第241話
学園の中で、ワシが教えておる生徒達に不穏な噂が流れておる。
それが、少し前にあった決闘騒ぎで不正をしておったという噂なんじゃが、不正ってなんじゃろ?
どうせ負けた生徒側が流しておるんじゃろうけど、不正などしておらんからのう。
放置するのもアレなんじゃが、釈明してもどうせ聞かぬじゃろう。
この噂は放置するしかないのじゃ。
取り敢えず、噂は噂と割り切って、今日も今日とて授業なのじゃ。
「さて、この図の通り、魔術を放つ場合、身体が一種の変換装置になっておるから、使える魔術には個人差があるという訳じゃ」
「それってつまり、俺自身が魔法陣って事なんですか?」
黒板に図を描いて話しておると、ケンがそう質問して来たのじゃ。
まぁその認識でも間違いは無いんじゃが、少し違うんじゃよね。
コレは結構説明が難しんじゃが……
「各々に適性属性があるのは知っておるじゃろ? それによって体内マナが変換される訳じゃが、コレは無意識化で行われておる事で、意図的に魔法陣を構築して変換するのとは微妙に異なっておるんじゃ」
「それじゃ、適性が無い属性でも、魔法陣で再変換させりゃ使えるって事か?」
そんな事を言ったのはヴァルじゃが、まぁ出来ん事は無いんじゃが、それには一つ問題があるんじゃよ。
体内で変換されたマナを別の魔法陣を使って再度変換させる場合、元の属性から離れていくにつれて、かなりの量がロスしてしまうのじゃ。
例えば、火の適性を持った者が、逆属性の水属性魔術を使おうとした場合、要求されるマナの量は倍以上なんじゃが、発動する魔術は凄くショボくなる。
通常の魔術の場合、体内マナで魔法陣を構築し、その魔法陣が周囲のマナを巻き込む事で、発動する魔術の威力を上げておるんじゃが、逆属性を放つ場合、体内で変換されたマナと、魔法陣を構築して変換するマナとが打ち消し合ってしまう事により、残った僅かなマナと巻き込んだマナが魔術として発動しておるからじゃ。
じゃから、再変換して行使するくらいなら、その属性の魔道具を使った方が遥かに威力も効率も良いのじゃ。
コレが魔道具が重宝される理由の一つじゃな。
「魔道具なら減衰しないんですか?」
「ミニンの疑問ももっともじゃな。 コレは動力となっておる『魔石』が原因なんじゃ。 魔石は属性があるだけじゃなくマナも内包しておるから、その魔石のマナを使って刻んでおる魔法陣が発動するから、関係のない魔術でも使える訳じゃ。 まぁ魔石のサイズと魔法陣のサイズで威力はそこまで強い訳では無いんじゃがのう」
「でっかい魔法陣で、魔石を沢山用意すれば凄い魔術も使えるって事?」
「まぁその認識で間違いも無いんじゃが……そこで問題になるのが、魔法陣に流すマナの量なんじゃよ。 魔法陣には出来るだけ均一にマナを流さねばならんのじゃが、魔石に内包されておるマナの量はそれぞれ違うんじゃよ」
巨大魔方陣に魔石をセットして、無理矢理発動させようとした場合、マナの内包量が少ない魔石の所でバランスが崩れ、そこから魔法陣が崩壊して大変に危険な事になるのじゃ。
じゃから、もしやるとするならば、魔石に内包されておるマナの量を見極める必要があるのじゃが、これは熟練の職人とかでなければ出来んじゃろう。
ワシみたいに魔石にマナを充填出来るのであれば問題無いんじゃろうが、コレは恐らくワシにしか出来んから例外じゃな。
「さて、と言う訳で、魔術はこうして発動する訳じゃが、魔法はちょっと違うんじゃ」
「違うんですか?」
「うむ、魔術がマナを魔法陣で変換して放つのに対して、魔法はマナを直接変化させて放つと言う物なのじゃ」
魔法陣を通せば簡単に魔術が発動するのに対し、魔法はどのような魔法なのかを明確にイメージする必要がある為に、発動させるのは凄く難しいのじゃ。
