第185話




 森から戻った面々から調査報告を聞く。

 まず、何方もサイクロプスを発見出来なかったが、それらしき痕跡は一応確認は出来た。

 ただし、それ以外にもゴブリンらしきモノや、冒険者集団が入っているらしい。

 何故かと言えば、発見出来た痕跡がゴブリンの方は足跡、冒険者は野営地跡と戦闘の痕跡だけだからだ。

 しかも、戦闘の痕跡があった方は、近くに洞窟があったという話だ。

 それにしても、既に冒険者が入っているなんて話は村長から聞いてはいないんだが……

 それは後で村長に確認するが、ゴブリンの方から確認だな。


「それがコレか……」


 トウランが出したのは数枚の粘土板で、地面に残った足跡を型取りした物。

 調査なんかをする際は大抵持ち歩いているらしい。

 そして、その足跡なんだがどう見ても素足では無い。

 コレが素足であれば先端は指の跡まで残るが、まるで底が平たい靴を履いている。

 サイズが小型だから、トウランも『恐らくゴブリンだと思う』と思っているらしいが、もしもゴブリンでなければ、子供と言われても可笑しくは無い。


「靴を履いたゴブリンって事か?」


「少なくとも、野生のゴブリンが靴を履いてるなんて話は聞いた事が無いですね」


「迷宮産か?」


「俺達が見付けたのは、間違いなくただの洞窟だ。 迷宮特有のあの独特の嫌な気配がしなかった」


 ナルミンの言う通り、迷宮には独特のがある。

 その気配を感じ取れなかったと言う事は、何者かがあそこで洞窟を掘り返したと言う事になる。

 しかも、大量の推定ゴブリンの足跡が入っている事を考えれば、規模を考えればかなり大規模な物だ。

 そんな物を住民に気が付かれずに、短期間で作る事は可能なんだろうか。


「レイヴン、村長連れてきたっすよ」


 ハバルが村長を連れて戻ってくる。

 そして、村長から話を聞いたのだが、やはり冒険者も洞窟も知らないという話だ。

 ゴブリンに関しても、確認された事があるのはかなり前で、その時も冒険者へと依頼を出している。

 しかし、そうなると森にいるのは何なのか疑問は尽きないが、放置しても碌な事にはなりそうにない。

 明日にはその洞窟を調査した方が良いだろうが、こうなるとハバルには同行して貰うしかないな。

 その事を言うと、『仕方無いっすね』と諦めているが、実力的にはハバルはB寄りのCランクだから、十分戦力にはなる。

 調査したトウラン達の労いも兼ねて、秘蔵の携帯食料と保存食を出す事にした。

 コイツは元々ベヤヤが作ってる携帯食や保存食の中で、出来は良いんだが原価が凄まじく高い為、売るのはどうかと悩んで、俺とか知り合いにこっそり渡している物だ。

 その携帯食だが、まずはコワ粉やドライフルーツを混ぜて焼き固めた物だが、コワ粉にしたコワの実は、ソレだけで仄かな甘味があるが、それが出来たコワの木は全体の中でたったの一本だけ。

 しかも、その木から採取したコワの実を植えて増やしても、同じ実が出来る事が無かった為、その木はアイツの庭に植樹されて、ベヤヤによって管理されている。

 そして、ドライフルーツは養蜂によって手に入ったハチミツを大量に使って漬け込んでいる以外に、ドライフルーツにしている木の実も珍しい物や、採取が難しい物を多く使っている為、普通に売りに出しても殆ど売れないだろうと言う事で、死蔵されていた物だ。

