第167話
儂の拳がベルメトンの構えるタワーシルドを叩き、凄まじい音を響かせ、奴のショートソードを真正面から拳で殴って弾く。
儂の『強化外骨格』は、他の面々より近接を主体として戦う事を主眼に置かれておる為に、拳も頑強に作られておる。
それ以外にも、儂のマナを流す事で防御膜の様な物を形成し、拳を保護しておる。
「ぬぅっここに来て更にっ!?」
「まだまだ行くぞっ!」
嘗てベルメトンと戦った時と比べ、儂の体力は格段に落ちているのを『強化外骨格』で補っておる。
その筈なのだが、儂には少し前から、少し不可思議な事がある。
体力的に追い込まれたり、体内のマナが一定以下になると感じるくらいになると、何故か逆に力が湧いてくるのだ。
黒鋼隊の副隊長は『追い込まれた際の底力では?』と言っておるのだが、そんな便利な物があるなら誰もが苦戦などせぬだろう。
しかも、コレは誰にも言った事は無いのだが、この時の儂は、ある意味で破壊衝動に近い感情を持ってしまうのだ。
目の前にある物を破壊する。
当然、制御出来ぬ事は無いのだが、僅かずつだがその衝動は最初に認識した時より強くなってきていると感じておる。
「ヌォォッ!」
ベルメトンが一際深く踏み込み、儂の左拳をショートソードで弾くと、一気にその牙を突き立てようとしてきた。
先程と違って儂の体勢は崩れており、このままでは防ぐ事も回避する事も出来ぬ。
だが、その牙に対して、儂は身体を捻ってそのまま牙に向かって蹴りを叩き込んだ。
メキリと鈍い音が響き、奴の牙が根元から圧し折れる。
「グォォォッ!?」
「ヌンッ!」
奴がタワーシルドを手放して折れた牙を押さえておるが、大きな隙を見逃す事はせぬ。
今度は儂が奴の懐に入り込み、奴の胴体に拳を叩き込んだ。
それを受け、ベルメトンが大きく吹き飛ぶ。
土煙を上げ、地面を抉りながらベルメトンが停止する。
根元から折れた牙からはボタボタと血が滴り落ち、激痛で顔が歪んでおる。
「まだだっ! 我はまだっ!」
ベルメトンが立ち上がり、ショートソードを構えて儂に突っ込んでくる。
それをワシの拳が迎え撃ち、ガツンガツンと音を響かせる。
ベルメトンが一際大きく振り抜き、儂の拳を押し退けると、転がっていたタワーシールドを回収する。
しかし、回収したタワーシールドは、完全に表面がボコボコに凹んでおり、盾としての機能は期待出来ぬだろう。
それでも回収したという事は、何かしらの理由があるのだろうが、どのような理由があるのかは分からぬ。
「我は負けぬ! 今度こそ!」
ベルメトンがタワーシールドの裏で何かの操作をすると、タワーシールドの下部がバカリと左右に開き、まるで巨大な蟻の顎の様な形状となる。
そして、その中央に自身のショートソードを組み付けた。
どうやら、次の攻撃で勝負を決めるつもりのようだ。
ならば、儂もそれに応えるべきだろう。
『強化外骨格』の肩に付いておる肩当を外し、それを拳に装着して胸の前で構えを取る。
「来いっ! 『城壁崩し』!」
「ヌォォォォォッ! ルゥゥゥデンスゥゥゥッ!!」
奴自身の体を覆い尽くすようなオーラを纏い、ベルメトンが一気に駆けて来る。
恐らく、奴の攻撃は『闘気纏い』を使った一撃必殺の突き。
対して儂の攻撃だが、元々は魔女様の攻撃魔法を参考にし、『強化外骨格』を使う事で初めて完成した攻撃方法となる。
威力は凄まじいのだが、余りの反動と一度使用すると再使用する事が出来ぬ上に、しばらく動けなくなるという難点がある。
だが、ここでベルメトンを無力化出来ねば、後方におる面々では対処出来ぬ。
ここが、切り札の切り時だろう。
胸の前に構えた肩当に、儂の持つマナと精神力を一気に注ぎ込む!
