第246話
扉を開けるとそこにいたのは、オークと呼ばれている魔物が3体。
部屋の大きさは、そこそこ大きい広間とかその程度の大きさだが、立っているオークが巨体の為、若干小さくも感じる程度だ。
そして、今回の目的の相手でもある。
実力も図る上で、ゴブリン程度では意味が無いし、逆にオークの上位種やオーガでは弱体化していても危険だ。
なので、狙っていたのは通常種のオーク。
オークとは、他の魔物種と比べても言う程強くも無いが弱くもないのだが、体内マナによってパワーとタフさがかなりある為、冒険者からすれば注意するべき魔獣だ。
そんなオークが3体。
それぞれ、手に金棒らしき武器を持っているが、防具なんてものは身に着けていない。
唯一、皮の腰蓑がある程度だが、オークのタフネスは生半可な攻撃では通用しない為に、防具なんて物を必要としていない。
ただ、上位種になると下位のオークを束ねる関係上、見た目も派手にしたくなるのか、装飾品を身に付けたり、戦闘で優位に立つ為に武器や防具を使ったりするようになる。
その武器や防具を何処から手に入れているのか不思議だが、通説では迷宮から手に入れているというものや、眉唾な話では魔物相手に商売をしている裏の商人がいる、なんて話もある。
まぁ普通に作ってるんだろうけどな。
そんなオーク相手にスーがどう立ち回るのか。
3体のオークを相手にするのが、並の冒険者であるなら、まずは動いて絶対に視界から外さない。
そして逃げる。
では、並以上の冒険者であるならどうするかと言えば、一体ずつ確実にトドメを刺していくだけだ。
魔物であろうが、生物である事には変わりない。
だから、まずは指先でも足でも構わないので、そこそこ深い傷を負わせて怯ませ、背後に回り込んで延髄に剣を突き立てれば良い。
これが上位種ともなると、その表皮もマナで強化している為に通用しないが、通常のオークであれば問題無い。
スーが緊張した様子で剣を構える。
オークの方は何を考えてるか分からないが、スーの姿を見て、その内の一体が前に出ると金棒を振り上げながら駆けて来る。
スーがそれを冷静に受け流す様に捌き、斬り返す様にオークの脇腹を斬り付けた。
ぶよぶよした腹に刃が吸い込まれて切り裂くが、皮下脂肪を抜く事が出来ずに血が噴き出しただけだ。
「グボォォォッ!」
オークが叫びながら傷を抑えて金棒を振ると、スーが後ろに跳んで距離を取ったが、この場合だと距離を置くのは悪手だ。
仲間がやられたのを見て、後ろにいたオークが加勢に入ってしまった。
そして、3体でスーに襲い掛かる。
「師匠、コレは流石に」
ノエルがそう言ってくるが、俺達は扉の所で待機している。
もしもスーが危険になっても、此処から飛び出して割って入る事も、持っている短剣を投げる事も出来る位置だが、あの程度なら問題ない。
そうしていたら、スーが吹っ飛ばされた。
どうやら、オークの金棒を剣で受けてしまったみたいだな。
咄嗟に剣を盾代わりにした事と、後ろに跳んだ事でダメージはそこまで酷いという状態では無い。
だが、体勢を立て直す様な暇を、相手が待ってくれる筈もない。
このままでは大怪我は免れない。
普通なら。
ガギィンと金属がぶつかり合う凄まじい音が部屋に響いた。
オークが振り下ろした金棒を、スーが持っていた剣で防いだ音だろうが、凄まじい音だな。
だが、いくら弱化しているとはいえ、オークの膂力を少女が真面に受け止められるだろうか。
そこでは、片膝を付いた状態のスーが、真上からオークの金棒を受け止めていた。
ただし、その体からは赤いオーラの様なモノが立ち上っているのが見える。
アレは、体内を巡っているマナが活性化し、それが全身の回路から噴き出している事で、視覚的にマナが見えている状態だ。
あのせいで、スーの皮膚が裂けてしまっていた訳だ。
「あああアァアあァあァアアァッ!!」
