第191話




 早朝、ミアン殿から大至急来て欲しいと連絡があり、ワシはミアン殿が執務をしておる館に来ておる。

 その場には、ワシとミアン殿以外に、何故かドミニク殿もいるんじゃが、何ぞ問題でも起きておるのじゃろうか。

 そうして、ワシがソファに座ると、ミアン殿が今回ワシを呼んだ理由を説明してくれたのじゃ。


馬鹿密猟者共が『魔力阻害症』を発症したと?」


「あぁ、それも一人や二人じゃねぇ。 向こうに送った奴等の中で10人が発病したらしい」


 そう答えたのはドミニク殿。

 拘束した密猟者は、ほぼ全員『ブリマレッジ領』の開拓の為に送られておる。

 その数は、既に100人程は送られておる。

 送られておらぬのは、他領の住民や密猟以外に犯罪を犯しておった場合で、その者共は領都に送って裁かれておるのじゃ。

 今までは、その発症原因すら分からなかったのじゃが、コレだけ短期間で一気に10人も発症したという事は、『魔力阻害症』には何か共通の発症原因があるという事じゃ。

 直ぐにミアン殿とドミニク殿に頼んで、発症した連中を大急ぎで『シャナル』に戻し、その原因を徹底的に調べ上げるのじゃ。

 当然じゃが、もしもその原因が感染性だった場合の事も考え、隔離施設を戻るまでに建築する。

 コレは最優先で建築する為、建築用の資材である木材はエルフの魔法によって強制的に育て、それを利用して隔離用の家はドワーフ達に頼み、犯罪者である彼等を逃がさぬ様に巨大な塀をワシとベヤヤで作っていくのじゃ。

 ワシがどんどん巨木を削り、ベヤヤが地面に突き立ててそのパワーで押し込んでいく。

 それ以外にも、入り口は一ヵ所で、複数の兵士を警備の為に配置するので頑丈な小屋も建てる。

 その結果、野球場程のサイズの隔離施設が出来たのじゃ。

 此処に入るには、警備の為の小屋の中を通る必要があり、塀を越えようとしても、5メートルはある垂直の壁を越えるのは、『魔力阻害症』を発症して魔法が使いにくくなっておる者には無理じゃろう。

 それ以外にも、その先端部にはちょっと仕掛けを施し、ある程度以上の重みが掛かると、警備小屋に常駐しておる兵士の所にアラームが鳴り、脱走しようとしても無理なようになっておる。

