第177話




 保護した妖精達から、妖精族のみが育成する事が出来る特殊な薬草を手に入れたのじゃ。

 この薬草、見た目は何と言うかヨモギの様な植物で、薬効としてはそこまで高い訳では無いのじゃが、他と違う点が一つあるのじゃ。

 それこそが保存性の高さ。

 通常、薬草は採取した瞬間から薬効が落ちていくのが当然じゃ。

 その為、高品質の薬草を採取するには知識が必要となり、適当に採取しては、納品時に薬効が殆ど無いゴミになってしまう。

 ポーションが高い理由の一つも、輸送に掛るコストも関わっておるのじゃろう。

 じゃが、この薬草は採取した後に丁寧に根を落とせば、この状態で一月は瑞々しいままなのじゃ。

 それでいて薬効は落ちぬから、時間遅延や時間停止が付与されておる魔道具を使わずとも、長期間の輸送に耐えられるのじゃ。

 しかし、薬効はそこまで高い訳でもないのに、妖精族の使う魔法でしか育成出来ぬ為に数も揃えられず、それなら使わんでも良いだろうって事で長く放置されておるのじゃ。


 さて、香りは……普通に青臭いのう。

 試しにポーションを作ってみたのじゃが、うむ、普通の薬草を使った物と大きく効果は変わらぬ。

 となれば、あまり使い道は無いのじゃが、ワシが考えておるのは、コレを元にして品種改良をしたり、他の薬草と組み合わせて新しいレシピを作るのじゃ。

 まぁコレばかりは、かなりの時間が掛るじゃろうが仕方無いじゃろう。

 目下の問題は、妖精狙いの馬鹿共がちょくちょくやって来て、『シャナル』の収容所がパンク寸前になっておる事じゃな。

 冒険者ギルドや商業ギルドにも、違反した処罰対象を拘束しておく為の牢屋や収容部屋があるんじゃが、そっちも現在満室に近い状態になっておる。

 しばらくすればリスクに見合わぬと諦めるじゃろうと考えておったんじゃが、想像以上に密猟者が諦めぬ。

 しかし、取っ捕まれば相当なペナルティになるのじゃが、何故に諦めぬのじゃろうか?


 ミアン殿に聞いてみると、妖精の鱗粉から作れるポーションに、寿命を延ばす効果がある等と言う話があるらしく、それで貴族や商人連中が高い金を払っておるという裏事情が聞けたのじゃ。

 当り前じゃが、妖精の鱗粉にそんな効果は無いし、寧ろ、適切な処理をせねば、妖精の鱗粉も毒になるのじゃ。

 実際、妖精の長殿に頼んで鱗粉を貰い、試しにポーションを作ったのじゃが、別段、寿命が伸びる様な効果は無く、ただ単に回復力が上昇しただけじゃ。

 他にも、若干キラキラと輝いておる。

 まぁ見た目が変わったくらいで、そこまで重要と言う訳ではないのう。




 密猟者を放りこんでおる留置場がパンク状態となり始め、そろそろヤバイんじゃなかろうかと思っておったら、ミアン殿が解決策として、密猟者連中の罰則を追加して、別の領に送る話を持って来たのじゃ。

 と言うのも、左右を大国クリファレス帝国ヴェルシュに挟まれたバーンガイアで人が住める土地と言うのはそこまで大きくはなく、この大陸の下側に当たる場所ではまだまだ未開発の土地があるのじゃ。

 その場所の名前は『魔境ブリマレッジ』と呼ばれ、嘗てはそこにも大きい街があったのじゃが、スタンピードによって街は崩壊し、長い時を経て今では魔獣ひしめく土地となってしまっておる。

 しかし、その先には海があるらしく、嘗てはそこで塩や海産物を多く採取出来ておったらしいのじゃ。

 今の領主になってからも、何度も討伐隊と開拓部隊が募集され、取って取られての繰り返しとなっており、その人員の人手不足で悩んでおるらしい。

 なので、『シャナル』で捕縛された密猟者連中をそっちへと融通する変わりに、開拓が成功したら優先的に取引をする権利を手に入れてきたらしいのじゃ。

 送り届けるのは冒険者ギルドが行い、必要な物資は商業ギルドが手配する事で、スムーズに密猟者達を送る事も出来る上に、密猟者とはいえ、それなりのスキルや腕を持っておるから、開拓作業には十分使えるじゃろう。

 未だに密猟者は減らぬし、受け入れ先も出来た事で一安心じゃな。

 そんな事を考えながら、馬車の荷車に乗せられた密猟者連中が押し込められた牢屋が『シャナル』から何度も送られる事になったのじゃ。


 後に『ブリマレッジ開拓の先駆者』として語られる様になる程、密猟者連中は奮戦しておったらしい。

 なんでも、密猟者であろうが開拓の貢献度によって、開拓後に領民として登録されるという話らしいのじゃ。

 結果から言えば、密猟者の半数が開拓作業中に逃亡したり、逃げた先で魔獣に襲われて死亡したり、再び悪事に手を染めて討伐されたが、ほんの一握りだけは真面目に開拓に従事し、ブリマレッジ領の領民として登録されたのじゃ。




 そうして密猟者連中の問題が解決したと思ったら、ミアン殿の元に『シャナル』の冒険者ギルドから緊急連絡があったのじゃ。

 その内容が、『シャナルに向けて遠方より真龍が接近中』と言う物じゃったのだが、その確認されたのは黄金龍殿とは別種らしい。

 前に黄金龍殿が攻めぬと言っておったのに、それでもやってくると言う事は、黄金龍殿クラスの実力を持っておるか、その話を知らぬと言う事じゃろうか?

 しかし、あの時と違って今回は一体だけじゃし、邪魔者勇者がおらぬから交渉出来るじゃろうし、いざとなったらワシが大魔法を叩き込みまくる。

 剣聖殿の訓練をしておった兄上を緊急で呼んで、飛来する方角に向けて移動したのじゃ。

 一応、今回はワシ等二人とベヤヤだけじゃ。

 他に護衛を連れて来ても、もしも戦闘になった場合、兄上程の実力がなければただの邪魔になってしまうから、連れて来るのはやめたのじゃ。

 一応、『シャナル』の方には待機してはおるんじゃが、もしも戦闘になったら避難誘導をする為に待機しておる感じじゃ。

 唯一、連れて来れる様な実力者である剣聖殿は、普通に訓練の疲労で動けなくなっておるので、『シャナル』の宿の一室で休憩しておる。

 因みに、今日やっておったのはワザと刃を潰した剣に精神力を使って刃を作り出し、圧倒的な切れ味を持たせる為に、その前段階として精神統一して刃を作り出す訓練をしておったんじゃが、刃を精神力で作り出す事は出来ておるらしいが、訓練が終わる頃には疲労で一歩も動けぬ状態となってしまうのじゃ。


「全く……次から次へと、問題ばかり起きるな」


「さて、黄金龍殿とは別と言う話じゃが、何用なんじゃろうか?」


 兄上の言う通り、最近問題が頻発しておるのう。

 広い野原でワシ等が立っておると、遠くの空で何かが光を反射しておる。

 久々にスキルの『千里眼』を使用して見てみると、確かに此方を目指しておるのは龍じゃな。

 それも、その鱗は白く輝いておる。


「ふむ、白い龍じゃから白龍と言う事かのう?」


「黄金龍が忠告してるんじゃないのか?」


 まぁ連絡の行き違いとかあるんじゃないのかのう?

 それにしても、いきなり戦闘とかにはならなさそうじゃのう。

 黄金龍殿からワシ等の話を聞いた上で、戦闘をするつもりであれば、あの距離からでもブレスを連発して来るじゃろうし、黄金龍殿並の巨体が豆粒にしか見えぬサイズでは、相当に離れておるのじゃから流石にワシの魔法も届かん。

 それに聞いておらんかったとしても、いきなり戦闘を仕掛けて来る様な好戦的な龍であれば、『シャナル』に来るまでにある村や街を襲っておるじゃろう。

 しかし、保険は掛けておかぬと、もしもの時は危ないからのう。

 ワシの膨大なマナで強化しまくった複数の結界魔法を展開し、どんどん接近してくる白龍を待ち受けたのじゃが、一向に攻撃は飛んでこぬ。

 そして、警戒しておったら、ワシ等の上で白龍が旋回を始め、徐々にその高度を落とし始めておる。

 さてさて、どうなるじゃろう?

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