第247話




 スーの意識が戻るまで待機する訳にもいかないので、ノエルに任せて俺はアイツの所に来ている。

 今後必要になる物を頼む為と、確認したい事があるからなのだが、自室に改造された部屋では何やら怪しげな魔道具が鎮座していた。


「で、作る魔道具は分かったのじゃが、聞きたい事とは何なのじゃ?」


「……『狂戦士バーサーカー』がクラスアップするかどうか、お前の考えを聞きたい」


「そりゃ、最上位クラスじゃないんじゃから、普通にあるじゃろうな、恐らく、今までそこまで至った者がおらんかっただけじゃろう」


 やはりか。

 普通、下位の『職業クラス』が研鑚を積み続ければ、上位の『職業クラス』に『クラスアップ』する事が出来る。

 今までは神殿がだった為に起きにくかったが、『シャナル』に建造された神社によって、ちゃんと努力した者はクラスアップする事が出来る様になった。

 それならば、『狂戦士』もBランクの『職業』だった筈なので、クラスアップする事が出来る筈だが、クラスアップ出来たと言う話は聞いた事が無いが、コレは単純に、クラスアップに至るまで研鑚が積めないからだ。

 何せ、発動したらただ只管、力尽きるまで破壊衝動で暴れるだけなのだ。

 研鑽もクソも無い。


「で、兄上から見て、どうにかなりそうなのじゃ?」


 その言葉で考えてみるが、頼んだ魔道具が出来れば十分可能だろう。

 唯一の問題は、それを使う場所だが、設置する関係で周囲にそれなりの広さが必要になる。

 この後は進藤の所に行って、商業ギルドで丁度良い物件があったかを確認する。

 もし無ければ、場所を確保する作業から始めないといけなくなる。


「難しいが出来るだろう。 魔道具の方は頼んだぞ?」


「任されたのじゃー、兄上の方もワシからの頼みの方は忘れんでのう?」


「その事だが、進藤と話したら行ってくるつもりだが、話の内容によっては少し遅れるかもしれん」


「まぁそこまで急ぎでは無いからのう。 魔道具は明日には出来ておるじゃろうから、取りに来て欲しいのじゃ」


 一日、いや半日で作るつもりか。

 取り敢えず、アイツとは別れて今度は進藤のいる『騎兵士科』の棟に向かう。

 いつも訓練をしている運動場には誰もいない事から、恐らく座学で教室の方にいるのだろう。

 そのまま教室の方に向かうと、予想通り、教室の方で生徒達が座学中だった。

 護衛の進藤は教室の外で待機していたので、そちらの方に歩いていく。


「流石に教室の中までは入れないか?」


「この教室、中は結界の魔道具で防護されてるから、護衛はいらないらしいよ。 それで何の用なんだ?」


「受けた依頼の進捗と、俺が頼んだ方の進捗を聞きに来た」


 そう言って簡単に現状での進捗を説明し、『どうにかはなりそうだ』と言うと、今度は進藤がズボンのポケットから折り畳んだ紙を取り出した。

 それを開くと、いくつかの物件の事が書いてあった。

 今度は此方異世界の文字で書かれている。

 内容的には、恐ろしく高い屋敷クラスの物件もあれば、ボロ小屋だろうという安さのモノまである。

 進藤に頼んだ条件は単純に、王都の郊外にある物件でそれなりの広さがある、というモノだ。

 値段に関しては考えていないが、流石に金貨ウン百枚とかは無理だ。

 だが、その中に気になる物件がある。


「進藤、この物件だが、広さと築年数の割にかなり安いが、何で『お勧めしない』なんて書いてあるんだ?」


「……商業ギルドで言われたんだが、その物件、今まで5人の貴族や商人が買ったらしいんだけど、全員が死亡、最後の一人は、買って数日で売却、その時に『あの屋敷は化物から狙われている』って言ってたらしいんだ」


