第200話




 『シャナル』に帰還し、仲間は重傷者と共に治療院へ、俺は冒険者ギルドに向かう。

 ギルドに入って直ぐに『受けた依頼で緊急の報告がある』と受付に伝え、ギルマスに面会を頼む。

 元々俺達が受けた依頼は、『森に現れたゴブリンの調査』だったが、想定外の事が起きていた。

 そして、受付嬢に案内され、ギルマスのいる部屋へと案内された。


「緊急の報告があるとの事だが、何があった?」


 ギルマスであるダストンが、机に積み上がった書類を脇にどかし、そう聞いてくる。

 かなりの量があるが、今回のはそれを後回しにする事になっても、優先すべき案件だろう。


「良い報告、悪い報告、凄く悪い報告がある。 まず良い報告だが、森のゴブリンはそこまで数は多くないようだ。 トウランの話じゃ、30匹前後の小規模の群れらしい。 で、悪い報告だが、森に講習を受けてない初心者が入り込んで重傷者が出た。 マリー達が治療院に連れて行ったが……俺の見立てじゃ、多分再起不能だな」


 俺の言葉で、ギルマスは最初は安堵した様子だったが、重傷者が出たという話を聞いて頭を抱えている。

 まさか、初心者講習の義務化を止めた途端、こんな問題が起きてしまったのは大問題だ。


「……やはり、講習は義務化しないと駄目だな……それで? 凄く悪い報告とはなんだ?」


「………入り込んだのは3人パーティー、二人は見付かったが、一人は行方不明、しかも、保護した一人に聞いた所によると、行方不明になってるのはクレーブランド家の次男坊らしい」


 それを聞いたギルマスが額に手を当てて天井を見ている。

 クレーブランド家と言うのは、このルーデンス領とは別の領にあるかなりに大きい貴族家の一つだ。

 しかも、バーンガイアにおける小麦供給の大元でもあり、大半の貴族は、刺激すると小麦の供給を絞られてしまうとして恐れている貴族家でもある。

 そんな家の次男が森の中で行方不明。


「何でよりによって、此処ルーデンス領に来て登録してんだよ……あそこで登録出来る様な冒険者ギルドは『ミルヴァ』だった筈だろ」


 ダストンの嘆きも理解出来る。

 貴族でも冒険者として登録する事はよくある事で、大半は箔付けや、子供の腕試しとして登録したりするのだが、普通はその貴族家がある領で登録するものだ。

 クレーブランド家は、ルーデンス領から二つほど離れた領である『ミルヴァ』にある。

 それなのに、何故かここまでやって来て登録するなど、普通なら考えられない事だ。


「その場で探そうとも思ったんだが……重傷者がかなりヤバかったんで、止むを得ず戻ったんだが……どうするんだ?」


「ん? そんなんほっとけ。 死のうが怪我しようが覚悟の上で冒険者になったんだろ、そこまで冒険者ギルド俺等は面倒見切れねぇしな。 偶然、見付けて助けられれば助けるだけで、貴族のガキだからって態々探すなんて事はしねぇよ」


 人が余ってんだったら別だがな、とダストンが言うが、『シャナル』のギルドは活動を始めてそれ程、時間が経っていない為に所属している冒険者の数は少ない。

 それこそ、俺等の様なCランクやBランクは僅かに所属している程度で、登録している大部分はE・Fランクだ。

 まぁ、『鬼軍曹』みたいなランク詐欺な冒険者もいるが、とてもじゃないが森の中で探索させる実力を持った奴等はいないし、大抵の低ランク帯の冒険者新人は町の中や草原での簡単な依頼で手一杯だ。

 これが王都や領都であるなら、新人を脱したDランク帯の奴等が多くいるから人海戦術も出来るんだが……


 結果から言えば、この後、緊急討伐依頼が出され、俺等や次の大型討伐を終えればBランクになる予定で新人講習を担当していたアルカイド達が一時中断されて集められ、合同で森の中に潜むゴブリン共を殲滅する事になった。

 討伐したゴブリンの数は二日で38匹になり、太い木の枝を組み合わせ、木の葉で覆っただけの簡易的な小屋が出来つつあったことから、放置していたら大規模な群れになっていただろう。

