第235話




 兄上から『バレットM82A1』なんて厄介なモノを渡されたが、バラバラに分解して金属パーツはインゴットにし、プラスチックは童女神シャナリー殿に送って処分して貰ったのじゃ。

 その作業は全部、空き倉庫自室で行った為、誰にも目撃されてされておらぬ。

 そして、このインゴットじゃが、アルミ合金やチタン合金などが多く、この世界ではまだ発見されておらぬか、存在せぬ金属じゃから、気軽に何かを作る訳にはいかん。

 まぁそもそも、量がそこまで多くは無いんで大きな物は作れぬ。

 剣なら精々、ショートソードくらいかのう。

 そもそも、地球の銃自体、チタン合金とかで作られておるのか分からんけど、元々が迷宮ダンジョンからのドロップ品じゃから、迷宮主ダンジョンマスターが用意した物じゃろうし、地球の物と完全に同じ物では無いじゃろう。

 ぁ、そうじゃ、最近ベヤヤも頑張っておるから、包丁でも作ってやるかのう。

 そうと決まれば、まずはデザインを決めようと思ったのじゃが、まぁコレは普通に大型の『肉切り包丁ブッチャーナイフ』と言う肉を切り分ける際に使われる物にする事にしたのじゃ。

 ベヤヤのパワーなら大抵の肉は問題無いのじゃが、包丁のサイズが小さいので切り分けるのがちょっと難しいと言っておったのを思い出したのじゃ。

 チタン合金を刃にし、先端部を大きくして重心を先端部にする事で、振り下ろしの際に力が入る様なデザインにしたのじゃ。

 刃も普通は鋳造なのじゃが、ここはやはり鍛造で作ったのじゃ。

 前にイクス殿に作った様に、魔法を駆使してガンガン叩いて作ったのじゃが、今回は虹色魔粉は使わなかったのじゃ。

 や、最初は使おうと思ったのじゃが、イクス殿が刃から炎を出しておったのを思い出し、もしも切り分け中に炎はともかく、他の物が噴出したら料理どころではなくなってしまう。

 なので、今回は普通に金属のみじゃ。

 柄の部分じゃが、黒く変色しておった魔樹トレントを削り出し、左右から張り合わせて、目釘を打ち込んで完全に固定する。

 まぁ完成品はショートソード並みのサイズになったのじゃが、ベヤヤが使うんじゃから問題無いじゃろう。

 アルミ合金は更に少ないからどうするかのう……

 こっちは取り敢えず保管しておいて、後で何か思いついたら作るするかのう。


「さて、取り敢えずベヤヤに連絡じゃが……『ベヤヤよー、聞こえるかのう?』」


『……おう? 珍しいな、そっちから連絡送って来るなんてよ』


 王都内なら繋がる様じゃな。

 前に王都の外だと結界の関係で繋がらないので、繋がって良かったのじゃ。


『うむ、ちょっと渡したい物があるんじゃが、そっちに行っても大丈夫かのう?』


『あー、今は駄目だな、ちょっとゴタ付いてるから、明日なら外の川に行くからその時でも良いか?』


 川に行くという事は、魚を探すのかのう?

 前の川で泥魚、と言うかウナギを手に入れておったけど、王都の近くの川にはおらんじゃろう。

 それでも何か新しい発見でもあったのかのう?


『おう、前にクソ不味い油あっただろ?』


 コボルト豆から採った油の事かのう?

 アレはどうやっても料理油には使えぬ、って結論になっておらんかったか?

