第212話




 学園の中を、先導役の教師に付いて歩く。

 コレから向かうのは、兵士や騎士を目指している子供が学んでいる『騎兵士科』で、そこにクリファレスの『アレス第三王子』が身分を隠して通学しているらしい。

 一応、第三王子である事がバレない様に、偽装の為の魔道具を身に着けて、髪の色を変えているらしいが、俺が見たのは、進藤達と共に脱出した時が最後だから、どんな風に変えたのかは聞いていない。

 そして、何故に学んでいるのが『騎兵士科』なのかと思えば、彼の職業クラスが『聖騎士』だったからで、それを活かす為、この『騎兵士科』を選んだらしい。

 偽名として今は『クレス』と名乗っており、実力的には中堅の上位らしい。



 そして通されたのは、体育館の様に広い場所で、その中央で50人程いる中学生程の男女が、木剣の素振りをしており、数名の教師らしき大人が、そんな生徒達の姿勢を直したり振り方を指示している。

 そんな教師の中に、俺が見知った姿を見掛けた。

 此処まで案内してくれた教師が、そんな教師陣の所に歩いていって何やら話すと、その教師が一人の少年を呼んで此方に歩いて来た。


「進藤! 無事だったのか!」


「ア……クレス様、御心配をお掛けしました」


 進藤が本名を言いそうになって、慌てて言い直した。

 クレス王子の見た目は、細身に茶髪、青い目をしており、最初に見た時に比べれば、この学園で鍛えられた事で細身であっても筋肉がしっかりと付いている。

 取り敢えず、この場で色々と話して聞かれてしまうと問題もあるので、別室を用意して貰って、進藤達はそこで話す事となる。

 で、俺はと言うと……


「師匠! お久し振りです!」


「久し振りなのはともかく、何故、ノエルが此処にいるんだ?」


 何故か、教師陣に交じって、ノエルが生徒の指導をしており、俺がいるのに気が付いてこっちにやって来た。

 ノエルが此処にいるのは、カチュアがゴーレムの調査の為に学園にいるので、ノエルも学園にいる必要があり、そのついでと言っては何だが、暇な時に『騎兵士科』で在学生の指導の手伝いをしているらしい。

 元々、彼女は此処の卒業生の一人で、在学中にサーダイン公爵が視察にやって来て彼女の才能に目を付け、卒業前に声を掛け、卒業と同時に近衛騎士団に引き抜かれた。

 なので、彼女の事を知っている教師陣もいたらしく、近衛騎士団にいた経験を在学生に話したり、こうして訓練を手伝ったりしていたらしい。


「成程な、それでここにいるのは分かったが……」


 そう言って、ノエルの背後の方にチラリと視線を向ける。

 そこには、明らかに不服そうな学生や教師、複雑そうな表情を浮かべヒソヒソと話し合う学生達の姿。

 成程、学園長が言っている『改革派』は此処にもいるようだな。

 取り敢えず、ノエル以外はどうしているのか聞いてみると、カチュアは婆さんニカサの補佐兼、バートと共にゴーレムの調査、ムっさんは二人の護衛だが、学園内では基本的にやる事が無いという事で、アレコレと雑用をしているとの事。

