第190話
広がる白い煙を浴びたサイクロプスと触手が藻掻き苦しみ始める。
触手はさっきまで俺や進藤に殺到していたのに、その場でビッタンビッタン跳ねている。
この効果はそこまで長続きしない。
さっさと片付けないと、今度は
「進藤! 離れてろ!」
今まで使ってたショートソードから、黄金龍の牙を使った剣を取り出す。
コレからやろうとしてるのは、修行の合間合間に編み出した技だが、いくつか問題がある。
実はまだ完成はしておらず、完成度としては7割程度。
ただ、威力だけなら十分な威力だから、今回使う事にした。
精神力を集中し、剣へと流していくと、柄から剣先に向けて蒼白い血管の様な模様が浮き出してくる。
本来ならこの程度でも十分なのだが、此処から更に剣へと流し込んでいく。
模様がどんどんと伸びていき、剣先に到達したが、まだまだ流し込んでいく。
やがて、剣の刀身からピキリと嫌な音がした瞬間、下段に構えた剣を薙ぐ様に振り抜いて、未完成の技を放った。
「我が剣が断つは真に
本来なら絶対に届かない距離。
だが、ギィンと耳鳴りの様な音が響き、倒れていたサイクロプスの頭が宙を舞った。
そして、首がボトンと地面に落ちると、その首がボロボロと崩れ落ち、続いて体と触手が同じ様にボロボロと崩れていく。
そしてそこに残ったのは、黒く変色しグズグズになったナニカ。
何とか成功したか。
「レイヴン、一体今のは……」
「まだまだ未完成の不完全な技だ……本来は使いたくなかったんだがな……」
「使いたくなかったって……アレだけの威力があったのに……」
「これでもか?」
騒ぐ進藤に、持っていた剣を見せた。
そこにあったのは、先程まで光を反射して輝いていた剣では無く、剣身には無数の罅が入っているだけでなく、刃はボロボロになり、更に全体的にどす黒く変色して使い物にならないゴミと化した剣だったモノ。
コレが使いたくなかった最大の理由だ。
剣自体に凄まじい負荷が掛かり、一度使うと何もリサイクルする事すら不可能になる。
しかも、今回使ったのは、黄金龍の素材を使った一振りしかない奴だが、考案して実験した際は、ゴゴラの用意してたかなりの品質の剣でも失敗した上に、危うく全身消し飛ぶ所だった。
アイツと一緒に検証した結果、使う場合は黄金龍の素材を使った物でなければ発動すら危ういと判明し、もしも使う場合は使い捨てを覚悟しなければならないとなった。
そのボロボロになった剣を見て、進藤とハバルがゴクリと喉を鳴らした。
「戻ったら直せるか相談しなけりゃならねぇな……」
可能性は低いが、アイツならもしかしたら直せるかもしれねぇし。
取り敢えず、サイクロプスから生えた触手が喰い荒らしたお陰で、ゴブリンは全て処分出来た様だ。
進藤には外に出て他のメンバーを呼んで、拘束した魔術師達を村に運んでもらう様に頼んでおく。
俺とハバルはこのまま中を探索し、タヌキ男のやっていた研究の資料やら道具を根こそぎ集めて収納袋に押し込んで持ち帰る。
奥には巨大な檻や巨大な鎖もあった事から、サイクロプスは普段は此処で待機させて、必要に応じて召喚魔法を使って出していた様だ。
集めた資料や檻やらに刻まれた魔法陣やらを調査して、あのタヌキ男が何処から流れて来た奴で、過去に犯罪行為をしていなかったのかを調べてもらう訳だ。
アイツも興味があるだろうしな。
そうした結果、奥にあった研究資料はかなりの量で、その一つをパラパラと見た感じでは、やはり人間を材料にはしていなかった。
その資料では、人間と合成しても形を保てず、直ぐに崩壊してしまう為、その原因を探っていたようだ。
個人的には、あのサイクロプスに何を合成したのかが知りたかったが、それは後回しだな。
