第215話
まさか、教師用の寮の空きが無いとは予想外じゃったが、ワシが寝泊まりする所なぞ後で考えれば良い。
取り敢えず、目下の目的は巨大ゴーレムの調査と、あの学生達の実力をぶっちぎりで強化し、『改革派』の野望をぶっ壊す事じゃが、案内された所は学園で錬金術を教えておる教室がある棟の地下室じゃ。
そこでは、ゴーレムの腕と思わしきパーツが鎮座しており、聞けば他のパーツは、安全の為に別の場所に置かれており、胴体部に関しては教授の一人とカチュア殿が協力し、封印処置を施して厳重に保管されておるらしい。
その腕の前では、バートと若干頭が寂しくなった中年の男が話し合っておる。
「つまり、この腕にある魔法陣は、重量軽減やマナ吸収だけじゃなく、柔軟性を上げる為に別の素材と組み合わせている、と言う事かね?」
「ソレだけじゃない、関節には頑強の魔法陣以外に、素材としてミスリルを中心にした合金にして引き上げている工夫がある」
「バートよ、コレが例のブツなのかのう?」
ワシの言葉で、バートと男が振り返ったのじゃが、男の風体を見る限り、目の下にある隈やら疲れた表情をしておる事から、何日も徹夜しておる様じゃな。
「師匠、いつ来たんだ?」
「ほぅ、貴方が彼の言っていた魔女様ですか、初めまして。 私、この学科で教授を務めております、『ギラン=ファニスター』と申します」
ギラン殿の自己紹介を受けた後、二人と共にゴーレムの腕を見るのじゃが、まぁかなり巨大でかなり精巧に作られておるようで、ガワはかなり荒く作られてもおる。
見る限りでは、素材となるミスリルを中心にした合金は、帝国では産出する
バート達が調べて書き写しておった使用されておる魔法陣を見せてもらったのじゃが、やはり、ワシが魔導拳に使っておった魔法陣と同じ物が使われておる。
シュトゥーリア家の馬鹿共が売ったのか、盗まれたのかは分からぬが、もしも通常兵器まで採用されておったら問題じゃ。
取り敢えず、更に分解して調べようとしたのじゃが、ギラン殿がそれに待ったを掛けたのじゃ。
バートの話では腕だけでなく、腕と脚には面倒な仕掛けが施されており、もう一本の腕はそれに気が付かずに分解したら、腕に刻まれておった魔法陣が全て自壊してしまったらしいのじゃ。
それを受けて調べた結果、腕と脚を不用意に分解しようとすると発動する仕掛けが施されており、それを慎重に調査しながら進めておる為、かなり遅れておるらしい。
成程のう、取り敢えず、
この罠、ゴーレムの稼働中でも作動するかと思ったのじゃが、どうやら停止状態になる事で『安全装置』が外れる仕組みになっており、確実に鹵獲対策として施されておる。
取り敢えず、罠の仕組みは簡単であり、腕の内側の非常に見にくい場所に、ミスリルで線を引いて道が作られており、稼働中は修復されるが、停止しておる最中に切断されると自壊する様になっておる。
その魔法陣同士で繋がっておる場所を特定し、ワシの鞄から取り出した風を装って、インベントリからミスリルの糸を作って取り出し、魔法陣のマナ回路部分を避ける様にしてゴーレムの腕に穴を開け、ミスリル糸を魔法陣同士に繋いでいく。
所謂バイパス、迂回路と言う奴じゃな。
それが終わったら、他にも罠が仕掛けられておらぬか確認すると、まぁ嫌らしい所に仕掛けられておった。
それが、腕の中央にあるパイプ状になっておるフレームの内側のかなり狭い所で、恐らく、魔法陣を刻んだ後に貼り合わせたんじゃろう。
これでは、普通にアプローチしただけでは気が付かぬじゃろう。
しかし、ワシならば問題無いのじゃ。
「ここをこうしてー、ここを繋いでー……ここをこうじゃ!」
ミスリル糸自体を重力スキルで操り、パイプ内の魔法陣に接続して安全に分解出来るようにしたのじゃ。
コレで完全分解しても問題は無いじゃろう。
「見事な腕前ですな」
ギラン殿が感心した様に言うが、コレを作った奴は中々嫌らしい思考をしておる。
しかし、こんな機能があるという事は、胴体部から離れただけで消えそうじゃが……
いや、メンテナンスを考えるなら、コレはこれで理に適っておるのか。