「獅子の咆哮を喰らうが良い! 『獅子戦吼』!」
瞬間、胸の前で合わせた肩当の中から巨大な蒼白い光が放出され、ベルメトンとぶつかり合った。
バチバチとオーラを纏ったベルメトンの構えたタワーシールドと、儂の放った光が拮抗するが、それも一瞬の事で、ベルメトンのオーラを突き破り、蒼白い光の奔流がベルメトンを飲み込んでいった。
儂が放った『獅子戦吼』は、元々魔女様が使っておる『グラビトン・レールガン』を元に、儂が編み出した新しい攻撃。
マナを枠にして、中に精神力を押し留めて限界以上に溜め、相手に向けて一気に放出する。
原理と言葉にすれば簡単だが、実際にやる場合、マナが足りなければ溜めている最中に弾け飛び、精神力が足りなければ、放出する際にマナの枠を突き破れずに失敗する。
そして、最大の問題点は、儂のマナの総量に比べ、精神力が大き過ぎた事で、マナの枠がどうやっても耐えられなかった事だ。
だが、魔女様達が開発した『強化外骨格』が、それを解決に導いた。
儂の足りないマナを『強化外骨格』が補い、更に、肩当を使う事で放出する方向を限定する。
それで実現した儂の『獅子戦吼』だが、相当な威力となっておる。
直撃すれば、大半の相手は消し飛ぶか、戦闘不能となるだろう。
光の奔流が収まると、そこには盾を構えた状態でベルメトンが立っていた。
ただし、鎧から出ている皮膚の表面は黒く炭化し、生きておったとしても、最早戦闘は出来ぬだろう。
そう思っておったのだが、ミシリと音がしたかと思った瞬間、ベルメトンが一歩、また一歩とゆっくりとだが歩き出しておる。
歩く度に、衝撃で炭化した皮膚がボロリと落ち、全身から赤黒い血が流れ落ちていく。
そして、儂の目の前まで辿り着くと、ゆっくりと、儂に盾を向けた状態で両膝を付いた。
「……と……どか……ぬ………か…………」
そう呟いたベルメトンが、そのままその場に崩れ落ちた。
いや、ベルメトンよ。
もしも、このまま攻撃をされておったら、恐らく、この立ち位置は逆になっておっただろう。
儂の『強化外骨格』は既に稼働限界を迎え、最早この場から一歩も動けぬし、儂自身も既に限界に近い。
『無事ですか!』
そんな儂の所にやって来たのは、バートと一緒におったはずのノエル。
聞けば、バートの『強化外骨格』も不具合が起きたらしく、現在美樹殿達が調べており、此方には来れなかった為、ノエルが様子見に来たらしい。
しかし、やはりベルメトンは強敵であったが、このまま終わらせるのも惜しい者だ。
侵略して来た以上、生かしてもどの道処刑されてしまうだろうが、ヴェルシュの内情を知る唯一の手掛かりでもある。
儂は『強化外骨格』を解除すると、腰に付けておる収納袋から、お守り代わりに持っておる上級ポーションを取り出して、倒れておるベルメトンに振り掛けた。
『ヴァーツ様! 一体何を!?』
「……少し儂に考えがある。 ただ、その為には時間稼ぎをせねば……」
儂がそう言ってノエルの方を振り向くと、遥か遠くの森の中から黒い物体が立ち上がるのが見えた。
そして、それが木々を薙ぎ倒しながらゆっくりと森の中から出て来ると、徐々にその速度が上がっていく。
ソレは、この場におらんかった巨大なゴーレム。
その巨大ゴーレムが王都目掛け、駆け始めた。
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