第193話




「魔女様、心配しなくても大丈夫ですよ」


 ワシの悩んでおった姿を見て、ミアン殿がそんな事を言っておる。


「確かにこの町はまだ出来たばかりで、まだまだ心配される点は多いと思いますが、何時までも魔女様達に甘える訳にもいきませんし、皆、その為に日々訓練と模索をしております」


 聞けば、ワシ達が不在の時を狙って相手が攻めて来た際を想定し、兵士達は作戦や道具を常にアップデートしておるらしい。

 最近では、ドワーフやエルフも防衛に加わる様になり、更にそこに妖精達が協力するようになったらしいのじゃ。

 妖精達は直接戦闘を行う訳では無く、上空から相手の動きを偵察したり、姿を隠して相手の物資を潰したりする役目を考えておる。

 他にも、ドワーフが装備を作ったり、それにエルフが魔法陣を刻んで防衛力の底上げを行い、各種族の代表達が定期的に防衛作戦を想定し、盤上でじゃがシュミュレートしておる。

 そのシュミュレートも、常に『シャナル』側が不利な状況を想定しておるが、例え前回の馬鹿勇者が攻めて来ても、ほぼ追い返す事に成功しておるらしい。


「ほう、それは凄いのう……」


「ヴァーツ様も『常に不利な状況を想定し、兵を動かすべし』と言われておりますし、まだまだ被害は抑えられる筈なので、安心してください」


 具体的にどうやっておるのかは教えて貰えんかったが、恐らく、前線の兵士達が抑えておる間に、超遠距離からエルフと魔術師による絨毯爆撃を敢行するのじゃろう。

 本来ならそんな事をすれば、兵士達も巻き込まれる事になるのじゃが、ドワーフとエルフの合作となる武具によってダメージを最小限に落とす上に、妖精達による高高度偵察によって相手の場所にピンポイントで矢や魔法を落とす事が出来る為に、更に被害を抑える事が出来るのじゃ。

 後でその兵士達に会って聞いたのじゃが、普通、そんな戦術では巻き込まれる兵士達は堪ったものでは無いじゃろうが、自分達が耐えられねば『シャナル』自体が占領され、守るべき者が蹂躙されるとあって、進んで盾持ちに志願しておるとの事じゃ。

 で、問題の馬鹿勇者対策じゃが、何の事は無い。

 魔術師が集合し、ただひたすら広範囲に被害を与える魔法を叩き込みまくるだけじゃ。

 この方法ならば、例え相手が凄まじく強い近接職であっても関係無く、吹っ飛ばされまくって前進する事も出来ぬじゃろう。

 ぶっちゃけ、ワシが兄上に対して行う作戦と同じじゃな。

 まぁ、最近では魔法ですらぶった斬れる剣を手に入れておるから、これでも勝てぬ気がしてきたのじゃが……


 取り敢えず、兄上が戻って来てからじゃな。

 他の問題点としては、王都へ行く方法じゃが、コレに付いてはゴゴラ殿達が試作した改良荷車を使う予定じゃ。

 一応、数台完成して試走はしたらしいが、まだ長距離走行は試しておらぬので丁度良いのじゃ。

 当然じゃが、この改良荷車を引くのはベヤヤの予定じゃ。

 ベヤヤのパワーで引いて壊れる可能性もあるのじゃが、それはそれで改良する点になるので問題は無い。

 それでは、兄上が戻ってくるまでに『魔力阻害症』の実験と、ただの荷車をほろを付けて寝泊まりが出来る様に改造しておかねば。




 そうして実験をしつつ、ゴゴラ殿と荷車を更に改良し、幌を付けるだけでなく、中にベッドや机や椅子を設置して固定出来る様に溝を掘り、使う時には溝に嵌め込んで固定する事で動かぬ様にする。

 本来は馬等が引くので、指示を出す為の御者が乗る部分が必要になるのじゃが、今回引くのはベヤヤじゃから別に指示出しをする必要が無い。

 キャンピングカーみたいなのも考えた事もあったのじゃが、別にワシと兄上にはアイテムボックスがある上に、それなりに裕福な者であれば収納袋も所有しておるんで、必要な道具はそっちに仕舞っておれば良いのじゃ。

 なので、今回必要になるのは移動中の暇潰しじゃな。

 ワシの場合は読書とベヤヤの話し相手じゃが、兄上は座禅して瞑想したり、集中して精神力やマナを鍛えておる。

 今回は長期間の移動にもなるんで、修理用の素材もしこたま補充しておき、ゴゴラ殿にはもしかしたらぶっ壊す可能性もある事も説明した上で、一台を残して三台を提供してもらったのじゃ。

