第232話
ロベリアからの指示で、私たち二人は黒髪の男の後ろを離れて追跡している。
勿論、男が此方に気が付かれない様に、かなり離れた位置にいるが、私達なら問題無く追跡出来る。
そして、男はそのまま王都でも有名な学園である『マグナガン学園』に入って行った。
元
だが、侵入せずとも、此方には
彼女は兎獣人の血が流れており、異常に耳が良く普段は耳当てをして対処している。
学園の近くで彼女が耳当てを外し、耳を澄ませる。
この時の彼女に話し掛けるのは駄目だ。
聴力が異常に強い彼女の耳が壊れてしまう。
「…………駄目ですね、誰かと会って部屋の中に入ったようですが、全く聞こえなくなりました」
メラニーが耳当てを付けてそんな事を言っている。
彼女の優れた聴力であれば、部屋に入った程度で聞こえなくなる事は無い。
つまり、その部屋は何かしらの盗聴対策がされているのだろう。
流石、学園と思わずにいられないが、これ以上外から調べるのは無理だろう。
「……仕方無いな、ロベリアと合流して次の手を考えるとしよう」
ロベリア達の方で何か分かれば良いのだが……
彼女を連れて学園を離れていく。
この時、私達の追跡は、あの男が気が付いていないと思っていたが、あの男は私達の追跡に気が付いていたと、後日、あの男と実際に接触したロベリア達から知らされ驚愕した。
冒険者ギルトである程度情報を集め、セリーナ達が合流したので報告の為に宿の一室を借り、当然、盗聴対策として両隣の部屋も借りる。
報告の為に、私達が幸太郎達のいる迷宮に戻る必要は無い。
幸太郎が用意した魔道具を手に取り、その側面のスイッチを押した後、表面を指でなぞる。
しばらく待つと、その魔道具の表面に幸太郎の姿が映し出された。
『……連絡を待ってたよ。 それでロベリア、何か分かったかい?』
「男の名前はレイヴン、ルーデンス領で活動している冒険者で、家族は妹が一人、王都の冒険者達に言わせれば恐ろしく強く、マグナガン学園に親しくしている知り合いがいる。 私達が調べた限りではコレが限界だった」
私の話を聞いて、幸太郎は顎に手を当てて考え込んでいる様だ。
私達が調べた限りでは、かなり謎が多い男と言う事が分かっただけだ。
これ以上は、実際に接触して確かめるしかないだろう。
その為に、私達は新しいメンバーを補充したいとギルドで話し、同じランクか強い冒険者を求めていると言ったのだ。
予定さえ合えば、ギルドで出会う事も出来るだろう。
『うーん……やっぱり日本人じゃないのか?』
「少なくとも、冒険者達の話を聞く限り、幸太郎の様な感じはしないな。 寧ろ、敵対したりした相手は容赦しない辺り、掛け離れているとしか思えない」
幸太郎は敵対した相手であっても、その家族の事を考えてある程度の所で手打ちにしている。
だが、レイヴンと言う男は、敵対した相手に対して一切の容赦をしない。
それこそ、襲って来た場合は斬り捨てているという噂もあるし、本人も否定していないようだ。
『……俺が調べる様に言ったけど、大丈夫なのか?』
「敵対しなければ問題は無いと思う」
『危険だと思ったら、渡したアイテム全部使ってでも逃げて来てくれ。 必ず守るから』
「いや、あんな危険な魔道具を全部使ったら、それこそ王都が更地になってしまうだろ……」
幸太郎が私達の身の安全の為に用意してくれた魔道具は、一つ一つが『アーティファクト』と呼んで差し支えない程の性能をしている。
今使っている魔道具も、遠距離にいる相手とこうして話せるなんて、本来なら考えられない物だ。
それ以外にも、起動させて刺すと時間差で爆発する短剣とか、巨大な爆炎魔法を内包した小箱とか、姿を一定時間消す
幸太郎は『使える物は使わなくちゃ』と言っているが、今の所、私達の仲間以外には渡していない。
