第234話
カッカッカッと黒板に白いチョークで文字が書かれていく。
それを生徒達が必死に書き留める。
「……つまり、この火の精霊の力を借りるには、詠唱での祈り以外にも、火の属性に適した素材を利用した護符を使う事で威力を上げられる事を、発見者である偉大な魔術師『ゼーナン=ジルトレイム』から『ジルトレイムの法則』と呼ばれている」
バーラード学年主任が教壇で説明すると、それに合わせたかのように終了を知らせる鐘が鳴り響いた。
それを聞いたバーラード学年主任が教壇から降りる。
「今日の授業は此処までだ。 各自、復習を怠らない様に」
そう言い残し、俺達の事を見た後、そのまま教室から出て行った。
この後は、昼を喰って午後は自由時間になる。
だが、教室にいる奴等の視線は刺々しい。
その理由は簡単だ。
少し前に起きた決闘で、俺達は一方的に負けた。
それも、平民相手に。
これがまだ優秀な平民とかだったら、まだマシだったんだろうが、よりにもよって『落ちこぼれ』だった奴等に負けた。
それまでの俺達は、この教室にいる奴等の中でも最も強いと言われていたが、あの決闘の後からは今の様な状態になっている。
「クソッ! 何だってんだよ!」
デルクの奴がそう言って、庭にある石を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばした石が、少し離れた所にあった木に当たってガッと音を立てた。
「ちょっと、物に当たるのは良いけど、人がいたらどうすんのよ」
「うるせぇよ! 碌に何も出来なかった奴がツベコベ言ってんじゃねぇよ!」
「アレは仕方無いでしょ! バーラード先生の指示なのに無視する訳にいかないじゃないの!」
「ハッ! それで何も出来ずに氷漬けにされたってか!」
ルタが非難するが、デルクの怒りは収まらず、そのまま口論となる。
正直、五月蠅い。
「お前等、口喧嘩するなら別の場所でやれ」
「そう言うお前が一番クソだったじゃねぇか! アレだけ大口叩いておいて、一撃でノされるとかよぉ!」
そう言われて、思わずぐっと黙る。
落ちこぼれのヴァルと戦って、文字通り一撃だった。
身体強化にしても、あの速度と威力は異常だ。
それに奴だけじゃなく、奴ら全員が異常に強くなっていた。
絶対何か理由がある筈だ!
「さっきから黙ってるけどよ、デストもケトルもアイツ等に負けて悔しくねぇのかよ!」
「悔しいさ、悔しいに決まってるだろ!」
「……俺は負けたとかそれ以上に、家がヤバいんだよ。 魔獣の違法売買に係わってるって疑われてるんだからな」
ケトルの奴は、テイムしていた魔獣を不用意に開放したせいで、その魔獣に襲われ、偶々居合わせた部外者の剣士によって無力化され、その魔獣も学園の特殊牢で証拠として閉じ込められている。
現在、購入した店舗がちゃんと調教していなかったのか、ケトルの奴が購入後に虐待していたか疑われているという。
勿論ケトルの奴も購入した家の方も否定しているが、売買した店舗側も否定している為、かなり大規模な捜査が行われているらしい。
「クソッ! そもそも何だってあんな急に……」
「そうだよ、いきなりあんな強くなるなんて考えられないだろ」
デルクとデストがそんな事を言っている。
そう、俺達が負けた最大の要因は、あの落ちこぼれ共が短期間で一気に強くなった事だ。
一瞬、あの新人教師の腕が良いのかと思ったが、『シュバルトハイムの詠唱理論』すら知らないような低能教師が教えた所で、短期間で強くなる訳が無い。
それに、あの戦い方を見る限り、まるでアイツ等の力が強化された様な……
「……そうか、そう言う事か」
「あ? 何か分かったの?」
「あぁ、何であの落ちこぼれ共が短期間で強くなったか、その理由に心当たりがある」
「その理由ってのは何だってんだ?」
「簡単に言えばズルをしたって事だ。 聞いた事くらいはあるだろ? 『強化薬』って存在の話」
