第201話




 ワシ等は『シャナル』を出発し、王都へと向かっておる。

 何事も順調に進むとは思っておらんが、現在、とある村の一つで立ち往生中じゃ。

 と言うのも、二月ほど前に長雨が続き、更に山から吹き下ろす強風で山頂付近にあったそれなりに大きかった古木が折れ、それが山肌を滑って他の木々を巻き込み、大規模な土砂崩れを誘発し、通っておった山道を封鎖してしまったのじゃ。

 ただ、除去作業は既に半分以上終わっており、今は最終作業と山道の確認をしておる最中じゃ。

 それも一週間ほどで終わるらしいので、迂回せずにここでのんびりしておる、と言う訳じゃな。


「しかし、暇じゃのう」


「渡した資料は読み終えたのか?」


「大体の所はの、まぁ中々に面白い試みだったんだろうじゃが、内容的に実現するのは無理じゃろうなぁ」


 道中、ワシは兄上に頼まれて、合成キメラされた『ゴブリン』と『サイクロプス』を作ったと言う術者の研究室?から回収された資料を読んで、要点や実現可能かの点を纏めた報告書を作っておった。

 この資料と報告書じゃが、王都の冒険者ギルドとかに提出する物らしいのじゃが、魔術的な事は兄上達には分からず、『シャナル』のギルドでも専門的過ぎてお手上げとなった訳じゃ。

 そこで、王都のギルドへと送る訳になった訳じゃが、余りにも資料に纏まりが無いという事で、協力するという形でワシが纏めておる訳じゃ。

 ちゃんと、ギルドからも許可は得ておるから、こうして読める訳じゃな。


 そして、この術者のやろうとしておった事じゃが、内容的には、生物は必ず強固な点と虚弱な点を併せ持っており、別の物同士で合成して虚弱な点を無くそう、と考えておった訳じゃ。

 その第一歩で、魔獣や魔物を合成しておったと言う事なのじゃが、兄上達の話では、術者は人を材料にしておった様な事を言っておったらしいのじゃが、この資料を見る限り、それは不可能な事じゃな。

 まず、人族や魔物、魔獣にはそれぞれ火や水と言った属性以外にも、プラスやマイナスと言う感じのみたいなモノがあるのじゃ。

 人族はプラスであり、魔獣や魔物はマイナスである為に、普通に合成したのでは対消滅を起こして体を維持出来ぬ訳じゃが、別のを合成に混ぜる事で維持出来る様にしようとしておった様じゃ。

 簡単に言えば、水と油を混ぜるのに中和剤として石鹸を使う様な物じゃな。

 そんで、まだ人族魔獣を合成するには、その中和剤石鹸が見付かっておらぬから、合成されておらぬという訳じゃ。

 で、兄上達が最後に戦ったサイクロプスじゃが、サイクロプスをベースにして、そこに複数の魔物を合成したのじゃが、追い詰められた事で魔物本来の生存本能が刺激され暴走を起こし、異常再生状態となって、合成されておった魔獣の特徴が出た訳じゃ。

 本体から切断された部分が残っておったから、兄上が回収しておったので軽く調べた結果、これはワームの一種で体液には強力な治癒能力を増幅する効果があり、その治癒増幅能力で、サイクロプス自体の回復力を上げておったのじゃが、そのせいでダメージを受け続けた事で再生能力が異常に増進して暴走、このワーム種がサイクロプスの肉体から独立して再生されてしもうた訳じゃ。

 結果的に兄上が倒した訳じゃが、その代償が一振りしかない剣を失うという事なのじゃが、兄上に頼まれてワシのポーション師の能力で再生しようとしたのじゃが、無理じゃった。