 それを使って作られた為に、カ〇リーメ〇トサイズで最低金貨1枚は掛かり、従来の物は同じサイズで銅貨数枚で買える事を考えれば、どれだけ高いか分かるだろう。

 それ以外にも、香辛料を大量に使った保存食も、同じ理由で売れずに俺達で消費している状態だ。

 そんな訳で、俺達は村の外れで手分けして料理やら寝床を準備していく。

 料理の方は、ラムート以外だと意外な所でトウランが上手かった。



 さて、何故に俺達は馬車で寝る事にしたのかと言えば、単純にこの村には宿が無いからだ。

 小さい村でも冒険者が頻繁に訪れる場所であれば、宿や空き家を利用するのだが、生憎、この村に空き家は無い。

 その為、俺達は全員で村の外縁部の外れで交代しながら睡眠を取る事になった。

 見張りの順番としては、基本は明日洞窟に入るメンバーを最初にし、待機するメンバーが後半になる。

 村の中であるのだから、普通は見張りなど置かないのだが、今回は相手の確実な情報が少な過ぎて、本当にサイクロプスなのかどうかが分からない上に、ゴブリンらしきモンスターもいる事から、余計にどう動くのかが分からない以上、警戒しておかねばならない。


「サイクロプスにゴブリン、それに洞窟なんて、どう思う?」


 最初の見張りで一緒になった進藤がそんな事を聞いてくるが、正直に言えば何も分からないというのが本音だ。

 しかし、ある程度は分かる事がある。


「まず、間違いなく人為的だろうが、その目的が分からん。 ここら辺にはいない魔物のサイクロプスやゴブリンを誰かが使役し、態々その後に此処まで連れて来たという事になるが、それで何をする?」


 もしも、この村を襲うつもりであるなら、サイクロプスが一体いれば十分過ぎる。

 一応、村の中にも戦える村人はいるが、それでも相手出来るのは全員が協力して数体のオークくらいだ。

 しかも、今回はそれが本当なのかどうかも怪しい。


「ここって何か特産品とかありましたっけ?」


「無いな、無いが強いて上げるなら、森の中で採れるキノコくらいだが、それにしたって態々襲撃する程じゃない」


「あぁ、トリュフみたいな奴ですね」


 進藤がトリュフみたいと言うが、地球の物と違ってそこまで香りが強い訳でも無く、多少は高級品と言うだけだ。

 つまり、サイクロプスなんて連れて来てまで狙う必要は無い。

 本当に相手の目的が分からん。


「それにしても洞窟の中だとすれば、普段の武器は使えんが大丈夫か?」


 俺達が使う剣は、元々それなりに長い為、狭い坑道では振り回すのには向いていない。

 森の中や坑道の様な狭い場所で戦う場合、長剣系よりショートソードやナイフの方が向いている。

 まぁ俺やヴァーツの様な規格外であれば、森なら木々を斬り飛ばし、坑道なら小さく振ったり突きを多用するだけだが、全員がそんな事出来る訳が無い。

 なので、色々な場所で戦う事を想定している冒険者の場合、メインとなる武器以外にもいくつか武器を持っている。

 進藤にも訓練を付けている間、メイン武器以外に予備となる武器を持つ様に言っていたんだが、ちゃんと持っているんだろうな?


「一応、ショートソードは持ってはいるけど、サイクロプス相手に大丈夫なのか?」


 そう言いながら、腰の収納袋からショートソードを取り出している。

 このショートソードは訓練の合間に、ゴゴラに依頼して作って貰った物で品質としては十分だ。

 後は、訓練での事を思い出してやれば、サイクロプス相手だろうが十分勝てるだろう。


「最後の問題は坑道の大きさっすね。サイクロプスがいるとして、それが十分に行動出来るって事っすよね?」


「外と出入りする関係上、迷宮と違って罠は無いだろうが、どこまでデカイのか……」


 進藤とハバルと話しながら、明日の坑道調査のやり方を詰めていく。

 基本は全員で固まって移動する事になるのだが、相手の数が多い場合とかに下手に固まると、動きを阻害し合う事になって逆効果になる事もある。

 それも考慮し、3人が安全に行動出来る様にするのだが、斥候一人に剣士が二人となると、実はバランスが悪い。

 なので、事前に互いの動きを決めるのは大事な事だ。

 その結果、今回は進藤をメインアタッカーにし、俺は魔法を使う事で補助に徹する事にした。

 当たり前だが、緊急時には俺も手を出すがな。

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