第237話
兄上に回復用のポーションが詰まった鞄を渡し、ワシは川の方へと向かったのじゃ。
代金は、今度『狂牛迷宮』のミノタウロスジェネラルの鎖と槌を、それなりに早く持って来てもらう事なのじゃ。
兄上なら早めに持って来てくれるじゃろう。
そうして、川に到着したのじゃが、この川はかなり深い。
流れはそこまで強くは無いんじゃが、中央部はワシの身長よりも深く、底は砂利となっておる。
ただ、水質は綺麗で、そのまま飲む事も出来るのじゃが、治癒師ギルドによって煮沸消毒と濾過をしてから飲む様にと広く広告されておる。
コレはワシや美樹殿がニカサ殿に報告した事で、水の中には目に見えぬ細菌や寄生虫の卵がある。
それ等は煮沸消毒すれば殺菌出来るし、寄生虫の卵も濾過すれば除去出来る。
『シャナル』に残った美樹殿の事じゃから、一般家庭でも浄化出来る様に魔道具を作っておるじゃろう。
そして、目当ての集団を発見したのじゃが、まぁ人数はともかく、完全に川の近くに陣を構築しておる。
そこにトコトコと近付いていくと、ワシに気が付いた兵士が一瞬身構えるが、直ぐに構えを解いた。
まぁワシの背格好は目立つしのう。
「ベヤヤが此方におると聞いたのじゃが、間違いないかのう?」
「ハッ! 奥の方におられます!」
此方です、とその兵士に案内されて陣の中を歩いたのじゃが、何か全員ボロボロというか、傷だらけなのじゃ。
もう何かと戦闘した後なのかのう?
そう思っておったのじゃが、案内してくれた兵士が説明してくれたのじゃ。
此処におる兵士達は全員で30人なのじゃが、ベヤヤが川に料理の素材を獲りに行くので、護衛と荷物運びを依頼する事になったのじゃが、結構な数を集める関係で時間が掛かるとして昼食は出すとしたら、参加したい兵士が殺到し、聞き付けた騎士まで参加しようとしたが、サーダイン公爵殿が『王城護衛の騎士が離れてどうする!』と参加を禁止した事で、騎士達は不参加になったのじゃが、兵士達は数が多いので30人程度なら問題は無いとしたのじゃが、どうやって決めるのかという話に戻り、兵士同士で殴り合いまで発展したのじゃが、最終的にクジを作って引いて、参加者が決まったのじゃ。
倍率凄かったじゃろうなぁ……
「あそこです」
「む、ありがとうなのじゃ」
案内されたのは陣の最奥、そこには数人のコック服を着た者と兵士が、協力して野営する時の様な竈を作ったり、何か野菜を切ったりしておる。
ベヤヤはベヤヤで、川の近くで水面を見ておるが、急に水面が盛り上がると、シャボン玉の様に川の水が球体になって浮き上がる。
そして、球体はふよふよとベヤヤの近くに移動すると、ベヤヤの近くにあったタライの中に落ちると、すかさずベヤヤが蓋を閉じておる。
暫くガタガタとタライが暴れるが、それもしばらくすると止み、完全に止まったのを確認したらベヤヤが兵士にタライを渡しておる。
渡された兵士も、二人でタライを慎重に運んでおる。
その後も、ベヤヤは追加で新しいシャボン玉を作ってタライに移しておる。
「ベヤヤよ、一体何をしておるんじゃ?」
「グァ(狩猟)」
ベヤヤに聞いたらそんな返事が返って来たのじゃが、ワシの知っておる狩猟と違うのじゃ。
タライの中を見てみれば、かなり大きな魚が泳いでおる。
見た目はアレじゃ、秋サケ。
ただ、頭と尾は銀じゃが、体色は赤では無く緑色なんじゃがサイズがデカい。
と言うか、泥魚もそうじゃが、
この秋サケ?も、体長はワシよりデカいのじゃ。
「ふーむ、コレなら相当な量が喰えそうじゃが……」
「ガ、ゴァゥ(あ、泥抜きしなきゃ喰えねぇぞ)」
「やっぱり?」
どうやら、ベヤヤは既に喰った後の様じゃな。
川魚は総じて泥臭いものが多い。
これは、川魚が餌を食べる際、餌と一緒に泥ごと食べて、餌だけ漉して摂取しておるが、泥を完全に除去出来る事が出来ぬ為と言われておる。
ただ、これは川底に隠れておる小虫を食べる種だけで、鮎とかは石に生えておる水苔を齧り取る様にして食べておるから、泥臭い事は無いらしい。
じゃが、この秋サケはどうやら駄目じゃったようじゃの。
「それじゃ、コレは暫く喰えんと言う事か……残念じゃのう」
ワシ個人としては、サケのカマの部分が一番好きなんじゃが……
