第182話
馬車に揺られつつ、一緒に同行している面々と予定を話し合う。
この場にいるのは、俺と
俺と進藤以外はCランクとDランクだが、彼等の仕事は『サイクロプス』の探査だけで、絶対に戦闘には参加させない事を条件に同行してもらっている。
緊急時には自衛の為に戦闘は許可しているが、全員『サイクロプスは無理!』と言っている為、アイツが作った逃走用魔道具を渡してある。
この魔道具、拳銃の様な形をしているが、使うと銃身から大量の煙幕と方向感覚を狂わせる微毒を前方に放出し、相手が混乱している間に逃走する、と言う物だ。
冒険者ギルドにも販売する予定の物で、彼等に渡したのは試作品で、もしも使えたらどんな物だったかギルマスに報告する予定になっている。
「さて、取り敢えずはこんな感じで良いとは思うが、意見はあるか?」
「問題は数っすね、2体までならどうにかなるっすけど、それ以上いたらお手上げっすよ」
そんな事を言っているのはハバル。
Cランクで『シャナル』では、森の中で獲物を追跡する事に長けた斥候職の細身の男だ。
不安になると、自身の緑髪の毛先を弄る癖がある。
「それ以外にも、相手の行動範囲、何故こんな所にやって来たのかと言うのも問題でしょう」
狩人のラムートが言う事も一理ある事だ。
彼はエルフであり、元々はクリファレスから逃げて来たエルフ達の一人でもある為、『サイクロプス』がどうしてこんな所にいるのかを問題視している。
確かに、この辺りで見掛けるモンスターじゃないからな。
「アレじゃねぇの? 少し前からブリマレッジ領で開拓作業が始まってんだろ? そこ等辺から流れて来たんじゃねぇの?」
そんな事を言いながら、自身のハゲ頭を布で磨いているのは、ハバルと同じ斥候のトウランだ。
ただし、此奴はハバルと違ってDランクで、森で獲物を追い掛けるというより、獲物の形跡を観察し、来るであろうポイントに罠を仕掛けて嵌めるタイプだ。
実際にハゲている訳では無く、毎朝、仲間の一人に頼んで剃刀で剃っているらしい。
因みに剃っている仲間は嫁さん。
「それにしたって早過ぎんだろ、
斥候職でありながら、長剣を愛用する変わり者のナルミンがそう言いながら、ボロ布で剣を磨いている。
「妙な点、他にもある。 被害少ない、子供以外、見てない、不可思議」
たどたどしい言葉遣いなのはダルだ。
全員の中で一番小柄だが、彼はハーフリングと言う種族であり、小型の弓を使って巧みに攻撃を仕掛ける事を得意としている。
その弓も、所謂コンポジットボウと呼ばれる複合素材の弓で、見た目に反して相当な威力が出せる。
実はラムートがDランクで、ダルはCランクだ。
「ダルは心配性だな、偶々見てないだけかもしれねぇだろ?」
「ナルミン、馬鹿、物事、全部理由がある。 だからいつまでもランク上がらない」
「テメェ、喧嘩売ってんのか?」
ダルの言葉に、ナルミンの赤毛が逆立つ。
実はこの二人は同じパーティーメンバーで、ちょくちょく喧嘩をしているらしい。
と言うのも、ナルミンは若干大雑把な性格が災いして、Dランクから中々上に上がらないのを、ダルが揶揄っているのだ。
「ただの事実」
「よし、テメェの身長もっと縮めてやんよ」
「……ハァ……」
ナルミンがダルをヘッドロックしてギリギリと締め上げ始める。
その様子を見て思わず溜息が出るが、コイツ等はコレがいつもの事なのだ。
「……あまり暴れる様なら、帰ってから特別メニューだな」
「「俺達、仲良し!」」
そう言ったら途端に握手してる二人を見て、盛大に溜息が出る。
そこまで嫌か。
「しかし、彼等はどうします?」
「あ?」
「ギルドでの新人ですよ。 確実に追い掛けて来ますよ?」
ラムートが言っている事が最初は分からなかったが、そこまで言われてやっと思い出した。
実は出発する前に、登録したばかりの新人が同行したいと言って騒ぎになったのだ。
当たり前だが、講習も終えていないドが付く素人を、『サイクロプス』討伐なんて危険な緊急依頼に同行なんてさせる訳が無い。
ちゃんと説明したんだが、そんな話を聞く訳も無く、勝手に付いて来ようとした為、その場にいた他の冒険者達によって強制的に講習会の部屋へと連行された。
だが、ラムートの言う通り、確実に追い掛けて来るだろう。
「冒険者は自己責任の世界だ。 放って置け」
冒険者と言うのは、結局の所、どんな選択をしたとしても自己責任の世界だ。
もしも、あの新人共が追い掛けて来て、それで先に『サイクロプス』と出会って死んだとしても、それは彼等の選択した結果だ。
俺達は、ちゃんと危険性を説明して同行は許可出来ない事と、最低でも講習を受ける様に指示はした。
後は彼等次第だ。
「……少し厳し過ぎるのでは?」
「幸運って奴が三度姿を見せる様に不運もまた三度その兆候を見せる。 見たくないから見ない、気がついても言わない、言っても聞かない、そして終わりを迎える」
「……何の話です?」
「俺の好きな言葉だ。 冒険者が不運の兆候って奴を見逃せば、待っているのは破滅だ。 そうならない様に、その兆候を見逃さなければ、不運て奴は最低限回避出来る」
まぁとある作品の受け売りだがな。
コイツは所謂、3度の警告って奴だ。
「新人に対して、俺達は警告をし、説明し、無理だと言った。 それで諦めて大人しくしていれば、不運は回避出来るだろう。 だが、それを無視して不運に突っ込むなら、それは新人の責任だ」
そう言った事を減らす為の新人講習なんだが、自分勝手な奴は兎に角聞かねぇからな。
あの新人も、人の話を聞かずに突っ走って、周りを巻き込んで大事故を起こすタイプだ。
それに巻き込まれる奴等が憐れだ。
「……世知辛いですね……」
「本当にな……で、少し馬車を止めてもらって良いか?」
瞬間、進藤の奴が口を押えたので、襟首を掴んでそのまま外に放り出した。
進藤が一言も喋らず、少し前からその顔が蒼白くなってきていたのを見て、間違いなく乗り物酔いをしていたのだろう。
それを必死に我慢していたんだろうが、遂に限界になったんだろう。
まぁこの馬車、サスもバネも無いから、凄まじい振動で揺れまくっていて、慣れてなけりゃ乗り物酔いをするだろう。
外でゲーゲー呻き声が聞こえてくるが、敢えて何も言わないでおいてやろう。
ラムートが心配して馬車の外に出て行ったが、どうにもならんだろう。
「よく気が付いたっすね」
ハバルが馬車を止めて感心しているが、あの進藤が何も言わない時点で、喋れる状態じゃないって事だ。
それに、この馬車は一応、冒険者ギルドが用意した物なので、外側はともかく内部を吐瀉物で汚したら掃除するのも面倒な事になる。
なので、乱暴ではあったが、外に放り出させてもらった。
「まぁ俺等も最初の頃はゲーゲーやってたからなぁ」
「経験、大事」
ナルミンとダルがしみじみと言っている様に、乗り物酔いは冒険者なら避けて通れない道だ。
アイツが馬車の改造をするって言ってたが、完成するのはまだ当分先になるだろう。
酔い止めでも作って持ってくるべきだったか?
その後、青い顔の進藤が馬車に戻ったが、村に到着するまでに数度吐瀉したものの、最終的には慣れた様だ。
ただ、進藤の為に速度を落とした為、到着予定よりも二日遅れとなってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます