第229話




 その日、Cランクのオーク退治の依頼を終え、王都の冒険者ギルドで報告をする。

 このオーク退治、報酬が金貨1枚と言う破格の安さなのだが、結構人気は高く、争奪戦に発展する事もある程だ。

 何故安いのに人気があるのかと言えば、コレには理由がある。

 オークは買い取り額が高く、肉以外にも色々と使い道があって、持ち帰れば結構な金額になるからだ。

 まぁオークは巨体なので、持ち帰る物を取捨選択しなければならないが、全て持ち帰れば相当な額となる。


「はい、レイヴン様、討伐部位の提出を確認しました。 此方が報酬金となり、買取分は彼方で受け取りとなります」


 受付嬢が木のトレーに金貨一枚を乗せ、買取の分は別室での受け取りとなる。

 コレは単純で、冒険者達によるトラブルを避ける為だ。

 随分と前までは、報酬と買取の額を一緒に渡していたが、新人が偶然高額買取をして、それを見ていた不届き者の冒険者が裏で襲撃をして奪ったり、薬草採取依頼中に別の採取品を手に入れて買取額が上がったら、それに同行していた仲間達とトラブルになって、パーティーが崩壊したりと散々な事があった事から、今の冒険者ギルドでは、基本報酬だけを受付で渡し、買取金は別室で渡す事になった。


「ぉ、レイヴン、また稼いだのか?」


「少しは俺等に酒の一つでも奢ってくれねぇか?」


「バーカ、お前には安酒で良いだろ」


「それよりも、俺等と綺麗所が揃ってる娼館にいかねぇか!?」


 俺が買取金を受け取って部屋から出ると、その場にいた冒険者達が口々に色んな事を言ってくる。

 此処にいる冒険者達は、大体がCランクが殆どだ。

 全員、素行が良い訳では無いが、そこまで悪い訳でも無く、今言っているのも殆どが冗談だ。

 今も冒険者ギルドに併設されている酒場にいて、依頼を終えたりした奴等が、安酒で飲んだくれているのだ。


「真面目に働け、禁酒しろ、娼館には一人で行け、全く酔っ払い共が……」


 俺がバッサリと言い返していると、その様子を見ていた受付嬢がクスクスと笑っている。


「彼等にそんな事を言えるのはレイヴン様だけですよ。 新人は大抵言い返せずにそのまま連れて行かれますので」


「ギルドは止めないのか?」


「冒険者ギルド恒例の行事みたいな物ですので」


 恒例行事ね……

 此処に来た時も酔っ払い共に絡まれたが、手土産にオーガを討伐しておいたのをその場で出したら、まるで波の様に引き下がって行った。

 それ以来、こういった言葉で絡んでくるのはいるが、直接的に絡んでくるのはいなくなったな。


「さて、次の依頼で何か適当なのはあるか?」


「……いや、少しは休みませんか? と言うより、討伐依頼でレイヴン様が戦う様な相手はもうありませんよ」


「何?」


「オーガにオーク、ロックバード、センチネルバグ、フォレストバイパー、コレだけ討伐依頼を熟していたらそりゃ無くなりますよ」


 ロックバードは巨大な鳥だが飛ぶような鳥ではなく、ダチョウの様な駆け回る鳥で、その脚力の蹴りの威力は大木ですら砕く程だが、それにさえ気を付ければ楽に倒せる。

 肉は淡泊で、丸焼きにすると食いでがあり、高級で大きな宿で提供されていたりする。

 センチネルバグは、30センチ程の大きさのテントウムシの様な虫で、強くは無いのだが、その数が問題でほぼ確実に群れている。

 基本的には体当たりをしてくるのだが、二匹がくっ付いて丸い砲弾の様になってくる場合もある。

 外殻が硬いので、鎧の部品に使われていたりする。

 フォレストバイパーは、蛇の魔物で、文字通り森の中にいる大蛇だ。

 ……それ以外に特徴は無い。

 此処の冒険者ギルドに来てから、どんどん討伐依頼を受けていたが、全部消化しちまったか……

 それじゃどうするか。


「暇んなったら、にでも行きゃ良いんじゃねぇか?」


「運試し?」


「少し前からある、近くに出来た迷宮だよ、運が良けりゃ良い物が出るし、悪けりゃってな」


 あぁ、運試しって『ガチャ迷宮』の事か。

 その内、様子見はしようとは思ってたから、丁度良いと言えば丁度良い。

 しかし、此処まで有名になってたのか。


「あ、もし行くなら、ちょっと気を付けた方が良いかもしれねぇけど……まぁレイヴンなら別に問題ねぇか」


 そんな事を言ってるのは、俺に酒を集ろうとした男。

 気を付けた方が良いって言う訳に、俺なら問題無いってのはどういう事だ?