 と言うのも、兄上の使った『遍理絶アマネダチ』はこの世のことわりすら絶ってしまう代わりに、代償として、使用した剣もこの世の理から外れてしまう。

 つまり、と言う状態になっておる。

 流石にワシのぶっ壊れ能力でも、存在せぬ物にポーションは使えぬのじゃ。

 まぁ、もしかしたら、将来的にはどうにかなるかもしれぬと言う事で、保管はする事になっておるが、望みは薄いじゃろうなぁ。


「それで、こんな所で足止め食ってる訳だが、迂回しなくていいのか?」


「まぁ大急ぎと言う訳でも無し、普通に待っておれば開通するのじゃから、態々迂回する必要も無かろう。 それに、アレを見ておるとのう……」


 ワシの目の前にはソレなりに大きい川が流れておる。

 この川、水深はそこまで深い訳では無く、流れは緩やかで一番深い所で30cm程度しかないのじゃが、この川ではとある魚が手に入るのじゃ。

 その中須付近にある石がゴロゴロとある所で、ベヤヤが箱を水中から持ち上げて軽く振っている。


「グ、ゴァ(ぉ、入ってるな)」


 ベヤヤが箱を持ったままこっちに戻ってくると、ワシの目の前に置いてあったでっかいタライの一つに、箱の蓋を開けて軽く振って中身を落とした。

 ベチャリと言う粘っこい音と共に落ちたのは、ぬらぬらと粘々した粘液と黒々とした体表に、細長い魚体を持った魚。

 ぶっちゃけ、ウナギじゃが、地球にいる様なウナギでは無く、オオウナギも真っ青と言う感じの巨体なのじゃ。

 何せ、長さは頭から尾の先までで2メートル程もあり、胴体の一番太い部分は大人の太腿くらい太い。

 コレだけ大きいと凄く喰い出もあるじゃろうと思ったんじゃが、地元の村人の話では、獲れても穴掘って捨てていたらしいのじゃ。

 何でも、食べれぬ事は無いが、凄まじく泥臭い上に、ヌメヌメした粘液のせいで食感も悪い上に、小魚や川海老用に仕掛けた罠が粘液でドロドロにされて使い物にならなくなり、オオウナギが入ってしまうと、その巨体のせいで他が獲れなくなってしまうのじゃ。

 と言うか、ワシ等が山道が一週間程度で復旧すると聞いて休憩しておったら、村人が穴掘って捨ててる場面に出くわしたんで知った事なのじゃ。

 因みに、村人から聞いたのじゃが、このオオウナギはその泥臭さから『泥魚ドロウオ』と呼ばれておるらしい。

 一応、それ泥臭さを我慢すれば食えぬ事は無いので、飢饉の際には我慢して食べておったから、飢えぬ事は無かったので、栄養価としては高い事は知っておる様じゃ。

 それを聞いて、穴に捨てられたウナギは全て譲って貰ったのじゃが、全部時間が経ち過ぎており、流石に食用には不向きじゃったので、こうして川に罠を沈めて、その餌として使う事にしたのじゃ。

 多分、その泥臭さは所謂『泥抜き』をしておらんからじゃろうし、粘液も『ぬめり取り』をすれば問題は無いと思うのじゃ。

 そこら辺を説明しようとしたのじゃが、ワシが内心喜んでおったのを察知したのか、料理熊ベヤヤが早速と箱型の罠を使ってウナギを集め始めたという訳じゃ。

 一応、小さいのは逃がし、オオウナギサイズだけを集めておる。

 そして、一つのタライにはオオウナギが5匹入っておる状態じゃが、入れた瞬間はウネウネとしておるが、しばらくすると大人しくなる。

 コレでオオウナギは十数匹集まった訳じゃが、泥抜きは4日から一週間はする必要があるのじゃが、今回は4日で試す事にしておる。

 まぁ4日で駄目じゃったら一週間で試せば良かろう。 

 そんな事を考えつつ、最初に入れたタライの中の水が濁っておるので、新しい物に交換する。

 と言っても、中央にある栓を引き抜いて水を抜き、新しい水を注ぐだけなのでお手軽じゃ。

 本当なら水を掛け流すような方法をすれば楽なのじゃが、流石にコレだけの為に魔道具を作るのもアレじゃし、今回はお手軽な方法を取ったのじゃ。


 さて、それじゃこのウナギを料理するとしようかのう。

 まぁやるのは料理熊ベヤヤじゃがな。

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