 その後、複数のパーティーの斥候が周囲を調査したが、新しい痕跡は発見出来なかった為、ゴブリン討伐は終了となった。


 そして、行方不明になっているクレーブランド家の次男坊だが、討伐作戦が終了し、斥候達が周辺の調査をしている僅かな時間で、ついでに探索もしたのだが発見出来なかった。

 その最中、不自然な戦闘跡らしきモノを発見したが、その次男坊がゴブリンと戦った痕跡なのか、何かとゴブリンが戦った痕跡なのか区別がつかなかった。

 何せ、そこにあったのは抉れた地面と、何かギザギザな物で削り取られたような木の幹があっただけだ。

 この場所を地図に記入し、ギルドに戻ったら報告してギルマスの判断待ちだな。

 そうして、俺達の依頼は終了となった訳だ。




 薄暗い馬車の中で目が覚めるが、若干、頭が痛い。

 外からはギャハハと下品な笑い声が聞こえて来て、思わず身じろぎするが、両手両足が縛られていて身動きが取れない。

 そして、思い出した。

 あの森の中、脱出する為に歩き回っていた所、冒険者と思わしき一団に遭遇し、助かったと思って近付いた所、いきなり攻撃を仕掛けられ、慌てて防御したが、その中にいた仮面を付けて一際巨大な剣を持った奴の突きを受け、吹っ飛ばされて気絶してしまった。

 そして、気が付いたら、武器も鎧も奪われて両手両足を縛られていた。


「……にしても、今回は良い収入になりそうっすねぇ」


「だなぁ、帰りにイキの良い奴も手に入った事だし、こりゃ当分遊べるな」


「クソ、だからって手が出せねぇのがツレェなぁ……」


「おいおい、アレはガキだし男だぞ?」


「いくら溜まってるからって、ありゃねぇだろ」


 そんな言葉が聞こえてるが、まさか商品ってのは俺の事か!?

 となると、コイツ等まさか違法な奴隷商と繋がってる盗賊か!

 それを理解した瞬間、俺の頭から血が引いて冷えていく。

 このままだと、俺に待っているのは破滅しかない。

 この国バーンガイアでは、奴隷を持てるのは国だけで、個人で奴隷を所有する事は禁止されている。

 身分がしっかりしていたり信頼されていれば、一時的に借り受ける事は出来るが、所有は禁じられている。

 だが、逆を言えば、このままだと個人でも奴隷を持てる国に連れ去られてしまうと言う事になる。


「……どうにかして逃げねぇと……」


 周囲を見回し、何とか縛っている縄を切れる様な物を探すが、ご丁寧に置かれている木箱はガッチリと施錠されていたり、短剣みたいな物は置かれていない。

 苦し紛れに木箱の角にこすりつけてみるが、丁寧に削られていて傷すらつかない。

 しかも、脚の方は縄じゃなくて鎖だから、解く事が出来ない。


「そんな事しても無駄だぞ、その縄も強化してあるからな」


 その声に慌てて顔を向けると、そこにいたのは俺を吹っ飛ばした仮面を付けた奴だった。

 バレた!?


「そんな馬鹿でかい音をさせてりゃ誰だって気が付く。 明日には買い手も付くんだ、大人しくしてろ」


「ふざけるなっこの俺を誰だと思ってる! さっさと解放した方が身のためだぞ!」


 俺が行方不明になったと知れば、親父達が黙っていない。

 そうなれば、必ず探索されて、コイツ等のやった所業もバレて全員極刑になるだろう。

 そう言ったら、仮面の男も、その後ろにいた奴等も何故か笑い出した。


「何が可笑しい!」


「いや、何、本当に、この国の貴族は能天気ばかりだと思ってな」


「ヒィーヒィー、ハラいてぇ!」


「俺等みたいなのが、こうやってをしてる時点で、脚が付くような事してる訳がねぇだろ。 今回だって見付かる訳がねぇんだよ」


 仮面の男が腹を押さえながらそう言った後、『んじゃ俺達の痕跡を消して直ぐに移動するぞ、ゴブリンを倒す為の討伐隊も来るだろうしな』と指示を出している。

 その指示で、男達が鋸の様な剣で木の幹を削ったり、鞭の様な物を使って、焚火の燃え跡や地面を叩いて抉ったりしている。

 それらの作業を素早く行った後、何人かは馬車に乗ったり、併走しながら森を抜ける。



 馬車はこの後、国境を越えるのに関所へは向かわず、全く別の場所から国境を越えて行った。

 その様子を見る事が出来れば、全員が手馴れており、何度も利用している事が分かっただろう。

 だが、その様子は誰にも見られる事は無く、どれだけの人数が被害にあったのかは不明となっている。











~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


-200話だけど、後半はクッソ重いわね-


-儂達も下界には手出し出来んしのう-


-ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。 今後もまだまだ続くので引き続きよろしくお願いします!-


-だから、アンタは誰なのよ!?-

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る