第196話




 冒険者ギルドには、必ずと言って良い程、郊外に訓練用の広場が存在する。

 郊外にある理由としては、冒険者が簡単な訓練をしたり、模擬戦をする際、近隣住民に被害が出ない為の配慮からだ。

 前はギルドの隣とかに併設されてたらしいが、魔法を使用する際、初心者とかがコントロールを誤ってあらぬ方向に向けて放ってしまって被害が出る可能性と、もしも一般人に人的被害が出たら大変な事になるから、この形になったらしい。

 『シャナル』の冒険者ギルドの訓練場も、町の外れの方に作られている。

 普段は、別の奴等が使ってるんだが、今日から一週間程は講習の為に貸切状態となっている為、誰もいない。




「さて、それじゃ始めるが、まず、今日は時間も時間だからな、まずはここシャナルだけでの独自の仕組みを教えるからよく聞いとけよー。 武器だけ用意した奴等だが、その状態じゃ外に出す訳にはいかねぇから、ギルドが簡易防具を用意してくれるんで、何をするにしてもソイツを借りてからだ」


 俺の言葉で武器しか持ってなかった奴等が顔を見合わせている。

 勘違いして欲しくはねぇから、ちゃんと説明すると、この『シャナル』では多くのドワーフが関わっている為に武器や防具の供給が比較的安定し、その弟子達が作った物もそれなりの品質を保っている。

 ただ、店で売りに出す品質では無いんで、作っても売れず、かと言って作らなきゃ腕は上がらず、今までは作った後は処分したりするしかなかった。

 そこに目を付け、格安で提供して貰い、訓練場で新人が使用する防具として利用させて貰ってる訳だ。

 当然、利用すれば利用料金は発生するが、ぶっ壊しても弁償する必要も無く、利用料金も銅貨数枚とかそのくらいしかしない。

 そうして訓練し、ギルドが品質的に問題無い物と判断した防具を身に着けて、採取依頼とかを受け、ちゃんとした防具を購入する訳だ。

 他のギルドじゃやってないから、コレは知らなくても仕方ねぇ。


「で、訓練場での注意点だが、当たり前だが普段は他にも利用してる奴はいるから、そいつ等の邪魔になったり、妨害をしたりは厳禁だ。 他にも、馬鹿に威力が高い魔法とかスキルを使うのも駄目だぞ、そんなん使ったら、地面がボコボコになって迷惑になるからな」


 因みに、ここのギルドが正式稼働した際、訓練場でもイキり散らそうとした馬鹿共が『俺等の強さを見せてやるぜ』なんて言って大暴れし、地面は穴だらけ、壁もボロボロにした事件があった。

 管理してたギルド員が制止しようとしたが、ランクを盾にして聞こうともせず、ギルド員が困っていた所に鬼軍曹が居合わせ、『それだけ元気が有り余ってるなら、特別依頼を熟すのにも問題無いな』と言って全員を相手に瞬殺し、全員を引き摺って食糧確保の為の『特別依頼』に連れて行ってしまった。

 ボロボロになった訓練場は、鬼軍曹の妹とか言う小さな少女と、白いエンペラーベアがあっという間に直してしまい、それ以降も、イキリ散らしている馬鹿共は鬼軍曹に叩きのめされて、『特別依頼』に連れて行かれる事が続いた所、そう言った馬鹿は現れなくなった。


