置されると、人が多い街中だろうが『迷宮』は出来るんだよ。 かなり珍しいけどな」
そう言う意味で言うなら、この屋敷はかなり異常だ。
少なくとも、この屋敷は出来てから100年も経っていないし、別に『マナ溜まり』がある様な場所でも無い。
『マナ溜まり』と呼ばれる場所は、自然界でなら森の奥深くや火山の火口近く、海の奥底とか、兎に角、人が入らないような場所にしか存在しない。
それが、こんな街中にあるとは思えんし、かと言って、どうしてこんな街中で『迷宮』になり掛けているのかは気になる所だ。
他にも、急に『迷宮』が出来る原因として、誰かが意図的に『迷宮核』を持ち込んだりして設置したり、それこそ他の『迷宮』が干渉してきて誕生したりする場合もあるが、それにしては『迷宮化』が遅過ぎる。
つまり、何か別の原因があるという事だ。
しかし、コレを放置するのはかなり拙い。
もし、このまま『迷宮』となると、中から大量の魔獣や魔物が出て来る事になり、王都は大混乱となるだろう。
そうなる前に、駆除しなければならない。
「仕方無い、兎に角、慎重に調べるぞ」
「報告はしないのか?」
「したいのは山々だが、完全に『迷宮』になるまでの時間が分からん。 報告しに戻ってる間に『迷宮』になったら目も当てられん。 かと言って、どっちか一人が報告しに戻って行ってる最中に『迷宮』になったら、一人で抑えるのは無理だ」
屋敷が『迷宮』になった場合、魔獣や魔物が大人しく玄関だけから出入りしてくれるなら問題無いが、屋敷には裏口もあれば窓だってある。
そんな状況になったら、屋敷全体を一人でカバーするのはどう考えても無理だ。
屋敷に入った瞬間、『迷宮』に入った時の独特の感じが強い事から、猶予は余り残っていないと思う。
そうなれば、このまま原因を取り除くべきだろう。
「……感じ取れる限り、時間的猶予は余り無いと思う。 兎に角、早く潰さないと王都が大混乱になる」
「分かったけど……それじゃ、呪いみたいなのもそれが原因なのか?」
「さぁな?」
改めて、屋敷の鍵を開けて中に入ると、やはり、『迷宮』に入った時の独特の空気を感じ取れる。
そして進藤を連れて、屋敷の通路を進むが、そこら中から気配を感じる。
『<ヒィィィ……>』
そんな声が聞こえてきた瞬間、俺達の目の前に現れたのは、青白く薄く発光するメイド姿の女。
ただ、その表情は見えず、足元はぼやけているし、どことなく半透明な気がする。
そんなメイド?が、『ヒィィィ』と声を上げながらゆっくりとこっちへと迫って来た。
もう溜息しか出ねぇよ。
「れ、れれれえれ……」
進藤の奴が何か言いながら、剣に手を掛けているが、剣が鞘の中でガチャガチャと音がしている。
もしかして、コイツ……
「……まさかとは思うが、怖いのか?」
「こ、怖くは無いっ、だが、幽霊なんてっ」
「……アレは幽霊じゃないぞ?」
「え? でも、半透明で青白いし、足だって……」
確かに、見た目は幽霊っぽいが、アレは幽霊じゃない。
そもそも、足が無いから幽霊なんてのは地球での話であって、異世界じゃ通用しないだろ。
「アレが『ゴースト』って魔物だ。 倒した方にちょっとしたコツがあるんだが……」
「『ゴースト』って!? 聖水も聖属性の魔法も無いぞ!?」
進藤がそんな事を言ってるが、この異世界に聖属性なんてモノは無いし、聖水なんて、教会がただの水に多少のマナを混ぜている様なまがい物だぞ。
それに、そんな物に頼らずとも『ゴースト』は倒せるんだが……
コレは実際に見せた方が早いか。
「落ち着け、実際に倒し方を見せてやるから……」
迫って来るメイドゴーストに向かって、腰から剣を外して向ける。
ただし、剣は鞘に納めたままだが。
そして、メイドゴーストに向けてそのまま振るう。
当たり前だが、剣はそのまますり抜けて、多少、身体が切れた様に見えるがダメージを与えた様には見えない。
メイドゴーストはそのまま此方に迫って来る。
「普通に斬っただけじゃ、この通り、ただすり抜けるだけだが……」
そのまま、斬り返す様に剣を振り抜く。
ただ、今度は剣に『精神力』を注ぎ込んだ状態でだ。
すると、今度はメイドゴーストの身体をズタズタに引き裂いた様になった。
『<ヒギィィィィ!?>』
メイドゴーストが悲鳴を上げ、俺から距離を取ろうとしたが、そのまま踏み込んで頭上から一刀両断する。
それを受け、メイドゴーストがバラバラになって散っていった。
消えた後には何も残っていない。
「コレが『ゴースト』の倒し方だ」
俺が腰に剣を戻して進藤の方に目を向けると、進藤の奴は口を開けた状態で此方を見ている。
進藤、何かアホっぽいぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます