第183話




 到着した村は、森から多少離れた位置にあり、その外周に先端が全て尖っている木で作られた高い柵があり、ある程度の魔獣に対しての防衛には向いている。

 だが、今回の相手は『サイクロプス』である為、この程度ではあまり効果は無い。

 緊急と聞いていたのだが、村の様子は普段通りと言っても問題が無い程にのどかだ。

 取り敢えず、話を聞く為に全員で村長の家にお邪魔したんだが、全員が入るには少々手狭な上に、進藤は若干グロッキー状態だったので、ラムートとトウランが付き添いとして馬車に残って貰った。


「で、早速聞きたいんだがどんな状況なんだ?」


「はい、ギルドに依頼をする前は家畜の牛が2頭、その後ですが被害は無いのです」


「追加被害が無い?」


 若い村長の言葉に、ナルミンが思わず聞き返している。

 サイクロプスの食欲を考えると、牛が2頭だけと言う時点でかなり可笑しいのだが、その後の被害が無いというのは変だ。

 ギルドで聞いた話によれば、この周辺に生えている木の上からサイクロプスの頭が見えたという話だが、此処の木は最低でも6メートルはある。

 つまり、最低でもサイクロプスの身長は7メートルはある事になる訳だが、そんなサイクロプスが牛2頭だけで一週間も満足出来る筈が無いだろう。

 普通なら、森の中で別の餌場でも見付けたって事になる訳だが、そんなサイズのサイクロプスが満足出来る量が手に入る物だろうか。


「最初に見付けた子供と話は出来るっすか?」


「この時間であれば家畜の世話をしている筈ですから、恐らく外の牧場にいる筈ですが……」


 地球であれば、小さい子供を働かせているのはどうかと思うだろうが、村では小さい子供であっても貴重な労働力だ。

 なので、この村でも普段から子供であっても手伝いとして、簡単な仕事をしているのだ。


「それじゃ、4人は予定通り森の中を探査してくれ、俺達は村の中で話を聞いてくる」


「了解、チーム分けは事前に決めた奴で良いよな?」


 ナルミンが言う通り、探索チームは馬車の中で決めていた。

 と言うより、同じパーティーであるナルミンとダル、ラムートとトウランという組み合わせにする以外に無いのだ。

 流石に初めて訪れた森で、組んだ事の無い相手と一緒に探索するのは無理がある。

 ラムートとトウランも初めて組む訳だが、ラムートはエルフである為に、初めての森の中でも問題無く動く事が出来るので、トウランを護衛するのに向いているし、トウラン自身は誰と組んでも馬が合うのか、普段通りに動く事が出来るという妙な強みがある。

 ナルミンとダルに関しては、普段はあんな感じだが、仕事中は真面目にやっている。

 そもそも、仕事中でも喧嘩しているなら、今回の依頼に同行なんてさせていないがな。



 準備の為に馬車に戻れば、顔色が随分と回復した進藤がいたが、まだ本調子ではないだろうから、今回は森の中に入れるつもりは無い。

 ある程度回復しているとはいえ、この状態で森に入ってサイクロプスに遭遇した場合、万が一の事がある。

 森の中に入っていくメンバーを見送り、俺達はこのまま唯一の目撃者の子供に会って話を聞く。

 それで本当にサイクロプスなのかがハッキリする訳だ。

 そして、牛が飼育されている場所は村の柵を出た平原なのだが、かなり見通しが良く、サイクロプスに限らず、魔獣が接近してきてもすぐに分かる。

 そもそも論だが、ここら辺で出る魔獣は何処にでもいるスライム以外では、強くてもオークくらいらしく、そのオークにしても滅多に見る事が無い。

 

 そして、両親に許可を得て唯一の目撃者である子供から話を聞く。

 そもそも、どうして子供がサイクロプスだと分かったのかと言う事だが、この子供の父親は元冒険者で、そこから話を聞いていた事で、一つ目の巨人がサイクロプスだと分かったらしい。


