第197話
草原での薬草採取を終えて、俺達は森の手前に来ていた。
周囲は暗くなり、ちらほらと町に戻って行く冒険者の姿が見える。
『シャナル』でも、安全の為に夜の間は扉が閉まって緊急時以外では開く事は無く、夜で出入りする場合は扉脇に併設されている小型の扉を使っている。
それを見ながら、俺達はそのままその場で野営の準備を行う。
流石に暗くなった今から森に入る事はしない。
テントを張って、3人で見張りを交代でしながら朝を待つ。
結局、襲撃は受けず、朝を迎えて野営道具を片付ける。
簡素な食事を済ませ、俺達は森の中へと足を踏み入れた。
冒険者ギルド訓練場。
そこでは、今回の初心者講習の為に集まった新人達が、各自の講師から色々と話しや対処法、注意点を聞いていた。
「つまり、武器は色々と持ってた方が良いと?」
「例えばだ、君の武器はロングソードだが、それは広範囲を一気に殲滅出来たり、多くの相手を相手にする事が出来るが、それしか持っていない状態で、もしも、狭い路地や天井が低い場所、障害物が多い所で戦うとなったら、どうやって戦う?」
「えっと、仲間に頼る、とか?」
「ハハハッ、それも確かに正解だ。 だが、仲間に頼ってばかりじゃ駄目だろ? そうなった時、予備の武器として、間合いの短い武器を一つは持っておくのさ。 俺もいくつか予備武器は持ってるぞ」
「もし、予備武器がない場合はどうしたら?」
「撤退する。 俺の腕じゃそんな器用な戦い方は出来ねぇし、そこまで自分の腕を過信してねぇ」
既に昼間だというのに薄暗い森の中を進む。
目的のゴブリンは見付けていないが、それ以外の魔獣とは何度か戦闘をしている。
「雑魚ばかりだな……」
ライザが槍を振って、串刺しにしたパイクラビットを捨てる。
こんな森の中じゃルーアの弓は役に立たないから、彼女は暇そうにしてるが、一応、何時でも攻撃出来る様に矢は番えている。
俺も剣を振って攻撃したが、木が邪魔して攻撃しにくいったらありゃしねぇ。
「アッシュ様、ゴブリンの痕跡すら見付かりませんね」
ルーアの言う通り、普通なら獣道くらいはあっても可笑しくないのに、未だにそれすら発見出来ていない。
そうしていたら、いきなり低木の影からパイクラビットが飛び出してきたので、慌てて剣を振り抜こうとしたが、剣先が木の幹に引っ掛かってしまい、パイクラビットの角が俺の腹部に突き刺さった。
「「アッシュ(様)!」」
ライザが槍で俺の腹に刺さったパイクラビットを弾き飛ばしたが、俺自身に怪我は無い。
ルーアが慌てて駆けよって俺の腹を確認するが、親父が大金注ぎ込んで用意させた、この鎧のお陰で傷一つないぜ!
その後も、パイクラビットとノードラット程度にしか出会わず、森の中を探し回ったが、結局、夜になっても見付から無かった。
「仕方ねぇ……野営するしかねぇな」
「アッシュ、あっちに野営出来そうな場所があったぞ、多分、別のパーティーが使った場所だろう」
「え、森の中で野営ってしたら駄目なんですか?」
「……絶対に駄目という事じゃない、駄目じゃないが少人数とか1パーティーだけなら、まず避けなければならないというだけだ。 管理されてない森と言うのは想像以上に見通しが悪い上に、忍び寄って来る魔獣や魔物を事前に察知するのは難しい。 それが夜にともなれば猶更だ」
「それじゃ、もしも森で野営する場合、どうしたら?」
「……止むを得ない場合を除き、もしも森で野営するなら、絶対に火は焚かない、料理はしない、眠らない、最低でもコレを守らなきゃならない。 火は相手にいる事を知らせ、料理は匂いで場所を知らせ、眠れば襲われる事になる。 それに、野営する場所も重要になる。 森の中にある開けた場所、川や崖の近く、洞窟や洞穴は避けた方が良い」
「川とか崖は分かりますけど、開けた場所とか洞窟とかも駄目なんですか?」
「洞窟や洞穴は単純に奇襲されたら逃げ場が無い。 開けた場所は一見すると安全に見えるが、開けているという事は『相手からも見える』と言う事だ。 感覚的な事だが、俺達はどうやっても森の中では魔獣や魔物に比べて感覚は劣る。 エルフくらいになれば察知出来るんだろうが……」
テントを張り、夕食を済ませた後、交代で見張りをしているが、偶にガサガサと何か音がするのを毎回確認するのが面倒で仕方ねぇ。
ゴブリンが襲撃しようとしてるのかと思ったが、何もねぇから野生動物か?
