第159話




 遠くから爆発音が連続して響いてくる。

 それを確認し、俺は手に持っていたスイッチを机に放り投げた。


「ふぅ、で、結果は?」


『ゴーレムの爆発により、クリファレス軍の大部分と勇者が巻き込まれた事は確認出来ましたが、土煙が酷く結果の方は……』


 俺の言葉に返事を返したのは、通信機を持たせて偵察の為に送った鳥の獣人兵だ。

 彼等は空を飛ぶ事が出来る為、高度からこうして偵察させる事が出来る。

 ただ、肉体的な強度が無いので戦闘には不向きで、航空戦力としては数える事は出来ない。

 銃とか爆弾を使わせれば良いかもしれないが、魔道具の方が威力があるし、爆弾は火薬よりも魔石に過充填させた方が威力がある。

 あのゴーレムに搭載していた自爆装置は、その実験も兼ねていたんだが、土煙が酷くて確認出来ないのは予想外だったな。


『あ、土煙が晴れて……どうやら、巻き込まれた兵士は全滅、後方に残っていた僅かな兵士と教会の連中は無事のようですが……勇者の方は……あ?』


「どうした? 勇者はどうなったんだ?」


 ある意味、勇者がどうなったのかは、多くの兵を倒す事よりも重要な所だ。

 もしもあの爆発で倒す事が出来れば、クリファレス攻略は終わったも同然だ。

 だが、通信機の向こうから返事が帰ってこない。


『えぇと……勇者は……その、吹き飛んで四肢を失ったのが見えたのですが……再生しました……』


「あ?」


『繰り返します、勇者は四肢欠損状態だったのですが、凄まじい勢いで四肢が再生しました』


 通信機の向こうも、戸惑っているのが分かる。

 そして、本来、部位欠損を瞬時に治す事はほぼ不可能だ。

 ポーションの中には、部位欠損を治す事も出来る物もあるが、その修復速度はかなり遅く、腕一本生やすのにも、数週間は掛ると言われている。

 その原因ともなるのが、再生させる際には当たり前だが材料が必要になり、肉体からゆっくりと材料を集める為だ。

 なので、勇者の奴がやったように、瞬時に再生させるというのは異常な事だ。


「……勇者の様子はどうだ?」


『……あー……何か喚き散らして……っ!?』


 その言葉を最後に、急に通信機が途切れた。

 何か緊急事態が起きたようだが……


『……急に切断してしまい、申し訳ありません。 勇者の様子ですが……正直、人には見えません』


 しばらくして通信が復帰したが、人には見えないとはどういう意味だ?

 取り敢えず、直接報告を聞く事にして、兵士には帰還を優先させた。

 そうして、しばらく待っていると、天幕に隼の獣人が戻って来た。


「それで、何があった?」


「ハッ! ゴーレムの自爆に巻き込まれた勇者ですが、四肢が吹き飛んでいたのを確認、その後、吹き飛んだ筈の四肢が再生したのですが……剥き出しの筋肉の様な状態で、更に、肉体がその……膨張したり収縮したりしていました」


 説明はされたが、コレは実際に見てみないと判断出来ないな。

 再生したのは何となく想像出来るが、体が膨張?

 大きく呼吸をしていたとかでは無く?


「その後、我々が監視をしていたのに気が付いたのか、短剣の様な物を投げて来た様で、翼を撃ち抜かれました」


 そう言って左の翼を伸ばすと、中間部当たりの羽根がごっそりと無くなっていた。

 数名で飛んでいたので、撃ち抜かれて落下を始めた瞬間、仲間に助けられた事で落下死は免れたらしい。

 これ以上は危険と判断し、撤退の指示を仰ごうとしたが、丁度俺が戻る様に指示を出したという訳だ。

 しかし、かなり離れた距離から監視していた筈だが、気が付かれるとは想定外だな。

 それに、ゴーレムを切断したあの攻撃。

 マナを分解し吸収する魔法陣が機能しなかった事を考えると、あの攻撃はマナを使っていないという事だ。

 つまり、俺の知らない攻撃方法があるという事だ。


「取り敢えず、ゴーレムのテストは出来たから良しとするか」


 クリファレスの兵士に対しては絶大な効果を発揮し、いざとなれば自爆して大被害を与える事が出来る。

 対して、こっちの消耗はゴーレムに使う素材とパイロットの獣人くらいで、素材はダンジョンから入手出来るし、パイロットは重犯罪者や奴隷を使えば良い。

 増産が決まれば、クリファレスを攻め落とす事は容易いだろうし、勇者相手には特別に強化した獣人達で部隊を作ってぶつければ良い。

 そう考えると、バーンガイアに送った奴はちょっと勿体無かったかな?