恐らく、この巨大ゴーレムに仕掛けられておる消去トラップは、胴体部や腕や足といった部分ごとに独立しておるのじゃろう。
末端部は簡単にぶっ壊れたりするから、交換する度に魔法陣が消えておったら面倒になるじゃろう。
そして、どんどん分解していくんじゃが、まぁ普通のゴーレムとは掛け離れておるのう。
普通、ゴーレムを錬金術で製作する場合、ゴーレムの形は全て繋げられた状態で『一体の存在』として作るのじゃが、この大賢者が考えたゴーレムはパーツ毎にそれぞれ部品としての役割を持たせた状態で組み合わせておる。
簡単に言えば、ゴーレムコアがある胴体部以外は、戦地に合わせて自由に交換し、最適な状態で戦う事が可能になっておる訳じゃ。
例えば、基本は人型じゃが、戦場が砂地や悪路であるなら、脚部分を
他にも腕を通常の物から、巨大な大砲の様な物に変えれば固定砲台にも出来る訳じゃが、そんな馬鹿デカい砲ともなると、加工するのにも一苦労じゃろうから、恐らくまだ完成はしておらんじゃろうな。
コレで空でも飛ぶようになったら、ワシ等の様な者以外では手が付けられん様になるじゃろうが、まぁ普通に黄金龍殿達が潰すじゃろう。
こんな発想、『ゴーレムは人型でしか作れない』という考えしかない異世界じゃと、思い付く事も無いじゃろうな。
「それで師匠、一旦バラした訳だが何か分かったか?」
「うむ、まぁ嫌らしい罠の割に、使われとる魔法陣とかはちゃっちい物ばかりで、別段、真新しい技術は使われてはおらん事が分かったのじゃ」
分解吸収の魔法陣はワシが作った物じゃからノーカンとしても、それ以外となると、別に新しい魔法陣は使われておらん。
恐らくじゃが、既存の魔法陣を組み合わせただけじゃな。
「確かに、ここにあるのを見る限り、魔法陣はどれも見た事がある物ばかりですな」
「使われておる素材に関しても、主素材がミスリルの合金じゃが、これも別に珍しい物じゃ無いのう」
「ふむ、それだけを聞くだけなら、『ゴーレムとしては珍しい構造をしている』というだけですな?」
「そうなるのう」
ギラン殿の指示で、分解されたパーツは丁寧に保管し、引き続き調査する事になったのじゃが、ワシ等は次の部屋へと案内されたのじゃ。
そこには天井に巨大なクレーンが設置されており、そこから伸びた鎖には、大量の札が張り付けられた巨大な胴体が吊り下げられておる。
そして、その下には色々な部品が並んでおった。
「ふむ、こっちにはさっきの様な罠は仕掛けられてはおらんのかったのか?」
「えぇ、ただ、胴体部の腹部……例の箱が入っていた場所に、自爆する為の物と思われる魔石が設置されておりましたが、バードラム様とカチュア様が分解してくださいました」
例の箱と言うのは、
報告書を読む限り、外部から生命維持装置の様な物に繋がれ、無理矢理生存状態にされておっただけで、組み込まれておった時点で既に死亡していたのではないか、とは書かれておった。
「……その箱と犠牲者はどうしたのじゃ?」
「犠牲者は簡単に調査をした後、既に弔っておりますが、箱に関しては……」
「ムっさんがベキベキに潰した。 何とか1個だけ残ってるぞ」
何でも、それを知ったムっさんが『強化外骨格』で箱を破壊したのを、バートが『強化外骨格』で取り押さえ、何とか1個だけ破壊されずに残っておるのだという。
まぁ当り前と言えば当たり前じゃのう。
恐らく、ゴーレムが破損して稼働停止した時点で、生命維持装置の様な物も停止しておるじゃろうから、長期間保管する事は出来ぬし、倫理的に保管するのも出来んじゃろう。
取り敢えず、残った箱を見せてもらったのじゃが、やはり、従来の魔法陣を使っておる以外にはあまり目立った点は無く、繋がっておった生命維持装置は栄養剤や血液の様な物を交換する為の物、という事だけが分かったのじゃ。
大賢者、マッドサイエンティストとは聞いておったが、コレは想像以上じゃのう……
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