結局、朝まで碌に眠れないまま朝になり、テントを片付けて、再び森の中を歩く。
そうして、遂に見付けた。
「……数は3体か」
「見た限り、武器も持っていない、即行で片付けられるか?」
「それじゃ、私は右のを狙います」
ルーアが右、ライザが左、俺が中央のゴブリンを速攻で仕留める事を決め、全員がタイミングを合わせて茂みの中から跳び出し、一気にゴブリンに接近、俺は剣を振り下ろして中央のゴブリンを肩口から一気に斬り捨て、ライザは一突きで頭部を突き抜いている。
だが、ルーアの矢がゴブリンの肩に刺さり、一撃で仕留められなかった。
矢が刺さったゴブリンが『ギャァ!』と叫び、俺達を見て逃げ出してしまった。
「下手糞! 追い駆けろ!」
ルーアが次の矢を放つが、木々に邪魔されて一向に当たらない上に、その木々が邪魔して俺達も追い付けねぇ。
クソッ!
「アッシュ! 離れ過ぎだ!」
ライザがそんな事を言ってるが、付いて来れねぇのが悪いんだろうが!
それに、もしもゴブリンを見失えば、また探さなきゃならねぇだろうがよ。
そして、遂にゴブリンが木の根にでも引っ掛かったか転倒した。
チャンスだ!
慌てて起き上がろうとしたゴブリンに向けて、一気に剣を突き出し、背後から首を串刺しにした。
「手間取らせやがって……」
剣を引き抜いて血糊を飛ばし、鞘に戻す。
その背後から、ライザと息を切らしたルーアが合流する。
結構森の奥に来ちまったな……
「さっさと討伐証明を剥ぎ取って戻るぞ、3体もいれば……」
そう言った瞬間、俺の足元にドスッと矢が突き刺さった。
慌てて周囲を見れば、俺達を取り囲む様に、茂みの中や木の上にゴブリンが大量に武器を構えていた。
「なっいつの間に!?」
「アッシュ! こっちだ!」
俺達が来た道は、まだゴブリンがいない。
ライザに言われるまでも無く、此処は一旦体勢を立て直す為に引くしかない。
流石に、囲まれていたら俺でも対処出来ないからな。
だが、ゴブリン共が大人しくそれを見ている訳も無く、無数の矢が降って来た。
「クソクソッ!」
飛んでくる矢を躱し、何とかライザ達の所に戻るが、事態が好転した訳でも無く、ゴブリン相手に逃げる事になった。
だが、逃げた先でもゴブリンが現れ、後ろからもゴブリンに追われる事になって、進行方向を変えながら森の中を走って逃げる。
数体しかいなければ斬り捨てるが、その数が異常だ。
明らかに大きな群れが出来ている。
「ハァハァ……何とか……撒いたか?」
息を切らし、後ろを見れば、アレだけいたゴブリン共は既にいない。
だが、俺達の消耗具合は酷い物だ。
俺の剣も鎧も汚れてボロボロになっているし、ルーアの矢は既に無くなり、ライザも何とか槍を杖代わりにして立っているような状態だ。
今回はこのまま戻るしかねぇな……
そう思っていたら、ライザの奴がその場で膝を付いた。
あ? どうした?
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