第166話
迫るゴーレムに対して、各々が最善と考える方法で対処しておる。
美樹殿とカチュア殿はボウガンを巨大化したような物を使ってゴーレムを拘束し、バートとノエルは『強化外骨格』の力でゴーレムを破壊し、グリアム卿は機動力の高い騎馬と投石機を使ってゴーレムの注意を引き、改造した戦車に乗せた改造バリスタでゴーレムを攻撃して時間稼ぎをしている。
意外だったのは、マルクス卿達の魔法を主体に戦う面々だ。
ゴーレムは魔法を分解し吸収するという特性を持っていたが、それに対してマナを吸収されてもその場に残る『地魔法』を使って、ゴーレムを埋めてしまいおった。
地面の奥深くに埋められてしまっては、ゴーレムは逃げられんし、動く事も出来んだろう。
この場におらぬ残り1体のゴーレムの事は気にはなるが、儂は目の前の相手に集中せざるを得ぬ。
儂の『龍殺し』の様な二つ名を持つ、『城壁崩しのベルメトン』。
嘗て戦場で儂と殴り合い、その左の牙を砕いた後、ヴェルシュ軍が撤退した事で決着が付かなかった象の獣人。
儂とその『城壁崩し』が、盾と肉厚のショートソードで斬り合っておる。
儂の振るう剣がタワーシールドに防がれてガツンと音を響かせ、奴の振るったショートソードを儂が左腕に装着されたシールドガントレットで弾き返す。
儂の『強化外骨格』は、魔女様の手によって他の面々の物よりも強化してある。
と言うのも、コレは儂の戦い方の問題なのだ。
儂の戦い方は、己が膂力を使って相手の防御すら粉砕していくというモノであり、その関係で相手に必要以上に接近する事になる。
『強化外骨格』の防御力は凄まじい物があるが、それに頼り切ってしまえば、下手な癖が付いてしまう事になり、使わぬ時に大怪我をするだろう。
「その膂力、我の攻撃を此処まで防げるとは、その鎧、ただの鎧ではなく魔道具か」
ベルメトンがそう言いながら、ショートソードの柄を握り直しておる。
『強化外骨格』の防御力に驚いておるようだが、儂としては、『強化外骨格』の膂力を受け止めるベルメトンの膂力の方が脅威だ。
象の獣人と言うのは総じて力が強い傾向にあるが、ベルメトンはその中でも飛び抜けておるのだろう。
『歳は取りたくない物だな……』
思わず呟いてしまう。
ベルメトンと戦ったのは黒龍に挑む前だったので、少なくとも20年は経っておる。
当たり前だが、人族と獣人族では寿命の差があり、総じて獣人の方が寿命が長い。
膂力を維持出来るピークも獣人の方が長い。
儂は既にそのピークを通り過ぎておる。
対してベルメトンは、まだギリギリピークを維持出来ておるじゃろう。
「数を揃えられたら脅威だな……武人としては名残惜しいが、ここで潰させてもらう」
ベルメトンの攻撃が激しさを増すが、儂の方もそれに応対出来ておる。
その攻撃は先程までと比べ物にならぬ程の膂力で放たれておるが、この程度ならまだまだ戦える。
左腕の盾でショートソードを受け止めた瞬間、儂の顔面目掛けていつの間にか奴の鼻が持っていた短槍が突き出された。
それを仰け反る様に回避し、一足で離れたがベルメトンが追撃で追い掛けて来る。
そうだった、コヤツにはこの攻撃方法があったのだった。
『ぐっ……厄介な……』
象の獣人は、その長い鼻を器用に使って武器を使う事が出来る。
ただ、その大半は武器をただ闇雲に振り回したりするだけだが、ベルメトンは違う。
まるで第三の腕と言われても遜色が無い程に、奴は器用に短槍を使いこなして攻撃をしてくる。
その為に、ショートソードとタワーシールド以外に、奴の鼻にも注意をしなければならない。
「まさか、コレすらも避けられるとは、さぞ名のある武人か」
そりゃお主とは前に戦っておるし、その鼻が厄介なのも今思い出したわ。
奴自身は儂の事には気が付いておらぬ様だが、それは仕方が無かろう。