そして、あの地下闘技場だが、あのタヌキ男が掘った訳では無く、元々あそこに半ば埋まった状態で存在していたのを発見しただけの様だ。
隠れ家に丁度良いとして、ゴブリンやサイクロプスに発掘させていたらしい。
そして、いなくなった家畜だが、タヌキ男が食料にする為に盗んでいたらしく、詳しく調べていないから理由は分からないが、あのゴブリンやサイクロプスには食事は不要だったようだ。
資料を回収し切った後、更に奥からハバルがボロボロになった冒険者と、『シャナル』で突っ掛かって来た新人を連れて戻って来た。
やはり、俺達の後を追ってやって来てたか……
ただかなり憔悴しているらしく、文句を言う事も無くズルズルとハバルの後を歩いて付いていく。
まぁ文句を言って来たとしても、俺等は制止したのにそれを無視した結果だから、心を圧し折るくらいに口撃するつもりだったがな。
その後、全員を連れて村へと戻り、隷属魔法を使われていた魔術師達は全員村で一旦預かってもらって、ハバルとトウランの二人が馬を使って一足先に『シャナル』に戻って、取り敢えずの報告と解呪が出来る魔術師、馬鹿達を連行する部隊、洞窟の調査隊をそれぞれ派遣してもらう。
半月は掛かるだろうが、その間は全員で村の手伝いや、洞窟回りを調査して生き残りがいない事を確認する。
ラムートとダルが村の狩人に罠の掛け方や、獣道に仕掛ける効率的な罠の説明をして、進藤とナルミンが村の子供達の相手をしている。
俺自身は村長と話して、洞窟の存在やコレからやって来るであろう調査隊の対応を話し合う。
食糧は調査隊が用意するだろうが、寝床は広範囲を確保しなければならない以上、此方で用意せねばならない。
その為の場所決めや、期間によっては村でも協力者を募る場合の事も想定してアレコレと決めておく。
他には、タヌキ男に捕まっていた
隷属魔法を掛けられていた奴等は、命令者がいなくなった事で食事すら真面に出来なくなっている為、野郎は村の男衆が対応をし、女二人は村の女衆が対応している。
奥にいた二人に付いては、何とか回復したのだが、『俺は悪くない、コイツが誘った』とか『あんなのがいるなんて計算外だ』なんて騒いだので、持っていた拘束用の隠し麻痺針を使って麻痺させておいた。
今回の件は大きなマイナス点だ。
まず、ボロボロになった冒険者の男も新人の男も、『シャナル』での講習を受けていない上に、隷属魔法を解呪する場合、結構な金額が掛かる。
過去には、冒険者ギルドで一時的に立て替えたりしていたのだが、それを踏み倒して逃げる冒険者が続出し、別の場所で新しくギルドに登録したり、裏でギルドカードを売買したりする事があった為に、立て替えはされなくなった。
ただし、『シャナル』の場合、事前講習を受けた場合のみ、ある程度はギルドで立て替えを行える事になっている。
まぁこうでもしないと、講習を受ける奴がいないからって面もあるんだが……
そうしていたら、ハバル達がかなりの数の面々を連れて戻って来た。
半分以上はこの場に残って調査をする事になり、俺達が切り開いた野営地でしばらく生活する事になる。
そして、解呪魔法を使える魔術師達によって隷属魔法は解除され、魔術師達に解呪費用の説明をされた訳だが、当然の如く『そんな金額払えない』と騒いでいたが、それを予想していたのか、護衛として来ていた他の冒険者達によって一時的に拘束され、『シャナル』へと帰還してギルマスの判断待ちとなった。
最も、講習も受けず、他人の制止も聞かず、勝手に自爆した結果だから、減額なんてされないだろう。
こうして、俺等は全員依頼を完了した事になり、全員で『シャナル』へと帰還する事になった。
後の面倒事はギルマスに丸投げだな。
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