第168話




 遥か遠くの地上を見下ろす者達がいた。

 簡素な鎧を身に着け、背の羽根を動かして空高く飛んでいた。

 彼等はバーンガイアへの侵攻作戦を監視する為に、大賢者より秘密裏に送り出されていた鳥の獣人である。


「………失敗……だな」


「フンッ、所詮は突っ込む事しか考えられぬ無能よ」


「そう言うな、あんなのでも我が国の将の一人だぞ。 しかし、失敗したのであれば……」


 そう言うと、鎧の下から小さなトリガーが付いたグリップを取り出した。

 地球の知識があれば、それは銃身の無い拳銃の様な形をしている事に気が付くだろう。

 だが、それに気が付くものはこの場にはいない。


「命令通り、証拠隠滅も兼ねて吹き飛ばすしかあるまい」


「しかし、ゴーレムは4体しか確認出来ないが……」


「あの様子だと、既に破壊されたか、道中で放棄している可能性があるが問題あるまい。 それに、もしかしたらあの『龍殺し』も倒せるかもしれんしな」


 そうしたら大手柄だ、等と言っているが、あの『龍殺し』を倒せる可能性は低いのではないのか? とは言えない相方の鳥獣人。

 『龍殺し』の名は、ヴェルシュでも有名であり、最強の獣人である陛下とどちらが強いか、と話題になる程だ。

 そんな相手が、強力とは言えゴーレムの爆発に巻き込まれた程度で死ぬのか?

 疑問には思うが予定通り、ゴーレムによる侵攻作戦は失敗したとして、大賢者様より渡されていた自爆用の遠隔起動装置を戦場に向けた。

 これでトリガーを引けば、ゴーレムに搭載されている魔石をで過充填させ、自爆させる事で広範囲を破壊する。


「! 待て!」


 指がトリガーに触れた瞬間、様子を見ていた相方がそんな声を上げた。

 慌てて起動装置の先を空へと向けた。


「急にどうした、まさか、今更情でも沸いたか?」


「違う、アレを見ろ」


 そう言われて指差された方を見れば、バーンガイアの近くにあった森の中から、ゴーレムが現れ、バーンガイアの王都へと凄まじい速度で駆け出していた。

 まだ動いているゴーレムがいる以上、自爆させる訳にはいかない。

 それに、もしも王都の中には入れれば、大被害を引き起こす事が出来る。


「仕方あるまい。 だが、アレが失敗したら即、自爆させるぞ」


 見る限り、あのゴーレムの進路上には止める様な相手はいない。

 あの謎の全身鎧はいないし、兵士達は離れている。

 ゴーレムが駆けているのに気が付いたようだが、あの位置からでは間に合ったとしても止められない。

 外壁から投石機らしき物による攻撃が来るが、ゴーレムが持っている盾によって防がれている。

 あの様子なら、門をぶち破り、中へと侵入する事が出来るだろう。


 が、外壁の上から何かが飛び降り、着地して巨大な土煙を上げたかと思った瞬間、ソレが砲弾の様に一気にゴーレムへと接近。

 そして、ゴーレムの遥か手前で跳躍すると、空中で一瞬静止し、まるで我々が空中から地上に向かって急降下攻撃をする様に、ゴーレムへと一直線に急降下していく。

 それに気が付いたゴーレムが盾を構えたが、ソレは更に加速し、ゴーレムの構えた盾に衝突。

 凄まじい衝突音が響いた後、ソレは盾を突き破り、そのままゴーレムの頭部に衝突して頭部事吹き飛ばしていた。

 頭部を失ったゴーレムは数歩だけ歩いた後、そのまま前のめりに倒れてしまった。

 その頭部を吹き飛ばした物体は、土煙を上げながら地面を滑る様に着地した後、吹き飛ばした頭部を足蹴にしている。


「まさか、あの全身鎧、もう一人いたのか」


「自爆させるぞ!」


 相方がそう言ってもう一度、起爆装置を向けてトリガーを引いた。

 瞬間、3が起こり、戦場にいたゴーレムが巨大な爆炎と爆風を撒き散らした。

 だが、駆け出していたゴーレムに気が付いて、全体が外壁に向かっていた事もあり、爆発自体には巻き込めていなかったが、発生した爆風が戦場全体を覆い尽くした。


「どうなった?」


「待て、爆発音が少なかったぞ?」


 相方の言う通り、聞こえて来た爆発音は3つ。

 一つは埋められてしまったから聞こえなかったとしても、何故、一つ爆発音が聞こえなかった?

