第186話
ピチョンと頭に雫が落ちた事で、意識が戻る。
ぼやける視界で周りを見回すと、薄暗い明りに照らされた剥き出しの岩肌が見える。
地面は土が剝き出しで、そこに寝ていた事で全身が地味に痛い。
「……痛っ……」
起き上がろうとして、そこで初めて両手と両脚が縄で縛られている事に気が付いた。
少し頭が痛むが、自分の身に起きた事を思い出していく。
元々、『シャナル』の冒険者ギルドで初心者講習とか言う訳の分からない講習会に参加させられそうになったが、俺達と同じ様に講習会から抜け出した奴等と一緒に、先に出発した奴等を追い掛ける事になったのだ。
普通なら追い付けないだろうが、俺達は別に村に入る必要はない。
村に入らずさっさと森に入り、問題になってる魔獣を先に倒して、俺等を馬鹿にした奴等と実力をちゃんと評価しないギルドを見返してやる。
そんな事を道中で話しながら、村の手前まで行き、そこで村を迂回して森へと入った。
気を失う前、仲間と野営地を決めて、共に周囲の散策をしたが、探索中にゴブリンらしい武装した魔獣と遭遇、全員で戦闘を始めたが、普通なら簡単に倒せる筈なのに何故か異常に強く、苦戦していた所に、巨大なサイクロプスが現れ、巨大なグレートソードを持っていた向こうのパーティーのリーダーの男が斬り掛かったが、グレートソードが脚に当たった瞬間にバギィンと凄い音が響き渡り、そのグレートソードが折れてしまった。
その様子に唖然としたリーダーの男をサイクロプスが蹴り飛ばし、蹴り飛ばされた男はそのまま木の一本に直撃して崩れ落ちた。
そして、それを見て慌てた魔法使いが巨大な火魔法をぶっ放し、その場にいた全員が爆風で吹き飛ばされた。
そこで、俺の意識は飛んでいる。
痛む頭を我慢しつつ、周囲を再度確認する。
剥き出しの岩肌、ゴツゴツとした天井、壁には薄暗いランタン、真正面には格子が見える。
ただ、他の仲間の姿が見えないから、他の場所にいるのか、俺だけ逃げ遅れたのか……
身に着けていた武具や、持っていた筈の道具も無くなっている。
そう考えていると、ガチャガチャと格子の方から音がしてくる。
視線を向けると、そこにいたのは森の中で出会った武装したゴブリン共。
そいつらに引き摺られていたのは、ボロボロになったあのリーダー。
格子の鍵が外され、まるでゴミでも捨てるかのようにリーダーが投げ入れられる。
「大丈夫か……?」
両手は頑丈な縄で縛られてはいるが、別に壁とかに固定されてる訳じゃないから動く事は出来る。
ボロボロになっているリーダーを揺するが、『うぅ……』としか言わない。
ゴブリンがあんな統率の取れた行動をするなんて、もしかして、ゴブリンキングとかの上位種がいる可能性がある?
それに襲って来たサイクロプスの存在。
このボロボロのリーダーが持っていたグレートソード、それなりに業物であるらしく、移動中にも『コイツならサイクロプスだろうが、バッサリやれるぜ!』なんて豪語していた。
しかし、結果は散々だ。
「やっと目覚めたか、招かれざる者共が……まぁ此方としては材料が増えただけじゃから別に良いんじゃが」
そんな声が聞こえて来て、格子の方を見ると、そこには、武装したゴブリンの間に黒いローブを着た何者かが立っていた。
しかも、その後ろには俺の仲間であるリナリーとクリスが立っているが、その眼には光が無い。
「貴様! 二人に何をしやがった!」
「おぅおぅ威勢は良いのう、コレなら十分じゃな」
そう言って、ソイツが枯れ枝の様な手で自身の顎を撫でている。
フードで見えないが、声の感じからして男だが、相当な高齢の様だ。
「聞いてんのかよ!」
「五月蠅い奴じゃのう。 別に奴隷紋で隷属させとるだけじゃろ」
その言葉に絶句する。
奴隷紋と言うのは、昔、犯罪奴隷に対して施された物であり、今では隷属用の魔道具がある為に廃れた魔法の一つだ。
表向きの理由は魔道具の方が便利であるからだが、本当の理由は別にある。
この魔法は、掛けられた本人の意思まで奪う為、どんな命令でも従ってしまう。
それこそ、魔獣に襲われて確実に死ぬと分かっている状況で、突撃させたり囮にしても関係無く従う。
そして、戦争で捕虜や従わない兵士に対して使用し、敵軍に向けて突撃させるだけでなく、敵国の村人に使用して、敵の内側から攻撃させたりもしていた。
そんな魔法を使うなんて、このフード男は危険だ。
「さて、ワシは実験を続けるからのう。 大人しくしておるんじゃぞ」
「クソッ! 二人を開放しやがれ!」
俺の叫びを無視し、フード男は見張りの武装ゴブリンを残し、二人を連れて奥の方へと消えて行った。
このままじゃ二人が何されるか分からねぇ!
無駄だと分かっているが、俺は叫び続ける事しか出来なかった。
俺達はナルミンとダルが発見した洞窟に案内され、その前でその洞窟を見下ろしていた。
だが、どう見ても、この洞窟の入り口はサイズ的にサイクロプスが入れる様な物じゃ無いんだが、此処にはトウラン達が発見したゴブリンらしき足跡が、中に向かっていくつも入っている様子がある。
つまり、中には確実に何かがいるって事にはなるんだが……
「話には聞いてたけど、本当に洞窟だね」
「……どう見ても自然物じゃねぇな」
進藤が洞窟を覗き込んで呟いている。
見た目は地面から盛り上がった形の洞窟だが、自然に出来た物じゃ無い。
何かが地面を掘り起こし、それで山を作って内部を岩や木で補強した感じだ。
「取り敢えず、俺と進藤、ハバルが中に入るが、1日経っても戻らなかったら、直ぐに『シャナル』に戻って応援を呼んでくれ」
まぁ有り得ないと思うが、もしも中にいるのが俺達の手に負えない相手だった場合、中で全滅する可能性がある。
まぁ俺の収納袋の中には、『強化外骨格』が入ってるから、滅多な事にはならんだろうがな。
そうして、他のメンバーを外に残し、俺達は洞窟の中へと入って行こうとした。
「と、ちょっと待ち」
ハバルが足を止めた為に入り口に入る寸前で止められた。
一体なんだ?
ハバルがその場でしゃがんで、手に持っていた魔導具のランプで地面を照らしている。
「あーやっぱし、コレ罠だから踏まんといてね」
そう言われて指差された地面には、パッと見ただけでは分からないが、よく見ると一本の糸の様な物が地面より多少高い位置に張られていた。
コレに触れると繋がっている先で音等が鳴り、侵入者が入って来たと知らせる事になるタイプのブービートラップだ。
しかも、地面の色に合わせて糸は黒く塗られている事で、普通ならまず気が付かない。
ハバルはよく気が付いたな。
「迷宮じゃないただの洞窟なら、仕掛けられる罠なんてたかが知れてるっすからね」
これが迷宮なら、通路には落とし穴に吊り天上、壁からは槍やら矢が飛び出て来て、凄い所じゃ岩が転がって来るなんて罠が盛り沢山だが、この洞窟は恐らく、ごく最近に人為的に掘られた物。
つまり、迷宮と違って大規模な罠が仕掛けられない上に、短期間で仕掛けられる罠の種類は限られている。
しかし、こんな入り口に罠を仕掛けるという事は、相手は相当に用心深いと言う事でもある。
油断せずに再度侵入開始だ。
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