第217話




 さて、新たに授業を始めるにあたり、流石に生徒数が5名では、大教室は大き過ぎると言う事で、学園長に頼んで小教室と言うこぢんまりとした教室に変更したのじゃが、元々は一時的に物を置いておった倉庫みたいな感じになっており、最初の授業を始める前に、そう言った荷物を別の倉庫に運ぶ事になるんじゃが、流石に生徒達に運ばせるのも時間が掛るし、不注意で壊れたら大変な物もあるじゃろうと言う事で、アイテムボックス内に余っておった魔樹トレントの木材と、手持ちの魔石を使って台車を連結させた感じの多脚のゴーレムを作ったのじゃが、見た目はアレじゃな、巨大なムカデっぽくなったのじゃ。

 背の部分に荷物を載せ、クモ吉の糸で固定し、それでカサカサと他の倉庫に移動させたのじゃ。

 ワシが頭の部分に乗って操作しておるんじゃが、遠くにおる他の生徒や教師達が悲鳴を上げて逃げていくのは、まぁ些細な問題じゃ。

 物品保管庫と言う名の倉庫に荷物を安置し、ゴーレムムカデは御役御免となる訳じゃが、こういった荷物運びには最適じゃから、インベントリ内に収納し、後で見た目を少し弄るとするかのう。


「さて、それでは記念すべき第一回の授業となる訳じゃが、コレが前に言っておった魔道具じゃ」


 集まった生徒達に、ちゃちゃっと作った魔道具を手渡し、使い方を説明するのじゃが凄く単純じゃ。

 カチューシャの様な物を頭に装着し、両手首と両足首に付けて、体内の一定量以上のマナを順番に流すと取り付けられておる水晶がピカピカと発光する。

 それだけじゃ。

 まぁ見た目はちょっとアホっぽく見えるのは仕方無いが、慣れれば別に不要になるから、教室内だけで使う予定じゃ。

 現に、渡された魔道具を装着して、男子生徒達は複雑そうな表情を浮かべておる。


「では、全員が装着した訳じゃが、そのまま流転法を維持しつつ授業を始めるのじゃ」


「……コレ、すっげぇツライんだけど?」


「マナを意識しながらマナを動かして、授業を受けるって、すごく難しい……」


 そんな事を言っておるのはヴァルとミニンじゃ。

 マナのイメージは水のように感じるかもしれんが、実はそこまでサラサラとした流動性がある訳では無く、水飴の様に粘性が強かったりするのじゃ。

 まぁそこまでネットネトな訳では無いが、慣れぬうちは難しいじゃろうから、授業は簡単な物から始める事にする予定になっておるから安心せい。

 チッカチッカと輝く水晶を見ながら、初めてやる授業内容じゃが……


「最初の授業じゃが、初歩の初歩、『魔法』と『魔術』の違いからじゃ。 さて、お主達はこの違いが分かるかのう?」


「え?どっちも 同じ物じゃ無いんですか?」


「どっちもマナを使って攻撃したり、補助したりって同じだから一緒じゃ?」


 流転法を維持したまま、カーラとケンが疑問の声を上げたのじゃ。

 『魔法』と『魔術』、この二つは混同されておるが、実は全くの別物なのじゃ。

 それが混同されておるのは、多分じゃがあの教科書も関係しておる感じがするが、何かしらの意図的なモノも感じるのう。

 まぁソレはともかく、この二つの違いじゃが考えてみれば単純なのじゃ。


「どちらも似た効果を得られるのは同じなんじゃが、『魔法』はマナを変換して利用するのに対し、『魔術』はマナを『』を通して利用しておる、という違いがあるのじゃ。 じゃから、『魔法』は完全に術者の力量に依存しておるのに対し、『魔術』は術式を理解しておれば術者の力量は然程関係が無い、という事なのじゃ」


 行使する術者の力量に完全依存しておる『魔法』に対し、力量に依存せず『術式』さえ理解しておれば行使出来る『魔術』、どっちの方が求められるかは一目瞭然じゃが、『魔法』に対して『魔術』は凄く便利に使える反面、その『術式』にも限界があるのじゃ。

