第192話
『魔力阻害症』の原因は分かったのじゃが、それを馬鹿正直に報告しても証明出来ぬのでは意味が無い。
そこでまずは、誰でも棘状になっておる『鱗粉』を確認出来る様にせねばならぬ。
ワシがやったのは、スキルである『千里眼』を応用した物じゃ。
通常、『千里眼』は遠くの物を間近に見る事が出来るスキルじゃが、それを手元に限定した結果、まるで顕微鏡で見た様に物を拡大して見る事が出来たのじゃ。
じゃが、コレは顕微鏡の知識があるワシだから出来た事であって、知識も無く、スキルも持たない者からすれば分からぬ。
顕微鏡の構造としては、複数のレンズを組み合わせたものになるのじゃが、このレンズが曲者じゃ。
このレンズじゃが、歪みを限りなく低くして磨き上げねばならぬのでかなり難しい。
じゃが、この異世界にはそう言った事を得意とするドワーフや、手先が器用で小さい魔法陣でも歪みなく刻む事が出来るエルフがおる。
と言う訳で、ワシは報告書を書きつつ、顕微鏡の製作依頼をする為にドワーフ連中が集まっておる工房の一つに来たのじゃが……
「コレは一体何しとるんじゃ?」
ワシの目の前には、工房の中でぐったりしておったり、グラスを前に唸っておったり、奥で固まって何か話し合っておるドワーフ連中の姿。
まぁ、工房内に漂っておる独特な匂いからして、彼等が何をしておったのかは予想は付くのじゃが……
「ん? おぉ、魔女の嬢ちゃんか、今日はどうした?」
そう言ったのは、グラスを前に唸っておったサンボ殿じゃ。
彼はそのままこっちに歩いて来たのじゃが、片手には机に置いてあったグラスを持っておる。
「うむ、ちとある物を作って欲しいと思って来たんじゃが……蒸留装置は順調のようじゃのう?」
「今はエール以外の奴も試してるんだが、味に進展はねぇな」
「まぁワシは飲めぬから味に関しては意見出来んのじゃが、それでは、気分転換に難しい酒にも挑戦してみるかの?」
ワシの言葉で、サンボ殿の目に力が入ったのを感じたのじゃ。
この異世界での酒事情はエールが主流となっており、他にはワインがあっただけじゃ。
そこに、地球での知識を提供した事で、蒸留酒となるウィスキーやブランデー、ウォッカが誕生した訳じゃな。
となれば、元日本人としてはあの酒も造らねばならんじゃろうが、アレはかなり難しいからのう。
まぁ材料は厳密には違うんじゃが、問題は無いじゃろう。
「それはどういった酒で?」
「うむ、簡単に言えば、コワの実を使った酒でのう、先代の残した書には、蒸留せんでも水の如き無色透明の『清酒』とか書かれておったのじゃよ」
「は? 蒸留しないで水みたいに透明な酒だと?」
実は材料の関係で、蒸留せずに色が付かぬ酒と言うのはかなり珍しい。
まぁそれ以外にも、清酒、つまり日本酒はその工程が多い上にすごく難しいのじゃ。
そうそう簡単に完成はせぬじゃろうが、試すのも良いじゃろう。
簡単に作り方の説明はしたのじゃが、ワシもとある漫画で覚えてたくらいで、作り方としてはコワの実を削って、蒸して麹を加えて~と工程が多くかなり面倒じゃ。
それを聞いて、サンボ殿が悩んでおるが、まぁそこは頑張って模索して欲しいのう。
麹に関しては、ワシの方で用意しておくのじゃ。
それはともかく、ワシの描いた顕微鏡の設計図をサンボ殿に見せて、それに使用するレンズを注文するのじゃ。
顕微鏡本体の方は、ファース殿達エルフ衆に頼もうと考えておったのじゃが……
「ん? こんな奴ならもう作ってあるぞ?」
設計図を見たサンボ殿がそんな事を言って、設計図を指でなぞりながら見ておる。
「ふむ? ワシ以外に誰が……」
「ほれ、嬢ちゃんの弟子のミキって娘っ子、あの嬢ちゃんが何日か前に依頼してきたんでいくつか作って届けたぞ?」
聞いて無いのか?と言われたのじゃが、恐らく医療部門開発部で使う為に依頼したんじゃろう。