「単刀直入聞きますけど、どうやったら強くなれますか?」


 そう聞いて来たのは、比較的小柄だが、革鎧に剣と盾を持っている赤毛の少年。

 ド直球な質問だが、強くなる方法ねぇ……


「強さの基準にもよるが……まぁ戦えるって意味の強さなら、一応はある。 個人的には絶対にオススメはしないがな」


「どういう事すっか?」


「なぁ、鬼軍曹は?」


「別に隠す様な事でもありませんので、彼ならギルドからの依頼で、妹さんと一緒に王都に向かいました」


 受付嬢の答えを聞いて、その赤毛の少年を見る。 

 そう、オススメしないが、戦えるという意味で強くなりたいというなら、鬼軍曹の訓練に参加すれば良い。

 最も、俺達もその訓練を一度見た事はあるが、『剣聖』と言う職業クラスの青年が毎日ボロボロになる程、キツイ訓練だ。

 付いていければ強くなれるだろうが、多分、新人じゃ一日で脱落するんじゃねぇかな。


「……取り敢えず、強くなるのに簡単な道はねぇよ。 鬼軍曹曰く『悩んだら剣を振れ』『相手は常に自分の上をいく』ってな。 それじゃこの後は各職業の講師から話を聞いてくれ。 剣士系は俺が担当、魔法系はエレナ、斥候系は……」


 俺達が講師に選ばれた理由の一つに、メンバーが基本的な職業を揃えていたという点もあったらしい。

 そうして、その場にいた新人達を振り分けて、それぞれが基本的な事や覚えておかねばならない事を教えていくのだ。


「まぁ予想はしてたが、剣士系統は多いよな……」


 俺の前には10人いる。

 エレナの前には6人だが、斥候や弓士、錬金術は一人ずつしかいなかった。

 まぁ一人なら専属して教えられるから良いんだろうが、ちょっとこの偏りは問題だな。

 コレばかりは嘆いても仕方無いが、後でギルドに言っておくか。


 そうして、俺とエレナは若干忙しい講習会となった。




 冒険者ギルドの依頼ボードから、簡単な依頼の一つを剥がして受注して町の外に来た。

 今回の依頼は、『薬草の採取』だが、俺達の目的は別にある。

 実は森と平原の境目辺りで、ゴブリンが数体目撃された為、詳しい調査が必要だと判断されていたが、受注可能ランクはEランクからで、登録したての俺達はFランクで受注出来ないのだが、何事にも抜け道はある。

 俺達が薬草を採取していたら、ゴブリンに遭遇して退治してしまえば良い。

 そうすれば、ギルドも俺の実力を認め、さっさと上のランクに上げる事になるだろう。

 俺の職業クラスは『閃剣士ラッシュソードマン』と言う、連撃を主体にするかなり強いと言われる職業で、地元で俺に勝てる剣士は殆どいなかった。

 親父からは『天才だ!』と言われ、騎士の家庭教師によって常に訓練を付けさせられた。

 だが、このままだと俺は親父の後を継いで、毎日、サボる農村の奴等を管理する事になる。

 そんて面倒な事はしたくねぇから、こうやって冒険者になって高ランク冒険者になり、金銀財宝、名声を手に入れて、将来は成り上がってやるぜ。


「アッシュ様、勝手に森の中に入ったら拙いのでは……?」


 そんな事を言ったのは、俺の従者で、緑髪を後ろで纏めた『弓士アーチャー』のルーアだ。

 俺の家に仕えている従者の娘で、そのまま俺の従者になった訳だが、腕はそこまで悪くは無い。

 しかし、森の中に入るのに許可が必要なのは、妖精がいる森だけで、他の森なら別に許可は必要ない。


「拙い以前にもう暗くなる。 やはり明日にした方が良いと思うのだが……」


「あのな、俺達の腕ならゴブリン程度問題無いんだよ。 ビクビクしてねぇで行くぞ」


 槍を背負い、青髪を短く切り揃えたのは『槍使いランサー』のライザで、彼女は俺より二つ年上で、本来は冒険者にはならず、俺の家で護衛騎士として活動する予定だった女だ。

 俺のやる事に対して御小言を言う様な女だが、良い体をしてるんで、何時か認めさせて俺の側室にでも、なんて考えた事もある。

 家から出る際にも、親父達からは『ライザの言う事をよく聞いて行動する様に』なんて言われてたが、このパーティーのリーダーは俺で、リーダーの言う事は絶対だ。

 その俺が決めたんだから、二人は黙って従ってれば良いんだよ。


 そうして、野営用の道具を全員が背負い、俺達は薄暗くなり始めた森の中へと足を踏み入れた。

 この行為を一生後悔する事になる事を、この時の俺は全く予想もしていなかった。

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