第165話
巨大なメイスを振り回すゴーレムに対し、此方は小回りの利く騎馬の動きで翻弄し、攻城兵器を使ってダメージを与えていく。
投石機から放たれた岩は当たれば相当な威力になるのだが、殆ど当たる事が無く、当たる軌道になっても、ゴーレムの巨大な盾に阻まれてしまう。
だが、そのゴーレムの巨大な盾に、数本の巨大な矢が突き刺さっている。
ゴーレムが投石による岩を盾で受け止めた瞬間、別の場所から巨大な矢がゴーレム目掛けて飛来し、脇腹の装甲に当たって甲高い音を響かせた。
『コイツ等!?』
「弾かれ様が構うな! どんどん打ち込めぃ!」
儂が騎馬を操り、総金属製のポールアクスをゴーレムの足に叩き込んで駆け抜ける。
当然、儂等にはマルクス殿達による増強魔法を掛けて貰っておる為、凄まじい威力になっておる筈だが、それでも有効打には程遠い。
それどころか、打ち付けたポールアクスが握っていた所から完全に曲がってしまった。
メイスと盾を振り回すゴーレムの動きに合わせ、別の騎馬兵が対魔獣用の強化された縄を、駆け抜ける際にゴーレムの足に引っ掛けて行く。
更に、縄の端には槍が装着されており、引っ掛けた後にそのまま地面へと突き刺す事で、地面へと固定する事が出来る。
まぁあのサイズの相手ともなると、ほぼ効果は期待出来ないのだが……
しかし、これ等全てが唯の陽動。
本命は……
ズドンッと音が響いて、今度はゴーレムの右肩に巨大な矢が突き刺さった。
更に別の方角からも、巨大な矢がゴーレムの背に突き刺さる。
飛来した方角を見ると、そこには巨大なバリスタが設置された二頭引きの大型戦車が走っている。
アレこそが対ゴーレム用に我々が考え付いた策だ。
本来はあんな運用は考えられておらず、あれほどの威力は無いのだが、そこは優秀な技術班が全力で改造してくれた。
最も、改造時間が足りなかったので、用意出来たのはあの2台だけで矢もそこまで用意は出来ていない。
しかし、ゴーレムのあの様子を見る限り、そこまで素早く動く事は苦手な様だな。
我々の攻撃に対し、メイスと盾でどうにかしようとしているが、その反応速度は若干遅く、投石は盾で防いでいるが、バリスタに関しては気が付いても間に合わず、殆どが本体へと突き刺さっている。
このまま続ければ破壊する事も可能になるだろうが、欲をかけば痛い目を見るのは明らかなので、現状を維持する事を命令する。
『貴様等ァッ! こんな攻撃でコイツに通用すると思ってんのかぁっ!?』
あのゴーレムのサイズともなれば、どれだけ努力したとしてもマナの消耗はかなり激しく、戦闘を始めればすぐに枯渇してしまうだろうと予想されている。
その証拠に、ゴーレムは此方に何とか魔法を使わせようと喚いておるが、此方の魔法を吸収する事が分かっている以上、我々が使う事は無い。
本当は早く無力化させ、魔法を主力としておるマルクス卿達の援護に向かいたいのだが、何やら秘策があるとかで問題は無いとか言っておったが……
マルクス卿達の部隊がいる方角を見てみると、戦闘が始まった際に巨大な石柱が何本も出現した後、何やらズドンズドンと音が響いてくるだけで、何が起きておるのか確認が出来ぬ。
まぁ、あのマルクス卿が秘策と言っておった以上、大丈夫なのだろう。
私達が相手をするゴーレムの特徴としては、直接攻撃する魔法を吸収するという事で、本来なら魔法を使う魔法使いや魔術師相手なら圧倒出来る。
ただし、それは普通の魔術師達であればの話だ
近衛魔法師団の副団長でもあり、高齢で気軽に動けない団長に代わり、ここ数年は私が現場を育てている私にとっては、直ぐに対処法を複数用意出来る。
その一つが今まさにこれだ。
