第233話




 冒険者ギルドに到着し、まずは依頼が貼られているボードを見る。

 B以上の討伐系……は無いか……

 流石に数日で依頼が戻る訳も無い。


「お、レイヴンじゃねーか、運試しはどうだった? 何かイイモン出たんなら一杯奢ってくれよ」


 落胆していた俺の様子を見て、酒場の方にいた冒険者酔っ払いの一人が、木のジョッキを掲げながらそんな事を言ってくる。

 そういや、ガチャ迷宮を勧めて来たのもコイツだったな。


「残念だったな、出たのはコイツと訳の分からん物だけだったよ」


 そう言ってソイツにタワシを投げ渡す。

 それを空中でキャッチし、酔っ払い共がまじまじと見ている。

 そして、『やっぱりタワシだったか』『賭けは俺の勝ちだ、今日の飲み代はお前の奢りだ』『訳の分からん物ってなんだ?』なんて賑わい始める。

 溜息を吐くが、まぁ俺に迷惑が掛からなけりゃ別に良いか。

 そう思っていたら、受付嬢の一人が何かを思い出したかのように、俺の事を呼んでいる。


「レイヴン様宛にお手紙の方をお預かりしております」


「差出人は?」


「シンドウ、と名乗られた青年でしたね。 最初は何時お戻りになるか聞かれまして、流石に分かりませんとお答えしたら、戻り次第渡してくれと」


 ふむ、取り敢えず受け取りはしたが、内容は何だ?

 受け取った手紙は別に何の変哲も無い物だが、封筒は学園の物だな。

 懐からペーパーナイフを取り出し、ソレで封を切って中の手紙を引っ張り出し読んでみる。

 その手紙には『相談したい事があるから、学園まで来て欲しい』と書かれていた。

 ……アイツ、まだ俺が日本人だと疑ってるな……

 この異世界の文字は、当たり前だが日本語じゃない。

 当然、此方の異世界人に日本語を見せても、それを読む事は出来ない。

 転移者には、この異世界の文字が地球で住んでいた所の母国語に変換され、文字を書こうとすると、母国語を書いたつもりで此方の異世界の文字を書く様に変換されるらしく、日常生活にも問題無いらしいが、生憎、俺は正確には転移者じゃないから適応されていない。

 俺はアイツの能力ポーションで文字の読み書きが出来る様になっているが、このままノコノコと会いに行けば、『日本人だった』と思われる事になる。

 アイツが先代は転移者か転生者であるような事を言ったから、それで覚えたって言い訳もあるが、流石に何でもかんでも先代を言い訳に使う事は難しいだろう。

 まぁ普通に何書いてるか分からんって事で、直接聞きに行くのが一番だが、アイツの所に寄って翻訳して貰った、と言う事にした方が良いだろう。

 学園には昨日行ったんだが二度手間だったな。

 向こう地球にあった手軽に連絡が取り合えるスマホとか欲しいもんだが、魔道具で再現出来ないのかね?




「と言う訳で、翻訳を頼んだって事になるから、聞かれたらそう答えておいてくれ」


「兄上は用心深いのう……」


 そんな事を言われるが、用心するに越した事は無いだろう。

 アイツに手紙の内容を翻訳して貰った物を持って、進藤がいるであろう『騎兵士科』の校舎に向かう。

 そうして到着したら、進藤の奴とアレス、いや、此処ではクレスが何か話し合っていた。


「進藤、一体何の用だ、と言いたいが、まずは手紙は俺でも読める字で書いてくれ」


「……読めなかったのか?」


「読めねぇから態々アイツに翻訳してもらった。 確か、婆が使ってた文字に似てる気はするが、俺は教えて貰ってはいないからな。 で、何の様だ?」


 進藤にそう聞くと、進藤の奴が周囲を見回してから、俺を連れて人から離れた位置に移動した。

 そして、今回何故俺が呼ばれたのか話し始めた。

 端的に言えば、とある生徒にがあり、それを解決する為に協力して欲しいという事だった。

 その問題と言うのが、その生徒が持っている『職業クラス』が、本人の意思に関係無く暴走してしまい、周囲の生徒を含めて危険に晒されてしまうという物。

 その生徒に対し、このままでは教師陣は職業を『封印する』と言う事を考えているらしく、クレスはそれをどうにか回避したいと考えているらしい。


「どうして他人に対してそこまでする? 別に封印されたからと言って死ぬ訳じゃないだろ?」


 職業の封印と言うのは、文字通り、職業を封印して一切の恩恵を受けられなくなる事で、主に超が付く程危険な犯罪者に対して行われている物だが、職業によっては封印した方が本人の為と言う場合もある。