 この屋敷の広さは一軒家を多少広くした程度だが、それなりに広い庭に屋敷とは別に離れまである。

 それなのに、売値が金貨で5枚という破格の安さ。

 普通、このサイズの屋敷だと、金貨で500枚とかは軽く超えていくモノだ。

 それが5枚と言う事は、相当に厄介な状況になっているという訳だ。


「問題は、過去に教会に依頼した事があるそうなんですが、それでも駄目だったという点です」


 進藤の話では、3人目に購入したのが貴族で、流石に不気味と言う事で教会に『浄化』作業を依頼していたというのだ。

 そして、『浄化』が終わったとして住み始めたのだが、半年後、その家主はベッドの上で自身の胸の肉が抉れる程掻き毟って、最終的に自分の手で首を絞めて亡くなっていたらしい。

 その家族や勤めていた執事やメイドも、同じ様に全員が奇妙な死に方をしていたという。

 大量の布を飲み込んで窒息死していたり、縫物で使う針を全身に刺していたり、剃刀で顔の皮を全て剥ぎ取っていたり……

 あまりの不気味さに、商業ギルドが教会に緊急で『浄化』依頼を出したのだが、その際にやってきた教会の司祭が、かなりの人数を動員して『浄化』作業を行った。

 だが、その話が広まってしまい、しばらくは買い手が付かなかったのだが、豪胆な貴族が買い取って住んだ。

 これが4人目だったのだが、次の日、首を吊って亡くなっていた。

 そして、5人目の商人が、屋敷を潰してしまえば良いと考えて買い取って、間取りや材質などを昼間だけ中に入って確認していたのだが、数日後に真っ青な顔をして商業ギルドに飛び込んできて、直ぐに売却手続きをし、その間、先程の『化物』と言うセリフを繰り返していたという。

 その後、商人は王都から逃げる様に去ったのだが、逃げた先で転落事故を起こして亡くなっていた。


「……凄まじく不味い物件だな? 騎士団とかは何してるんだ?」


「それが、調査しても何も見付からないし、数日滞在させても何の問題も起きなかったらしいんだ」


 ふむ、奇妙だな。

 3人目の貴族は、家族も含めて大勢いたのに全員が死亡しているのに、騎士団では何も起きなかった?

 他にも、別の視点からの意見も欲しいと、冒険者ギルドでも調査を頼んだが、やはり此方も異常が起きなかったらしい。

 その後も、何度か調査されていたり教会による『浄化』もしているが、『化物が住んでいる』という噂が広まって売値が崩れてしまって、教会に毎年『浄化』を依頼していて、その金額も馬鹿にならない為、どうにかして屋敷を潰して更地にしてしまおうかという話が、商業ギルドでも出ていた所らしい。

 その教会も、現在は色々と建て直し中という事で、手間のかかる『浄化』は行われていない。


「だから、安いし立地も良いけど、お勧めはしないって書いたんだよ」


「……迷宮に行くついでに、どんなモンか見て来るか……」


 進藤の言葉を聞いて、少し興味が湧いた。

 アイツから頼まれている素材を集める為、コレから『狂牛迷宮』に行く道すがらに、この屋敷が見えるらしい。


「見て来るって……もし危険だったらって、レイヴンなら問題無いか……」


「どういう意味かはなんとなく分かるが、一応、候補の一つだな」


 そう言ったら、進藤の表情が微妙なものになった。

 その表情は『マジかよ』と言う感じだが、俺が思うに『怨念』が原因じゃないだろうな。

 もし怨念が原因なら、教会のやった『浄化』でイチコロだが、それでも原因を取り除けなかったとすれば、問題は別の所にある。

 だが、それを確認する為には、実際に現場に赴く必要がある。

 もしも、俺でもどうにも出来ないレベルでの問題だった場合、それは同時に王都の危機になる。

 まぁその場合は、アイツに頼んで、容赦せずに全力で屋敷と原因を潰して貰う事になるが、そんな事をしたらこの国にはいられなくなるだろう。

 そうならない様に、願うしかない。


 最近、どうにも運が無い俺の願いにどれだけ効果があるか分からねぇけどな。

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