まぁベヤヤに頼んで取って置いてもらおうとするかのう。
そうして、秋サケ?が入ったタライが大量に川縁に並んだわけじゃ。
「ガゥ、グガゥァ(んじゃ、ちと準備するからあっちで待ってろ)」
「うむ、待っておるぞって、その前にコレを渡しておくのじゃ」
そう言って鞄から取り出したのは、チタン製の巨大
ベヤヤが持つと普通の包丁サイズに見えるが、ベヤヤが巨体じゃからそう見えるだけじゃ。
当り前じゃが、抜き身と言うのは流石に危険じゃから、専用にサーペントの革と
このサーペントの革は、少し前にエドガー殿の所におるイクス殿が狩ったという事で、ワシが買い取った物じゃ。
残念じゃったのは、そのサーペントは身にも毒を持っており、食用には適しておらぬという点じゃ。
蛇肉は鶏肉に近い味がすると聞いておったから、ちょっと食べたかったんじゃけど、流石に解毒してまで食べたいとは思えぬ。
鞘自体は魔樹で作り、その表面に黒光りするサーペントの革を張り付け、口金の部分をミスリルで作ったのじゃ。
「グァ……(コレは……)」
「まぁ色々美味い食事を作ってくれておるからのう、その礼と言うには変じゃが、手持ちで面白いモノが手に入ったんで作ってみたのじゃ。 コレからもよろしく頼むでのう」
そう言い残して、ワシはベヤヤが待ってる様に言った天幕の一つで、大人しく待機する事にしたのじゃ。
まぁどんな料理が出て来るか分からぬが、あのベヤヤが言うんじゃから不味い訳が無いのじゃから、楽しみに待つとしよう。
時間潰しの為に鞄から取り出したのは、学園の図書室から借りておる魔法陣に関する考察が書かれておる本。
この本は所々間違いもあるが、その間違いは恐らく写本した際、文字をミスってしまった物じゃろう。
そう言った箇所を修正し、生徒達に教えられそうな部分を書き写していくのじゃ。
そうしておったら、兵士の一人が何やら準備が出来たと言う事で呼びに来たのじゃ。
結構集中しておったから、外から呼ばれておったのに気が付かんかった。
謝罪しながら鞄に本を仕舞い、天幕を出るとそこはかとなく良い匂いが漂っておる。
「ほぅ、良い匂いじゃが……コレは香草かのう?」
『取り敢えず、油の方は時間掛かるからな、先にコレでも喰っといてくれ』
ベヤヤの念話が届いて、出されたのは小さなフライパン。
そこには、油の中で小さく切り分けられたキノコと、同じ様に切られた鶏肉と根菜が泳いでおる。
コレは『アヒージョ』か!
「ほぅ、コレは美味そうじゃのう」
『水が気軽に使えない所で出来た『オイル煮』って奴らしくてな、少し前に弟子から教えて貰った。 具材喰いながら、パンに吸わせて喰うと美味いぞ』
ベヤヤが出してきたのは、外側が硬く焼き上げられたフランスパン。
アヒージョにはやはりこれじゃよなー。
いそいそとフォークでキノコを刺し、フーフーと冷まして口に運ぶ。
うーん、オイルを吸ったキノコも美味い!
パンを毟ってオイルを吸わせ、それも一口、うむ、美味い!
アレコレと考える間もなく、どんどん食べれてしまうのじゃ!
最後は、パンをフライパンに押し付ける様にし、オイルの一滴も残さずに完食。
うむ、まさか異世界に来てもアヒージョが食べられるとは思わんかったが、コレならベヤヤの発見した改善版コボルト豆油も期待出来るのじゃ。
「グァ?(美味かったか?)」
「うむ、中々美味かったのじゃ。 具材もそうじゃが、使っておる油も、香りも仄かに良く、口当たりはサラリとしておるのに甘味とうま味があって中々じゃ」
この油、オリーブオイルに似ておるんじゃが、パンに吸わせたらほんのりとピンク色。
そして、その香りはまるで、仄かに香る程度じゃが、サクラの様な香りがするのじゃ。
「で、コボルト豆から採れた油じゃが、どんな感じになったのじゃ?」
今日来たのは包丁を渡すのもあったが、コボルト豆油がどんな変化をしたのかを聞きに来たのじゃ。
あの蒼白い油、採油した当時は、トンデモない味で料理には到底使えぬと判断しておったんじゃが……
「ガァゥア(今喰ったのがそうだぞ)」
なぬ?
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