『あぁぁっ邪魔だぁっ!!』
「作り出すは大地の棘となる! 『
ゴーレムがメイスを振るい、地面から伸びている石柱を粉砕するが、破壊された瞬間、新たな石柱が現れてゴーレムを閉じ込める。
それも破壊されるが、その近くにまた石柱が現れる。
「「「「崩落するは狭間となる! 『『『『
新たに出来た石柱を破壊する事に気を取られ、ゴーレムが踏み込んだ瞬間、待機していた隊員がほぼ同時にその踏み込む先の地面に巨大な『落とし穴』を作り出す。
一人で作れる『落とし穴』はそこまで大きくはならないが、複数人が重ねる事で広範囲を一気に陥没させる事が出来る。
『しまっ!?』
「作り出すは大地の棘となる!『
「「「「全てを通さぬ巨躯なる壁! 『『『『
当然、意識外で足を踏み外せば、大きな隙となる。
そこを見逃す程、私達は甘くない。
私の生み出した岩の柱が、ゴーレムの顔面を狙って伸びるが、ゴーレムが咄嗟に首を捻った事で表面を僅かに掠っただけで終わる。
だが、そこに別の隊員達が続く様に岩の壁を作り出し、バランスを崩したゴーレムの足周りや腰の辺りを打ち付ける。
「全てを通さぬ巨躯なる壁!『
打ち付けられてバランスを崩したゴーレムの反対側の足に対し、私が作り出した『岩の壁』がその足を持ち上げた。
足や腰に当たった『岩の壁』によって、バランスを崩していた所に、反対側の足が急に持ち上がれば、当然、ゴーレムは堪らずにその場に倒れた。
『岩の柱』も『岩の壁』も普通に考えるなら、魔法で作り出した物である以上、ゴーレムのマナ吸収効果を受けてしまうと思われるだろう。
しかし、直撃を受けているのに ゴーレムが此方の魔法を吸収する様子が無い。
と言うのも当然の事で、私達が使っている『岩の柱』と『岩の壁』だが、厳密には魔法で岩を作り出している訳では無く、地面を凝縮して岩の様に変化させた物を、地面から持ち上げているだけなのだ。
例え、私達が使用している魔法をマナとして分解・吸収出来たとしても、そこには凝縮して岩の様になった物体が残る。
物理的に存在する物質を吸収出来ない限り、それによって受ける影響は、ゴーレム自身の防御力で耐えるしかない訳だ。
これが、投石機で使用するような岩をマナで疑似的に作り出して放つ『
更に、ゴーレム側には予想もしていなかっただろう誤算も生じている。
それが、私達はゴーレムを倒そうとしている訳では無く、ただ時間稼ぎをしているだけという事だ。
「地深くに閉じ込めるは罪を犯せし大罪なる者! 『
一際多くマナを注ぎ込み、倒れたゴーレムの周囲が一気に持ち上がり、逆に中心で倒れているゴーレムは地面へと沈み込んで、そのゴーレムへと持ち上がった大量の土砂が降り注ぐ。
慌てたゴーレムが起き上がろうとするが、ゴーレム自身の足元から土砂が吸い上げられ、その土砂が大量に降り注いでどんどん埋まっていく事で、起き上がる事すら出来なくなっている。
当然、この魔法にもマナによる直接攻撃は行われていない為に、ゴーレムにはどうしようもない。
『クソがぁぁっ!』
「「「「「全てを通さぬ巨躯なる壁!『『『『『岩の壁』』』』』!」」」」」
隊員達が作り出した『岩の壁』により、埋まっていくゴーレムの大穴に沿って垂直に壁が伸びていく。
そして、ある程度伸びた所でゆっくりと、大穴に向けて倒れていき、まるで蓋をする様に大穴を塞いだ。
「次があるなら、物理も効かない様にするんですね」
私はそう言いましたが、地中に埋まった相手には、残念ながら聞こえていないでしょうね。
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