「成程、キミが見たサイクロプスは、どんな感じだったんだい?」


 進藤がメインとなって子供と話しながら、当時の話を聞いている。

 と言うのも、俺は普通に怖がられ、ハバルの話し方ではあまり通じず、最終的に進藤が話す事になった訳だ。

 しかし、もう10日も経過している為に、子供の記憶もかなり怪しい所があるのは仕方無い。


「あそこのでっかい木の上から、灰色のでっかい顔が見えたんだ」


 この子の名前はタルダン。

 歳は9歳になる男の子で、普段から両親と共に牛の世話をしている。

 その日は牛の世話を終え、村の入り口の近くにある井戸の所で休憩をしていた時、森の中の方で何かが動いた気がして視線を向けた所、木の上に巨大な頭が見えた。

 巨大な頭には巨大な一つ目と、牙が覗く大きな口があり、その巨大な瞳がギョロリと村の方を見た。

 タルダンは唖然とソレを見ていると、その巨大な頭はそのまま森の中へと消えて行った。

 ソレが森の中に消えて行って暫く経った後、タルダンは慌てて両親へとその事を話した所、両親の顔から血の気が引いて行き、父親は放牧していた牛を大慌てで厩舎へと戻し、母親は村長宅へと走って行った。

 その後、子供達と女性達は村の中央にある集会所へと集められ、男達は集団で森の中へと入り、タルダンが目撃した木の近くで巨大な足跡と、飛び散っていた血を発見した。

 飛び散った血があるという事で、犠牲者がいるかもしれないと調べた所、村人に犠牲者はいなかったが、タルダンの所とは別の飼育していた家畜が2頭が居なくなっていたことが判明した。

 それにより、タルダンの話も合わせてサイクロプスらしき物として、冒険者ギルドへと討伐依頼を出す事になったのだ。


「外で遊べなくてつまんないや」


 タルダンがそう言っているが、サイクロプスが居るかもしれない森で、子供が遊ぶ事を許可なんてしないだろう。

 確実にサイクロプスが居なくなった事が確認出来るまでは、森の中に入る事は許可されないだろう。


 子供から話を聞き終え、村の中を回って他の住民からも話を聞いた後、馬車の所に戻って話し合っている訳だが、進藤の言う通り普通なら見間違いを疑うべきなんだが、子供の報告を受けた大人達が調査した際に、その場所で巨大な足跡を発見しているから、見間違いの可能性は低い。

 そうなると、灰色のサイクロプスがいるという事になるんだが、普通のサイクロプスの色は、住んでいる地方によって、火山地帯なら赤、森林地帯なら緑と言った具合に、周囲に合わせて変化する。

 そうなると灰色のサイクロプスとなれば、周囲の色が灰色が大目の場所になる訳になるんだが、そんな場所に心当たりは無いし、ハバルの言う通り、そんなサイクロプスが目撃されたなんて事も聞いた事が無い。


「灰色と言っていたが、そんなサイクロプスなんていたか?」


「俺は聞いた事無いっすね~……」


「見間違いとかの可能性も、足跡がある時点で少ないですね」


「取り敢えず、このサイクロプスには奇妙な点が多過ぎる」


 まず、集めた情報を整理する。

 サイクロプスが目撃されたのは2週間ほど前で、それ以降、目撃情報は無い。

 被害としては、牛が2頭だけで、他の被害は無し。

 サイクロプスのサイズは7メートル前後と思われるが、体色は灰色と初めて確認された体色。

 しかも、村の方を見て子供がいる事を知った筈のサイクロプスが、何もせずにそのまま森の中へと戻って行ったと言っているのも不可思議だ。

 目撃される前は、大人なら森に入ってキノコや木の実を採取していたが、目撃された後は限られたメンバーだけが採取に入り、短時間で集めて即座に戻っている。

 目撃されていない為に、本当はいないんじゃないかと思ったが、確実にいると分かる足跡を複数人が目撃しているので、いる事は間違いない。


「聞けば聞く程、変なサイクロプスっすよねぇ」


「本当にサイクロプスだったのであれば、余程省エネなのか、何処かに別の餌場を見付けたのか……」


 ハバルと進藤が言う通り、サイクロプスだとするなら相当に奇妙な個体だ。

 もし本当にサイクロプスであるなら、特殊個体か新種の可能性があるな。

 これ以上は、森の中を調査している面々の報告を待ってから、判断するしかないだろう。

 予定では、日が落ちる前には彼等は戻る予定となっている。

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