 それと、俺達が王都に来るまでにあったアレコレを、学園に来る前に報告した事で、ヴァーツは対応に忙しくなっていて学園にはいない。

 そうしていたら、教師と思わしき一人が此方の方に歩いて来た。

 見た目は軽く日焼けをしたがっしり体型の金髪男で、男性教師用の運動着が小さいのかパッツパツだ。

 それ以外にも、鼻の下にちょび髭があるが、ぶっちゃけ、顔の彫りが薄い上に短髪だから似合ってない。


「オホン、ノエル君、向こうの青年はクレス君に用があるという事だったが……そろそろ此方の青年は誰なのか説明して欲しいのだが……」


「あぁ、タンル殿、此方はレイヴン殿、私の剣の師匠で、凄まじい強さの剣士です」


 ノエルに紹介されたので、一応、軽くだが頭を下げておく。

 ここで何かしらの問題が起きて、俺が学園にいられなくなったとしても、俺は別に学園に留まる必要は無いし、アイツは見た目も名前も偽装しているから問題は無い。

 が、一応、礼儀は弁えなければならないだろう。


「ほぅ、あの才女のノエル君の師! それはとても興味深い事だが、我々が聞いた事が無い名前なのだが本当なのかね?」


「私と同じ実力の者が数人いたとしても、師匠に本気を出されたら、かすり傷一つも付ける事は出来ないでしょう」


 ノエルが自慢げに言っているが、俺の本気を知らないだろ。

 まぁ実際、今まで本気で相手をした事があるのは、教会での肉塊スライムの大元との一戦と黄金龍だけで、それ以外だと、ベヤヤ相手と模擬戦をした事があるくらいだ。

 アイツとは模擬戦すらしていないが、コレは単純に戦い方が違い過ぎるから、俺が本気を出す前に大量の魔法を延々撃ちまくられ、近付きゃ広範囲を吹っ飛ばす様な魔法を使われて擂り潰されるのがオチだ。

 そう考えると、アイツが特別授業をする生徒達は、付いていければ将来有望だな。


「ほうほう、あのノエル君にそうまで言われるとは……それではコレはちょっとした提案なのですが……」


 タンルと言う名の教師の提案は単純な物で、俺とノエルに模擬戦をして欲しい、と言う物だった。

 なんでも、此処の生徒は普段は教師同士の模擬戦を見ているが、それはあくまでもこの学園内の教師の実力でしか無く、実際の実力者同士の模擬戦と言う物を、生徒に見せておきたいらしい。

 今までは、冒険者に依頼を出したり、騎士団から騎士を派遣して貰ったりしていたが、今回は卒業生であるノエルと、そのノエルが絶賛する師匠の俺が模擬戦をしてくれれば、生徒達にも良い刺激になるだろう、と言うのがタンルの考えの様だ。

 俺は別に構わないが、俺とノエルが模擬戦をやったとしても、多分、生徒達には早過ぎて理解出来ないだろうが、だからと言って手を緩めるなんて事はしたくない。

 と言う事で、この場合の最適解はノエルだけでは無く、進藤の奴も巻き込む事だ。

 そして、生徒が壁際に集合したのを確認し、俺達は中央で対峙した。

 俺は生徒が使っていた木剣を一振り適当に掴んで、数回振ってバランスや強度、を確認する。

 流石、一流の学園が使っている物だけあって、十分許容範囲だ。

 木剣を片手に構え、二人に切っ先を向ける。


「さて、それじゃいつもの様に、何処からでも良いから掛かってこい」


「それでは、行きます!」


「待て待て待てぇぇぃ!」


 、ノエルと進藤が剣を構えて突っ込んでくる。

 と思ったら、タンルがいきなり中断させてきた。

 その声で、ノエルと進藤がつんのめる様にして止まった。


「タンル殿、そんな急に止めるなんて危ないですよ。 模擬戦とはいえ、師匠とは本気でやらねば……」


「そう言う事ではない! これは模擬戦なのだからレイヴン君が木剣なのは当たり前だが、ノエル君達は何故を使っているんだ! これは殺し合いでは無いのだぞ!?」


 そう言われ、ノエルと進藤が顔を見合わせ、進藤の奴が『あぁ、そう言う意味か』と呟いた。


「タンルさん、この人相手なら、此方が真剣を使おうが木剣を使おうが変わりありませんから、問題ありませんよ。 寧ろ、此方が木剣なんて使ってたら瞬殺されます」


「師匠の実力を考えれば、そこ等辺の枝でも真剣より危険ですしね」


「……お前等、言いたい放題だな」


「だが、万が一の事があったら……」


 結局、タンルの言い分も確かにあるという事で、最初は全員が木剣を使う事になった。

 それで判断して貰うとしよう。

 改めて、木剣の切っ先を二人に向ける。


「さて、それじゃ仕切り直しだ。 存分に来い」


「行きます!」


 多少離れた所から、ノエルと進藤が木剣を構え、左右から俺の方へと駆けて来る。

 さてさて、進藤はともかく、ノエルの奴は真面目に訓練していたか、確かめるとするか。

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