しかしそうなると、ワシの方でも必要になるので、同じ物で良いのでいくつか作って欲しいのじゃ。
そして、ドヤドヤとドワーフ連中が様々な木々を持って来て、蒸留した酒を寝かす為の樽作りを始めたので、サンボ殿に顕微鏡が完成したらミアン殿の所に届けてもらう様に頼んでおいて、ワシは此処で失礼する事にしたのじゃ。
次にやって来たのは、ミアン殿の所じゃ。
『魔力阻害症』の原因とその予防方法を説明せねば、『シャナル』でも発症する可能性が高いのじゃ。
「この報告書が本当だとすると、かなり拙い事になりますね」
ミアン殿の言う通り、夜に活動する妖精の『鱗粉』が原因である、と言う事だけが広まれば、『夜に活動する妖精を根絶せよ!』なんて極端な主張をする馬鹿共が現れても可笑しくないのじゃ。
なので、確実にその予防方法も広める必要がある
「それを防ぐ為、予防方法を広める必要があるのじゃ。 完全な偶然なんじゃが、『シャナル』ではそれが行われておったので住民が発症せんのじゃが、不安はあるからのう」
「まさか、一定温度以上の入浴が発症を防ぐ予防法と言うのは、予想出来ませんよ」
ミアン殿の言う通り、実は40度以上のお湯に一定時間浸かる事で、『鱗粉』は熱で変質し、まるで砂糖菓子の様にボロボロと崩れて無毒化するのじゃ。
コレはサウナの様な蒸し風呂でも同じ効果を発揮するのじゃが、燃料問題がある為、浴場と同じであまり普及しておらぬ。
じゃが、『シャナル』では、ワシがごり押しした入浴場である銭湯が一般開放されている為、平民であろうが気軽に入浴する事が出来る様になっておる。
その銭湯に使われておる湯を沸かす為の動力じゃが、かなり前にワシとベヤヤで倒したオーク共がおったのを覚えておるじゃろうか?
その中で、一際目立ったオークから入手した魔石をワシがちょこちょこっと手を加えて、周囲のマナを集めつつ、入浴に来た人から多少のマナを分けて貰う事で安く入浴出来るようにして、湯を沸かしておるという訳じゃ。
お陰で、連日銭湯は大賑わいを見せており、同じ様な銭湯を王都でも建造する計画も立っておるらしい。
当然、計画を進めておるのはエドガー殿じゃ。
現在は場所を決めておる最中と聞いておる。
「後はまだ検証段階じゃが、どのくらいの時間で無毒化するのかも調べておるんじゃが、まぁそこまで時間は掛からんじゃろう」
『鱗粉』は日光によって変質して有毒化するのじゃが、その後、更に日光を浴び続ける事で無毒化する事までは分かっておる。
その無毒化するまでの時間を今は調べておるが、恐らく数日もあれば無毒化するんじゃなかろうかとは思っておる。
無毒化するのにそれ以上の時間が必要となると、無毒化するまでに広範囲へと飛び散って発症率はもっと増えておるじゃろう。
兄上が戻るまでは、ワシは実験室に缶詰じゃな。
「それとなんじゃが、ワシと兄上が王都に呼ばれておるんでな、兄上が戻り次第、しばらくワシ等は留守になるんで注意して欲しいのじゃ」
「それは分かりましたが、理由をお聞きしても大丈夫ですか?」
「まぁ学園の方でちょっとの間特別講師をやって欲しいらしくての、期間は分からんが半年くらいは向こうにおる事になるかも知れん」
此処までワシが気にしておるのは、クリファレスの動向じゃ。
しかし、それでも連日
で、今の所はヴェルシュによるゴーレムの侵攻があった事で、バーンガイアに攻めてくるような考えは無い様じゃが、ゴーレムによる侵攻が失敗し、ヴェルシュが沈黙した状態を続ければ、再びバーンガイアへと攻めてくる可能性は捨てきれぬ。
もしも、ワシ等の不在中に攻めて来て、大被害が出てしもうたら後悔する事になる。
何か用意して提供した方が良いのかのう?
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