第158話
その日、バーンガイアの王都では、巨大ゴーレムが攻めて来るという話で王都内は若干の混乱を見せていた。
だが、早期の段階でランレイ王が、グリアム卿を中心とした騎士団と、マリオン卿による近衛魔法師団が防衛に向かった事を宣言した為、そこまで大きな混乱は起きなかった。
逆に、クリファレスでは代理王となっている勇者が、文字通り住民に対して何もしなかった為、大混乱となっていた。
王都から逃げ出す者、逃げ出す者から安値で買い叩く者、逆に高値で物を売りつける者、更に逃げた先で夜盗と化して逃げた住民を襲う者、と大混乱。
王都内で違法な商売をしている者だが、商業ギルドによって摘発されてはいるが、それでも追い付いていなかった。
更にその大混乱に拍車を掛けたのが、ゴーレムに対処させる為に送った防衛部隊が成す術も無く壊滅した事がバレた事だった。
「なんで壊滅した事がバレてんだよ!」
報告しに来た兵士の一人を蹴り飛ばす。
ゴーレムなんて雑魚に対し、ちゃんと倒し方を説明してやったのに、それで壊滅するなんてクソ弱過ぎる。
それを住民が知る事なんて無いだろうと思って、追加の部隊を送る事を決めるだけで黙ってたら、生き残って逃げ帰って来た兵士の誰かが話したのか、此処まで広まっちまった。
当然、連帯責任として、逃げて来た奴等全員は地下牢にぶち込む事を決め、ゴーレムの処理が終わったら混乱を引き起こした罪で処刑してやる。
「それで、追加の奴等はどうした」
「ハッ! 防衛部隊の半数を送る予定ですが……報告にあった魔法が通用しなかったという点が問題です」
そういや、生き残りの奴等が魔法が効かなかったとか言ってたな。
そんな事ある訳ねぇだろ。
確かに、魔法を防御する事は出来るだろうが、ゴーレムみたいなヤツがそこまで考える頭を持ってる訳がねぇ。
そうなりゃ、単純に魔法が弱かったか、クソ硬かっただけって事だろ。
「何か案はあんのか?」
「一応、言われた通りの方法で破壊するには、魔法の威力を上げる必要があるとの事で、部隊の方からは『増強薬』を融通して欲しいとは報告されていますが……如何致しましょう?」
その案を聞いて、俺の眉間に皺が出来るのが分かる。
『増強薬』ってのは、俺が服用してる魔法が使える様になったあの薬の事だ。
あの後、兵士の一部にも使わせて魔法が強くなる事が分かったんで、教会の方に手を回して同じ薬を取り寄せている。
ただ、教会から、面倒な素材を複数用意する必要があるとかで、そこまで量を出す事は難しいという返答が来ている。
手持ちの残数だと、10人程度が限度で、部隊全員に配るのは不可能だ。
「駄目だな、数が足りねぇ……ハァ、仕方ねぇなぁ!」
面倒だが、ここ最近俺に対して謀反を起こそうとしてる連中がいるって話もあるし、ここら辺で俺の強さを再認識させておいた方が良いだろう。
ゴーレムなんてただの雑魚なのに、満足に命令も果たせない兵士は全員再訓練だな。
玉座に立て掛けておいた剣を掴んで、ゴーレム退治の為に馬やら部隊の準備をさせる。
さっさと片付けるぜ。
「オラァッ!」
俺が振り抜いた剣によって発生した衝撃波で、ゴーレムの体勢が大きく崩れ、その右足に巨大な亀裂が出来る。
なんだよ、やっぱりただの雑魚じゃねぇか。
「ハッ、弱過ぎんだろ」
部隊が壊滅したとか言ってたが、やっぱり、巨大二足歩行兵器はただの雑魚だ。
確かに多少硬かったりしたが、別に苦戦する様なレベルじゃねぇ。
ゴーレムがそのまま後ろに倒れると、その亀裂からドロリと緑色の粘液が出て来る。
ありゃ血液みたいなもんか?
『クソッ! このバケモンがぁっ!』
倒れたゴーレムから声が響いたと思ったら、巨大なバトルアックスが別の方向から飛んでくる。
それをしゃがんで回避し、飛んできた方向を見ると、別のゴーレムが盾を構えて突っ込んできていた。
コイツ等、中に誰か乗ってんのか?