迷宮の宝箱にも入れていない事から、幸太郎もこういった魔道具の危険性は分かっている様だが……
それに、相手は剣士である以上、魔術師であれば、接近される前に多量の魔術で圧殺出来るだろうし、相手が接近しようにも、狩人にはマナを消費して設置出来る罠がある為、接近されたとしても対処出来る。
それに、私が使える魔術は普通よりも威力が高い上に、仲間のアーシャの早打ちは最早名人の域だ。
集団相手では難しいだろうが、相手が一人なら、油断しなければ何の問題も無いだろう。
『兎に角、安全第一で頼むよ』
「分かっているさ。 それじゃ、此方からの報告は以上だ」
そう言って魔道具のスイッチを切る。
この後は、怪しまれない様に依頼を熟しつつ、レイヴンと接触する時を待つ。
同時に、セリーナ達が追跡して分かった学園で接触したと思われる人物も同時進行で調べていく。
普通に考えれば、妹が学園に通っているとも思ったのだが、幸太郎から聞いた話では『銃』を調べる為のようであるから、相当な知識を持っている相手なのだろうから、同年代か年上なのだろう。
となれば、学園でそういう事に精通している相手でもある筈だ。
教授クラスか?
「取り敢えず、適当に依頼を受けつつ、地道に調査だな」
その後は、今後の行動を簡単に決めるだけにして、全員がそれぞれの部屋で就寝する。
明日からも調査の為に忙しくなるだろう。
兄上から話を聞いて、ちょっと頭を抱えた。
いや、
「その自称鈴木はどうしたのじゃ?」
「知らん。 迷宮から出て来た後は見ていない」
悪さをしておる訳じゃないみたいじゃが、他の冒険者に対してちょっかいを掛けておるようじゃから、その内、獲っ捕まるんじゃないかと思うのじゃが、兄上の話からして相当数の仲間がおる様じゃから、捕縛するのも苦労するじゃろう。
ただ、兄上の勘では体内のマナを使っておらぬ状態で、それ程の仲間を集めておるという様じゃから、人望とかカリスマ性があるんじゃろう。
ヒャッハーな見た目はともかくのう。
「それに迷宮を出た後、此処に来るまで俺の後を付いて来た奴等がいる」
「兄上が最初にこの部屋の防音とか、外からの盗聴対策を聞いて来たのはソレが原因か……自称鈴木の仲間かの?」
「さぁな、そこまでは分からんが、コソコソとしてる辺り、碌でも無い相手なのは確実だろう」
そこまで言って兄上が椅子から立ち上がる。
ぉ、もう行くのじゃ?
「あ、
兄上の言う通り、『バレットM82A1』はかなり強力な銃じゃが、正直に言えば使い道なんて無いからのう。
対人戦でなら使い道はあるんじゃろうけど、魔獣や魔物相手じゃと、通用するのはオークくらいまでで、恐らくじゃが、ナイトとかジェネラルクラスになると多分、怯ませる事は出来る程度で通用せんじゃろうな。
そう考えると、件の迷宮に係わっておるらしき転移者って、地球の銃は此方ではあまり通用せぬという事情には詳しくは無いのじゃろうか?
「因みにじゃが、兄上が撃たれたらどうするのじゃ?」
「それこそ目の前じゃ無けりゃ避けられるだろ」
まぁ兄上の身体能力であれば、超至近距離以外なら撃たれたとしても余裕で回避出来るじゃろうし、ヴァーツ殿やノエルも避けられるじゃろう。
そうして、兄上は帰って行ったのじゃが、残された『バレットM82A1』は勿体無いという気持ちも起きず、さっさと分解して金属パーツは保管し、プラ素材は処分する事にしたのじゃ。
まぁ流石にプラ素材を
こうして、ガチャ迷宮の転移者、新たな転移者、兄上を追う謎の追跡者と、考える事が山の様に増えた日じゃった。
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