第231話




 幸太郎から急に連絡が来た。

 何でも、幸太郎の迷宮にやってきた男が同郷かもしれないが、迷宮内では確認出来なかったという事で、追加調査をして欲しいらしい。

 幸太郎は、王都近くにある迷宮の『迷宮主ダンジョン・マスター』であり、私達全員の主人でもある。

 勿論、無理矢理従わされている訳では無く、全員が何かしらの問題トラブルで、家族や仲間から捨てられたり、殺されそうになったりした奴等だ。

 行く当ても無く彷徨っていた所を、幸太郎によって救われ、全員が彼の部下として活動している。

 そして、今では幸太郎達が外で活動出来ない為、私達の様な外で活動しているメンバーがいる。

 私はエルフ族のロベリア。

 依頼の途中、予想外の魔獣の群れに襲われ、パーティーを組んでいた仲間に裏切られ、背後から斬られて囮として見捨てられた。

 背中の痛みに耐えながら、必死に戦って何とか切り抜けたが、そこで遂に体力の限界となって、森の中で死に掛けていた所を幸太郎達に助けられた。

 その後、幸太郎達が調べた所、私を裏切った仲間達も、結局は逃げ切れず、森の中で物言わぬむくろになっていたらしい。




「ロベリア、幸太郎様に調べる様に言われはしたが、一体何を調べるんだ?」


「取り敢えず、どんな奴なのか、素行に問題は無いのか、家族はいるのか、まずはそこ等辺から始めれば良いだろう」


 男は冒険者らしく、スライムを倒した時の様子から実力はかなり高いが、投入した硬貨は3枚だけだった事から裕福では無いだろう、と言う話だがどういう事なのか……

 実力が高いという事は、恐らく高ランクの冒険者なのだろうから、かなり稼げている筈なのに裕福では無い?

 よくは分からないが、兎に角、仲間と一緒に王都にある冒険者ギルドに行ってそれとなく調べる事にする。

 実力者であるなら、直ぐに見付かるだろう。


「……ロベリア」


「ん? どうした?」


「……あそこ」


 門を通り抜けて冒険者ギルドに向かう途中、仲間の一人が私の腕をつついて、少し離れた所を見ている。

 ただ、頭を動かさずに目だけを動かし、視線のみで見ている事から、さり気なくその視線の方を流し見する。

 するとそこには、黒の頭髪の後ろ姿をした男が歩いているのが見えた。

 素早く視線を戻し、少しだけ歩いて角を曲がると、直ぐにメンバーを振り分ける。

 私達は5人いるから、3人が情報収集し、2人があの男を追跡する事にする。

 バレてしまっては元も子もないので、追跡するのは、こういった行動が得意な2人に任せる事にした。

 一人は元盗賊シーフで、もう一人は狩人アーチャー


「セリーナ、メラニー、無理はするなよ?」


「引き際は間違えないさ」


「行先だけ確認したら、私達もギルドの方に向かいますね」


 そう言った元盗賊のセリーナが、メラニーを連れて男の後を追いかけていった。

 あの2人なら大丈夫だろう。

 私達はこのまま冒険者ギルドに向かう事にしよう。




 此処のギルドは活気はそこそこあるが、実力者はそこまで多い訳じゃ無いのだが、兎に角所属している冒険者の数は多い。

 だから、僅かな特徴だけで、名前も知らない特定の冒険者を探すというのは、本来はかなり面倒な作業になるのだが、今回はその僅かな特徴がかなり印象的なので、探すのは簡単だろう。