 この警報装置じゃが、ミアン殿を通して王城や重要施設に配備される運びになっておる。



 そうして、隔離施設に『魔力阻害症』を発症した奴等が来たのじゃが、年齢は見事にバラバラじゃ。

 一番下の若いのは10代、逆に上は60代。

 共通しておるのは、全員の顔色が悪いという点じゃな。

 まぁコレはマナが急に極端に減ってしもうて、回復しても垂れ流し状態が続いて、体内マナが最低限しか残っておらぬ状態になっておるのじゃから仕方無いのう。

 本来はこの後、マナが少ない状態にゆっくりと体が慣れていく事で、日常生活は送れる様になるのじゃ。

 マナを見る為の魔道具を使って全員を調べた結果、全員、体表のマナの服が間違いなくボロボロになっておる事を確認し、その原因究明を始めたのじゃ。

 腕輪型のマナ収集装置を装着させ、生活に支障は無い様にしておる中で、全員から聞き取り調査をしたのじゃ。

 まぁ最初はワシの事を見た目から舐め腐っておったが、ワシの後ろにおったベヤヤを見て震え上がり、調査には協力的になった。

 その結果じゃが、全員一つの共通点を除いて、てんでバラバラの行動を取っておる。

 じゃが、逆を言えば、一つだけ共通点があるという事になるのじゃ。


 それこそが、『妖精族の密猟行為を働いて、逆に叩き出された』と言う事じゃ。

 それなら密猟者全員が発症しておらぬと可笑しい、と思ったのじゃが、この10人は他の奴等とは若干違った点があったのじゃ。

 彼等10人は他の奴等と違って、と言う事じゃ。

 当然じゃが、妖精の中には夜に目覚め、明け方まで活動するという夜型人間みたいな妖精も数は少ないがおる。

 それが判明した後、直ぐに妖精の森へと向かって、この森の妖精を束ねておる『長』の妖精に話を聞いたのじゃ。

 夜まで待って、活動を始めた妖精達を紹介して貰い、彼等の撃退方法や特徴等を聞いていく。

 そして、その攻撃方法の中に、『鱗粉を吹き付けて体内のマナを一時的に混乱させる』と言う物があるのを聞き、彼等の攻撃用の鱗粉を少し分けてもらったのじゃ。

 小瓶の中でチラチラと小さく輝く鱗粉を持ち帰り、隔離施設にある警備兵の小屋にて、簡易実験を行う。

 実験対象じゃが、ワシが人為的にマナの膜を作る様に魔法陣を刻んで作ったプレパラートサイズのミスリルの板じゃ。

 その板に小匙で鱗粉を僅かに掬い取って振り掛けたのじゃが、膜が一瞬波打っただけ。

 うーむ、変化はないのう……

 まぁこんなに簡単に原因が突き止められれば苦労はせぬし、日中に発症しておる患者もおるのじゃから、他にも何かあるのじゃろう。

 そうしておったら、部屋の外から呼ばれたので、板に付いた鱗粉を小瓶に戻し、ミスリルの板を机の上に置いて部屋を出ると、そこにはここに在中しておる兵士と村長がおった。


「何ぞワシを呼んでおったが、どうしたのじゃ?」


「魔女様宛に手紙が届いたのですが、山の方の自宅が留守で、ワシの所に持って来たのです」


 そう言った村長が2通の手紙を差し出してきたのじゃ。

 確かに、ワシが自宅に不在の際は、麓の村におる村長に預ける様に書いて置いて、村長にも伝えておいたのじゃが、今まではワシの所にくる手紙はそこまで多くないから、殆ど問題が無かったのじゃが、今回はワシが殆どこっちにおるせいで、村長の所に届いた様じゃ。

 差出人は王都のマグナガン学園の学園長と、宰相殿からじゃった。

 宰相殿の方は、一度、王都へと来て欲しいというお願いと、王都に現れたゴーレムに関しての意見を聞きたいのじゃと言う。

 そして、学園長からの手紙はそれに付随した形で、ちょっとした理由で休職する職員の代わりに、一時的にワシ等に学園の特別講師を引き受けて欲しいという、ある意味で依頼じゃな。

 つまり、表向きはワシ等を学園の特別講師として招き、裏では宰相殿がゴーレムに関して調査の協力をして欲しい、と言う事じゃろう。

 しかし、カチュア殿やそれこそ一流の人材がおる様な王都でも、ゴーレムの調査は難航しておると言う事じゃろうか?

 村長に礼を言い、一度自宅へと戻る為に部屋にある道具を片付けようとした所、ミスリルの板が奇妙な事になっておる事に気が付いたのじゃ。

 机の上に置いて置いたミスリルの板の中央部が、若干黒く変色しておった。

 それも一点が黒くなっておる訳では無く、ポツポツと変色しておる感じじゃ。

 ふむ?

 試しにそのミスリル板のマナ膜を確認した所、何と、小さいが穴が開いておった。

 コレは緊急で追加試験をするしかないのじゃ!




「分かったのじゃー!!」


 そうして日も落ちかけて来た頃、思わず叫んでしもうて、慌てた兵士が部屋に飛び込んで来たが、それも仕方無かろう。

 遂に、『魔力阻害症』の発症原因が判明したのじゃ!

 『魔力阻害症』発症の原因は、『夜に活動する妖精の鱗粉』と『太陽の光』。

 『鱗粉』だけでは魔力阻害症は発症せぬ。

 じゃが、ここに『太陽の光』が1時間から2時間程当たると、鱗粉が拒絶反応を起こし、周囲のマナを破壊してしまうのじゃが、本来はそこまで長時間、『鱗粉』が皮膚に付いておる事は少ない。

 しかし、この『鱗粉』を拡大して初めて分かったのじゃが、普通の鱗粉と違い、その周囲がまるで棘の様になっており、一度皮膚に付くと突き刺さってなかなか取れぬ。

 問題は突き刺さった鱗粉が砕け、それが体に吸収されてしまう事にあるのじゃ。

 そして、が血液を通して体中を巡り、その結果、体中のマナの膜を穴だらけにしてしまうのじゃ。

 コレを防ぐには、意外かもしれないが入浴して洗い流してしまう事なのじゃが、この異世界では入浴は余りメジャーではない。

 原因は単純で、入浴するには大量の湯が必要となり、湯を作る為には大量の薪か高価な魔道具が必要となる上に、水を毎回交換する事になる為に毎日入るなんて事は出来ぬ。

 大抵は小さい桶に湯を沸かし、濡らした布で体を拭くのが一般的じゃ。

 そう言う意味では、『シャナル』の風呂屋銭湯はかなり珍しいじゃろう。

 恐らく、『魔力阻害症』を発症した者達は、軽度であれば風で飛ばされてきた少量の『鱗粉』を知らずに浴び、重度であれば近くに妖精が隠れ住んでおって、大量の『鱗粉』を知らずに浴びてしまったのじゃろう。

 対処法が簡単である為、これなら夜に活動する妖精を退治する必要もない。


 コレはもう少し詳しく調査して報告書を纏め、ニカサ殿達に報告すべき案件じゃな!

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