俺が思い出したのは、両親が新しい武具の購入をしていた際、商人が両親に『私兵の力や魔術を短期間で引き上げられる』と言っていたのを聞いた事がある。
そう『力や魔術を短期間で引き上げられる』と言う点は、急に強くなったアイツ等の状況に似ている。
薬物によって偽りの実力を手に入れたって事なんだろう。
入手経路はあの新人教師で、学園での居場所が無いと気が付いて、あの落ちこぼれ共に使って、どうにかして残ろうと考えてるんだろう。
「ケトル、お前の家の伝手で手に入れられるか?」
「多分、何とかなるとは思うが……どうするんだ?」
「剣には剣を、魔術には魔術を、ズルにはズルを、だ」
「オイオイ、俺等もその薬を使おうってか?」
デルクの言葉に頷く。
それにだ、あの落ちこぼれが薬一つで俺達を圧倒出来る程、強化されたという事は、元々優秀な俺達が使えば、その上がり幅は更に上をいくだろう。
資金については心配するな、俺の両親に頼んで提供して貰う。
俺が負けた事で両親は激怒するだろうが、相手が卑怯な手を使っていた事を伝え、どうにかして『強化薬』を手に入れて同じ条件でもう一度決闘し、あの新人教師と一緒に不正を暴いてやるさ!
「兎に角、まずは現物を手に入れない事には話にならない。 俺は父上に掛け合って資金を出して貰える様に頼んでくる。 ケトルも何とか手に入れられる様にしてくれ」
「俺達はどうすんだよ? 待ってるだけか?」
「本当ならデルク達の方でも探して欲しいが、そう言った商人の伝手はあるか?」
「……ねぇな……俺んトコに来る商人は、そこまで手が広い訳じゃねぇし」
俺の言葉にデルクが少し考え込むが、予想通りの答えが返って来た。
他の二人の実家に来ている商人も、似た様な物だろう。
寧ろ、俺やケトルの実家の様に、定期的に色々な商人を呼んで魔獣や商品を購入している方が珍しい。
問題としては、捜査中のケトルの実家が購入出来るかどうかだが、ケトル曰く、色々とやり様はあるらしい。
こうなると、デルク達は何もする事が無い様に思えるが、デルク達には他にやってもらう事がある。
「デルク達は、あの決闘で奴等が不正をしていた可能性があるって事を広めて欲しい、勿論、直接言うんじゃないぞ? 『落ちこぼれ共が不正をしていたかもしれない』って事を広めるんだ」
「それでどうなるの?」
「俺達が『強化薬』を手に入れて強くなるには、どうしたって時間が掛かる。 それまでに『奴等が不正をしていたんじゃないか?』『だから勝てたんじゃないのか?』って、皆に疑念を抱かせるんだ」
「疑念だけで良いのかよ?」
「一応、確証は無いからな、デルクとルタで噂を広めて、デストは証拠を集めるんだ」
「レオンは何をするんだ? まさか俺達に指示だけして自分は高見の見物とか言わねぇよな?」
デストがそんな事を言ってくるが、そんな訳が無い。
俺も『強化薬』を入手する為、これから父上に交渉する上に、ケトルの家に資金提供をするので、それの手配もしなければならない。
他にも、俺達が急に強くなったら怪しまれる可能性もあるから、一時的に『修行をしていた』として身を隠す必要があるから、それも手配しなければならないが、此方は王都にある屋敷が使える筈だが、従者は必要だ。
勿論、そう言った事を代わりにやってくれるなら、それに越した事は無いが、それを4人に説明すると、全員がそれぞれやる事を確認し始めた。
その後、俺は一度屋敷に戻って父上に対面し、今回の件を説明した所、当たり前だが最初は激怒されたが、『強化薬』を使った疑いがあり、落ちこぼれがあれ程強くなるなら、優秀な俺達が使えばその結果はどうなるか、そこ等辺を必死に説明し、何とか『強化薬』の入手や手配はしてくれる事にはなった。
ケトルの家にも、購入出来たらそれを買い取る事も了承してくれたが、もしもコレで結果が出なければ……
もう後戻りは出来ない。
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