 少し食べたが、料理への冒涜かと思うくらいの味じゃったけども……


『アレを料理に使える様になった! その材料が川にいるから明日行く予定だ』


『ほう、アレが料理に使えるって、何したのじゃ?』


『油だけじゃ駄目だったんだよ、あの油、少し手を加えるとトンデモない油に化ける』


 気にはなるが、それは明日の楽しみにしておくかのう。

 取り敢えず、明日はベヤヤに会う為に学園から抜け出さねばならぬのじゃが、まぁ普通に休みを貰えば良いのじゃ。

 この二ヶ月でワシが教えておる生徒達の実力は、最初の頃と比べても飛躍的に高くなっておる。

 同学年内であれば、最早トップレベルじゃろう。

 それに今ではそれぞれの生徒が、己の最適解を導き出して邁進しておるから、更に成長するじゃろうし、課題を出しておれば問題は無いのじゃ。

 問題があるとすれば、この前の決闘騒ぎで、ウチの生徒達が圧勝したのじゃが、何やら不穏な噂を聞いたのじゃ。

 何でも、ウチの生徒達が『不正をしていた』と言う噂話が広まりつつあるらしい。

 そんな事不正なんぞしておらんのじゃが、少し前まで『落ちこぼれ』と呼ばれておったのに、いきなり強くなった事で、疑われておるらしいのじゃ。

 まぁ『だからどうした?』なんじゃが、陰でコソコソとしておる相手と言うのは、大抵碌でも無い事を考えておる事が多いから、注意が必要じゃろう。

 しかし、何をしてくるのか分からん内は何も出来んからのう。

 ま、何かやって来たらその際に叩き返せば良いじゃろう。

 取り敢えず、学園長殿に許可を取り、ちょっとギラン殿の所に顔を出して、生徒の為の課題を作って今日は休むとするかのう。




 学園長殿に、『明日、ちょっと用事が出来たので休みたい』と言ったら、問題無いとの許可が得られたので、明日は川に行ってベヤヤに合流する事になったのじゃ。

 そして、ゴーレムが保管されておる『錬金科』の秘密倉庫に向かうと、そこではバラバラになった色々な部品が散乱しておった。

 そして、多くの人がその部品を組み立てておる。


「コレは一体なんなのじゃ?」


「ん? おぉ、君ですか。 これは例の投げ槍を我々で改良した物ですよ」


 ほう、アレを改良出来たのか。

 ワシが作った投げ槍じゃが、どうやら何やら改良する点があったようじゃな。


「まず、投げ槍ではどうしても射程が短いのがネックでした。 そこで、まずは投げ槍をこのバリスタで射出する様にした事で、射程は倍以上にする事が出来ました」


 どうして射程を伸ばしたのかと聞けば、巨大ゴーレムの速度が問題となったのじゃ。

 ワシが作った投げ槍じゃと、どうしても射程が短くなり、ゴーレムが岩を投げたりすれば届いてしまうし、報告によれば走る事も出来たというのであれば、攻撃を受けても突撃されてしまえば危険なのじゃ。

 そこで、バリスタで射出する事で射程を倍以上に伸ばす事になったのじゃが、ここで問題となったのは投げ槍の起動方法なのじゃ。

 穂先を捻ってからセットして撃ち出したら、射程を活かす前に起動してしまうのじゃ。

 そこで、ギラン殿は投げ槍を別の筒にセットし、撃ち出して射程の殆どを飛んだ後に筒が自壊し、そこで投げ槍が起動して飛んでいく様にしたらしい。

 今は、飛距離の時間を計測し、最適な時間で筒を自壊させる為の時間を設定しているらしい。

 で、このバラバラになった部品はなんなのじゃ?


「バリスタと言っても、様々な形状がありますから、飛距離も長く、安定して飛来する形状を模索している最中ですな」


 成程、それでこれだけバラバラな部品がある訳じゃな。

 しかし、この様子じゃと『ポインター』の魔道具の方は出来ておらん様じゃな。


「あ、それは既に製作が終わって、学園長経由で王城の方に献上しましたよ?」


 なんと、アレを既に実用化させたのか。

 しかも聞けば、こっちも改造しており、特殊な光を発する様にして、そのままでは見る事は出来ぬが、特殊な眼鏡を装着する事で見る事が出来る物も追加で作ったらしいのじゃ。

 コレは、従来の方法では相手に察知される可能性がある為、追加で作る事にした様なのじゃ。

 参考になったのは、ワシがバートに教えた『可視光』の話を聞き、ゴーレムに搭載されておったモニターを模倣して見る機能を実現させたらしい。

 アレだけの情報でこうも高性能な魔道具を作るとは、やはりギラン殿の腕はかなり良い。

 決闘時に使った『身代わり人形』も、決闘の後に『衝撃を吸収したり冷気を感じれる様に、もう少し改良するべきですかね』なんて言っておったが、『痛み』と言うのは一種の安全装置じゃから、そこまで排除したら大変な事になるから、今の状態が最適と言えば最適なのじゃ。

 そう言ったのじゃが、ギラン殿はまだまだ改良出来る筈だ、と興奮しておった。 

 まぁ頑張って欲しいのじゃ。


 そうして、生徒への課題を作り、その日はそのまま空き倉庫自室で就寝する事にしたのじゃ。

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