 取り敢えず、受付に向かい、受付嬢と軽く挨拶をし、此処に来た理由を適当にでっち上げておく。

 今回の理由としては、『強い男がいると聞いたので仲間に誘えないか?』という物で、強い仲間を探すのは冒険者であれば当たり前の事だから、怪しまれる事も無い。


「おい、姉ちゃん達、強い奴を探してるんなら、俺とかどうだ!? これでもCランクだぜ!」


「お前はこの前失敗して降格間近だろうが、それなら俺の方が相応しいぜ?」


「酔っ払い共に任せられる訳ねぇだろ、少しは黙ってろよ」


 私が受付嬢に条件を言っていたら、それを聞き付けた酔っ払い共が何故か立候補し始める。

 別に本当に仲間を探している訳じゃ無いが、此処にいる酔っ払い共の実力では、ただの足手纏いにしかならない。


「すまない、少なくとも私達と同ランク程度の腕が無ければ、参考にもならない」


 そう言って私の冒険者カードを取り出して、その場の全員に見せた。

 冒険者カードは、ランク帯によって分かり易い様に素材を変える。

 有名な所では、初心者である最低ランクは木材を加工した物だが、それがやがて鉄、銅、銀や金となっていき、最終的にはオリハルコンやアダマンタイト製となっていく。

 私の冒険者カードは、銀製、これはBランクの証明になっている。

 Aランクになると、本来は金になるのだが、金だけでは柔らかすぎるので、ミスリルを土台にし、そこに金で装飾が施される。

 つまり、私達の仲間になる条件としては、最低でもBランクでなければならない。

 私の冒険者カードを見た酔っ払い達は、そのまますごすごと席に戻って行く。

 随分と行儀が良いな……


「と言う訳で、受付嬢から見て、良い冒険者はいないか?」


「そう申されましても……本人の許可無く冒険者の情報を話す訳には……」


 そう私が聞くと、受付嬢が首を傾げながら答えるが、まぁ教えてくれる訳が無い。

 そんなホイホイ教えていたら、トラブルの元だ。 

 まぁ、聞いて来た相手によっては、拒否出来ない場合もあるだろうが……

 しかし、こういう場合も想定してある。


「すまないが、此処に所属している冒険者の中で、特に強いソロの冒険者に心当たりは無いだろうか? 態々遠くまで来て情報無しと言うのは辛いのでな」


 そう近くにいたテーブルにいた冒険者達に聞く。

 当然、その際には新しい酒を奢る。

 この程度、情報が手に入れば安い物だ。

 当然、酒を奢られた冒険者達は気を良くして口は軽くなる。


「そうさなぁ……デヴィットはまだCだったか?」


「あと少しでBが見えて来たって話だったな、Aならジェレミーの奴がいるが……アイツは固定メンバーだしなぁ……」


 冒険者の口から色々と名前が出て来るが、ソロで強い冒険者と言う条件では早々思い付かない様だ。

 そうしていると、入り口の扉が開いて別の冒険者達が入って来た。


「あー疲れた疲れた。 アリッサちゃん、依頼終わったから処理してちょー」


「はい、お疲れ様です。 それでは、此方に討伐証明の方を」


 チャラい感じの男が受付嬢の前に何かが入った袋を置くと、ヌチャッと音がする。

 そして、処理を待っている間に、冒険者ギルドの様子を見回している。


「なんかいつもと雰囲気違うけど、何かあったん?」


「あーなんでも、そこの嬢ちゃん達がBランクなんだが、強い仲間を探して態々此処まで来たらしいんだよ。 此処にいる奴等は何人か心当たりはあるんだが、ソロで強いヤツってなるとトンと心当たりが無くてなぁ……誰かいたか?って話をしててなぁ」


 酒を奢って貰った冒険者がそう言うと、そのチャラい男が頭を掻いてギルドの中を見回している。

 そして、首を傾げた。


「あれ? アイツは?」


「アイツって誰の事だ?」


「ほら、少し前にルーデンス領から来たって言ってた黒髪の」


「……あーあーあー! アイツか! 確かにアイツなら条件に合うな!」


「それは一体誰なんだ?」


「レイヴンってぇ名前だったな、若ぇのに滅茶苦茶強ぇんだわ」


 そこまで言うと、チャラい男は受付嬢に呼ばれて行ってしまった。

 最低限の情報は手に入った。

 ルーデンス領から来た『レイヴン』。

 聞いた話では、黒髪の様だし、幸太郎にも良い報告が出来そうだ。

 後はセリーナ達の報告を待つだけだが、このままギルドから去ってしまうと合流するのが難しいので、しばらくは酔っ払い達から少しでも情報を集めて待った方が良いだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る