スーが叫びながら、オークの金棒を受け止めたまま立ち上がる。
当然、オークはそれを防ごうと押し込むのだが、全く相手になっていない。
「グッ、プギァァッ!」
オークが堪らず仲間に向かって叫ぶと、他の二体も金棒を振り上げて叩き付けようとしたが、スーが先に受け止めていた金棒を斜めにして受け流し、なんとそのまま目の前にいたオークを殴り付けた。
殴られたオークが後ろに仰け反り、金棒を取り落す。
その金棒を手に取って殴り付けると思ったら、持っていた剣をその腹に向けて振るった。
ただし、剣の刃を合わせた訳でも無く、ただ本当に振るっただけだ。
西洋の剣と言うのは、切れ味よりもその重量と頑強さで叩き切るという物だが、それにしても、刃を合わせなければただの打撃武器でしかない。
しかも、叩き付けた影響で剣が歪んでしまっている。
それでも構わず、オークに叩き付け、更には蹴りまで喰らわせる。
「グギャァッ!?」
「ギピュゥ!」
「プガァッ!」
スーがオークを相手に大立ち回りしているが、明らかに常軌を逸している。
しかも、攻撃方法は最早ボロボロになって剣の原型すら留めていない剣を叩き付けたり、ぶん殴り、蹴り飛ばし、スーの細腕からは想像出来ないレベルの腕力で引き千切っている。
それに対して身を守る行動は最低限、金棒を腕で受け止めたり、背中側はそのまま受けたりしている。
それでも平気なのは、マナが全身から噴出する様な量が出ている程、全身のマナが活性化している状態で、恐らく、『
この状態なら、弱化状態のオークでは突破する事も出来ないだろう。
最早、オークに待っているのはただの虐殺だ。
「……凄まじいですね」
「成程な、コレは確かに『狂戦士』だ」
「それで、師匠は何か分かりましたか?」
オークが勝てる筈もなく、バーサーク状態のスーによって殲滅された訳だが、スーの状態も酷い物だ。
全身の皮膚は裂けて血塗れになり、筋繊維も一部断裂、骨も罅が入っていたり、折れている所もあるが、コレはオークから受けたダメージでは無く、全て『狂暴化』の影響だ。
オークを全て倒し切った後、スーはその場で倒れ込み、地面に倒れる前にノエルによって支えられた。
一応、アイツのポーションで直ぐに回復させたが、意識はまだ回復していない。
「あぁ、知りたい事以上の事が知れたから良いんだが、コレはかなり難しいな」
「知りたかったのは『狂戦士』が発動する条件でしたね、それ以外にも分かった事が?」
「まず、スーの『狂戦士』は考えていた通りだから、普通に生活しているだけなら発動しない。 だが、発動したら相当実力が上の相手でも十分過ぎる程の戦いは出来るだろう。 その後、死ぬだろうが……」
1対1の戦いや、決闘であるなら相手を倒せば終わりだが、実際は周囲に他の相手もいるし、仲間が確実に助けに来れる状況と言うのは少ない。
そうなれば、やがて力尽きて倒される事になるだろう。
今までいた『狂戦士』も、同じ様に大暴れした後に倒されているのだろう。
さて、コレをどうやって制御するかの方法だが、簡単にはいかないがいくつか方法はある。
簡単な方法は、やはり『職業』を『封印』してしまう事だが、今回の目的は制御する事だ。
その為には、やはり王都での活動拠点が必要になるのだが、進藤達は物件の方は見付かったんだろうか。
そんな事を考えつつ、俺達は迷宮を出て王都へと帰還する事になった。
気を失っているスーはノエルが背負い、道中に現れる魔獣や魔物は俺が相手をする予定だったのだが、門に到着するまで何も出会わなかった。
ノエル曰く『まぁ師匠の気配を感じ取ればこうなるでしょう』と言っていたのだが、そこまで強烈な気配は放っている自覚は無いんだがなぁ……
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