 そして、大賢者はその戦場を後にした。





 あぐあがぁぁぁぁぁっぁぁっ!!?

 全身を貫くような余りの激痛に、地面でのた打ち回る。

 ゴーレムをバラして中の奴を引き摺り出そうとしたら、急に目の前が白くなり、強烈な衝撃を受けたと思って気が付いたら、俺の腕と足が筋肉剥き出しの状態になっていた。

 更に、この激痛。

 呼吸する度に、骨が軋み、胃の中身が出てこようとしている感覚がする。

 何とかそれに耐え、その激痛が収まってから這い蹲った状態で周囲を見回すと、目の前には抉れた地面と、粉々になったゴーレムの破片が散らばり、少し離れた所に俺の剣が転がっていた。

 何とか剣の所まで這うようにして移動し、剣を杖の様に使ってその場に立ち上がろうとするが、足に力が中々入らない。

 何度か失敗したが、その場に立ち上がるとカラリと音がしたんで体の方を見れば、特注の鎧の彼方此方に穴が開いていた。

 どうやら、鎧の中に破片が入り込んだ音みたいだな……

 そこまでして、俺の身に何が起きたかが分かった。

 あの瞬間、どんな手を使ったか知らねぇが、ゴーレムを爆破して俺を殺そうとしやがったな!

 頭に血が上っていく感覚がし、周囲を改めて見回せば、遥か遠くの空に何かが飛んでいる。

 目に力を籠めると、それが複数の鳥型獣人である事が分かった。


「テメェら! 卑怯な事してんじゃねぇよ!」


 思わず手に持っていた剣を投げそうになったが、コイツは大事な剣だ。

 だから、腰のベルトに付けていた短剣を引き抜き、それをその飛んでる獣人目掛け、全力でぶん投げる!

 俺の全力で投げた短剣は、簡単に音速を突破し、その獣人の一人を撃ち抜いた様で、ソイツは地面に向けて落ちていった。

 ざまぁみろ!

 あの高さから落ちれば助かる事もねぇだろ。


「勇者様! 御無事ですか!?」


 安心したら、クラッとして思わずその場に膝を突いちまった。

 若干の眩暈と頭痛もするし、何か呼吸もし辛い。

 思わず頭に手を当てて呼吸を整えていると、遠くの方から数名の兵士と、教会の女司祭が駆けて来るのが見えた。

 遅ぇよ!


「コレは酷いですねぇ……直ぐに応急手当をしますからねぇ」


 間延びする様な声で女司祭が杖を構えると、杖が赤い光を放ち、俺の眩暈や頭痛は収まっていく。

 呼吸も普通に出来るようになったんで、その場に立ち上がる。 


「勇者様、直ぐに王都へ戻り治療をしましょう。 部隊も壊滅しておりますし、早急に立て直す必要が……」


「あ? 治療だぁ?」


 兵士の言葉を聞いて、俺が兵士の方を見ると、その兵士が『ヒィッ』と声を上げて後退った。

 コレは俺の強さに慄いているというより、まるで化物を見ているかのような感じだ。


「えぇと、勇者様、気を強く持って見てくださいねぇ?」


 応急手当を終えた女司祭がそう言いながら、俺に小さな鏡を手渡してきた。

 それを手にして覗き込む。


「は? な、何だコレはぁぁぁっ!?」


 そこに映っていたのは、髪の毛が殆ど無くなり、顔の皮膚は焼け爛れ、所々、赤い筋肉が剥き出し状態になった、まるでゾンビとかバケモノみたいな見た目になっていた俺の顔だった。

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