儂の『強化外骨格』には、まだ儂の紋章を付けておらぬしのう。
しかし、それでも薄々は感づいておる気はする。
『フンッ!』
「舐めるな!」
ガツンガツンと互いの攻撃を打ち込み防ぎ、時たま蹴りも放つ。
ベルメトンは儂の攻撃をタワーシールドで防いでおるが、それも限界を迎えつつある。
奴の防具や武器は、アダマンタイトを混ぜ込んだ合金で作られた物だと聞いた事があるが、それでも何度も強力に打ち込み続ければ、当然限界を迎える。
『オォォォッ! シャープ・ブレード!』
儂が放った斬撃を強化する剣戟を、奴はタワーシールドで防ごうとしたが、これまでに蓄積したダメージによって奴のタワーシールドは斜めに両断された。
だが、その反撃と言わんばかりに奴のショートソードが、儂の左腕に付けていた盾を砕きおった。
凄まじい衝撃を受けるが、『強化外骨格』のお陰で、骨が折れるような事にはならなかったのは幸いだ。
互いに身を守る盾は失ってしまったが、何ら問題はない。
『ヌォォォッ!』
「ガァァァッ!」
儂とベルメトンが互いの剣を打ち付け合い、奴が鼻で繰り出した短槍を左腕で弾き飛ばす。
それ以外にも体術を駆使して互いに殴り、蹴り、間合いに潜り込んで体当たりで吹っ飛ばす。
一瞬の隙もなく、互いに間合いの中で必殺の攻撃を繰り出し続ける。
そして、奴のショートソードを弾き飛ばした瞬間、短槍が突き出されたのを左の拳で弾き飛したが、短槍自体も限界だったのか粉々に砕け散った。
だが、その瞬間に奴が更に踏み込み、儂に向かって奴自身の牙を振り抜いてきた。
奴の牙は簡単な板金鎧であればあっさりと貫通し、戦場では幾人もの兵士が犠牲になっていた。
咄嗟に剣を捨てて、両手でその牙を受け止めたが、それに合わせて奴のショートソードが突き出される。
奴の力に逆らわず、牙の勢いも利用して大きく後方へと跳ぶが、奴の突きの方が若干早かった。
儂の『強化外骨格』の兜部分を突かれた事でズレたのか、若干視界が可笑しい事になっておる。
奴との戦いで視界が不明瞭になるのは致命的。
そう判断し、『強化外骨格』の兜部分を跳ね上げて取り外した。
「やはり、貴様だったか『龍殺し』よ」
「相変わらずだな、『城壁崩し』」
ベルメトンが刃先の掛けたショートソードを構えつつ、新しいタワーシールドを取り出して構えた。
形状が若干変わっておる事から、同じ物では無いのだろう。
「しかし、よくもまぁあんな物で攻めてこようと思ったものだ」
儂の視線の先には、美樹殿達の手によりガチガチに固められたゴーレムがある。
自身の力を優先する獣人としては、ゴーレムを使うなど考えられぬ。
そうなれば、必ずコレを使う様に指示した相手がおる筈だ。
儂の言葉に、ベルメトンの表情が憎し気に歪む。
「我とて
やはり、ゴーレムは大賢者が作った物か。
話には聞いておったが、こんな物を作っておるという事は、他にも作っておる可能性があるのう。
しかし、皇帝が使用を許可したというのも驚きだ。
今の皇帝も獣人の気質を優先しておると思ったが、このような兵器を運用する事を容認するなど、危険な思想を持っておるな。
「コレからは個人の武力は通用せぬ時代になるのだろうな……」
「悲しい事にな……だが、我は武人として、戦場にて果てるまで戦うのみよ」
ベルメトンの言葉に、儂は応える様に拳を構える。
儂等は時代の節目におるのだろう。
あの巨大ゴーレムや『強化外骨格』以外にも、個人の武力では通用せぬ技術はどんどん作り出されていく。
どれだけ制限しようが、人と言うのは総じて楽な方へと流れていく。
だが、武人である我等に出来る事は戦う事のみよ。
そして、儂の拳がベルメトンのタワーシールドに衝突する凄まじい音が響き渡った。
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