「しばらく前から、変な奴等がいてな、迷宮を占有してる訳じゃ無いんだが、他の冒険者にちょっかいを掛けてるらしい。 後は……ちょっと見た目が独特でな」


「独特?」


「ちょっと説明が難しいんだよな、あの見た目、なんつーか……棘々してるっつーか、尖ってるっつーか……」


 どういう事なのかは分からねぇが、一応気を付けておいた方が良いか。

 取り敢えず、情報提供してくれた礼として、銀貨を一枚投げて渡した。

 銀貨一枚もあれば、ギルドに併設されてる酒場なら十分飲めるだけの金額だ。

 用心して行くか。

 後ろで『ホントに奢られたぜー!』『俺にも一杯飲ませやがれコノヤロー!』なんて声が聞こえるが知らんよ。



 王都から2時間程度の所に、小さな集落の様な物が出来ていて、その中央にその迷宮はあった。

 いつの間にか出現し、発見した時はただの洞窟と思われていたが、それが特殊な迷宮と判明してから、連日、冒険者が訪れる様になり、その冒険者と商品の売買をする為に商人が集まって、今では小さな集落になっているが、正式に集落としては認められていないし、迷宮から魔獣や魔物が出て来る可能性が否定出来ない為、本来は迷宮の近くに集まるのは推奨されていない。

 当たり前だが、そう言った事が起きても対処出来るだけの戦力が集まれば、村や町が出来たりもする。

 ファースの様なエルフ達が住んでいた水晶迷宮の様に、ドワーフの戦士が常駐し、出て来る魔獣や魔物が全て打撃弱点と分かっているなら、村とかも作れるだろう。


 で、だ。

 そんな迷宮に出来た違法集落に到着し、アレだコレだと売り付けようとする商人連中を躱して迷宮に入ろうと思ったんだが……


「テメー、日本人……じゃねぇな、何モンだ?」


 俺の目の前にいる集団。

 分かり易く言うなら、世紀末とかで『ヒャッハー』とか言ってそうな奴等だ。

 モヒカンの髪型に棘付きの肩鎧、革と金属板で作った胸当てや急所を守る部位鎧、武器は片手剣だったりメイスだったりするが、よく見ればボロボロだ。

 成程、ギルドで言ってた『説明が難しい』ってのはコイツ等の事か。

 まぁ確かに、コイツ等を言葉で説明するのは難しいな。 


「何か用か? 俺は迷宮に行きたいんだが……」


「おいおい、俺等の事を知らねぇでダンジョンに行こうってか?」


 別にスライムしか出ねぇ迷宮なんだから問題無いだろ。


「俺等は此処等辺で活動してるチーム『剣の暴風雨ソード・テンペスト』! テメェは実力者みてぇだから俺等の仲間にしてやるよ!」


「結構だ、用事があるから先に行かせてもらうぞ」


 俺がそう言って先に進もうとするが、それを先頭にいた男が遮った。

 見た目はヒャッハーだが、コイツ地球人だな?


「俺はこのチームのトップで『鈴木』ってんだ、俺等の話を断るって事は分かってんだよな?」


「……冒険者同士での私闘は禁止されてる筈だが、それでもやるのか?」


「ツベコベ言わず、従っとけや!」


 そんな事を言って、自称鈴木とやらが殴りかかって来た。

 腰にぶら下げてる剣は、どうやら使わない様だが……


「……遅い」


 殴り掛かって来た自称鈴木の右拳を左手で払い、一瞬で顔面を掴んでそのまま背後にぶっ倒す。

 そのまま地面に力一杯叩きつけても良かったんだが、別に俺には無害だしな。

 自称鈴木はそのまま気絶してしまい、周囲にいたヒャッハー仲間が慌てた様に担ぎ上げてどっかに行ってしまった。

 あの自称鈴木、あの拳の遅さから考えて、恐らく身体強化とかの魔法を使っていない。

 しかし、それでもあれだけの集団を纏め上げられているいるという事は、本人が余程の努力家なのか、カリスマ性が高いのだろう。

 あの馬鹿勇者にも見習って欲しいモンだ。


 そんな事を考えつつ、俺はガチャ迷宮へと脚を踏み入れた。

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