じゃが、魔法陣を構築する必要が無いので、魔法陣のサイズによって流せるマナの限界量と言う際限が無いし、マナのロスは無いからマナを流せば流すだけ威力が上がって行くのじゃ。
まぁ凄く難しいからオススメはせんのじゃが、覚えておいて損はない。
「想像が難しいじゃろうが、簡単に考えれば近接職が行う『身体強化』が近いのじゃ。 アレも体内のマナを無意識で身体能力を強化しておる訳じゃからな」
「でも、それって相当使い辛いんじゃ? イメージに失敗したら発動しないって事ですよね?」
「カーラの言う通り、イメージを失敗すると魔法は発動せぬ。 じゃから、魔法は廃れ、魔術が使われておる訳じゃな」
「ん? でもそれじゃ詠唱って何なんだ? 魔術は魔法陣を構築出来れば発動させられるんだから、別に詠唱なんて必要無いよな?」
ヴァルがそんな事を言うが、コレは魔法の名残じゃろう。
魔法は詠唱する事でしっかりとイメージ出来る様にしておったのじゃが、魔術は魔法陣を構築するだけじゃから、魔法文字とその組み合わせを覚えるだけじゃから、ぶっちゃけ詠唱はいらんのじゃ。
詠唱を使わぬ事を、『無詠唱』とか『詠唱破棄』とか言われておるが、魔術には殆ど関係が無い。
まぁワシの場合、膨大な体内マナで無理矢理発動させるという力技も出来るんじゃが、使うとかなり疲弊するんじゃよね。
ワシが来る前に使っておった教科書には、魔法と魔術は同じ物として教えておったから、勘違いされても仕方無いじゃろう。
「まぁ実戦で魔法を使うのは相当に難しいじゃろうから、まずは魔術を使いこなせる様にするのが先決じゃな。 と言う訳で、次の授業では実際に魔術を使っての戦闘を行うのでな、動きやすい恰好をしておくのじゃ。 それでは、今日の授業は此処までじゃ!」
そうして授業を切り上げ、ワシは『錬金科』の地下倉庫に移動して、巨大ゴーレムの分析を行うのじゃが、ぶっちゃけ、使われておる技術は前にも言ったように既存の物ばかり。
ゴーレムを構成しておる素材も別に真新しい物では無いから、もう鋳融かして素材として再利用しても良いんじゃなかろうか?
そう思っておるんじゃが、流石にワシの所有物ではないので勝手にやる訳にもいかん。
まぁ珍しい物として、ゴーレムの操縦席にあったモニターが唯一珍しいと言えば珍しい。
前にワシが作ったモニターは水晶を加工した物じゃが、此方はガラスの様な物じゃ。
そのモニターも衝撃で割れたりせぬ様に、隅の方に強化の魔法陣が刻まれておる。
つまり、大賢者のおるヴェルシュでは、一畳ほどもあるガラスを歪みなく均一に製作するだけの技術があるという訳じゃ。
寧ろ、ヴェルシュには透明なガラスの素材があるって事じゃが、この『透明』という点が問題じゃ。
ガラスと言うのは、地球では珪砂という砂を高温にする事でガラスにする事が出来るのじゃが、コレを歪みなく一枚板に加工するのは相当に難しい上に、無色透明にするには混ざりの少ない高純度の珪砂が必要になる。
純度の低い珪砂の場合、ガラスに色が付いてしてしまうのじゃ。
バーンガイアでもガラスは作られておるが、純度が低い為に全体的に暗く、更に明り取り用の小窓に使うか、更に色を付けてステンドグラスに使う程度になっておる。
これは技術的にも頑張らねばならぬな。
そんな事を考えつつ、『錬金科』の機材を使わせてもらって、アレコレと作っておる。
今作っておるのは、『強化外骨格』を更に強化する為のパーツじゃ。
言うなれば『強化外骨格・改』、もしくは『強化外骨格・弐式』とも呼べば良いかのう。
ただ、作っておる段階で気が付いたのじゃが、コレ、完成したとしても使うには相当に技量が必要になる。
さて、コレはどうしたもんか……
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