 例えば、ワシが使っておるオリジナル魔法である『レールガン』は、複数の魔法を使って構築しておる関係で、『魔術』では再現する事はかなり難しい。

 もし再現する場合、少なくとも『砲身となる重力バレルを空間を固定する』『砲弾となる岩塊を圧縮する』『その圧縮岩塊を撃ち出す為に加速させる』『撃ち出す際に発生する衝撃波を防ぐ防御膜を形成する』と言う工程を『術式』で再現せねばならぬ。

 その結果、複数の『術式』を使う関係でマナの消費量が跳ね上がって、一人で使えるマナの量を超えてしまう訳じゃ。


 難しいが使いこなせれば一流の使い手となる『魔法』と、自由度は低いが使い勝手も良く覚えるだけで使える『魔術』。

 人がどっちに流れるかは簡単じゃな。


「まぁコレは実際に見せた方が早いじゃろうな、まずは『魔法』じゃ」


 まずは、ワシの右の手の平に小さい輝きを放つ『光源ライト』と言う光球を作り出す。


「そして、こっちが『魔術』じゃ。 『我が手に小さき光を』『ライト』」


 左の手の平に魔法陣が現れ、そこから同じ様な光球が現れる。

 どっちも同じ物に見えるが、『魔術』の方が使うのは楽じゃ。

 それと、ワシが『魔術』を使う場合、本当は詠唱は不要なんじゃが、今回は生徒達に見せる為に詠唱をしておる。


「どっちも同じ効果を持つんじゃが、使用するマナの量を増やせば『魔法』の方が光量を上げる事が出来るのに対し、『魔術』の方は、一定量以上のマナを流すと『術式』自体が崩壊してしまうのじゃ」


 そう言いながら、『魔術』の方にマナを送り込んでいくと、光球の光が強くなり始めるが、やがて魔法陣からパリパリと静電気の様な放電が始まっておる。

 それが徐々に激しくなっていくんじゃが、これ以上は危険じゃな。


「さて、ワシの授業では主に『魔法』を中心に教えていく訳なんじゃが、『魔法』にも当然、問題がある訳じゃ」


「……問題……ですか?」


「うむ、それこそさっきも言ったが、術者の力量に左右されてしまうだけじゃなく、本人の『適性』があるんじゃよ」


 前に童女神ジャナリー殿が言っておったが、適性が無い者が無理矢理使おうとしたら、大惨事になってしまう訳じゃ。

 そう言う意味でも、『魔術』の方が安全なんじゃよ。


「じゃから、各々の適性を知らずに『魔法』を使うのは危険じゃから、それも含め、授業をする事になるからのう。 今は兎に角、流転法を自然に出来る様になる事が優先じゃ」


 そうすれば、自然とマナの扱いも上手くなるから、後々が楽になるのじゃ。

 そうして、最初の授業は生徒達の流転法をさせながら、『魔法』と『魔術』の違いを説明した訳じゃ。

 その中で、ヴァルが『俺達の実力は見なくていいのか?』なんて言っておったが、あの教科書での授業と流転法すら出来ておらぬのじゃから、見るまでも無いのじゃ。

 そこら辺を説明したのじゃが、コレに付いては学園側の問題じゃから気にしたらいかんぞ?


 さて、授業を終えたら魔道具は回収するんじゃが、全員、流転法のコツは掴んだようじゃ。

 その状態を自然と行えるようになれば、後は放っておいても体内マナを増やす事が出来る様になるからのう。

 それこそ、慣れれば寝ていようが起きて遊んでいようが行えるからのう。



 そうして授業を終え、ゴーレムの解析を考えながら歩いておったら、バーラード殿に呼び止められ、学園内で不気味な魔虫を使うとは何事かと苦情を受けたのじゃが、アレは荷物を運ぶ為のゴーレムで、別段危険も無い事を説明したのじゃが、まぁ信じて貰えんかった。

 なので、実際にインベントリから取り出したのじゃが、少し動いたのを見ただけで悲鳴を上げて逃げていきおった。

 ううむ、そこまで不気味かのう?

 まぁ気にせんでも良いか、別段害がある訳でも無し、荷物を運ぶのに便利じゃし、その内慣れるじゃろ。

 そう思っておったら、コレムカデゴーレムをギラン殿が知り、荷物運搬用にと自作して使い始めておった。

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