「あ? 勇者に対して挑んでんだから、負けて当り前だろうが」
誰がバケモンだ。
剣の柄を力を籠めて握り締めると、剣身が赤いオーラを纏う。
そのゴーレムに向けて駆けて、盾目掛けて振り抜くと、まるで熱したナイフでバターでも切るかのようにあっさりと、ゴーレムごと真っ二つにしていた。
「ハッハァ! サイコーだぜ!」
死んじまったが、ジャックスが持って来たこの剣、滅茶苦茶強ぇ!
なんでも、王城の何処かに封印されてた剣って話だったが、こんなクソ強ぇ剣があるなら最初から渡せよ!
あのクソドワーフが作った剣よりも強いし、俺の思い通りの力を発揮する。
コイツさえありゃ、あのドラゴンもチート野郎共も楽勝だぜ!
『王都を陥落させりゃ、俺達は自由になるんだ! こんな所で……』
「テメェの不幸を呪うんだなぁっ!」
倒れたゴーレムが起き上がろうとしていたが、同じ様にオーラを纏った剣でバッサリと胴体を両断する。
さぁ残りもさっさと片付けるぜぇ!
俺達は勇者様の攻撃、いや、蹂躙を遠くから見ている。
先に対処しに行った先行部隊は壊滅したという話だが、そのゴーレムをあっさりと倒すどころか、完全に圧倒している。
最早、戦いと言うより蹂躙だ。
そして、同伴していた俺達だが、『いても邪魔だから見とけ』と言われ、離れた位置でこうして待機させられている。
「なぁ、お前、同じ事出来るか?」
「いや、無理だろ、何だよあの出鱈目な強さ」
俺達の中には、勇者の強さに懐疑的な連中もいるが、目の前の光景を見せられたら嫌でも分かってしまう。
俺達と勇者様では、強さの次元が違う。
剣を振るだけで、凄まじい衝撃波によってゴーレムが押され、盾で受け止めようとしてもそのまま両断される。
逆に、ゴーレムの攻撃は大振りで、足元で素早い動きをしている勇者様には当たらない。
「皆さぁん? ただ見ているだけでは駄目ですよぉ?」
そんな声を出しているのは、教会からやって来たという女司祭で、名前を『サレイト』と名乗っている。
最近、王城にもやって来ていて、勇者様が懇意にしており、今回の作戦にも同行しているが、目的は不明だ。
一応、回復魔法を使えるという話だが、傷さえ負ってない勇者様に必要になるかは疑問だ。
「しかし、我々に命じられたのは待機ですので……」
「倒したゴーレムからぁ、素材を剥ぎ取っておくのも大事な仕事じゃないんですかぁ?」
そう言われれば、確かに勇者様が倒したゴーレムは、ある意味で素材の宝庫だ。
異常な強度を持っている事から、その素材はミスリル以上の金属である事は間違いないし、内包している魔石も、あの巨体であるなら巨大だろう。
この後、勇者様が命じる前に行動しておけば、もしかしたら、新設された親衛隊にも入隊出来るかもしれない。
そんな事を思ったのは俺だけでは無く、既に多くの兵士が倒れて動かなくなっていたゴーレムに走っていた。
「あ、お前等!」
「頑張ってくださいねぇ?」
サレイトがそんな事を言っているが、俺も急いで剥ぎ取りに行かねば!
ただ、俺は後に出遅れた事を神に感謝する事になった。
「ラストォッ!」
俺が振り抜いた剣により、達磨状態になったゴーレムが地響きを上げて地面に転がった。
ラストのコイツは妙に強かったが、勇者である俺と、最強の剣の相手じゃなかったがな!
『動けっ! 動けよ!?』
ギシギシと音を立ててゴーレムが動こうとしてるが、手足が無いのに動ける訳ねぇだろ。
剣を抜いたまま、ゴーレムに近付くと、その胴体を観察し、鎧らしき継ぎ目に突き刺して解体していく。
中にいる奴を引き摺り出して見せしめにしてやらねぇとなぁ!
「観念すんだな! テメェはもうお終いなんだよ!」
『クソがぁ!!』
『いやぁ楽しんでるとこ悪いんだけどさぁ、終わりなのはどっちもだぜ?』
「あ?」
急に別の声がゴーレムから聞こえて来たと思ったら、俺の目の前は急に真っ白に染まり、周囲の音が何も聞こえなくなった。
クリファレスに侵略したゴーレムには、全てに最終手段として自爆装置が装備されていた。
その発動スイッチを持っているのは、遠く離れた場所にいた大賢者であった。
そして、王都シルヴィンドの近くに、巨大なクレーターがいくつも誕生した。
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