 ただし、職業から得られる筈の恩恵を一切受けられなくなる為、施す場合はかなり慎重にならざるを得ない。


「……国にいた時、私の知り合いが同じ職業だった……だが、戦場で職業を暴走させ、そのまま死んだと聞かされた。 職業がそれしか使い道が無いからという理由で……」


「戦場でしか使い道が無い?」


「『狂戦士バーサーカー』だ。 発動すると動くもの全てを破壊し尽くすまで止まらない、と言われている凶悪な職業」


 進藤がそう言ったが、『狂戦士』とは中々珍しい職業だ。

 『狂戦士』は進藤の言う通り、発動させると本人の意思に関係無く、破壊の権化となって暴れ回り、全てを破壊するか、完全に意識を飛ばす以外で止める方法が無い。

 成程、確かに戦場でしか使い道は無いし、能力が凶悪でも判断力が無く、結局は一人でしか行動出来ない時点で、そのまま袋叩きにあって死ぬだろう。

 しかし、そんな危険極まりない職業の持ち主が生徒にいるのか?


「相談と言うのは、その『狂戦士』をどうにかして制御出来る方法は無いか?って事なんだ」


「無理だ、制御出来ないからこそ、『狂戦士』なんだぞ?」


 俺が即答する。

 『狂戦士』は制御出来ない、だからこそ『狂戦士』と呼ばれる。

 だが、もしも『狂戦士』を制御出来たなら、それは強力な武器にもなる。

 それに、クレスの表情が悲しそうにしているのも、何か捨てられた子犬を見ている様で少々堪える。

 少し調べてやるべきか……


「……俺も一応興味はある、だが、方法は俺に任せてもらうぞ?」


 取り敢えず、協力する事にはしたが、問題は教師と生徒が了承しているかどうかだ。

 そこ等辺も聞いてみたが、教師側としては関わり合いになりたくはないらしく、調査に関しては既に許可が出ていた。

 何でも、その生徒が『狂戦士』を発動させると、数人の教師が相手をして抑える事になる上に、教師側も少なくない怪我をしてしまうので、『騎兵士科』で学んでいても、殆ど自習室で座学しかさせられないのだという。

 生徒側も、自身の『狂戦士』のせいで、教師だけでなく家族にも迷惑を掛けている事を気にしており、職業の封印処置を受ける事も良しと考えていたらしい。

 引き受ける以上、制御する方法は考えるが、まず調べなきゃならんのは『狂戦士』の発動条件。

 クレス達から話を聞く限り、コレまでに『狂戦士』が発動したのは3回。

 最初はクレスがまだ学園に来る前、入学した後直ぐ、教師達が各生徒の実力を判断する模擬戦を行った時、次はその生徒をイジメていた生徒達がその生徒を個室に閉じ込めた時、そして最後は教会から助祭と名乗った男が生徒の職業を封印しようとして失敗した時。

 いや、封印に失敗してんのかよ、駄目じゃねぇか。

 だが、その話を聞いて大体の発動条件は分かった。


 その生徒の『狂戦士』が発動する条件トリガーは『恐怖』。

 それもただの『恐怖』では無く、『本人が命の危機を感じる程の恐怖』を感じた時、『狂戦士』が発動して身を守ろうとする。

 所謂、二重人格に近いのだろうが、そうだとするなら制御出来るかもしれない方法が一つだけある。

 問題は、その生徒の実力が未知数なのとやる場所だな。

 実力の確認は近場の迷宮にでも行けば良いが、俺が思い付いた方法をこの学園でやるのは非常に不味い事になる。

 こうなったら、王都での活動拠点として、アイツと金出し合って商業ギルドで一軒家でも買うか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る