 他にも、エルフの森と妖精の森に赴いて、ワシはしばらくしたら王都に行く為、長期間離れる事を説明し、もしもの時はミアン殿を頼る様に説明し、村長にも何時ものように治療用の傷薬や軟膏を渡しておいたのじゃ。


 そして、ワシの準備が終わる頃、兄上達が戻って来たのじゃが、どうにも様子が可笑しい。

 同行しておった者に聞いたのじゃが、何でも新人が勝手に付いて来て、敵の術者によって隷属されてしまった事を、兄上達が早く来なかったからだと騒ぎ立てた挙句、助けるのが遅れたのだから隷属魔法を解呪する費用を払えと喚いておるらしい。

 当り前じゃが、そんなもん理由にもならぬし、聞けば、そ奴等は講習を受けておらぬらしい。

 冒険者ギルドも聞くつもりは無いらしく、解呪費用は借金扱いとして成功報酬から引かれる事になったのじゃが、ブーブー文句を言っておる。

 因みに、解呪費用は一人に付き金貨で5枚ほどになるのじゃが、その理由が、使う素材が高額なのと術者が大量にマナを消費してしまう為、気軽に何人もやれぬ為、気軽に来ぬ様にという理由があるのじゃ。

 しかし、新人時代に金貨5枚と言うのは、かなりの大金じゃ。

 何せ、駆け出しの新人で受けられる依頼と言うのは、簡単じゃがかなり安い物が多く、得られる報酬は多くても銀貨数枚が限度じゃ。

 前にワシとエドガー殿が、薬草やらなんやらを一時的に高額買い取りしておったが、今では供給が安定し始めておるので、既に止めて様子見しておるから、薬草で稼ぐのは無理になっておる。

 件の新人達はどうするのかと思ったのじゃが、何でも、その若者は故郷の村でもガキ大将だったらしく、二人を無理に冒険者として同行させておったらしい。

 で、今回、解呪するのは二人なのだから借金は二人が払えと言い放ち、遂に二人がブチギレてもう付き合い切れないと大喧嘩を始めたのを、冒険者ギルドのギルマスのダストン殿が強引に止めて鉄拳制裁、パーティーは解散となった訳じゃ。

 若者が一人で別のパーティーに入り、隷属魔法を掛けられていた女性二人は冒険者を引退、一人は冒険者ギルドで働き、もう一人は何と黒鋼隊に入隊して事務業務に携わる事になったのじゃ。

 ただ、若者の入ったパーティーは、今回の件で同じ様に借金持ちになったパーティーと言う点じゃが、『シャナル』では活動しにくくなったのか、次の日には全員姿を消しておったのじゃ。

 何処でどうなろうと知らんけど、碌な事にはならんじゃろうなぁ……




「で、一体どうしたんだ? 何か遠征みたいな準備してたが……」


「うむ、ワシ宛に手紙が届いての、どうにも王都へと来て欲しいらしいのじゃ」


 兄上にもその手紙を見せつつ、今回の仕事内容を説明したのじゃ。

 まぁ簡単に言えば、臨時講師として生徒に教えて欲しい事と、襲撃して来たゴーレムに関しての情報を見て欲しいらしい。

 ワシもゴーレムは気になっておるし、『魔力阻害症』の原因が判明し、対処法が分かった事をニカサ殿にも報告したいのじゃ。

 期間は未定じゃが、半年は戻れぬじゃろうと予想はしておる事を伝えると、兄上が何か悩んでおる。

 と言うのも、剣聖殿の修行がまだ終わっておらぬのに、半年も放置すると修行が遅れて取り戻すのが大変になるらしい。

 なので、今回の件に同行させるべきかを悩んでおるらしいのじゃが、別に同行させても問題無いじゃろう。

 何か変な気を起こしたとしても、容赦無くぶっ飛ばせば良いだけじゃし。

 小屋や畑に関しては、美樹殿と妖精達に様子を見てもらう事になっておる。

 と言うか、妖精達に関しては、ベヤヤがいつの間にやらお菓子で餌付けしておったらしく、ベヤヤの畑を普通に手伝っておる様になっておったらしい。




「では、ベヤヤよ、出発進行なのじゃ!」


「ガァ(あいよ)」 


 数日後、ワシ等は王都へ向けて『シャナル』を出発したのじゃ。

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