 土煙が晴れた後、地面には巨大なクレーターが3つ、大陥没した部分が一つ出来ていた。

 そして、頭部が吹き飛び、前のめりに倒れていたゴーレムは、そのままの状態で地面に横たわっていた。


「なっ!? 自爆していないだと!?」


 相方が何度も起爆装置のトリガーを引くが、頭部が吹き飛んでいるゴーレムは反応しない。

 何故だ!?


「まさか、頭部が吹き飛んだせいで受信出来なくなったのか?」


 もしも、それが本当であるなら、コレは非常に不味い。

 ゴーレムそのものが残ってしまうと、バーンガイアに技術を盗まれるばかりか、このままでは我が国は係わってはいないと、惚ける事も出来なくなる。

 どうする!?


「仕方無い、どうにかして回収するしかあるまい」


「あんな巨大な物をどうやって回収するのだ?」


「……当初の予定通り、奴等に付いては勝手に試作品の兵器を持ち出したという事にすれば良いが……ゴーレム自体はどうすれば良いのか……」


「今から我々が向かって回収の要求をするのは不味いだろうな、我々はと報告を受けたから来たという形にしなければ、我々が監視していた事がバレてしまう」


 つまり、ゴーレムの回収は現段階では不可能と言う事になる。

 なるべく早く回収の為に動かねばならないが、それでも最低一ヶ月は時間を空ける必要がある。

 その間に、バーンガイアがゴーレムを解析して、絶対に暴かれてはならないを知られない事を祈るしかないだろう。

 兎に角、侵攻作戦は失敗した上、ゴーレムの一体が敵の手に渡ったと報告するしかないだろう。

 大賢者様は大激怒するだろうが、自爆しなかった以上、我々の責任ではないだろう。




 クリファレスへのゴーレム侵攻作戦は失敗したが、兵力と脳筋勇者にも大ダメージを与えられてホクホクだった所に、バーンガイアへの侵攻作戦が失敗したと報告を受けた。

 侵攻作戦自体が失敗したのも問題だが、何故失敗したかの報告をさせたんだが……。


 まず、謎の全身鎧を来た集団がいて、ゴーレムを始終圧倒したという報告だ。

 それ以外にも、騎士団によって時間稼ぎをされて無力化され、魔法に対して絶対有利な筈のゴーレムに対して、魔法使いが対処して地面に埋めてしまった。

 いや、あのサイズを埋めるなんて有り得ないだろ、どんな方法で埋めたんだよ! 

 そう思ったんだが、最後の報告を受けて唖然としてしまった。

 ゴーレムの内の一体が、何故か自爆しなかったせいでバーンガイアに拿捕された。

 どうして自爆しなかったのか、直ぐに頭を切り替えて考える。

 まず、ゴーレムへの自爆機能は、俺が作った遠隔起動装置でしか作動しない様にしている上に、パイロットには知らせていない。

 更に、外部から破壊されたり改造されない様に、回路は胴体内部の奥深くを通る様にしている為、ちょっとやそっとでは機能不全は起こさない。

 ならば、起動装置の不具合化と思ったが、他のゴーレムは起動して自爆している事から、その可能性は限りなく低い。

 では、他のゴーレムとの違いはなんだ?

 それを考えた時、自然と答えが頭に思い浮かんだ。

 自爆しなかったゴーレムは、起動装置を使う前に

 俺は、自爆装置の受信部分の一つをゴーレムの頭部に取り付け、他の部分もゴーレムの上半身の高い位置に装着している。

 もしも、頭部を吹き飛ばされた際、異常なマナがその受信装置に流れていたら?

 当然、受信装置そのものがイカレて、正しく機能しなくなる可能性が高い。

 そもそも、10メートル近いゴーレムに対して、防御出来ないような攻撃をされるなんて想定していなかった。

 上からの攻撃としては投石機があるが、その速度を考えれば随分と遅いから、距離が離れれば持っている盾でガード出来るし、避ける事も出来る。

 魔法を使えば出来るだろうが、あのゴーレムには魔法を吸収する魔法陣を刻んであるから、魔法による攻撃は無効化出来る。

 だが、今回はまるで特攻機の様に空からゴーレムへと突撃し、盾を貫通して頭部を吹き飛ばされている。

 そんな攻撃方法されるなんて考えてねぇよ!

 取り敢えず、バーンガイアの技術者のレベルが分からねぇけど、完全解析される事はねぇだろう。

 しかし、早く回収したいが、直ぐに行ったら監視してたのがバレちまう。

 陛下にも報告するが、回収するまでに何処まで解析されちまうだろうか……

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